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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
最終章

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再会 4

 暫くすると、ラインヴァイスが部屋に戻って来た。お父さんとお母さんの滞在用の部屋が用意出来たのだろう。これで気まずい雰囲気から解放されるらしい。良かったのか、何なのか……。結局、お父さんは終始むくれ面なままだった。お母さんが色々取り成してくれたのだが、不機嫌そうに短く返事をするだけで、まともに私とシュヴァルツとは話をしてくれなかった。


「じゃあ、またね。お父さん、お母さん」


 立ち上がったお父さんとお母さんにそう声を掛けるも、お父さんはこちらを振り向かず、無言で扉へと向かった。そんなお父さんを追い掛けようと一歩踏み出したお母さんの動きが止まる。そして、何かを思い出したように私に向き直った。


「そうだった! 忘れるところだった!」


「何? どうしたの?」


「葵ちゃんに届けものがあったのよぉ!」


 はて? 届けもの? 全く心当たりが無い。まさか、お祝いの品じゃないだろうし……。首を傾げる私を余所に、お母さんは嵌めたままになっていたグローブを外した。その手の甲には、何か痣みたいなものがある。それは薄紫色をしていて、翼の生えたトカゲみたいな形をしていた。


「葵ちゃん、この子、中央神殿に置いてったでしょ?」


「この、子……?」


 何の事が分からず、呆然とお母さんの手の甲の痣を見ていると、それが淡い光を発した。そして、次の瞬間、光の玉へと変化する。


「きっちり届けたからね。またね、葵ちゃん」


 お母さんはそう言い残すと、部屋を後にした。お母さんが残した薄紫色の小さな光の玉が、フヨフヨとこちらへ近付いて来る。そして、それが膝の上の私の手に触れた瞬間、ぐらりと視界が揺らいだ。転移の時に似ている感覚。でも、きっとこれは転移じゃない。だって、あの薄紫色の光の玉は――!




 目を開けると、私は薔薇園に立っていた。私はずっとここに来るのを避けていた。ここに来ると胸が苦しくなるから。泣きたくなるから。だって、ここは彼女が作り上げた場所だから。嫌が応にも彼女の事を考えてしまうから。


 私は卑怯者だ。彼女は私のせいで消えてしまったかもしれないのに、その事を考えないようにしていた。それを考えると悲しくて、寂しくて、心が壊れてしまいそうだったから。中央神殿に行かないとシュヴァルツに言ったのだって、この世界に戦を起こさせない為だけじゃない。怖かったから。彼女が消えてしまっている事を確かめるのが……。


 涙で歪む私の視界の端に人影が映った。黒くて長い髪。華奢で小柄な体型。絵で見たままの姿。


「アオイ」


 ああ、そうだ。彼女はこんな声をしていた。いつも私に直接語り掛けてくれていた声だ。ほんの少しの間離れていただけなのに、物凄く懐かしい気がする。


 彼女はいつも、この世界で足りない知識を私に教えてくれていた。そして、私が落ち込むと、必ず私を励ましてくれていた。ちょっとお茶目なところもあって、私をからかって遊んでいる事もあった。ああ、はっきり思い出せる。


「リーラ!」


 私は彼女の名を呼び、駆け出した。しかし、気持ちばかりが急いてしまったせいか、足がもつれて盛大につんのめる。そんな私に、リーラが駆け寄った。


「アオイ」


 顔を上げると、私のすぐ目の前に膝を付き、心配そうに私を見つめるリーラと目が合った。シュヴァルツに似た綺麗な黒髪、ラインヴァイスとそっくりの金色の瞳。


 リーラは消えてなかった……。こうして、私の元に戻って来てくれた。消えてなんて、いなかったのに……!


「リーラぁ!」


 私はボロボロと涙を流しながらリーラにしがみついた。泣きじゃくる私の頭を、リーラが優しく、優しく撫でてくれる。


「ごめんね、リーラ! ごめんなさい!」


「良いんだよ。また、こうして会えたんだもん」


「でも……でも……!」


「笑ってよ、アオイ。久しぶりに合えたんだよ? 私、アオイの泣き顔なんて見たくないよ」


 私は顔を上げ、ぎこちないながらも笑みを作った。リーラもそれに答えるように微笑みを浮かべる。そして、ギュッと私を抱きしめてくれた。


「会いたかったよ、アオイ……!」


「リーラ……」


 私を抱きしめるリーラから嗚咽が漏れる。それを耳にしたら堪えきれなくなり、私は声を上げて泣いた。すると、リーラも私に負けないくらい大泣きしだし、私達は暫くの間、抱き合ったままおいおいと声を出して泣いていた。


 気が済むまで泣いた私達は、ガゼボへと移動した。リーラとゆっくり話がしたかったから。離れ離れになっている間、何があったのかを聞きたかったから。


「私が消えずに済んだのはね、サクラのお蔭なの」


「お母さんの?」


「そう。アオイから無理矢理引き剥がされた後、私、辛うじて意識がある状態だったの。何も見えない真っ暗な空間を漂っている感じだった。それって、死ぬ間際の感覚に似ててね、私、また死んじゃうんだなって、もうアオイとは会えないんだなって、そう思ったの。そしたら、アオイによく似た気配を感じてね――」


「それがお母さんだったの?」


「そう。最初はね、アオイが私を見つけてくれたと思ったの。だから、私、アオイの名前、必死に呼んだんだよ。そうしたらね、サクラってば、あら残念。アオイちゃんじゃなくてアオイちゃんのお母さんでしたぁ、って」


 リーラはそう言うと、ふふふと声を出して笑った。まあ、うちのお母さんならそう言うだろうな。リーラがその精神的ダメージが原因で消滅しなくて良かったよ、ホント……。


「私、サクラとまともに話が出来る状態じゃなかったのに、サクラは殆ど何も聞かずに、すぐに私と契約してくれたの。私がアオイの友達でね、私が消えたらアオイが悲しむんじゃないかなっていうのはすぐに分かったからって」


「そっか……」


「サクラと私、相性がとっても良かったみたいなの。私、すぐにサクラと話が出来るくらいまで回復したんだよ。そうしたらね、サクラ、メーア大陸をいくら探してもアオイが見つからなかったって、噂の一つも無かったんだって言って……。アオイがこの世界でどう過ごしていたのか、アオイが悲しい思いをしていないか、辛い思いをしていないか教えて欲しいって……泣いたの……。アオイの事を考えるだけで、胸が張り裂けそうだって……」


 そっか。お母さんはこの世界に来てからずっと、私の事を探してくれていたんだ。行方不明の私を心配して泣いていたんだ……。


 噂話の一つでもあれば、それを手掛かりに出来たんだろうけど、生憎、私はメーア大陸じゃなく、魔大陸にいたんだ。探しても見つからないし、噂だって流れていないだろう。私を必死に探すお母さんの、そして、お父さんの気も知らず、私は……。ごめんね、お父さん、お母さん……。


「だからね、私、アオイがこの世界に来てからどう過ごしていたのか、出来る限り――それこそ、私の記憶を映像化して夢で見せたりしてサクラに教えたの。そうしたらね、サクラ、アオイが幸せそうで良かったって、笑って過ごしていたのねって、また泣いて……」


 そっか。お母さんがやけに事情に詳しかったのは、リーラのお蔭だったんだ。そりゃ、何でも知っているはずだ。メーアやレイガスがこの国に戦を仕掛けようとしている事だって、魔人族が悪の軍団じゃ無い事だって、リーラの記憶を見れば分かる。奥様方の井戸端会議よりも有効有能な情報収集手段だわ。


「サクラはアオイに会いたがってたし、私はアオイの元に戻りたいじゃない? だから、二人で協力する事にしたの。それで、サクラはメーアに竜王城へ行くって伝えたんだけど……。それを聞きつけた穏健派の根回しがあったのか、強硬派の圧力があったのか何なのか、メーアとレイガスまで付いて来る事になっちゃって……」


「それで今日の事件?」


「うん。何で、中央神殿の者がいるって露見したのかは分からないんだけど……」


「これからどうなるんだろう? 私、戦争なんて嫌だな……」


「私だって……」


 私とリーラは同時に深い溜め息を吐いた。勿論、メーアやレイガスと交渉しているブロイエさんを信頼していない訳では無い。しかし、心配は尽きない。だって、もし、和平なり不可侵なりの協定を結んだとしても、相手方がそれを守る保証がどこにも無いんだもん。何か決定打が欲しい。相手方が協定を守らざるをえないような、そんな決定打が。


「結局、睨み合いの状態が一番平和なんだろうなぁ……」


 リーラが独りごとのようにポツリと呟く。私は同意するように小さく頷いた。


 リーラが死んでしまったという大戦以降、小競り合い程度はあったのかもしれないが、私と私の家族が召喚されるまでは、この世界、何だかんだ平和だったんじゃないだろうか? それに、先の大戦だって、異世界から召喚された勇者がいたから起きた訳で……。あれ? そうすると、召喚者と勇者の存在がこの世界の平和を脅かしているって事? 私、この世界のお邪魔虫……?


 いや、待てよ……。逆を考えると……。均衡を崩してしまう私と私の家族が、召喚者と敵対する勢力につけば……。おお! いける気がする!


「リーラ! 睨み合いなら出来るよ、きっと!」


「え?」


「私と私の家族が魔人族側にいれば問題無いんだよ! 私達が人族に協力すると、僅かに人族側が優勢になるから、攻め込もうなんて考えるんでしょ? でも、私達が魔人族側にいれば、こっちが圧倒的に有利じゃない! 人族だって攻め込めないでしょ!」


「でも、魔人族には人族が嫌いな部族もいるし……。そういう部族は、こっちが圧倒的優位になると何をするか分からないよ?」


「う……。そ、それは……。シュヴァルツに脅し――じゃなかった、説得してもらうとか……」


「まあ、今まで通り、人族への不可侵だったらみんな納得するかなぁ? 竜王の妻が人族っていうのも大きいだろうし……」


 不可侵……。寄らず触らずを徹底するのか。でも、今まで通りって事は、現状維持って事だよね? それじゃあ、この魔大陸内ですら魔人族と人族の交流が無いままって事? 魔大陸内でも、魔人族は人族の女の子を攫うとか、悪評があるってのに……。どうにかその誤解だけでも解けたら良いのになぁ。


「ねえ、リーラ。せめて、魔大陸内だけでも、魔人族と人族の交流って出来ないものなの? せっかく、同じ国に住んでるんだしさ。もちろん、人族嫌いの部族は無理に交流する必要は無いと思うけど、そうじゃない人達だけでもさぁ」


「ん~。それは無理だよ」


「何で?」


「だって、人族が魔人族を怖がるんだもん。だから、人族と魔人族の生活圏を明確に分けて、人族を保護してるんだし」


 リーラの言葉で、私の脳裏に出会ったばかりのアイリスの姿が思い浮かんだ。ラインヴァイスを見て、怯えていたアイリス。私にまで牙を剥き出しにして、怯えて威嚇するようだったな……。孤児院に来たばかりの子は、みんなああいう反応をすると、フランソワーズとリリーが言っていた。でも、竜王城の人達は悪い人じゃないって、孤児院の子達は自信を持って言っていた。孤児院近辺の魔物退治や、食料の配給なんかをしてもらっていて、ごく僅かだけど交流があったからそう思ってもらえたのだろう、きっと。


「目標が出来た」


 私がポツリと呟くと、リーラが不思議そうに目をぱちくりと瞬かせた。


「私、この国の中だけでも、魔人族と人族が手を取り合って生活出来るようにしたい!」


 私の宣言に、リーラは目を丸くして私を見つめていたかと思うと、にっこりと笑った。どこか嬉しそうな、そんな笑顔だ。


「そう。とってもアオイらしいね、それ」


「リーラも応援してくれる?」


「うん。私も手伝う、よ……」


 そう答えたリーラの姿がだんだん薄くなる。そして、薄紫色の小さな光の玉に変わった。


「リーラ?」


「そろそろ、時間切れ、みたい……。ちょっと、眠くなって、きた……。アオイ……。また、私と、契約……してくれる、かな……?」


「勿論だよ! ずっと、ず~っと一緒にいよう!」


「ありがとう、アオイ……」


 薄紫色の光の玉が私の左手に重なる。ムズムズとくすぐったい! 忘れてた! リーラと契約すると、これがあるんだった! ちょっ! ま、待って! くすぐったい! くすぐったいってば!

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