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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
最終章

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再会 5

 目を覚ますと、真っ先に目に入ったのは真紅の天蓋だった。私、ソファにいたはずなのに……。もしかして、意識を失った私を、シュヴァルツがベッドまで運んでくれたのだろうか?


 窓の外は既に真っ暗になっていた。夢での体感時間と、実際に経っている時間は大きく乖離しているらしい。ほんの少し、リーラと話をしただけだと思っていたのに、何時間も経っていたなんて……。


 私はベッドから上体を起こすと、左手の甲を目の前に掲げた。そこにはきっちり、リーラの紋章が刻まれている。良かった。リーラが消えてなくて。また私の元に戻って来てくれて。私は左手を抱きしめるように握った。


 暫くすると、ベッドのすぐ脇に人の気配が生まれ、私は顔を上げた。そこには私を見下ろすシュヴァルツ。彼の手が私の目元に伸び、いつの間にか流れていた涙を拭った。思わず、私はそんなシュヴァルツに飛びつく。


「シュヴァルツ! リーラが! リーラが戻って来たの!」


「そうか」


「記憶も!」


「取り戻したのか」


「うん! はっきり思い出せるの! この世界に来てからの事!」


 シュヴァルツはベッドに腰を下ろし、きつく私を抱きしめた。私もシュヴァルツを強く抱きしめ返す。


「心配掛けてごめんね、シュヴァルツ」


「いや」


 そう答えたシュヴァルツの腕の力が緩む。不思議に思って顔を上げると、目を細めて私を見つめるシュヴァルツの顔が間近にあった。ちょ、ちょっと待った! 近い! 近いって! 思わずのけぞる私の後頭部を、シュヴァルツが片手で押さえる。に、逃げられないっ!


「まっ――!」


 叫ぶより一瞬早く、シュヴァルツに口を塞がれてしまった。彼の胸を両手で突っ張って押すも、びくともしない。抗議の意味を込めてぽかぽかと彼の胸を叩くと、やっと唇が離れた。


「何だ」


「何だ、じゃないよ! こういう事、お披露目が終わるまでしないって約束したのに!」


「それは夜の営みであろう。口付けは含まれていない」


「えぇ! ずっとしなかったくせに、今さらそんな――」


「殴られるのはごめんだからな」


 シュヴァルツはそう言うと、押し殺すように低く笑った。なんか納得いかないんですけど! 私の口をへの字に曲げ、頬を膨らませた。そんな私の髪を、シュヴァルツがもてあそぶよう、指に絡める。


「むくれるな。夜の営みに関しては、約束を違えるつもりは無い」


「……それ、ホント?」


「ああ」


 頷くシュヴァルツの顔をジーっと見つめる。シュヴァルツはそんな私を真っ直ぐ見つめ返していた。……うん。嘘は吐いてなさそう。でも、念には念を入れておこう!


「約束破ったら、一生口きかないんだからね」


「それは困る」


 そっか。シュヴァルツってば、私が口きかないと困るのか。ふふふ。困るのかぁ。ちょっと可愛いな……。今度、口をきかない日でも作ってみようかな? シュヴァルツ、どんな反応するかなぁ?


「かような事になれば、アオイの口を無理矢理にでも開かせなくてはならなくなるからな」


 ……ん? 無理矢理、開かせる? あれ? シュヴァルツ、何、そんなに嬉しそうに笑って……。何か、悪寒が……。


「ええっと……。今後の参考までに。どうやって開かせるおつもりで……?」


「聞きたいか。何なら、皆への披露パーティーの夜にでも実践するか」


「……いえ。結構です」


 前言撤回。全然可愛くない。むしろ、無茶苦茶怖いわっ! 私の記憶が無い間、穏やかに過ごしていたからすっかり忘れてたよ! 彼が、目的の為なら手段を選ばない、超強引なタイプだって事!


「冗談はさておき、夕食にするぞ」


 シュヴァルツはそう言うと、ベッドから立ち上がった。そして、ラインヴァイスを呼ぶと、食事の準備を命じる。私が目覚めるだろう時間を見計らっていたのだろうか? あっという間に準備は整い、私とシュヴァルツは向かい合って食事を始めた。


「ねえ、シュヴァルツ」


 食事の手を止め、私はシュヴァルツに話し掛けた。本当は、お茶でも飲みながら落ち着いて話す方が良いのかもしれない。それは分かっている。でも、私の目標、なるべく早く彼に聞いてもらいたかったんだ。それに、意見も聞いておきたいし。


「私、やりたい事があるの」


「何だ」


 答えたシュヴァルツも食事の手を止める。そして、腕を組み、椅子に踏ん反り返った。


「あのね、私、この国だけでも変えたいの。魔人族と人族が手を取り合えるように」


「ほう」


 シュヴァルツはスッと目を細め、興味深そうに私を見つめた。シュヴァルツだけじゃない。ラインヴァイスやアイリスも興味津々に私を見つめている。


「魔人族って、人族に誤解されているでしょ? 怖い人達だとか、悪い人達だとか」


「仕方が無い。人族にとって、我々は異形の者らしいからな」


「仕方なくない。何でもっと魔人族の事を知ってもらおうと思わないの? 何でチャレンジしようとしないの? 何で仕方ないって諦めちゃうの?」


「我々は、人族に恐怖しか与えられない」


「そんな事無いよ。少なくとも孤児院の子達は、竜王城の人達の事は信頼してるんだよ。確かに、魔人族自体は怖がっているけど、竜王城の人達には親しみを感じているんだよ。その証拠に、ノイモーントだってフォーゲルシメーレだってヴォルフだって、孤児院の子達には受け入れてもらえてるじゃない! 訪ねて行ったら、歓迎してもらえてるじゃない!」


「しかし、そういった者達は、人族の一握りにも満たない」


 確かに、一握りにも満たないよ。一つまみですらないと思うよ。でも、少なくともあの子達は、竜王城の人達は自分たちを助けてくれている存在だと、ちゃ~んと理解してくれている。人族と魔人族が手を取り合う事が不可能じゃないって事を示しているのに! 可能性があるのに! 何でそこんところ、分かんないかなぁ!


「たった一握り。されど一握りなの! 誤解していない人を増やす努力をするの!」


「して、方法は」


「う……」


 方法なんて考えてなかった……。私は言葉に詰まり、視線を彷徨わせた。具体案、具体案……。う~ん。何か無いかな?


 今、この国では人族と魔人族との生活圏が明確に分けられているから交流が出来ないでいる。権力を使って、それを取り払う事は決して不可能ではない。しかし、人族からの反発が起こる可能性が非常に高い。人族と魔人族の生活圏が明確に分かれているからこそ、この国の人族は安心して暮らしていられるんだ。それを急に取り払ったら――。うん、恐慌状態になるのは目に見えている。


 しかし、誤解の原因は交流が無い事。これをどうにかしない事には、現状を打破する事なんて出来ない。うむむむむ……。あ! そうだ!


「緩衝地帯!」


「緩衝地帯、とな」


「そうだよ! ほんの少しで良いの。敢えて魔人族と人族の生活圏が被るところを作るの。小さな、小さな村で良いの。何なら、食事処一つでも良い。そういう場所を作るの」


 人族と交流したい魔人族や、魔人族と交流しても良いと思う人族が集える場所を作る。これ、結構良い案だと思う。そういう緩衝地帯が少しずつ拡大すれば、そのうち、人族と魔人族が手を取り合える気がする。……私の考え、甘いだろうか?


「良い考えだと思いますよ」


 そう言ったのはラインヴァイスだった。彼は優しげな笑みを浮かべ、私を見つめている。よっしゃ! 味方が一人増えた!


「ほら! ラインヴァイスもそう言ってるし! 出来ない事じゃ無いと思うの!」


「竜王様。がっこうの件、私はその緩衝地帯に創りたく存じます」


 ラインヴァイスの発言に、シュヴァルツが彼に視線を移した。睨むような威圧的な視線だが、これは真剣な眼差しを向けているだけだろう。ラインヴァイスの発言、興味があるらしい。


「読み書きが出来ない幼子の多くが、アイリスのような人族の子らです。そういった幼子に学を与える。これは国の上に立つ者の務めかと」


「学を得たいという人族を集める気か」


「はい。人族、魔人族、双方平等に機会を与えるべきではないかと、常々考えておりました」


「がっこうの件はお前に任せてある。好きにしろ」


 シュヴァルツはそう言うと、食事を再開した。好きにしろって事は、良いよって事なのかな……? ラインヴァイスの顔色を窺う。すると、彼はにっこりと微笑みながら頷いた。やっぱり、良いよって事らしい。やった! これで魔人族と人族との交流の場が作れる!


 緩衝地帯の設置も、学校創設も、まだまだ時間は掛かるだろう。だって、どこに作るか、どれくらいの規模にするか、何も決めていないんだから。でも、一歩踏み出した感じ!


 これは、魔人族と人族との関係を変える、小さな、本当にごく僅かな一歩かもしれない。でも、少しずつでも前に進めば、いつかはゴールにたどり着く。時には山を登らなくてはならないかもしれない。谷に落っこちるかもしれない。だけど、諦めずに前を向いて一歩ずつ歩いて行けば、叶わない夢は無い! よし! 私、頑張る! 絶対に、魔人族と人族との関係、変えてみせるんだらから!

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