調達 1
今日はお昼までの間、折角なので城の中を見て回る事にした。昨日、シュヴァルツとラインヴァイスと一緒に城の中を歩き回った時、多くの美術品を目にした。それをゆっくり見たいし、昨日見ていない美術品がこの広い城の中にはまだあるはずだもん。
「アオイ様。いくら竜王様の許可が出たとはいえ……」
「だって、やる事が無いんだもん。勿論、やりたい事はあるよ? 元の世界に戻る方法を探したい。でも、その為に図書館にある本を見せてくれって言っても、シュヴァルツは良い顔はしないでしょ? だから、私も暫くはそういう事、言うつもりは無い。でも、そうすると本格的にやる事が無いんだもん。お城の中の美術品見て回るくらいさせてよ」
私がそう言うと、ラインヴァイスは困った顔をした。シュヴァルツに許可をもらったとはいえ、私が独りで城の中をフラフラするのはあまり賛成出来ないらしい。心配、してくれているんだよね?
「……分かりました。では、旧区画へは絶対に立ち入らないで下さい」
「旧区画?」
「ええ。ここから一番近いのは、大ホール右手側の区画です」
「大ホールって、赤絨毯の階段があるホール? シュヴァルツとラインヴァイスとリーラの絵が飾ってある」
「そうです。大ホールの他にも、旧区画への入り口はありますが……。旧区画の廊下は皆狭く、石造り剥き出しなのですぐに分かるかと思います。狭い廊下には絶対に立ち入らない事。これを守って下さい」
ラインヴァイスは真剣そのものといった表情をしていた。旧区画って、あそこだよね。城っていうより砦みたいな造りの廊下のところ。これぞ大魔王城って感じの不気味な雰囲気だったし、迷い込んだらすぐに分かるよね、きっと。
「分かった。でも、何で立ち入り禁止なの?」
「こちら側の区画と比べ、旧区画は居住している人数が多いので……。角を曲がってばったりと魔人族と出くわす可能性が非常に高いのです」
ラインヴァイスはそう言って苦笑した。やっぱりここは、城でもあり町でもあるんだな。んで、旧区画は下町みたいな感じか。人口密度が高いんだね、きっと。
「でも、お城の中を走り回った時は、ばったりと誰かと出くわす事、無かったよ?」
「ええ。あの時は、アオイ様が旧区画へ立ち入ってしまった時の為、私が全ての扉を塞ぎましたから。朝が早かったのも功を奏し、旧区画で出歩いていたのは、アオイ様の捜索をしていた上級騎士団員くらいです」
「え? でも、扉を塞ぐって、どうやって……?」
「空間操作で扉を室内にループさせるだけです」
ラインヴァイスは涼しい顔でとんでもない事を言った。空間操作でループ? 全ての扉を? そもそも、空間操作自体、RPGとかラノベとかだと高度魔術の設定の事が多いけど、それを幾つ同時行使したの? 物凄い高度な魔術、使ったんじゃないの?
「えっと……それ、凄い高度な事、だよね……?」
「他の者に同じことをやれと言っても出来ないでしょうね。流石に、あの広範囲に魔術行使している間は動けなくて、捜索には加われませんでしたが……。魔力消費も激しかったので、アオイ様の発見がもう少し遅れていたら倒れていたかもしれません」
あははと照れたように笑うラインヴァイスを、私はまじまじと見た。ラインヴァイスは笑顔が可愛い少年だけど、もしかして凄い魔術師なんじゃ……? 人は見かけによらずってヤツ?
「ラインヴァイスって、凄い魔術師だったんだ……」
「こう見えても結界術師ですからね。これくらいの事は出来ませんと」
そう言うと、ラインヴァイスはにっこりと可愛らしい笑みを浮かべた。
「結界術師……」
「ええ。魔術師の中でも、時空魔術――特に結界術に秀でる者の呼称です。本来でしたら、竜王様の右腕として攻撃魔術の行使が出来たら良いのですが、如何せん相性が良くないもので……。騎士としては失格ですね」
自嘲気味に笑うラインヴァイス。何でそんな顔をするの? 凄い魔術師なのに。
「騎士失格って、何で?」
「攻撃手段が限られてしまうので。剣と、ドラゴン型になる事と、ブレスとに……。剣だけでは多くの敵を討ち取る事が出来ません。かといって、ドラゴン型では場合によっては味方を巻き込む事もありますし……。味方が近くにいるような場所でブレスも使えません」
ラインヴァイスはそう言って悲しそうに目を伏せた。普段は私の世話係みたいな事をしてくれているからすっかりと忘れていたけど、ラインヴァイスは騎士だったね、そういえば。それに王様であるシュヴァルツの弟だから、この国での地位は高いはず。もしかしたら、騎士団長とか近衛団長クラスなのかもしれない。戦場での攻撃手段が限られるって、団長クラスの騎士には致命的、か……。味方の士気にも影響するだろうし……。
ラインヴァイスの言い方から察するに、広範囲攻撃はブレスのみかぁ。ドラゴンブレスの、地形を変えるくらいのバカみたいな攻撃力はRPGとかラノベとかのお約束。この世界にもそのお約束は通じるみたいだねぇ。本気を出したら強いけど、本気は出す訳にもいかないのか。かなり悔しいだろうな……。でも、適材適所なんだよ、世の中は。
「ラインヴァイスはさぁ、その姿の時は腕の良い結界術師なんでしょ? だったら、シュヴァルツの剣を目指すんじゃなくて、最強の盾を目指したら?」
「最強の盾、ですか……?」
「そ。誰が攻めてきても、それこそ勇者一行が攻めてきても、シュヴァルツとこの国を守りきれる盾。確かに、戦いでは切れ味の良い名剣も必要だけど、どんな攻撃をもはじき返す盾も重要でしょ? 私が言うのもなんだけど、勇者が召喚されたんだし、シュヴァルツには絶対に必要だと思うんだ、最強の盾がさ」
私がニッと笑うと、ラインヴァイスは驚いたように目を見開いた後、言葉を噛みしめるように目を閉じた。
「最強の盾……。そう、ですよね」
そう呟き、静かに頷いたラインヴァイスの顔は、口元が綻んでいて少し嬉しそうに見えた。




