苦虫ヲ噛ミ潰シタヨウナセールスマン
ボクはイケメンではない。
...ああそうだよ。
どっちかっつーとブサメンだよ。
でもおしとやかで誰にでも優しく、
いつもカワイイ笑顔を振りまく
職場で一番人気のカレンさんとどうしても付き合いたい。
だから今日も内面を、磨く。
ルックスは例え良くなくても、
きっとカレンさんはわかってくれるハズだ。
だって、あのカレンさんだよ?
ルックス重視とか、そんな薄っぺらい心の持ち主のハズがないよ。
そう信じて英検1級、宅建、簿記から
空気ソムリエ、京都観光文化検定までこれまで取った資格は数知れず。
腹筋だっていつでも6パック状態を保っている。
よし。今日は上腕二頭筋を鍛えながら気象予報士試験の大気の勉強を...
フーハー...
大気は下層から順に...
フーハー...
対流圏→成層圏→中間圏→熱圏...
フーハー...
のってきたぞ...
...タララー、タラーラー、タラーラー、タラーラー
タララーラ、ララー、タララっララっララっララー...
「くうう...ロッキーのテーマを口ずさみ中にスミマセン。
ワタクシ『苦虫ヲ噛ミ潰シタヨウナセールスマン』でお馴染みの
得炉黒腹蔵です...くうう...
アナタの心の隙間、お埋めします...くうう」
「はい?! いやちょっと...『笑ウ』ヤツなら知ってますケド
『苦虫ヲ』なんちゃらって...語呂もよくないし...」
「くうう...そんなことはいいのです。
アナタに必要なのはこれです。
『ココロが見えるコンタクト』。
2週間有効で半年分を両眼セットで12,800円税込です...くうう」
「あ、ちゃんとお金取るんですね...」
「くうう...当たり前です。こっちも商売なんです。
ハイ。右目-4.00 左目-3.75。
右目に『右』ってシール貼っときますね」
「え?いや、ちょっと」
「くうう。もう『右』って貼っちゃった。くうう。
あ、オプティフリーをおまけで付けときますね。くうう...」
そういうワケで今日は『ココロが見えるコンタクト』をしてきた。
「あ、このオヤジ触ろうとしてるだろ。
オイ。触れてみな。その瞬間、大声あげてやる」
「ああ、このコ、絶対俺が痴漢すると思ってるよ。
思ってるよう。体の向き変えさせて。いや。あ、変えられない~」
「なんだよ、このオヤジ。こっち向くなよ。クチくせえんだよ。おい」
「うんこうんこうんこうんこうんこ」
いつも静かな通勤電車の中は
実はこんなに心の喧騒で充満していたんだ...
ちょっとあらゆるヒトの心が見えるってのは疲れるな...
...いや、でもこのコンタクト...ホンモノだよ...
「オハヨっ!」
おおおおふ!?
イキナリ本命登場だよ!!
ああ、今日も笑顔がステキなカレンさん...
あああ、好き好き好き好き好き好き好き好き愛してる...!
「おはよう!!」
...ん?
「ブサメン、コイツ、チョウシ、ノンナヨ...
ワタシヲ、ダレダト、オモッテルノ...」
...え...?!
「あ、出木杉主任!おはようございますっ!」
...えーと...
「アア、デキスギサン...
イケメンラブ、イケメンラブ、イケメンラブ...」
あああふ!!
イキナリ心の折れたボクは
せめて職場に俺のことを想っているコがいないか
女性達の心を1人1人当たってみた...
「コノヒト、アタマイイケド、カオガ、ザンネン」
「サイキン、タイカクガ、カッコイイケド、カオガ、ネエ」
「カオサエ、ヨケレバ、ヤサシクテ、イイノニネ」
あんだよ!みんな顔かよ!!
ざけんなよ!顔が全てかよ!!!!
「...日々内面の鍛錬を怠らないタナカさん...素敵...」
「...?!
え?...だ、誰?誰の心の声だ?
俺のことを正当に評価してくれている女神は...」
花沢花子(24)
いや~。無理。だって花沢さん、顔かわいくないじゃん。