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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第二章

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合コン 2

「ちょっと落ち着こうか? ミーナ」


「これが落ち着いていられますか! ずっと想い続けていた方にやっと会えたんですよ! このチャンスを逃したら女が廃ります!」


 グッと拳を握り締め、力説するミーナの言葉に私は首を捻った。ずっとってどういう事だ? 二人は知り合いだったって事? にしては、ヴォルフは心当たりが無いとばかりに首を傾げいているんですけど?


「えっと……。ミーナはヴォルフの事、知ってるの?」


「知っているも何も、命の恩人です!」


 私の問いに、ミーナの力強い答えが返ってくる。ヴォルフはその答えを聞き、腕を組みながら難しい表情で考え込んでいた。必死に記憶を辿っているのだろう。


「ヴォルフ様がいなかったら、私は森で迷子になったまま、死んでいたかもしれないんです」


「森……迷子……?」


 ヴォルフはミーナが言った言葉をブツブツと呟きながら、なおも難しい顔で考え込んでいる。


「そうです! 迷子になった私を助けて下さったじゃないですか! 野生のべへモスに襲われた私を助けて下さったじゃないですか!」


「迷子……べへモス……?」


「一緒にべへモスの肝、食べたじゃないですか! 肝は城まで持たないからって、火を起こして下さって、一緒に焼いて食べたじゃないですか!」


「う~ん……」


 必死に叫ぶミーナの目には涙が浮かんでいた。ミーナにとっては忘れられない大切な思い出なのだろう。しかし、ヴォルフにとっては他愛無い日常なのだ。その証拠に、ヴォルフは未だに腕を組んで考え込んでいる。


「結婚するならヴォルフ様以外、考えられないんです! 覚えていなくても良いですから! だから、私と結婚――」


「あ~。ちょっと黙ってろ。何か、思い出せそうな気がすんだよ……」


 眉間に皺を寄せたヴォルフがミーナを手で制した。う~ん、う~んと唸りながら目を閉じて考え込むヴォルフを、ミーナがジッと見つめている。ややあって、ヴォルフがポンと手を打った。


「そうか! あれだ! お前、ベリー摘んでて何故か森の中に迷い込んだ、方向音痴のガ――子ども! そういやぁ、そんなのいたっけなぁ」


「そうです。その子どもです。思い出して下さったんですね」


「十年くらい前の話だろ? 随分でっかくなってんだなぁ。にしても、よく俺の顔、覚えてたな?」


「だって……ずっと……ずっと好きだったんです。一時だって、ヴォルフ様の事、忘れた事なんて無いんです。住む世界が違う人だって分かっていましたけど、それでも忘れられなかったんです」


「あ~……。ありがとな」


 涙ぐむミーナに、ヴォルフは頭をバリバリと掻いてお礼を言った。ヴォルフの目、泳いでいる。きっと気まずいのだろう。ヴォルフにとっては本当に何気ない日常の一コマだったんだ。まさか、それがこんな事になるなんて思ってもみませんでしたって、ヴォルフの顔に書いてある。


 これはチャンスだ。これだけ熱烈に結婚したいと言ってくれる女の子がいるんだもん。ヴォルフがその気にさえなれば、二人とも幸せになれる! ヴォルフがミーナとの結婚を前向きに考えられるよう、私は私に出来る事をしなければ!


 にしても、ノイモーントとフランソワーズといい、ヴォルフとミーナといい、城から見える森で出会っていたなんてなぁ。ついでに、ラインヴァイスとアイリスも、中ではないが、あの森で出会っているんだよなぁ。あれか! 城から見えるあの森は、男女が出会えるパワースポット的な何かなのか!


「じゃあ、自己紹介も終わったし、食事にしよう。シュヴァルツ、お願い」


「ああ。娘たちよ、ささやかな宴ではあるが楽しんでいかれよ」


 シュヴァルツはそう言うと、手にしたグラスを掲げた。私達も目の前のグラスを手に取り、シュヴァルツに倣った。


 口を付けたグラスの中身は白ワインっぽい味がした。爽やかな酸味と独特の香りがする。口当たりが良いし、お酒が苦手な人でも飲みやすい味だ。結構気を遣って今日の食事、用意してあるっぽいな。よく見ると、私の食事は皆とは別に用意されているしね。皆には皆の、私には私の口に合う物を別々に用意してくれていたんだ。シュヴァルツの細やかな心遣いに感謝だ。な~む~。




 私は食事とお酒を楽しみながら、暫く皆の様子を観察していた。ノイモーントはリリーとミーナには目もくれず、フランソワーズに一生懸命アピールしている。話し掛けたり、食事を取り分けてあげたり、お酒を注いであげたり。しかし、フランソワーズは食事に夢中だ。あ! フランソワーズの口の端にソースが付いて――と思ったら、ノイモーントがすかさず立ち上り、ナプキンで拭いてあげている。何だか、今の行動、お母さんっぽい。これもアピールの一環だろうに、小さい子の世話を焼いているようにしか見えない。どうしてここでいつもの色気を出さない! このオトメンめっ! 暫くお母さんスキルは封印しておきなさい!


 ふと、リリーとフォーゲルシメーレに視線を移すと、二人は大変仲睦まじく食事を楽しんでいた。二人を取り巻くようにハートが飛んでいるように見えるのは、私の気のせい? お腹一杯。ラインヴァイスの魔術で、あのピンク色の空間を別空間にしてもらいたい。


 その隣のミーナとヴォルフは、何とも言えない雰囲気を醸し出していた。何、あの一問一答形式の会話。ヴォルフが素っ気無い気がする。あんなに熱烈な好意を抱いてくれている相手に対しての対応じゃないと思うんですけど! それでもミーナはめげずに、頑張って話を振っている。健気だ。それだけヴォルフの事が好きなのね……。


「――ヴォルフ。ちょっと」


 私は堪らず、席から立ち上がるとヴォルフを手招きした。向かうは薔薇園の隅っこ。いわゆるお呼び出しだ。薔薇の木立の陰にしゃがみ込むと、ヴォルフも私に倣うようにしゃがみ込んだ。何故か、ノイモーントとフォーゲルシメーレも付いて来ていて、一緒にしゃがみ込んでいる。この二人、女の子置いて来て何やってんの……。まあ、良いんだけどさ。


「ヴォルフ、アンタ、ミーナの事嫌いなの?」


 私は単刀直入にそう言った。ヴォルフは困ったように視線を彷徨わせいている。


「嫌いと言うか、何というか……」


「はっきりしなさいよ。ミーナはアンタの事、本気で好きなんだよ」


「えーと、ですね……。そのぉ……」


「何ッ!」


 いかん。ついつい語気が荒くなってしまった。深呼吸、深呼吸。怒ったらダメだ。こういう時は、冷静に話をしないと。


「他に気になる女性でもいましたか?」


 そう静かに問い掛けたのはフォーゲルシメーレだ。フォーゲルシメーレとノイモーントから、冷気のようなものが漂ってきている。何これ、怖い。これ、ヴォルフの返答次第では、乱闘になるのでは? ヴォルフ、お願いだから失言はしないでよ! 私を巻き込むな!


「え? いえ、そういう訳じゃないんですけど……」


「そうですか。それを聞いて安心しました」


 フォーゲルシメーレはそう言うと、にっこりと笑みを浮かべた。ノイモーントも微笑んでいる。二人から漂ってきていた冷気も消えているし、一触即発の事態は回避したらしい。にしても、ヴォルフのこの態度、何?


「では、リリー嬢はフォーゲルシメーレ、ミーナ嬢はヴォルフ、フランソワーズ嬢は私という事で、異論はありませんね?」


 ノイモーントがそう言うと、フォーゲルシメーレは静かに頷いた。しかし、ヴォルフは困ったような表情でポリポリと頬を掻いている。ノイモーントとフォーゲルシメーレがジッと、そんなヴォルフを見つめていた。威圧感ある視線だ。喧嘩はダメよ? 私は溜め息を吐きながら口を開いた。


「ヴォルフ、言いたい事があるならはっきり言いなさいよ。私だけじゃなく、ノイモーントだってフォーゲルシメーレだって気になって仕方ないでしょ?」


「あの、ですね……」


「ん?」


「その……。彼女、俺には少し若いかなぁ、と……」


 ヴォルフは遠慮気味にそう言うと、ふぅと溜め息を吐いた。にしても、若い? 若いってどういうこっちゃ? 幼いって事か? でも、ミーナは子どもって程の年齢でもない。


「若いとは、幼すぎる、と?」


 口を開いたのはノイモーントだ。訝しげな顔をしている。フォーゲルシメーレも眉を顰めている。きっと、二人も私と同じような意見なのだろう。


「これでも俺、第三連隊長ですよ? その妻の体形が発展途上とか……」


「確かに、成熟しきってはいませんが、人族などあっという間に大人になりますから。ねぇ? ノイモーント殿」


「その通り。早いうちに相手を見つけたと思って――」


 こういう時は同性同士の方が説得しやすい気がする。主催者でもある私があまり長時間席を離れるのも良くないし、一旦戻るか。私はコソコソと話を続けている独身トリオを残し、その場を後にした。


 テーブルに戻る途中、きょろきょろと辺りを見回すラインヴァイスと目が合った。私達を探しに来たっぽい。お手数お掛けしました。


「アオイ様、あの三人は――?」


 駆け寄って来たラインヴァイスが怪訝そうに口を開く。私は今しがたまでいた薔薇の木立を、苦笑しながら指差した。


「でも、俺! ラインヴァイス殿みたいに、小児性愛の気は無いんすよっ!」


 突如、大声で叫んだヴォルフの声が私の耳に飛び込んできた。私に聞こえたって事は、私の隣のラインヴァイスにもばっちり聞こえていたはずだ。あ~ぁ……。私、し~らないっと。ヴォルフさん、叫ぶ時は周りを良く確認しましょうね。不穏なオーラを纏いつつ木立へ向かったラインヴァイスの背を見送り、私はテーブルへと戻った。


「ただいまー。男性陣三人とラインヴァイスは戻ってくるの、ちょっと遅くなるから」


 私がそう言いながら席に着くと、シュヴァルツの眉間に皺が寄った。怖い顔だけど、これは訝しんでいる表情だね。普通なら、女の子を置いていなくなるとかありえないよね。


「何があった」


「ヴォルフが失言して、ラインヴァイスに教育的指導を受けてる。ノイモーントとフォーゲルシメーレも一緒にいたからとばっちり。あはは~」


「愚か者どもめが……」


 おや? シュヴァルツってば、溜め息を吐きながら立ち上がったけど、四人を連れ戻してくれる気なのかな? 流石は合コンの主催者。気が利くねぇ!

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