表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/114

孤児院 4

 夕暮れが近づき、ワンピースも無事に乾いたので、私は城へ帰る事にした。今日は凄く楽しい一日だった。リリーにフランソワーズ、ミーナとは年齢が近い事もあって結構仲良くなれたし、小さい子達も私に懐いてくれた。アイリス以外は、だけど。アイリスはずっと部屋の隅で小さくなって、私の事を睨んでいた。そんなに嫌わなくても……。まあ、嫌われる心当たりはあるんだけど。その事について、少し弁明したかったんだけどなぁ。また今度の機会かな。


 想定外の大騒ぎはあったけど、今日はとても楽しかった。連れ出してくれたラインヴァイスに感謝だ。ラインヴァイスが怪我をしてから、久しぶりに笑った気がする。


「じゃあ、お邪魔しました」


「ええ。またいらしてね。アオイならいつでも大歓迎ですわ」


「またいつでも来い。皆、待っているから」


「今度、竜王城の事、聞かせて下さいね、アオイさん」


 リリーとフランソワーズ、ミーナが戸口の外まで見送ってくれた。小さな子達も窓から手を振っていたり、三人の後ろから覗いて手を振っていたり。何で小さい子の行動ってこんなに可愛いのかな。癒されるぅ!


「あ~! 帰りたくなくなる! 皆、可愛すぎるぅ!」


 私が両頬を押さえながら口元を緩めると、ミーナの顔色が変わった。ダメな子を叱るお母さんみたいな表情だ。


「ダメですよ! 竜王様が心配します! いつでも歓迎しますから、今日はちゃんと帰りましょうね」


 そう言って、ミーナがグイグイと私の背中を押す。ああ、分かっているけど帰りたくない~! あぁ~!


「帰りたくないよ~! もっと皆と遊びたいよ~!」


「ほらほら我儘言わない! また明日来れば良いじゃないですか!」


「えぇ~! 明日も来て良いのぉ?」


「毎日でも来て下さい。だから帰った、帰った」


 ミーナって、しっかり者のお母さんみたい。私と話しながらも、小さい子の面倒をしっかりと見ていたし。私より年下だろうに、しっかりしているなぁ。


「分かったぁ。じゃあ、今日は帰るぅ。また明日来るぅ~」


「あ。帰る前に、その締まりのない顔、どうにかした方が良いですよ? 竜王様に愛想尽かされても知りませんよ?」


 ミーナは言いたい事をバシバシと言ってくるタイプだ。裏表が無くて、サバサバしている子って好感が持てる。多少の毒も笑っていられる。


「分かった」


 両頬をパシパシ叩いて表情を引き締めると、ミーナがクスクスと笑った。私もつられるようにクスクス笑う。


「じゃあ、アオイさん。また」


「うん。またね」


 手を振るミーナに別れを告げ、私は竜王城目指して歩き出した。少し雪がちらつき始めているけど、今夜は吹雪になるのかな? 少し急ぎ足で進む私の目の前に、突如ラインヴァイスが出現した。


「アオイ様、少しお顔が明るくなりましたね」


 そう言って微笑むラインヴァイスに、私も口元を綻ばせた。きっと、シュヴァルツもラインヴァイスもノイモーントも、私が塞ぎ込んでいた事を心配していたんだ。もしかしたら、今日、城の外に行く事になったのも、三人が示し合せたのかもしれない。皆、心配掛けてごめんなさい。私、もう大丈夫だからね。


「うん。今日は凄く楽しかった。友達もね、出来たんだ」


「そうでしたか。それは良かったですね」


「小さい子もたくさんいてね、とっても可愛かったなぁ」


「アオイ様は幼子が好きなのですね」


「そうだね。結構好き。小さい子の何気ない行動が可愛くて――」


 歩きながら今日の事を話していると、突然、ラインヴァイスが足を止めた。私もつられて足を止める。ラインヴァイスってば、急にどうしたんだろう?


「ラインヴァイス?」


「アオイ様、幼子が……」


 困ったような表情でラインヴァイスが視線をやった先、私達から少し離れ、後ろを付いて来ていたのはアイリスだった。何でアイリスがこんな所に?


「アイリス!」


 私が慌てて駆け寄ると、アイリスが慌てて踵を返した。何で逃げんのよ!


「ちょっと! 待ちなさい、よっ!」


 全力で追い掛けるまでもなく、アイリスは簡単に捕まえられた。私の腕の中でじたばたと暴れているけど、大人と子どもじゃ、体格も力も差がありすぎる。そう簡単に逃げられないんだから!


「私、アイリスに謝らないといけないって思ってたの。ちょっ! 暴れるなって!」


「うるさい! 離してよ!」


「少し、私の話を聞きなさい。聞いてくれたら離すから!」


「はーなーせーっ!」


「あぁー! もうっ! 離すから、私の話、聞きなさいよっ!」


 私がアイリスから両手を離すと、アイリスは警戒するようにサッと距離を取った。さながら、人間を警戒する子猫だ。私は頭をバリバリと掻き毟り、溜め息を吐いた。アイリスの反応を見ていると、やっぱり謝るのやめようかな、なんて思ってしまう。でも、ここは私が大人になって和解しなければ!


「アイリス。この間はごめん。私、アンタに酷い事、言った。アンタが孤児院の子だって知らなかったの。ごめんなさい」


 私が頭を下げると、アイリスはフルフルと首を横に振った。その目には涙が溜まっている。


「か、母さんは、悪くないんだもん!」


「うん。酷い事言って、本当にごめんなさい……」


「が、があ、ざん……わるぐ、ないんだもん!」


 アイリスは火が付いたように泣き出した。ああ、泣かせてしまった……。アイリスのこの反応、予想していたとはいえ、こんなに泣いている子を泣き止ませるのは正直しんどい。どうしよう……。


「アイリスー!」


 遠くのほうからフランソワーズの声が聞こえ、彼女がこちらに駆けて来るのが目に入った。姿の見えないアイリスを探しに来たのだろう。フランソワーズの様子だと、アイリスってば、こっそり孤児院を抜け出して来たな。皆、心配しているだろうなぁ。


「お前、何やってんだっ!」


 フランソワーズは私たちのところまで来ると、アイリスの頭に拳骨を落とした。ああ、余計に泣いちゃってる……。いわゆる、ギャン泣きってヤツだ。今のは良い音がしたし、痛いよねぇ。


「アオイ、すまなかった。アイリスが迷惑を掛けた。ラインヴァイス様も、足止めさせてしまって申し訳ありませんでした」


「いえ。では、アオイ様。城へ」


「うん。じゃあ、フランソワーズ、アイリス、またね」


「ああ。またな」


 私は二人に手を振ると、ラインヴァイスと共に踵を返した。アイリス、私の事、許してくれるかな? あーあ……。ホント、感情的になりやすいこの性格、どうにかしないとなぁ。頭に血が上ると、後先考えられなくなるんだよね。短気は損気って、昔の人はよく言ったものだ。


「あ、こらっ! アイリス!」


 突如響いたフランソワーズの叫び声に驚いて振り返ると、アイリスがラインヴァイスのマントの端をしっかりと握っていた。ラインヴァイスが困ったように視線を彷徨わせている。


「あの……?」


「ん」


 アイリスはワンピースのポケットから何かを取り出してラインヴァイスに掲げた。それは変な形の葉がついた草だった。枯れかけている物や、萎れている物もある。何だろう、あの草。


「ん!」


 口をへの字に曲げ、握り締めた草をラインヴァイスに掲げるアイリスの身体は、小刻みに震えていた。やっぱり魔人族が怖いのね……。でも、怖いのに無理してまで、あの草をラインヴァイスに見せるって……。もしかして、ラインヴァイスにあれを渡したいの?


「ラインヴァイス。その草、貴方にくれるんじゃない?」


「ん……」


 アイリスがこくこくと頷く。ラインヴァイスがアイリスの目の前に膝をつくと、アイリスの身体がビクリと震えた。それでも逃げ出す事無く、大きな瞳でまっすぐとラインヴァイスを見つめている。


「ん!」


「本当に、私が頂いても宜しいのですか?」


「んっ!」


 アイリスが口をへの字に曲げたまま頷く。ラインヴァイスがアイリスに両手を差し出すと、アイリスはその手に草をそっと乗せた。そして、脱兎の如く、孤児院目指して一目散に走り出す。フランソワーズがその後を慌てて追い掛けながら、こちらに向かって手を振った。私も手を振り返し、未だに膝をついたままのラインヴァイスへ視線をやった。


「ラインヴァイス。その草、何?」


「春が近づくと、この近くの岩場に芽吹く、薬草です……。傷薬になる……。いくら暖かくなってきたとはいえ……こんなに……。大変、だったろうに……」


「この間のお礼、なのかな? 左目の怪我にって事よね?」


「ええ……」


 なかなか立ち上がらないラインヴァイスをよく見ると、その身体が小さく震えていた。もしかして、泣いて……。いやいやいや。こういう時は見なかった事にする。それが大人の対応だ。よし! 私は何も見てないよ。見てないから、ゆっくりお泣き、少年。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ