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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第二章

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魔術 1

 春が近づいているのか、最近はだいぶ暖かくなり、雪が降る事もめっきり少なくなった。雪解けも進んできている。外は舗装なんてされていないから、結構ぬかるみが多いけれど、孤児院までの道中はリーラの脚鎧のお蔭で快適だ。異世界って便利だと、しみじみそう思う。魔物の脅威が無ければ、なお快適なんだけどなぁ。


 私は三日と開けず、孤児院を訪ねていた。何をしているかって? 主に子ども達の世話と家事手伝い。あと、絵を描いたり、散歩をしたり、色々だ。毎日が充実していて楽しい。


 そうそう。アイリスとは無事、和解する事が出来た。初めはお互いに構えてしまってぎこちなかった関係も、今では姉妹のようになっている。こっちの世界に来て、可愛い妹分が出来ました!


「アイリス!」


「アオイ!」


 私の姿を認めたアイリスが、凄い勢いで駆け寄り、飛びついて来た。勢いがあるから腰にくる。ぎっくり腰には気を付けないと!


 会う度に熱い抱擁を交わす私達を、皆が微妙な表情で遠巻きに見ている。毎度毎度行われる私達の感動の再開劇に、いい加減引いているのかもしれない。でも、そんなの気にしない。だって、今日も元気で可愛いアイリスに会えた事、それだけで嬉しいんだもん。


「アイリス、良い子にしてた?」


「うん!」


「森には近づいてない?」


「ん」


「本当に?」


「ん~」


 アイリスの目が泳いでいる。これは森に近づいたな。危ないから森には近づくなって、何度言ってもアイリスは森に行こうとする。理由は分かっているんだ。フランソワーズが教えてくれたの。アイリスは森の淵で母親を待っているんだって。


「勝手に森に行かないって、約束しなかったっけ?」


「う~。だってぇ……」


 しゅんと項垂れるアイリスの頭を優しく撫でる。ふわふわの赤い髪、血色の良いぷにっとしたバラ色の頬、クリッとした大きな目。何で、こんなに可愛い子を捨てる親がいるのかねぇ。全くもって、理解に苦しむよ。


 アイリスは母親に捨てられた。とは言っても、実際に捨てている現場なんて誰も見ていないんだけど。ある日、アイリスは森の淵に独りで立っていたらしい。フランソワーズとミーナが話し掛けると、母親を待っているんだと答えたきり、黙りこくってしまった。そんなアイリスを、二人は孤児だと判断し、半ば無理矢理孤児院に連れて来たんだって。しかし、アイリスは母親に捨てられたなんて思っていないんだろう。だから、毎日のように、母親に置き去りにされた森の淵で、母親の帰りを待っている。私達が出会ったのも、そうやって母親の帰りを待っている時だったみたい。


 その話を聞いて、アイリスはどんな想いで母親の帰りを待っているんだろうって、そう思うと胸が苦しくなって涙が止まらなかった。森から帰って来たアイリスが、そんな私を偶然見かけて、背中を撫でてくれたんだ。自分だって辛いはずなのに、泣いている私を気遣うなんて……。アイリスは、根は凄く優しくて良い子なんだ。あの時、思わずアイリスを抱きしめて、猫パンチをお見舞いされてしまったけど……。あはは。


「よし! アイリス。リリーとフランソワーズとミーナには私からうまく言っておくから、森に行っておいで! でも、森の中には入ったらダメだよ? あと、明るいうちに戻って来るんだよ!」


「うん!」


 嬉しそうに駆け出したアイリスに手を振りながら、ちらりと見えた白い後ろ姿にも手を振る。ラインヴァイス、今日もアイリスをお願いね。


 私が孤児院で過ごしている間、ラインヴァイスにアイリスを見守ってくれるようにお願いしてある。アイリスが戻ってくるまで、私は絶対に孤児院から出ないで待っているからって。ラインヴァイスは快く了承してくれた。まあ、私が約束を破ったら、二度と孤児院には来られなくなるって、切々と諭されたけどね。


 もし、前みたいにアイリスが魔物に襲われた時は、ラインヴァイスがアイリスを連れて私の元へ転移してくる手はずになっている。私はアイリスと一緒に森に行く事は出来ない。本当はアイリスが寂しくないように、一緒に行ってあげたいんだけど。理由は簡単。転移魔術の制約で、術者プラス一人しか転移出来ないから。私が孤児院で待つことが、二人を守る最良の手段なんだ。だから、我慢、我慢。二人に置いて行かれるの、寂しくなんてないんだから!


「フランソワーズ、ミーナ、こんにちは!」


「ああ。よく来たな、アオイ」


「アオイさん、いらっしゃい」


 孤児院の中に入ると、フランソワーズとミーナが遅めの昼食を食べていた。パンに薄切りスモーク肉を挟んだものと、野菜の欠片が浮いたスープ。竜王城の食事に比べるとかなり質素だ。でも、冬場でも飢えずに済む、それだけで満足なんだって。竜王城からの支援が無ければ、この食事すらままならないらしいから。


「今日は随分と遅いお昼ごはんだね」


 私は二人の目の前のポットからお茶を貰い、ミーナの隣に腰掛けた。ほかほかと湯気の上がるコップに慎重に口を付ける。うん、今日は丁度良い温度だ。


「お姉ちゃんの具合が良くなくて……」


 ミーナは食べる手を止め、悲しそうに顔を伏せた。ミーナとリリーは実の姉妹だ。でも、二人は真逆のタイプ。いつも元気一杯で健康そうなミーナとは違い、リリーは線が細く、か弱い。儚げな印象を受けるのも、幸が薄そうな印象を受けるのも、生まれつき身体が弱いせいなんだろう。


「ここのところ、体調が良さそうだったから油断していました。きっと、無理していたんだと思います。年々、寝込む事が多くなっていますし、一度寝込んだらなかなか起きれないし……。もう長くないのかも……」


「ミーナ……」


 下手な慰めはミーナを傷つけるだけだし、私にしてあげられる事なんて高が知れている。それでも、どうにかしてあげたいって思うのは、私のエゴなのかな?


「ねえ、ミーナ? リリーってお医者さんに診せた事、あるの?」


「おいしゃさん? 何です? それ?」


 ミーナが不思議そうに首を傾げる。そっか。この世界、お医者さんをお医者さんって言わないのか……。お医者さんって、何て説明すれば伝わるかのかな?


「ええと……病気を治せる人?」


「ああ、治癒術師ですか……」


「そう。それ!」


 ミーナは疲れた表情で溜め息を吐いた。フランソワーズは呆れたように私を見ている。私、何か変な事を言ったっぽい……。


「アオイ。治癒術師は魔大陸にはいない」


 そう言ったのはフランソワーズだ。治癒術師がいないって、どういう事?


「何で?」


「魔人族が治癒術を使えないからだ。わざわざ魔術を習おうなんていう人族も、人族に魔術を教えようなんて魔人族も、この魔大陸にはいないしな」


 え? 魔人族って治癒術使えないの? 初耳だ。でも、何で?


――魔人族の魔力は濃すぎるの。強すぎる薬は毒にもなるでしょ? それと一緒。魔人族が使える状態魔術は、呪術と屍霊術だけ。治癒術と浄化術は、どんなに練習しても使えないんだよ。


 リーラがそう解説してくれる。こういう時、リーラの解説は助かる。こっちの世界の常識なんて、私には未だに分からないから。


 魔術を習う人族がいないのは何で?


――人族は、この魔大陸では力を手に入れる必要が無いから。騎士になる事が義務みたいな魔人族とは違って、人族は戦に行く必要なんて無いもん。魔術を習ったり、剣術を習ったりなんて、そんな無駄な時間を使う必要は、人族には無いの。それに、魔人族だってそうだよ。人族に魔術や剣術を教えるなんて、時間の無駄だよ。それなら、魔人族同士で切磋琢磨して強くなる方がよっぽど合理的。この国の為に戦うのは魔人族の役目なの。人族はか弱いんだから、魔人族に守られながら平穏無事に暮らしてもらえれば、それだけで良いの。それでね、偶に魔人族のお嫁さんになってくれれば言う事無し!


 うーん。何か、人族の事を少し見下した言い方だけど……。まあ、これがこの国の常識なのか。ありがと、リーラ。


「でもさ、治癒術師だって旅くらい――」


「治癒術師の称号を持つ者は、旅などしない。メーア大陸で教会の守護の元、病人や怪我人の治療をしていた方が、よっぽど実りが良いからな」


「じゃ、じゃあ、薬師だっけ? そういう人に診てもらえば?」


「確かに、薬師なら金を出せば診てくれるだろうな。だが、薬を作ってもらうには金が掛かる。その金、どこから出すんだ?」


「あ……」


 そうだ。ここは孤児院。その日の食べ物だって、竜王城の支援に頼っているんだ。リリーの病気を治すのに、どれ位のお金が掛かるかなんて私には分からない。けれど、きっと結構な額を請求される。治癒術が一般的で無いなら尚更だろう。


「……お金はあるんです」


 ミーナは悔しそうに唇を噛みながら呟いた。あれ? お金、あるんだ。じゃあ、何で診てもらわないの?


「出稼ぎに出た方が、偶に仕送りをして下さるので。でも、治るかどうか分からないお姉ちゃんに、大切なお金を使うわけにはいかないんです。お姉ちゃんもそれが分かっているから、絶対に自分の為にお金を使わないでって……。万が一、他の子が病気になった時の為に取っておきなさいって……!」


 ミーナは机に突っ伏して泣き出した。フランソワーズが責めるような視線を私に向けている。ああ、やってしまった……。ミーナを傷つけるつもりなんて無かったのに……。


「あ、あの、ミーナ。ごめんなさい……」


「アオイさんが悪い訳じゃないんです。ただ、く、悔しくて。わ、私、お姉ちゃんに、何も、してあげられないから!」


 声を上げて泣きじゃくるミーナの頭を撫でながら、私は考え事をしていた。魔人族は治癒術は使えない。それはリーラの解説通りなのだろう。じゃあ、私は? 私は魔人族じゃない。もしかしたら、治癒術、使えるようになるんじゃないだろうか? でも、シュヴァルツは、私が魔術を習いたいって言ったらどんな顔をするんだろう? 図書館に通っていた頃、魔道書は見せるつもりは無いって言っていたよね……。やっぱり反対されるだろうか? でも、リリーの事は放っておけない。私は、私に出来る事をしないといけないんじゃないの? ラインヴァイスの時みたいに、また後悔だけするの? ううん。このまま、何も出来ないままでいたくない! 魔術、使えるようになりたい!


「決めた!」


 叫んだ私を、ミーナとフランソワーズが怪訝そうな表情で見つめていた。そりゃ、唐突に叫んだら驚くか……。


「私、治癒術、習う!」


『は?』


 声をそろえて呆けた声を上げたミーナとフランソワーズは、さっきの怪訝な表情から、頭の弱い子を見る顔になっていた。……そんな目で見ないでよ。涙が出てくるから。


「だから、私、治癒術習って、リリーを治すって――」


「そんな事、竜王様が許すと思っているのか?」


 そう言ったのはフランソワーズだった。呆れ切った表情をしている。そりゃ、シュヴァルツが反対をしたら、説得するのは難しいだろう。でも、絶対に不可能ってわけではない。対シュヴァルツ最終奥義「好きにさせてもらいます」を使ってでも説得するもん。私は私に出来る事をやりたいの。


「……アオイ。お前、力ある者の務め、知らないのか?」


「へ?」


 フランソワーズの口から、何処かで聞いた事がある言葉が出た。力る者の務め……。はて? うーんと……。あ、そっか。リーラが前に言ってた言葉だ!


「聞いた事はあるけど……」


「意味は知らないのか?」


 私がこくりと頷くと、フランソワーズは呆れたように溜め息を吐いた。


「力ある者は、たとえ女子どもでも、いざ戦となった時、国の為に命を賭して力を振るわねばならない。それが力ある者の務めだ。ここで言う力とは、武術、魔術全般を指す。治癒術も魔術だ。例外ではない。アオイが治癒術――魔術を習うという事は、いざ戦となった時、竜王軍として出陣しなければならないという事だ」


 たとえ女子どもでも……。じゃあ、リーラが死んだのも、この務めを果たしたから?


――そうだよ。シュヴァルツ兄様がアオイに魔術を習わせないのも、アオイを守る為なんだから。その想い、分かってあげてね。


 そっか……。私はまた知らず知らずのうちに、シュヴァルツに守ってもらっていたんだ……。でも、このまま何も出来ないままなんて嫌なんだよ……。


――分かってる。私は、そこがアオイの良い所だと思うよ。


「じゃあ、シュヴァルツに相談してみる……」


「ああ、そうだな」


 腕を組んで頷くフランソワーズの顔は、どこか安心したようなものだった。私が唐突に予想外の事を言ったから、少し驚いていたのかもしれない。フランソワーズは誰よりも他人の気持ちを慮る事が出来る人だ。私が語る数少ない情報の中から、色々な人の気持ちを汲み取っている。思慮深い人だ。私と年が近いはずなのに、短絡的な私と大違い。


「フランソワーズってさ、何気に良い女だよね」


 私がふふふと笑いながら言うと、ミーナも目元の涙を拭いながらうんうんと頷いた。


「面倒見が良いし、優しいし、顔も良いし。いつまでそんな冒険者時代の服、着ているんです? せっかく美人なのに、台無しですよ?」


「なっ!」

 

 悪戯っぽい表情で言ったミーナの言葉に、フランソワーズは赤くなりながら口をパクパクとさせた。あんまり人に褒められ慣れていないのだろう。照れてる、照れてる。フランソワーズの照れた顔、可愛い!


「あ! 私の服、着てみない? フランソワーズの女装、見てみたい!」


「アオイさん、女装って……。フランソワーズも一応、女の子ですからね。でも、私も女らしい格好のフランソワーズ、見てみたいです」


「誰が着るか、そんなフリフリレースの服! 色んなところがスースーしそうだし!」


 色んなところがって……。私は別に、露出度の高い服を着ている訳では無い。至って普通のワンピースに、レースや刺繍の飾りがついている服装しかしていないのに……。ああ、そっか。ズボンを穿き慣れているからか! でも、こんな時の為にかぼちゃパンツがあるのだよ!


「大丈夫! スースーしない為の下着もあるから! 今度、お城から持って来てあげるよ!」


「い、いらん!」


 フランソワーズはそう叫ぶと、残っていたご飯を口に詰め込み、勢いよく外に逃走した。あーあ。逃げられちゃった。また今度、女装、お願いしてみよっと。


「あの、アオイさん?」


「ん?」


 二人きりになった室内、ミーナの声がやけに響く。


「ありがとうございました。お姉ちゃんの為に……」


「ううん。だって、リリーは友達だもん。勿論、ミーナもフランソワーズも、ここにいる子達みんな、私の友達だもん。友達の為に何かしてあげたいって、そう思うのは当然でしょ?」


 私がニッと笑うと、ミーナは驚いたように目を見開いた。そして、再び机に突っ伏して泣いてしまった。あーあ。また泣かせてしまった……。私はミーナの頭を撫でながら、今後について考えを巡らせていた。

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