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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第二章

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先生 2

 私とアイリスとラインヴァイスは、朝食後、図書館へ移動した。今日は徒歩での移動だ。お城の階段を上ったり下りたり、下りたり上ったり……。図書館は北の塔にあった。これがかなり遠く、複雑な道順を辿った。これ、一回じゃ覚えられないよ。


「図書館、歩いて来たの初めてだけど、ずいぶん遠いのね」


 図書館の扉の前で私が溜め息を吐くと、ラインヴァイスが苦笑を漏らした。


「アオイ様とアイリスを連れて旧区画に入るわけにも参りませんので、少々遠回りになりましたね」


「一回じゃ、道、覚えられないよ?」


「アイリスもおりますので、図書館を使う際は私も同行致します。ご安心を」


 にっこりと笑みを浮かべるラインヴァイスの背中では、アイリスがすやすやと寝息を立てていた。途中で疲れて歩けなくなったアイリスを、ラインヴァイスが背負ってきたのだが、朝が早かったせいかアイリスはいつの間にかラインヴァイスの背中で寝てしまっていた。ズルいぞ、アイリス! 一人だけ楽して!


「それにしても遠いよ。ねえ、ラインヴァイス? 転移魔術で私とアイリスを順番に転移させる事、出来ないの?」


「城の中での転移は、竜王様の許可が必要になりますので、私の一存では何とも……」


 そう言って、ラインヴァイスは困ったように眉尻を下げた。許可って、許可証みたいなのが必要なのかな? それくらいだったら、今夜にでもシュヴァルツに頼んでみようかな?


「許可って、シュヴァルツに何か貰えば良いの? 書類的な?」


「いえ、魔術的な許可です。竜王城の結界の一部を解除しなければならないものですので、基本、緊急事態以外で我々も頼む事はありませんね」


 そっかぁ。魔術的な許可なのね。竜王城の結界の一部解除とか、そりゃあ、おいそれと頼めないや。そう言えば、シュヴァルツが名前を呼んだ時とか命じた時以外、転移している人を見た事が無い。あれ、魔術的な許可を出していたんだね。なるほど、なるほど……。竜王城って、RPGで言うところのダンジョンなのかもしれない。転移魔術は基本的に使えないっていう、攻略難度が高いダンジョンだ。流石は大魔王城。一度入ったら出られない!


「いいわ。運動不足気味だし、歩いて移動する」


「是非、そうして下さい」


 ラインヴァイスが苦笑しながら先導して図書館に入る。私もその後に続いた。


 図書館は何度来ても凄かった。元の世界にもなかなかこんな立派な図書館って無いんじゃない? いくら王様とはいえ、これが全部シュヴァルツの蔵書なんてねぇ。リッチだなぁ。


「凄い本の数!」


 ラインヴァイスの背で、アイリスが驚いたように声を上げた。いつ起きた、アイリス! 苦笑を漏らしながらラインヴァイスが屈むと、アイリスが素早い動きで床に飛び降りた。


「アイリス、アンタ寝てたんじゃないの?」


「ここ入ったらね、ぞわわわわわぁ~ってなって目が覚めたの」


「ぞ、ぞわわわわわぁ~?」


 そわわわわわぁ~って何だ、ぞわわわわわぁ~って。悪寒なのかな? これくらいの年齢の子って、擬音語で説明しても、的確なんだかそうじゃないんだかよく分からん!


「アイリスにも魔道書の在り処が分かるようですね」


 ラインヴァイスが感心したようにアイリスを見つめている。アイリスはラインヴァイスの視線に気が付くと、えっへんと誇らしげに胸を張った。


「えぇ~! みんな分かるんじゃないの~?」


 アイリスのドヤ顔を見ると、ついつい意地悪してしまう。だって、その後の反応が可愛いんだもん! アイリスはぷーっと頬を膨らませ、抗議の視線を私に送っていた。ああ、可愛い! 癒されるぅ!


「いえ、魔術に全く適性が無い者は分かりませんし、適性があっても幼子では自身の魔力が弱すぎて分からないものです」


 ラインヴァイスが苦笑しながらアイリスの頭をポンポンと軽く叩いた。アイリスが照れたような笑みを浮かべる。何かこの二人、一日で距離が縮み過ぎじゃない? 私、置いてけぼり感が半端無いんですが……。二人だけ仲良さそうにしててズルい!


「では、適性魔術を確認しましょうか?」


 ラインヴァイスがにっこりとアイリスに微笑みかけた。むぅ! 二人だけの世界作って! 私も仲間に入れてよ! ラインヴァイス先生は、アイリスさんを贔屓していると思います!


「ラインヴァイス。私もいる事、忘れないでよ?」


「ええ。忘れていませんよ?」


 ラインヴァイスは私にもにっこりと笑みを向けた。そりゃあ、アイリスが可愛いのは分かるよ。だって、人生を掛けてまで、自分の目を治療してくれる道を選んだ子なんだから。でも、私、仲間外れはちょっとだけ寂しいよ。


「アオイ様は以前、こちらにいらした際に確認出来ております。なかなか珍しいのですが、複数カテゴリーに適性のある万能型です」


 珍しい? 万能型? これも勇者補正ってヤツなのかな? 幅広い魔術の才能があるって事、だよね?


 ラインヴァイスが先導して歩き出す。私とアイリスもその後を付いて行った。枝分かれする通路から変な感じがする。背筋がピリピリするようなのとか、ゾクゾクするようなのとか……。アイリスが言った、ぞわわわわわぁ~っていうの、こういう感覚の事か?


「アイリス。どの通路から先程言っていた感覚があるか分かりますか?」


「ん~ん~……。こっち」


 ラインヴァイスの問い掛けに、アイリスは少し考えるような素振りを見せると、一つの通路を指差した。見た目は何の変哲も無い通路だけど、おどろおどろしい雰囲気が漂ってくる。何、ここ……?


「ラインヴァイス。ここ、気持ち悪いんだけど。これ、大丈夫なの?」


「ふむ……。アオイ様は相性が良くないのかもしれません。念の為、この通路の魔道書には触れないで下さい」


「うん。ここ、何なの?」


「ここは状態魔術の中でも、呪術関係の魔道書が納められている通路です」


「呪術?」


「治癒術とは真逆の魔術ですね。混乱や毒、石化など、相手を呪う為の魔術です。この魔術を極めた者を呪術師と呼び、ノイモーントがそれに当たります」


 ノイモーントが呪術師ねぇ。似合うといえば似合うか……。


「私、治癒術、使えないの?」


 アイリスが不安そうにラインヴァイスを見上げた。アイリスの視線に気が付いたラインヴァイスが苦笑を漏らし、アイリスの目の前に屈んだ。


「適性は悪くありませんよ。治癒術も状態魔術の一種ですから。但し、適性がある呪術は感覚的に使えるようになるでしょうが、治癒術は理論的に理解しなくてはなりません。努力が必要です」


「ラインヴァイス。それ、どういう事?」


 私が首を傾げると、アイリスも真似をするように首を傾げた。くぅ! アイリスが可愛すぎる! 直視出来ない!


「適性がある魔術は、それこそ、何も考えなくても使えるようになります。しかし、それがかえってあだとなる事があるのです。相性の問題なのですが、私が初級以外の攻撃魔術が殆ど使えないように。しかし、呪術と治癒術に関して言えば、同じカテゴリーに分類される魔術ですからね。そして、どちらも生物に影響を与える魔術です。マイナス方向に影響を与えるか、プラス方向に影響を与えるかの差異がありますので、影響方向を変える手順を学ばなくてはなりませんが、しっかりと理解出来れば優秀な治癒術師になれますよ」


「でも、私、治癒術の適性が欲しかった!」


 アイリスが不服そうに頬を膨らませた。そりゃね、治癒術に適性があれば優秀な治癒術師になれそうだもんね。でも、世の中そんなに甘くないんだよ……。


「アイリス、アンタって子は……」


「だって、ラインヴァイス先生の目、早く治したい!」


「気持ちは分かるけど、状態魔術に適性があっただけでも良しとしときなさいよ。全く適性が無かったら、この城にいる意味すら無くなるんだからね」


「むうぅぅぅ~!」


 アイリスは尚も頬を膨らませている。なかなか気持ちに折り合いがつかないのかな……。アイリス、変に頑固だから……。


「アイリス、別に急ぐ必要は無いのですよ? 私は人族とは違い、寿命が長いですから。アイリスにとっては長期間に感じる事でも、私にしてみたら僅かな間なんです」


「でも、でも!」


「アイリス。良い事を教えましょう。かの有名な、八代目メーアは優秀な治癒術師だったのは貴女も知っていますね?」


「ん……」


「彼女、実は呪術の適性があったらしいですよ?」


 ラインヴァイスが悪戯っぽく笑う。アイリスはそれを驚きの表情で見つめていた。てか、八代目メーアって、誰よ? 私、また置いてけぼり……。


――聖女メーアってのが大昔にいたの。人族をまとめ上げ、国という概念を持ち込み、その礎を作ったって言われているんだ。メーア大陸の語源にもなっている人だね。まあ、いわゆる御伽噺。んで、代々、メーア大陸にある中央神殿の巫女頭が、その聖女メーアの名を冠しているんだ。初代の聖女メーアから五代目までは、戦や天災なんかで資料が残っていないから、実在したかは不明なんだけど、それ以降は資料が残っているの。まあ、それはどうでも良いか……。でね、その巫女頭達にも、人族の間で人気、不人気があってね、八代目メーアはいろんな逸話が残っている人気の巫女頭の一人なの。ここにも本が置いてあると思うけど、どんな難解な病気や呪いも、あっという間に治したってね。因みに、私は何代前だか忘れたけど、メーアと戦って負けましたぁ! あっはっはぁ~!


 マジで? リーラ、メーアに負けたの? だから死んじゃったの?


――うん。その時のメーアはね、召喚術に長けていたの。異世界から勇者なんて召喚して、魔人族と戦争して……。正しくは、私は勇者とメーアに負けたんだけどね。二対一って卑怯だと思わない?


 卑怯だけど、向うさんも勝つために必死だったんじゃない?


――そうだけどさぁ。こんな年端もいかない美少女を、二人で寄ってたかってボコボコにタコ殴りってどうよ? 挙句の果てには火をつけるなんて、どこの悪役だよって話でしょ?


 自分で美少女とか言わないの……。にしても、タコ殴りかぁ。災難だったね。


――でしょ~? 因みに、現在のメーアも召喚術師だと思うよ?


 ふ~ん。……ん? ちょっと待って。召喚術師とか勇者とか、どっかで聞いた事がある話……。


――十中八九、アオイをこの世界に召喚したの、現在のメーアでしょ。


「なんだってぇぇぇぇぇ!」


 思わず大声を出してしまった私を、ラインヴァイスとアイリスが唖然とした表情で見つめている。いけない、いけない。二人には、私とリーラの会話、聞こえないんだった。


「ご、ごめん」


「いえ。アオイ様、どうされました?」


 ラインヴァイスが小首を傾げた。アイリスも一緒に小首を傾げている。シンクロとか、この二人、いつの間にこんなに仲良くなった?


「ええっと……。リーラとちょっと話をしてたんだ」


「そうでしたか。リーラは何と?」


「いや、その……。私をこっちの世界に召喚したの、十中八九、現在のメーアだって……」


「ああ。でしょうね」


 ラインヴァイスはさも当然とばかりに頷いている。もしかしなくても、ラインヴァイスは私を召喚した犯人、分かっていた……?


「知って、たんだ……」


「ええ。異世界より人を召喚するなど、そんな高度な召喚術を行使出来る召喚術師は、メーア以外に考えられませんから」


「シュヴァルツも、分かってるんだよね?」


「ええ。ご存知でしょう。ただ、現在のメーアは好戦的な人物で、アオイ様を元の世界に戻すよう彼女に交渉しても無駄でしょうから、敢えておっしゃらなかったのかと……」


「そっか……。それはシュヴァルツなりの気遣い、なんだよね……?」


「ええ。その通りです」


 ラインヴァイスは大真面目な顔で頷いた。何も言わない、余計な期待を持たせない。それがシュヴァルツなりの優しさなのは、彼をだいぶ理解した今なら分かる。でも、元の世界に戻る方法、無いわけじゃないって教えて欲しかったな……。


「ねえ、ラインヴァイス。こういう事、もう隠したりしないで。私自身の事だし、さ。自分の置かれている状況をしっかりと把握した上で、どうするか相談したいし、決めたいから」


「かしこまりました。竜王様にもそうお伝えします」


 ラインヴァイスが深々と頭を下げた。ああ、憂鬱だ。私が元の世界に戻る方法は、敵対する勢力が握っている。もし、それを盾にシュヴァルツを倒せなんて言われても、こんなにお世話になって、今更そんな事出来ないし……。あとは、自力で帰る方法を探す以外――。


「ねえねえ。何の話?」


 クイクイとマントを引っ張られ、ふと視線を下に落とすと、アイリスが不安そうに私を見上げていた。そっか……。アイリスは私の事情なんて殆ど知らないし、二人で深刻そうな話をしていたら不安にもなるか……。


「私がね、お家に帰れるようになるかなって話」


「アオイ、遠くに行っちゃうの?」


「ん~? どうなんだろう。帰れる日が来るのかなぁ?」


 アイリスの頭を撫でながら、私は苦笑を漏らした。方法が無いわけではないが、一筋縄ではいかないだろう。他の方法を探すにしても、絶対に苦労するし、見つかる保障も無い。もしかして、このまま一生帰れないなんて事もあるんじゃないかな……。


 お父さんとお母さん、元気かな? 私が急に行方不明になって、死ぬほど心配しているんだろうな……。私の意志でこの世界に来たわけじゃないっていっても、凄く心配させて、親不孝者だよね、私……。


「アオイ、行っちゃ嫌だ!」


 アイリスが叫んだと思ったら、私の腰にしがみついてきた。心なしか声が震えていた。もしかして、アイリスを余計不安にさせちゃったのかな?


「アイリス……」


 私はアイリスを抱きしめ返した。もし、帰る方法が分かった時、アイリスや孤児院のみんなにお別れを告げなければならないんだ。ラインヴァイスやノイモーント、フォーゲルシメーレ、ヴォルフにも。それに、シュヴァルツにも……。メーアに頼る方法以外の帰り方を知りたい反面、そんなものが無ければ良いのにと思う私もいる。帰るのが寂しいって、そう思えてしまう程、私はこの世界の人達を好きになりつつあるんだ……。

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