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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第二章

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先生 3

 席に着いた私とアイリスは、ソワソワとしながらラインヴァイスを待っていた。ラインヴァイスは初級の魔道書を取りに行くと言ったきり、なかなか戻って来ない。ああ、早く戻って来ないかな。早く魔術習いたい! アイリスと二人で今か今かとラインヴァイスの帰りを待っていると、こちらに近づいて来る足音が聞こえ、通路の奥からラインヴァイスが姿を現した。そして、私とアイリスの顔を見たラインヴァイスが苦笑を漏らす。


「お二人とも、魔術が習える事、そんなに嬉しいですか?」


『嬉しい!』


 私とアイリスの声が見事にハモった。ラインヴァイスがクスクスと笑う。私とアイリスもお互いに顔を見合わせ、クスクスと笑いあった。


 ラインヴァイスは手にしていた本の束をテーブルに置くと、並んで座る私とアイリスの正面の席に腰掛けた。やっと授業開始だ! ワクワク、ワクワク!


「まず、何から始めるの?」


 私が問い掛けると、ラインヴァイスがにっこりと可愛らしい笑みを浮かべた。


「まずはこれを。アイリスに差し上げます」


「ん。ありがと」


 ラインヴァイスがアイリスに渡したのは、私の腕の長さくらいの一本の杖だった。植物を模したようなデザインで、先端には透明な石が嵌っている。


「私が幼少の頃に使っていた杖です。アイリスの魔力媒介には丁度良いと思います」


 ラインヴァイスから杖を受け取ったアイリスは、目の前に杖を掲げ、色々な方向から観察している。白っぽい金属製の杖は初めて見る不思議な光沢があり、図書館の照明を反射して輝いていた。魔鉱石みたいに淡く光っているわけではなく、あくまでも光沢。あれ、何て金属なんだろう?


――あれはアダマンティンの杖。アダマンティンはね、とっても硬い金属なんだよ。あれで剣と戦うことだって出来るんだから。


 リーラ、とっても硬いってどれくらい? ちょっと気になる。


――ん~……。昔、ラインヴァイス兄様、あれで石壁を叩き壊した事があったような……。


 あの細い杖で? 曲がったり、折れたりしなかったの?


――しない、しない。アダマンティンって、世界で一番硬いって言われている金属だよ? そう簡単に曲がったり、折れたりしないよ。


 ほぉ~。異世界って凄いなぁ。あんな細っこい杖で石壁が壊せるのかぁ。あの透明の石は何? ダイヤ?


――だいや? 何それ。あれは光の魔石。あの子、治癒術師になりたいんだよね? 光の魔石ならバッチリだ。


 光の魔石……。何それ。光るの?


――魔石はみんな光るから。光の魔石は、防御、回復、光属性攻撃の魔術強化の効力があるの。ラインヴァイス兄様、結界術師じゃん? あの杖、結構長く使ってたんだよ。でも、シュヴァルツ兄様の補佐をし始めてから、魔力媒介を魔剣に変えたんだ。自分は騎士だからって。あの杖、使わなくなっても大事に取ってあったんだぁ……。


 ふーん。そういえば、ラインヴァイスの剣にも透明の石が嵌ってる。あれが光の魔石なのかな? 杖とは全然大きさが違うけど。


――そりゃ、あの剣、この国で二番目に高価な武器だもん。でも、あの杖も結構高価なはずだよ。光の魔石自体が珍しいし。まあ、アオイの貰った、魔鉱石の短剣の足元にも及ばないけどね。


 あの杖も結構お高いのか……。アイリス、失くしたりしないかな? ちょっと心配になってきた。


「では、アオイ様。魔鉱石の短剣を出しで下さい」


「へ? 何で?」


「魔鉱石は魔力媒介として使えますので。使い方を説明します」


 ラインヴァイスが苦笑しながらそう言った。私は魔法の杖、貰えないの? ええ~! 何だか納得いかない! やっぱりラインヴァイス先生は、アイリスさんを贔屓していると思います。ズルいです!


――魔鉱石なら、精霊である私の魔力も上乗せ出来るはずだから。拗ねない、拗ねない。


 リーラが呆れた声で言った。でも、私も魔法の杖が欲しかったんだもん。魔法使いっぽくなりたかったのに。ぐすん……。


 私の左手のリーラの紋章が淡い光を発し、テーブルの上に魔鉱石の短剣が現れた。アイリスが目をまん丸くしてそれを見つめている。くぅ~! この驚いた表情。可愛すぎる! はっ! いかん、いかん。アイリスの可愛さに目尻を下げている場合では無かった。集中、集中!


「では、魔力媒介の説明から――」


 ラインヴァイスが説明してくれたのは、簡単に言うとこうだった。魔力媒介とは、身体の中にある魔力を外に出す為の道具。それを説明するのに、魔力とは何かとか、魔術と魔力の関係はどうだとか、精霊持ちの魔術師の特性だとか、どうやって魔力媒介を使うかだとかを色々と話してくれた。でも、実はあんまり頭に入らなかった。だって、ラインヴァイスの説明、難しいんだもん! アイリスも分かっているんだかいないんだか、難しい顔をして話を聞いていた。まあ、理論が分からなくてもどうにかなる……かな? いざとなったら、リーラに助けてもらおっと。


「次に、魔術体系について説明します」


「どういう魔術があるかって事?」


 私が問い掛けると、ラインヴァイスが大変よく出来ましたというように、笑顔で頷いた。


「そうです。魔術には大きく分けると時空魔術、状態魔術、攻撃魔術の三つのカテゴリーがあります」


 三つしか無いんだ。RPGとかラノベでは、もっといろんな魔術が出て来るのに。この世界、あまり魔術が発展していないのかなぁ?


「更にそのカテゴリーを細分化し、それを極めた者が、私のような結界術師でしたりノイモーントのような呪術師でしたりと、称号が付く訳です」


 ほうほう……。細分化、か。カテゴリーはあくまでも大まかな分類って事か。前言撤回。こりゃ、相当色んな種類の魔術がありそうだわ……。


「では、時空魔術から説明しますね。時空魔術には、結界術、空間操作術、召喚術があります。結界術はその名通り、結界を張る魔術ですね。当初の約束通り、お二人には絶対に学んで頂きます」


『はーい!』


 私とアイリスが声を揃えて元気良く返事をすると、ラインヴァイスがにっこりと笑って頷いた。


「空間操作術は転移術等の、空間を捻じ曲げるような魔術の行使となりますが、お二人にはあまり必要無いかと思います。また、制御に失敗すると周囲に与える影響が大きい為、ある程度、結界術や召喚術の経験を積んだ者でないと、あまりお勧めも出来ません」


「制御に失敗するとどうなるの?」


 私は小首を傾げながら問い掛けた。隣のアイリスも、興味津々な様子でジッとラインヴァイスを見つめている。


「最悪の場合、消滅します」


「何が?」


「世界が」


 ラインヴァイス先生! 今、サラッと言いましたけど、それ、大問題です! 世界が消滅するってどういう事ですか! 何でそんな事になるのよ!


「なななっ!」


「あくまで最悪の場合です。最高難度の空間操作術を暴走させた場合ですから。そんな顔、しないで下さい」


 ラインヴァイスってば、クスクス笑っているけど、笑い事じゃないよね? もし万が一、そんな事が起きたら一大事だよね?


――世界が消滅する前に、間違いなく術者が近くの人に殺されるから。心配しないでも大丈夫だよ!


 リーラ! アンタ、何、サラッと物騒な事言ってんの! 恐ろしい子っ!


「空間操作術を学ぶ際は、それほど危険な魔術だという事を覚えておいて下さいね。召喚術ですか、これは現世や異界から魔獣、悪魔、神獣等を呼び出し、使役する術式です。現在のメーアが召喚術師ですね」


 メーアの名を聞いて、私は俯いて拳を握った。私をこの世界に召喚した術者……。どんな思惑があったかなんて知らない。でも、これだけは言える。首を洗って待ってろ。絶っっっっ対に許さない! 会ったら一発、いや、二、三発ぶん殴ってやる。覚悟しておけ!


「アオイ、様……?」


「アオイ……?」


 ふと視線を上げると、ラインヴァイスとアイリスが、引きつった表情で私を見つめていた。二人の顔は怯える小動物のようだ。小動物コンビだ。可愛い。癒された。


「気にしないで。続けて、続けて」


「あ、はい……。状態魔術ですが、これは呪術、治癒術、屍霊術、浄化術があります。呪術は混乱や毒、石化等、生物の身体に状態異常を引き起こす魔術です。それに対抗するのが治癒術になります。治癒術は怪我や病気の治療だけでなく、解毒、混乱や石化からの回復等があります。呪術を極める為には治癒術を知らなくてはならず、治癒術を極める為には呪術を知らなくてはならないと言われている程、この二つは関係が深い魔術でもあります。ノイモーントとフォーゲルシメーレは、治癒術の行使こそ出来ませんが、知識だけでしたら竜王城でも一、二を争います」


「フォーゲルシメーレも?」


「ええ。薬師も呪術や治癒術の知識が必要ですからね。フォーゲルシメーレは、ノイモーント程ではありませんが、呪術行使も出来るはずです。アイリス、彼にも色々と教えてもらうと良いですよ」


「でもさ、アイリスが独りでノイモーントやフォーゲルシメーレの所に行って、大丈夫なの? 色々な意味で危なくない?」


「……大丈夫、だと思います」


 ちょっと、少年! 今の間は何だ、今の間は! アイリスを彼らの元に行かせるの、心配になるじゃないか! よし、ここは――。


「私が――」


「彼らの元へは一緒に行きましょうね、アイリス」


 私が言い終わるより早く、ラインヴァイスがにこやかにそう言った。アイリスが赤くなりながらこくんと頷く。ラインヴァイス先生がまたアイリスさんを贔屓しています。アイリスさんに過保護すぎると思います!


――仕方ないよ。ドラゴン族の本能だから。


 本能? 過保護な事が? リーラ、どういう事よ?


――過保護というか、庇護欲が異様に高いと言うか……。ドラゴン族がね、もっともっと原始的な生活をしていた頃は、大切な人は絶対に巣穴の外に出さなかったんだって。大切に、大切に、人目に付かないようにして守っていたんだって。それこそ、巣穴の外に出られないように、身動きが取れないようにしてまでね。


 何それ、怖っ! ヤンデレってヤツですか? ドラゴン族はヤンデレですか?


――やんでれ? 何それ……? 簡単に言うと不安なの。誰かに盗られないかって。出来るならずっと一緒にいたいけど、食料の問題とかもあるし、そんな事、実質不可能でしょ? だから、自分の巣穴の外に出られないようにしていたんじゃない? 庇護欲が高いのは、ラインヴァイス兄様に限らず、全てのドラゴン族に当てはまる傾向だよ。私もそうだし。


 うーん……。そう言われてみると、心当たりがあるような……。私がお城の外に出るの、シュヴァルツがなかなか許してくれなかったのがそうだよね?


――うん。そうだね。シュヴァルツ兄様ってば、大昔のドラゴン族みたいだね。アオイの事、本当は城の中に閉じ込めておきたいんだよ。まあ、それだけ愛されているって事だからね、義姉様。


 いや、まだおねえさまじゃないから。それに、私、そんな怖い愛はいりません。普通ので結構です!


「――最後が攻撃魔術ですね。攻撃魔術は地、水、火、風及び、光、闇の六属性に分かれます。単体の属性を使った魔術と、複数の属性を使った魔術があり、一般的には複数属性を使った魔術の方が行使が難しく、威力も大きいと言われています。攻撃魔術の各属性を極めた者を、地の魔術師でしたり、水の魔術師でしたりと呼びます。因みに、竜王様は闇の魔術師です」


 ふむふむ……。属性プラス魔術師で攻撃系を極めた人か……。シュヴァルツの闇の魔術師って、イメージ通りすぎる。流石は大魔王。


「では、最後に。アオイ様にはこちらを。アイリスにはこちらを」


 そう言ってラインヴァイスが私達に差し出したのは、革の装丁が施された分厚い本と、それより少し薄めの中身が白紙の本だった。分厚い本の方から、ほんわかした雰囲気が漂ってくるけど、何だろ、これ。


「こちらは初級魔術が載っている魔道書と、お二人用の写本です。お二人には、この写本を使い、初級魔術を全て習得して頂こうと思っております」


 ラインヴァイスってば、にっこりと笑っているけど、これはちょっとスパルタすぎないかい? これ全部習得するのに何年掛かるやら……。パラパラと魔道書を捲って中身を確認するが、訳が分からない。ちんぷんかんぷんだ。アイリスも困惑気味に魔道書を捲っている。


「あの……」


 本を捲る手を止めたアイリスが、消え入りそうな声でラインヴァイスに呼び掛けた。今にも泣きそうな顔をしているけど、どうした、アイリス!


「どうしました、アイリス?」


「あの、あの……私、字、読めない……」


 ああ、そっか。よくよく考えてみると、この世界に小学校なんて無いみたいだし、孤児のアイリスが字を習う機会なんて殆ど無いんだった。でも、私はアイリスが字を読めないなんて全く予想していなかった。魔術が習える事に浮かれて、そこまで考えが回っていなかったんだ。失敗した……!


 ラインヴァイスは驚いたように少し目を開いた後、優しげな微笑みを浮かべた。アイリスを安心させるような、それはそれは優しげな笑みだ。


「そうでしたか。では、アイリスは識字からですね」


「でも、魔術も……」


「分かっています。急ぐ必要はありません。識字と魔術、二つを少しずつ学びましょう」


 アイリスが泣きそうになりながらも小さく頷いたのを見届け、ラインヴァイスは席を立った。


「では、今日はここまでとします。昼食のお時間になりますので、お部屋に戻りましょうか?」


「はい。ありがとうございました」


 私がぺこりと頭を下げると、アイリスも慌てて頭を下げた。ラインヴァイスがアイリスの行動を見て目を細めている。ラインヴァイス先生? アイリスが可愛いのは分かりますけど、私もいますからね? そこの所、忘れないで下さいよね?

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