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竜王城 1

 私はさっきの薔薇園で、見知らぬ黒髪の美少女と手を繋いで歩いていた。美少女は金色の瞳をしており、少し気の強そうな顔つきをしている。目つきがあまり良くない所とか髪型とか、どことなく私と雰囲気が似ている気がする。美少女は私の手をグイグイ引いて、ガゼボに向かっていた。ガゼボのすぐ近くに、白マントと白銀鎧、二人の後ろ姿が見える。あれはシュヴァルツとさっきの少年かな? そう思った瞬間、私は見知らぬ部屋で目を覚ました。


 そこは豪華な部屋だった。大きな暖炉からは赤々と炎が上がり、部屋の中はとても暖かい。真紅の天蓋付きのベッド、大きなドレッサーには凝った彫刻が施されている。そして、目の前にはこれまた凝った彫刻のローテーブル、その向こう側には一人掛けのソファが二脚と、その奥には高価そうなダイニングテーブルセットが置いてあった。どれも色味が統一され、上品で、豪華な雰囲気を醸し出している。


 私の背丈以上ある大きな出窓からは外の景色が見えた。この部屋から洩れる明かりに照らされ、外が依然として吹雪いているのが分かる。まだ雪止んでないんだ……。


 私は三人掛け程の大きなソファの上に寝かされていた。レインブーツは脱がされていて見当たらない。その代りだろうか、ソファの足元にルームシューズっぽい、内側にモコモコのファーがついた、暖かそうな靴が置いてある。私の身体に掛けてあった毛布っぽい布を剥ぐと、コートと帽子と手袋だけ脱いだ状態だった。ジーパンの膝から脛辺りが濡れていて冷たい。こういう場合って、着替えさせられているとかがセオリーな筈なんだけどな。濡れたまま寝かすって、風邪ひいたらどうしてくれるのさ。


「お早いお目覚めですね」


 掛けられた声にビックリして振り向くと、薔薇園で会った少年が開きっぱなしの扉から部屋に入って来た。服装がさっきと違っていて、白銀鎧はつけていない。白地に金をあしらった、中世の騎士のような軍服とシンプルな白いマントに変わっていた。少年が後ろ手で扉を閉める音に、不覚にも身体がビクリと震える。


「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。取って喰ったりはしませんから」


 クスクスと無邪気な顔で笑う少年に、私の表情筋が緩んだのが分かった。でも、油断大敵。人畜無害そうなこの少年が良い人とは限らないんだから。


「竜王様のご命令で、着替えと湯浴みの用意をさせて頂きました」


「りゅ、りゅーおー、さま……?」


 りゅーおーさまって何だろう? うーむ……。聞き慣れない単語に、私は首を捻った。


「ええ。先程お会いしたでしょう?」


 りゅーおーさまとらやにさっき会ったらしい。はて……? もしかして、少年が言うりゅーおーさまってシュヴァルツの事かな?


「それって、シュヴァルツ……さん、の事?」


 個人的にはシュヴァルツに「さん」なんて付けたくない。でも、少年はシュヴァルツの部下っぽいし、一応大人の対応をしておこう。


「ええ。そうです」


 私の問い掛けに、少年はにっこりと笑って頷いた。笑顔が可愛いな。癒される。


「あの、ここって、もしかして……」


「竜王城東の塔、最上階です」


 やっぱり。私は少年の答えにがっくりと項垂れた。吹雪から逃れられたのは素直に嬉しい。でも、得体の知れない城の中にいるとか、あんまり良い状況とは言えない気がする。


「あ、あの。家に帰してもらえたりとか――」


「それは出来ません」


 少年は険しい表情で首を振った。予想はしていたけど、はっきり言われると凹むな。


「貴女はここがどこだかご存知ですか?」


 そう言った少年は険しい表情のままだ。さっきの可愛らしい笑顔はどこへ行った。


「どこって……」


 どこだろう。いや、大体想像は出来ているんだけど、認めたくないんだ。だって、あまりにも現実離れし過ぎているんだもん。口に出したら頭のおかしな子になっちゃう。


「ここは魔大陸中央部。竜王城を聞いた事は?」


 ありません。私はブンブンと首を横に振った。話の展開的に、嫌な予感しかしない。


「貴女は、この世界の人ではありませんよね?」


 ああ。予想通りの展開だ。あの大きな鳥もどきといい、狼男や長い牙のある金髪やら目が光る痴漢やら。この少年やシュヴァルツが何も無い所から出てきた事やら。思い当たる節はある。私は頭を抱えた。


「本日、大規模な召喚魔術の気配がありました。それこそ、異世界より人を召喚するような大規模な術式の」


 魔術がある世界なのね。所謂、剣と魔法の世界ってヤツですか。ゲームとかラノベとかでよくあるあれよね。剣と魔法の世界のゲームやラノベは好きだけど、自分がその世界に来るとか嫌過ぎる。家に帰りたい。


「異世界より来た人は勇者と呼ばれ、使命があります」


「魔王を倒すとか?」


 私は頭を抱えたまま、投げやりに言った。RPGやラノベでよくある話だよね。召喚された人間が、勇者となって仲間を集めつつ魔王を倒すってやつ。異世界人の使命って言ったらそれしか無いでしょってくらい、定番の設定だ。


「よくご存知ですね。簡単に言うとそういう事になります」


 私は顔を上げ、少年に据わった目を向けた。そんな私に、少年は怯む事無くにっこりと笑う。おぅ、笑顔が眩しい。


「で、魔王って?」


「竜王様を筆頭にした魔大陸七人の王が、人族にはそう呼ばれているみたいです」


 少年は事も無げに言った。ちょっと待て。シュヴァルツが魔王筆頭ってどういう事よ。ここ、始まりの村的な場所じゃなくて、ラスボスの大魔王城的な場所って事か?


「マ、マジで……?」


 本気と書いてマジと読む。少年よ、本気で言っているのかい? 私、大魔王城に転移したって事かい?


「ええ」


 少年はまたしてもあっさりと頷いた。何、このムリゲー。何でラスボスの所に転移するのよ! 丸腰でどうやって大魔王を倒せっちゅーねん! 神様、いい加減にしろよ! 何考えてんだ! ぶん殴るぞ! ○□▼※☆%§! げふん、げふん。……失礼。ちょっと取り乱しました。

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