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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第一章

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絵 2

 翌朝、朝食後のお茶を飲みながらシュヴァルツの顔色をそっと窺った。不機嫌そうにはしていない。良かった。昨日のあれ、いったい何だったんだろう?


「ねえ」


「何だ」


 シュヴァルツは腕を組んで、問い掛けた私を睨んだ。いや、本当は睨んでいない。これは十中八九、訝しげな表情だ。目つきが悪いから、睨まれているようにしか思えないけど。


「本当に今日、絵、描くの?」


「嫌か」


 嫌かって? そんな事は無いよ。どちらかと言えば描きたい。モデルとしては申し分ない美形だもん。でも、忙しいんじゃないのかな? シュヴァルツが普段どんな事をしているか知らないけど、この国の王様でしょ。


「嫌じゃないけど……。だって、忙しいでしょ?」


「大丈夫だ。時間はある」


 シュヴァルツはそう言うと、フンと鼻を鳴らした。時間はあるって……。もしかして、わざわざ時間を作ったの? 私に絵を描かせる為に? でも、折角肖像画を描いてもらうなら、プロの画家さんに描いてもらった方が良い気がする。だって、私は今、デッサンをする為の道具しか無いんだもん。折角時間作ったのに、出来上がった絵が木炭デッサンって、ちょっと悲しくない?


「でも、プロの画家さんに描いてもらった方が……」


「何故」


「だって、木炭デッサンしか出来ないよ? 道具、それしか無いもん」


「良い」


 良いのかよ! 紙に描いたデッサンじゃ、城の中にも飾れないんだよ? そんな絵、どうするつもり? まあ、シュヴァルツが良いんなら、私がとやかく言う事じゃないんだけどさ……。


「じゃあ、場所はどこが良い?」


「薔薇園」


 シュヴァルツはそう言って立ち上がると、私に今日のドレスを手渡した。今日はド派手なパッションピンクのドレスか……。今度ノイモーントに会ったら、もう少し落ち着いた色味にしてってお願いしよう。




 私は、薔薇園のガゼボでシュヴァルツの絵を描き始めた。ジッとこちらを睨んで――いや、見つめているシュヴァルツの視線が痛い。変に緊張する。私は本日何度目かの休憩を入れる事にした。


「ちょっと休憩!」


 私がそう叫んで伸びをすると、ラインヴァイスがお茶を淹れてくれる。ほかほかと湯気の上がるお茶を飲みながら、私は溜め息を吐いた。


「お疲れのご様子ですね」


 ラインヴァイスはそう言い、バタークッキーの乗った小皿を私の目の前に置いてくれた。今日の目的はお茶じゃないんだけど、さっきからお茶とバタークッキーばかり口にしている。絵を描いている時間より、お茶をしている時間の方が長い。なかなか捗らないなぁ。私は描きかけのシュヴァルツの絵に視線を落とした。腕を組んで、傲慢な視線を向けるシュヴァルツの絵。シュヴァルツのイメージ通りの肖像画だけど、私が描きたい絵と何かが違う。描いていて楽しくないんだ。もっと、こう、自然な絵を描きたいの。シュヴァルツの自然な表情。でも、お互いに構えちゃっているからか、なかなか自然な表情が描けない。参ったなぁ……。


「うーん」


 私は唸りながらシュヴァルツと絵を交互に見比べた。肖像画としてはまあまあの出来だ。でも、やっぱり何か違う。私は描きかけの絵を横へ置き、新しい紙を板の上にセットした。描き直し!


「また描き直しですか? 珍しいですね」


 そう言って、ラインヴァイスが困惑した表情をした。もう五枚目だもんね。私は普段、あまり描き直しはしない。ラインヴァイスも、自身がモデルの時に私が描き直しているのを見た事が無いからか、少し戸惑っているみたい。でも、このまま描いていても良い絵は描けそうにない。紙の無駄遣いは目を瞑って下さい。


「何だか納得出来ないというか、何というか……」


 突如、シュヴァルツから不機嫌なオーラが漂ってきた。何で怒ってるの? 私、何もしてないよね?


「シュヴァルツ、何で不機嫌なの?」


 私が小首を傾げながらシュヴァルツに問い掛けると、シュヴァルツは面白くなさそうにそっぽを向いた。私の隣で、ラインヴァイスがクスクスと笑っている。


「あ。疲れたんならそう言ってよ?」


「疲れてなどいない」


 シュヴァルツは尚もそっぽを向いたままだ。何なんだ、いったい……?


「じゃあ、なんで不機嫌なの? 疲れたんじゃないの?」


「違う。ただ――」


「ただ?」


「アオイが味気ない顔をしていたからだ」


 味気ない顔? うーんと、絵を描いている間、私がつまらなそうな顔をしていたって事? そうは言われてもなぁ。乗っている時ならまだしも、今は乗っていないんだもん。創作の神が降りて来ないんだから仕方ない。誰だって、思った通りに出来ない時、つまらない顔になるでしょ?


「だって、上手く描けないんだもん」


「十分描けている」


 シュヴァルツはそう言うけど、私には納得出来ない絵なんだ。私は横に置いてあった、ボツの絵の束を手に取って眺めた。やっぱり、何か違うんだよなぁ……。


「アオイ様。普段、何を思ってヴォルフや私を描いているのです?」


 ラインヴァイスは私に可愛らしい笑みを向けていた。何を思ってかぁ。あんまり考えた事が無かったな。


「うーん……。二人は絵になる動作が見つけやすいから好んで描いているのかも……。ヴォルフの場合、上半身裸だから筋肉の筋とか見えるじゃない? 描いていて楽しいのもあるし……」


 ラインヴァイスは可愛らしい。でも、動きが優雅なんだ。可愛いのに優雅。不思議な魅力を持っている。ヴォルフにしても、動きの一つ一つが力強い。動作のどこを切り取っても絵になる魅力がある。そして、あの鍛え上げられた身体。筋肉って、何であんなに描くのが楽しんだろうね。


「ふむ……」


 私の答えを聞いたシュヴァルツは、顎に手を当て、何かを考えていた。と思ったら、徐にマントを外した。そして、上着のボタンに手を掛ける。もしかして、ヴォルフみたいに上半身裸にでもなるつもり? 待て待て待て! ちょっと待てぇぇぇ!


「ちょ、ちょっと、シュヴァルツ!」


「竜王様!」


――キャー! シュヴァルツ兄様!


 私とラインヴァイス、リーラの狼狽えぶりといったらなかった。リーラはキャーキャー悲鳴を上げているだけだけど、そりゃもううるさいったらないし。私とラインヴァイスは、二人して慌ててシュヴァルツに飛びつくし……。


 間一髪、何とか上半身裸のシュヴァルツを見ずには済んだ。でも、まさか、ヴォルフに対抗しようとするとは……。恐るべし、シュヴァルツ! とりあえず落ち着こうと、ラインヴァイスに二人分のお茶を淹れ直してもらい、一息ついた。


「はぁ。今ので、何だか疲れたよ……」


「ですね……」


――ホント……。


『はあぁ……』


 私とラインヴァイス、リーラの溜め息が見事にハモった。シュヴァルツの行動は予想外だった。でも、好意的に取れば、良い絵を描く為にシュヴァルツも考えてくれているって事なのかな? 斜め上をいく考えだったけど。


「ねえ、シュヴァルツ?」


「何だ」


「今日、何でこの場所を選んだの?」


 私は雰囲気を和ませようと、不機嫌そうな顔でお茶を飲むシュヴァルツに話を振った。シュヴァルツは手に持っていたティーカップを置くと、腕と足を組んでフンと鼻を鳴らす。


「ここならば、アオイが寛いで絵を描けると思った」


「そっか……」


 シュヴァルツはいつでも私の事を第一に考えてくれているんだね。何だか、胸がほっこりした。


「シュヴァルツ、ありがとう」


 私がにっこりと笑ってお礼を言うと、シュヴァルツは鼻で笑い、薔薇に視線を移した。おや? この横顔……。


「シュヴァルツ、ストップ! そのまま動かないで!」


「あ、ああ……」


 シュヴァルツの眉間に皺が寄る。動かないでって言ったのに、何で動いちゃうの!


「動かないでってば! さっきの顔、してて!」


「こ、こうか……」


 シュヴァルツは困惑した声を上げ、表情を更に険しくした。違う、それじゃない!


「さっきの表情だってば!」


「こうか」


「ちがーう! もっと目元がこう、柔らかいの!」


「こ、こうか」


「ちーがーうー! 全然、違う!」


 暫くの間、シュヴァルツの表情にダメ出しをし、何とか納得いく表情になったところで木炭を手に取る。スラスラと絵が描ける。楽しい!


 絵が描けない理由、それが絵を描きながら少しだけ分かった。たぶん、私は何度かシュヴァルツの自然な表情を見た事があったからだ。勿論、傲慢そうな視線を向けてくる時、シュヴァルツは決して顔を作っている訳では無い。あれは王様の時のシュヴァルツの顔。でも、今回私が描きたいと思ったのは、王様としてではなく、一人の人としてのシュヴァルツの顔だったんだ。無意識のうちに記憶していた、シュヴァルツの人としての顔。それが私の描きたい表情だった。だから、王様の顔をしているシュヴァルツを描いていてもしっくりと来なかったんだね。


 何か、絵を描いている時間より、シュヴァルツの表情にダメ出しをしていた時間の方が長かった気がする。まあ、描きたい表情が分かった事だし、気にしない、気にしない。


「出来た!」


 私が叫んで絵を掲げると、シュヴァルツとラインヴァイスが興味津々に絵を見つめていた。横顔だけど、ボツにした絵より断然出来が良い! 木炭デッサンだけど、自信作だよ!


「おや、まあ」


 ラインヴァイスは私の絵を見て少し驚いたようだった。そして、嬉しそうにニコニコと笑う。シュヴァルツより嬉しそうにしている。シュヴァルツはというと、ティーカップを手に、寛いでいた。おや? この表情……。


「シュヴァルツ! ストーップ!」


「あ、ああ……」


 シュヴァルツはティーカップを手に持ったまま、戸惑った声を上げつつもピタリと動きを止めてくれた。今回は表情も変えていない。私は慌てて新しい紙を用意し、木炭を滑らせた。捗る、捗る。描きたい表情が分かったからか、絵が捗る!


「出来たぁ!」


 私はそう叫び、次の紙を用意した。日が暮れるまで、私はシュヴァルツの絵を描きまくった。シュヴァルツが若干げっそりしていたのなんて気にしない。だって、自分で描けって言ったんだから。


 出来上がった絵のうち一枚をシュヴァルツにあげた。初めに描けた横顔の絵。あれをあげた。自分では、一番満足のいく出来だったから。まあ、お城の中に飾るわけにもいかない木炭デッサンだけどね。――と思ったら、数日後、お城の中であのデッサンが飾られているのを見掛けてしまった。大層立派な額に入れられたデッサンを見た瞬間、私は膝から崩れ落ち、四つん這いで項垂れる事になった。

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