01
お待たせ致しました。
「はっ!?」
浅井が驚くことも無理はない。何せ私だって驚いてる。生徒会を退任し一般生徒に戻った私と委員長たちは、現在直接的に関係があるわけではない。
なのに、追いかけられて、漫研部室に立て籠るハメになってるのだ。
「しかし、なんで、追いかけられたんだ??もしや、貴女のことがずっと好きで「ちげーよ」
即座にネタ帳取り出した伊織に、とっても不愉快な誤解をされるのだけは勘弁してほしい。ただでさえ、こっちはつかれてんだっつーの。しかも、すごい理不尽な理由で。
「じゃあ、何だよ」
「人身御供、生け贄ですよ生け贄」
「はっ??余計意味わからんぞ」
確かに意味はわからないよね。けど、そうとしか言えない理由なんだよな。思い出すだけでも、奴等の急所を焼き切りたい衝動に駆られてしまう。あいつら、男の癖に女子を人身御託に出そうとするとは。
イライラを鎮められないので、あまり口に出したくないが、伊織に言わないわけにはいかない。
「……生徒会に戻ってくれだとよ」
「そいつら、正気か?」
委員長たちはそう迫ってきたのだ。
全く此方の都合なんて無視の要求だと、誰にだってわかるだろう。まあ、私も結構自分勝手な動機で辞めたけども。
唯一無茶な要望を押し付けられる生徒会の庶務がヤメタカラネー
他の使えない屑どもは仕事しないから委員会も滞るだろうねー
今まで見て見ぬふりして来たんだから、てめぇらで頑張れよ。
色々言いたいことを飲み込まず、仕方ないので薄いオブラートに包んで彼らに返しておいた。
「あれ、皆様は私みたいな平凡と違って大層優秀な人でしたよね?私のように無様に逃げた人がいなくても、どうにかなりますよ」
昔庶務に嫌々ながら就任した際、口々に言われたことを返す。根に持ってる??ええ、根に持ちすぎて竹みたいな状態ですよ。ちっとやそっとじゃ、許すわけないだろ糞野郎共。
「僕達が態々お願いしてるんです、戻りなさい」
「ははは、私がいてもいなくても、変わらないんじゃなかったでしたっけー」
クールビューティーらしい美化委員長がくっそ偉そうに言うから、思わず嫌味が出てしまった。基本的に委員会はこの美化委員長と今は愛野奴隷になりさがってる風紀委員長の取り巻き、みたいなものだ。
図書委員長は変わり者で、厚生委員長はほぼほぼ空気だから、別枠だけども。
とりあえず、チャイムが鳴ったことにより解散となったが、このまま教室にいたら繰り返される可能性がある。それは、私の精神衛生的な問題と印象的な問題で避けたい。
結果、私の中身を知ってる伊織がよくサボる漫研部室に逃げ込んだのだ。
「……ったく。けど、厄介だなあそれは」
「でしょ?だから、今日はここにいる」
「そうしとけ。飯くらい持ってきてやるよ」
「やっさしいー」
「代わりに、トーンと消ゴムな」
「前言撤回。優しくない!」
そんなこと言いながらも、トーンと消ゴムをする。……漫画を書いてるときの伊織の手は、まるで魔法使いのようだ。サラサラと書かれる様々な世界、人々、モノは繊細で美しい。確かにあまりの書き込みように、〆切ギリギリになってしまうことも多いし、多くを同時に書くことは難しい。
ふざけてるようで、真面目。不器用。
そんな伊織を見てると、なんというかニヤニヤしてしまう。我ながらに気持ち悪いが。
やっと出来上がる頃には、既にお昼休みになっていた。伊織がささっと私用のコロッケパンとミルクティーを買ってきてくれた。弁当持ってきてるのに、わざわざ買いにいってくれるのが、糞イケメン過ぎて腹立つ。
「ありがとう」
「いえいえ」
頬張りながら、こもりっきりは身体に悪いと思い、日光を浴びようと部室の窓に近づく。ふと、小さい音ながらどこかの誰かが、何か話してるようだ。なんだろうか、サボりがバレたら嫌だが、相手によってはどうにか出来るかな。とりあえず窓から声がしてると思われる方に顔を向ける。
なんと、美化委員長と愛野さんがいた。
思わず、身を屈める。美化委員長に見つかったらやばい。面倒すぎる。それに、愛野さんとは面識あるし、声かけられたりとかしたら、それは確実に嫌みで応戦してしまうのでやばい。
というか、この二人が外で話してる時点で確実に生徒会絡みだろ。くっそ、多分誑かすなとか、仕事をさせろとか御託並べたんだろうな。一瞬だけ見た愛野さんはしょぼんとしてた。
「……伊織かもーん」
「絶対に面倒なことだろう……わーお、やっぱり」
屈んだ状態で伊織に外を見るよう伝えると、嫌々ながらも外を見て、さらに眉間に皺を寄せている。前の花壇での大騒ぎの原因が愛野さんということを知って以来、苦手になってしまったらしい。
まあ、そんなことはどうでもいい。
手で窓を少し開けるよう指示する。
そーっと少し窓を開けらと、外の音が聞こえてきた。
「わかりました!私も生徒会の皆さんにお仕事するように言いますね!!」
「……お願いいたしますよ」
「本当、優磨さんって優しいですね」
「なんですか……?」
「学園のために、一人で率先して注意できる人はいません。それに、注意するためにこうやって人目につかないところにそっと呼び出してくれる。そういう心遣いが優しいなって」
「……ふん。当たり前のことです」
「当たり前のことが出来るのが、私としては優しいなって。なので!手伝えることがあったら言ってくださいね!!」
「考えときます」
足音が聞こえて、屈んでいた私もそーっと見ると、颯爽と美化委員長は去っていったところだった。なんか、耳が僅かばかり赤くなってる気がする。クールビューティーも人の子ってか?度入りカラコンのため、結構鮮明に見えてしまうのはたまに傷だね。
しかし、人目につかないと言うが、ここは部室が集まっているし、運動部で昼休みに練習とかよくあるのに。しかも、野球部の男の子が困ったように草むらの向こうで右往左往してるんだけど。ひょこひょこ見える野球部の帽子に気をとられていたせいか、愛野さんもいつの間にかにいなくなっていた。
足音も……聞こえなかったような……。
「ありゃー落ちたな」
「あの美化委員長が?」
「おう、愛野奴隷コースご案内ですな」
「30分いくら?」
「さあ?お代は学生生活でじゃん?」
「わーお、悲惨すぐる」
「まあ、お節介な世紀末救世主が現れない限り、そんな感じじゃね?」
「そのネタ古い」
「馬鹿言え、偉大なネタだ」
二人でそんなことを言いながら、気まずそうにテニス部の部室に男の子が入って、新しいラケットを持って出てくるとこまで見ている。そりゃあ、あんなむず痒くてサムイボ立つような光景みたら、気まずいだろうよ。
私らも、正直なんか見なきゃ良かったって思ってるし。
「本当にキモい光景だっ「あのさ」
た。と言おうとしたら伊織に言葉を遮られた。何時もなら文句を言うところなのだが、伊織がいつにも増して真剣な表情でこちらを見てくる。なんだろ、残念なイケメンでもイケメンなんだ、と思ってしまう。
「どした?」
「委員長たちから、簡単に逃げ切る方法思い付いたわ」
「え、何々!!なにそれ!」
「題してだ『馬に蹴られたくなくば立ち去れい!!作戦』だ」
「はっ??」
ニヤッと笑う伊織に、委員長たちにおっかけられるよりも厄介かもしれないと、思わずため息をついてしまった。