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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第二章

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城外 3

 ラインヴァイスと共に城壁の穴の前まで戻ると、不機嫌そうに顔を歪ませたシュヴァルツが虚空から姿を現した。そして、血だらけのラインヴァイスを見た瞬間、驚いたように少しだけ目を見開いたのが分かった。


「シュヴァルツ……!」


 何でだろう。シュヴァルツの顔を見た瞬間、涙が溢れ出してきた。申し訳ないとか悲しいとか悔しいとか安心したとか、色々な感情が混じり合って涙が止まらない。


「ラインヴァイス、何があった」


 シュヴァルツは、泣きじゃくる私を落ち着かせるように頭を撫でながら、怪訝そうに眉を顰めた。ラインヴァイスが申し訳なさそうな表情で頭を下げると、白い雪の上に、彼の指の間から流れ落ちる血が赤い模様を作った。


「申し訳、ありません……」


「何があったと聞いている」


「雪狼に襲われた、人族を、助け……ました……」


 ラインヴァイスはシュヴァルツにそう告げると、力尽きたようにその場に崩れ落ちた。白い雪にじわじわと真っ赤な血が広がっていく。


「ライン、ヴァイス……?」


 私の呼びかけに返事が無い。ピクリとも動かない。何で返事が無いの? 何で動かないの? さっきまで普通に歩いていたのに。何で?


「ラインヴァイス!」


 私は倒れたラインヴァイスの傍らに跪くと、彼の肩を強く揺すった。しかし、ラインヴァイスの目は固く閉ざされ、開く気配は無い。もともと色白のラインヴァイスの顔色が、どんどん白くなっていっている気がする……。身体も冷たい。


「シュヴァルツ! ラインヴァイスが!」


「フォーゲルシメーレ」


 シュヴァルツがポツリと呟くと、虚空からフォーゲルシメーレが姿を現した。片膝を付いてシュヴァルツに頭を下げようとしたフォーゲルシメーレの動きが止まる。そして、「失礼」とシュヴァルツに会釈をすると、雪の上に横たわるラインヴァイスに駆け寄った。


「ラインヴァイス! ラインヴァイス!」


「アオイ様、離れて下さい。竜王様、ラインヴァイス殿を私の部屋まで転移させます。許可を」


 フォーゲルシメーレが険しい表情で、私をラインヴァイスから引き離す。すると、シュヴァルツが私を押さえるように両肩を掴んだ。そして、ラインヴァイスの傍らに屈み込んだフォーゲルシメーレにシュヴァルツが小さく頷いた瞬間、ラインヴァイスとフォーゲルシメーレの姿が掻き消えた。ラインヴァイスから流れ出た血が、私の目の前の白い雪の上に広がっている。私は力なくその場に膝を付くと、呆然とその血を見つめていた。




 シュヴァルツに連れられて部屋に戻った私は、出窓の淵に腰掛け、独り窓の外を眺めて過ごした。外は猛烈な吹雪になっている。まるで今の私の感情を表しているような、大荒れの天気だ。


 暫く出窓の淵で過ごしていると、唐突にシュヴァルツが姿を現した。私は出窓の淵に腰掛けたまま、外の景色から彼の顔へ緩々と視線を動かした。泣いていたせいか目が腫れぼったい。きっと、酷い顔、してんだろうな……。


「暫くの間、アオイの身の回りの世話はノイモーントがする」


「うん……」


 私は小さく返事をし、俯いた。ラインヴァイスの怪我、酷いんだろうな。あんなに血が出ていたんだもん。暫くの間って、いつまでだろう……。もしかして、このまま……。最悪の想像が過り、目から再び涙が溢れてきた。そんな私の頭を、シュヴァルツが優しく撫でてくれる。


 もし、私が城の外に出たいなんて言わなかったら、こんな事にはならなかったのかな。もし、私に戦う術があったら、ラインヴァイスが怪我をする事は無かったのかな。もし、私が怪我を治す魔法が使えたら、今頃ラインヴァイスは可愛らしい笑みを浮かべてこの部屋にいたのかな。もし――。


「アオイ、あまり自分を責めるな」


 そう言ったシュヴァルツの声色は普段よりずっと優しい。頭を撫でてくれる手つきも凄く優しい。こんな私の事を気遣ってくれているんだ。こんな、軽率でバカな私を……。


「シュヴァルツ……」


「何だ」


「ありがと……」


「ああ」


 シュヴァルツは短く返事をすると、自身も出窓の淵に腰掛けた。そして、私の頬に手を添え、躊躇いがちにゆっくりと顔を近づける。唇が触れるか触れないかのキスの後、シュヴァルツは私が泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた。


 その日の夕食はシュヴァルツと一緒に食べた。ラインヴァイスがいない夕食は少し寂しかった。シュヴァルツはきっと、私が寂しがる事も分かっていたのだろう。だから、忙しいだろうにこの部屋で一緒に夕食を食べてくれたんだ。偉そうで不愛想で口も悪いシュヴァルツだけど、それはただ単に不器用なだけ。本当は凄く優しい人なんだ。シュヴアルツの優しさのお蔭で、ほんの少しだけ寂しさを紛らわす事が出来た。ありがとう、シュヴァルツ。

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