合コン 3
「ねえ、みんな。誰か良い人、いた?」
シュヴァルツが席を外したタイミングで、私はリリーとフランソワーズとミーナの三人にそう問い掛けた。まあ、リリーとミーナの答えはわかっているんだけど。主に、フランソワーズの意見を聞きたいんだ。ノイモーントの事、どう思っているかね。
「私はフォーゲルシメーレ様ですわ」
「私はヴォルフ様です」
リリーとミーナはそう答え、じっとフランソワーズを見つめていた。フランソワーズはというと、私とリリー、ミーナの視線に、困ったように肩を竦めた。
「良い人と言ってもな……」
フランソワーズはぽつりと呟くと、手にしたグラスの中身を一気に空けた。私はすかさずワインボトルを手に取り、彼女のグラスに並々とワインを注ぐ。
「そもそも、私は男に興味が無い」
「何でです? フランソワーズなら、引く手あまただったでしょう?」
そう問い掛けたのはミーナだ。不思議そうに首を傾げいている。
「何でって……。男は臭い。それに汚い」
「臭くない男性もいらっしゃいますわよ?」
リリーの今の言い方、有無を言わせない感じなんですが……。これ、暗にフォーゲルシメーレは臭くないよって言いたいっぽいな。リリーの意見に賛成だったのか、アイリスもあっちの方でこくこくと頷いている。私もリリーの意見、否定はしない。だって、フォーゲルシメーレに限らず、ラインヴァイスもノイモーントも、それにシュヴァルツだって臭くないもん。逆に良い匂いがするくらいだ。まあ、唯一ヴォルフだけは男臭い感じがするけど、不快って程でもないし。みんな、汚いって感じでもない。清潔感はあると思う。フランソワーズってば、男の人に対して失礼な発言だよ!
「それに、頭の中はいかがわしい事ばかり……。冒険者時代、どれだけ不愉快な思いをした事か」
頭の中がいかがわしい……。それについては強く否定は出来ないな。だって、ノイモーントがいるから。でも、彼にだって理性があるはずだ。動物じゃないんだから。年がら年中発情中ってわけじゃないだろう。そう思いたい。
「でもさ、そればかりって事はないでしょ? 人には理性があるんだから」
「理性、ねぇ……」
私が苦笑しながら言うと、フランソワーズは遠い目をした。そして、溜め息を吐くと、一気にグラスの中身を空ける。私は再びフランソワーズのグラスに、並々とワインを注いだ。
「アオイ。お前は花街って知ってるか?」
「花街……」
「ああ。男が金で女を買う店がたくさんある。少し大きな町には必ずあると言って良い。そこではなぁ、聖人君子みたいな顔をした男でも女を買うんだよ! 男なんて、金を払ってでも溜まったものを処理しなければ、理性なんて保てないんだ!」
吐き捨ているように言ったフランソワーズがグラスの中身を空けた。そう言えば、彼女、いったい何杯飲んだんだろう? 私よりだいぶペースが速い。目、据わっちゃってる……。結構酔ってるっぽいな。
「男なんて! 男なんて……!」
叫んだと思ったら、フランソワーズは突然テーブルに突っ伏して泣き始めた。フランソワーズさん、まさかの泣き上戸でしたか……。慰めるようにフランソワーズの背中を撫でるが、一向に泣き止む気配はない。それどころか、余計に泣いてしまっている。ど、どうしよう……。
「何があった」
顔を上げると、いつの間にかシュヴァルツが戻って来ていた。怯える独身トリオと、能面のように表情が無いラインヴァイスも一緒だ。誰一人欠ける事無く、無事に戻って来られたらしい。良かったぁ。って、違う。そうじゃない。
「フランソワーズがね、お酒、ちょっと飲みすぎちゃったみたいなの」
私は苦笑しながら答え、泣きじゃくるフランソワーズに視線を戻した。彼女はえぐえぐと泣きながらも、ワインボトルに手を伸ばしている。って、まだ飲む気かい!
「駄目、ですよ」
フランソワーズがボトルを取るより一瞬早く、ノイモーントがサッとそれを攫った。ナイス、ノイモーント! ファインプレー!
「飲みすぎです。少し酔いを醒ました方が良い」
「嫌だ。もっと飲む!」
「お酒は楽しく飲んでこそ。泣きながら飲むものではありませんよ」
「いぃ~やぁ~だぁ~! 飲み足りないぃぃ~! もっと飲む! 飲むのぉぉぉ~!」
「はいはい。もう十分でしょ。ほら、あっちで休んでいなさい」
「やぁだぁ~!」
「ほら、行きますよ!」
ノイモーントがフランソワーズの腕を掴んで立ち上がらせる。駄々をこねる子どもと、それを諫めるお母さんですか? 何だ、この雰囲気。
「アイリス、水を」
ノイモーントはフランソワーズを半ば抱えるようにし、アイリスに指示を出した。そして、ガゼボへと向かう。アイリスはこくりと頷くと、そんな二人の後ろを水差しとコップを持って付いて行った。流石のノイモーントでも、アイリスの目の前でフランソワーズにいかがわしい事はしないだろう。しないと信じているからね。私の信頼、裏切るんじゃないわよ、ノイモーント。
フランソワーズの介抱はノイモーントとアイリスに任せ、私はお酒と食事を楽しみながらミーナとヴォルフの観察を再開した。シュヴァルツがヴォルフに何かを口添えしたらしく、ミーナに対するヴォルフの態度が、先ほどと打って変わって柔らかい。良い雰囲気じゃないか。良かった、良かった。私がグイッとグラスの中身を空けると、ラインヴァイスが綺麗なピンク色のお酒を注いでくれた。鮮やかな色といい、この香りといい、ベリーのお酒っぽい。美味しそう!
「ありがとぉ」
「いえ」
ラインヴァイスはいつも通り優雅にお辞儀をした。真顔で。それ、無茶苦茶怖いんですけど。ラインヴァイスってば、相当機嫌が悪いな。後で、アイリスにラインヴァイスのご機嫌取りを頑張ってもらわねば!
グラスに口を付けると、中身は私の予想通りベリーのお酒だった。色々な種類のベリーが入っているみたいな味と香りだ。結構アルコール度数が高そうなお酒だけど、甘い中に適度に酸味があり、口当たりがすこぶる良い。このお酒、気に入った! グイッと一気に飲み干すと、ラインヴァイスがおかわりを注いでくれる。ん~! 今日のメニューでは、このベリーのお酒が一番好きかもしれない。美味しい! おかわりっ!
ベリー酒をパカパカと飲みながらふと見ると、ヴォルフがミーナに料理を取り分けてあげていた。これぞ男の盛り方ってな感じに、小皿に山盛りの料理が盛ってある。おすすめ料理を全部乗せたのではないだろうか? ヴォルフ、もう少し見た目に気を遣おうよ。ミーナはというと、ヴォルフが取り分けてくれた料理を笑顔で受け取ると、美味しそうにパクパクと食べていった。結構な量があっという間になくなってしまった。気を良くしたのか、ヴォルフが次々と料理を手渡していくが、それもあっという間にミーナの胃の中に消えていっている。
「ミーナぁ? しょんなに食べれぇ、平気なろぉ?」
「何がですか?」
「気持ち悪くなららい? 無理、しないれ良いんらよ?」
「え? いえ、全く無理してませんよ。凄く美味しいから、いくらでも食べられます」
堪らず問い掛けた私に、ミーナはキョトンとした顔で首を横に振った。もしかしなくても、ミーナってば痩せの大食いだ。既にテーブルの上の料理の半分は無くなっているが、その大半をヴォルフとミーナの二人で食べているんだもん。ミーナのあの細っこい身体のどこに、大量の料理が収まっていくのだろうか? 不思議だ。
「もっと食うか? 何なら、厨房に追加、頼むか?」
そう言ったヴォルフの目は、優し気に細められていた。今日の料理はヴォルフが働く城の農園で育てた野菜やお肉を使っている。自分が丹精込めて育てた物を美味しそうに食べてくれる、それが凄く嬉しいのだろう。ヴォルフとミーナも、何だかんだで上手くいきそうな気がする。良かったぁ。
後は、ノイモーントとフランソワーズだけだ。フランソワーズの男性嫌い、というか男性不信は筋金入りっぽい。これは今日中にどうこう出来る問題じゃないし、ノイモーントが如何に誠実に振る舞うかに掛かっている思う。私に出来る事は、温かい目で見守る事くらいだろう。私はグイッと一気にグラスを空けた。ラインヴァイスがすかさず追加を注いでくれる。
「そうら、シュヴァルツ」
「何だ」
「しゃんにんにあえるごほーびなんらけろぉ、らににしらろぉ?」
「…………護符だ」
「ごふぅ?」
護符って何だ? お守りって事か? マジックアイテム的な物なのかな? グイッと一気にグラスを空けると、ラインヴァイスに視線でおかわりを要求した。ラインヴァイスが戸惑ったように動きを止める。何だ?
「ラインヴァイス、おかーりらよぉ」
私がそう言うと、ラインヴァイスがグラスにお酒を注いでくれる。ほんのちょっとだけ。なんでこんな少しだけなの!
「ラインヴァイス、これじゃ、しゅくらいよぉ! れ、シュヴァルツ。しょれはぁ、まじっくあいれむかぁらにかぁ?」
「……ああ」
「ろんなぁ?」
「魔物除けだ。身につける者の付近には、魔物が寄り付き難い。アオイとアイリスの為にと、ラインヴァイスに作らせた物だったが、一つ追加で作らせ、娘達の褒美にした」
「ほぉ~。いーれぇ。これれ、こじーんろまーりがぁ、あんれんりらるっれころれよぉ~?」
私がグラスの中身を一気に空けると、シュヴァルツが小さく溜め息を吐いたのが聞こえた。何で溜め息?
「らりぃ~?」
「飲み過ぎだ」
「しょんらりぃ、ろんれらいおぉ~?」
「呂律がおかしい」
そうかなぁ? 全く酔っていないと思うんだけどなぁ? 呂律だって、シュヴァルツが言う程、おかしいって訳でもないと思うんだ。もう少し飲んでも平気だよ。私がラインヴァイスにグラスを掲げると、ラインヴァイスが困ったようにシュヴァルツと私の間で視線を彷徨わせた。
「おかーりらよぉぉ~! ひっく!」
「ラインヴァイス、あとは頼んだ」
シュヴァルツは盛大に溜め息を吐くと、私の腕を掴んで立ち上がった。何だ、何だ。
「かしこまりました」
恭しく頭を下げるラインヴァイスには目もくれず、シュヴァルツは私をズルズルと引きずって行く。強制連行ってヤツか? あ~れ~! 大魔王に攫われるぅ~!




