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みっしょんいんぽっちぶる
だ、だ、だだ、だ、だ、だだ……♪
脳内に流れるBGMが、今から私がおこなおうとしている最高のみっしょんを、どんどん駆り立ててくる。私は、やる。絶対に。
この為だけに、この二週間あんな理不尽なことにも耐えてきたのだ。
まず、生徒会室の電気が落とされていることを確認する。お金持ちの学校であるが、建物一つあれば日当たりの悪い位置の部屋もある。比較的に悪い方のこの部屋で、電気を着けずに作業は難しい。
次に雑貨屋で買ったピンクの可愛い聴診器で部屋の中の音を探る。今は滅多にないが、少し前までは当時書記候補であった下半身の化身が盛っていた。何度か遭遇し、一度顔見知りの女子だったことがあり、その子と疎遠になってしまったということもあった。いい金づるだったのに、屑野郎が。
聴診器チェックを終えると、今度は生徒会全員に配られる持っていた鍵で扉を開ける。
あとは、書類を探すふりをして、最後の一つ、会長印を手に入れることさえ出来ればいいのだ。
キョロキョロと色々な書類を捲りながら、会長のデスクに向かう。そして、引き出しを一つ一つ開けて中を物色する。このカモフラージュは途中で他の委員の来訪があった際に自然に隠すことができるからだ。
どの引き出しにもない。となると、会長からお借りした(盗んだ)鍵で、一番下のデスクを開ける。
ビンゴ。可愛いハートの巾着袋に入っていたのは竜崎会長と書かれた会長印。
私は机の下に潜り、最後から二番目の空白に押す。
ニヤリ。
終わった。これで、終わった!!
私はそっとそのハートの巾着袋に戻し入れて、中に入っていた適当な書類を取り出す。
デスクの鍵を閉め、しれっとした表情でその鍵をデスクの下に滑り込ませておく。
そして、あとは、校長に提出して終わり。
生徒会庶務 馬立 木芽は、
本日を持ちまして、
普通の生徒に戻ります。
そんな念を込めて、私物が一つもなく私の汚くて質素なデスクにさようならと心で唱えた。
校長先生がいなかったので、教頭にお渡ししておいた。後任はいるのかと聞かれ、私は即座に最近会長たちと仲の良い転校生の名前を告げといた。彼女は、私よりも優秀な生徒だというのは、教頭も知っているだろう。案外スムーズに受理してもらった。
まあ、最初から私が庶務をやっていることが気に入らなかったらしく、迷惑だけはかけるなと会うたびに遠回しで言われていた。
何故このようなことをしたのか。
まあ、私がこのようなことをしなくても、遅かれ、早かれこうなってたと私は思っている。ただ、自分から降りるのと、他人から降ろされるのとじゃ、訳が違う。
そして、生徒会としての初の大仕事前にこうしておかないと、このままだと私までも悪者にされてしまうと思ったからだ。
「……って、ことで辞めた」
「トンズラしたの間違いだろ、馬立氏」
「トンズラなんて、人聞きの悪い!
そらさ、今の生徒会でさ、仕事なんぞ出来ないとは思うよ?だって、転校生にメロメロ死語かっこわらみたいな状態よ?別に高校生同士のリア充に爆発どころか塵と成れくらいにはおもうけど、まっさかあんな乙ゲーとか王道BLの主人公みたいに顔だけ男がひょいひょい釣れるなんて、全く美人で天然かっこわらマジで笑えるわ。そして、そのひょいひょい釣れた馬鹿どもに、無理矢理庶務として入れられた自分マジワロス。ありえん、ちょーありえん、で「落ち着け!!」
「へーい」
「しかし、本当に完遂するとはな」
先程から話相手をしてくれてるのは、私の友人で私が所属する文化文芸研究部の部長の浅井伊織。
そこそこイケメンにも関わらず、彼の女性への興味関心はこの次元ではなく、二次元に存在するそうだ。おかげで、イケメンほいほいにも釣られることはなく、こうして私みたいな中の下の顔面偏差値のお話もちゃんと聞いてくれるのだ。
そんな彼に計画を話したのは、二週間前のことだった。
「浅井、聞いてくれ。私、現状打開策を、思い付いたんだ」
その名も、『救いのスタンプラリー作戦』
「ネーミングセンスなさすぎじゃないですか」
「この前書いていた『ネバーエンディングプリティラブ延髄切り』よりは遥かにマシ」
「あ?いいネーミングだろ!?」
「ハイハイ、ソーデスネ」
『救いのスタンプラリー作戦』とは、普通ならば生徒会の皆様の承諾が必要な生徒会退任届けを、皆様の承諾済みの証である生徒会印を一つ一つ集めては押していくというものである。
「いや、無理だろ。生徒会はまだしも生徒会の顧問印も必要だろ?」
「いや、それがさ、ホラ」
私は一枚のA4の紙を出す。それは、生徒会退任届けの書類であり、生徒会顧問欄には既に山城の印鑑が押されていた。
「え、うそだろ!?どうやって!!」
「じつは、これが私がこの計画を思い付いた切っ掛けなの」
それは、こうして浅井に話す一時間前に起きた出来事に起因する。
なんか、思い付いてたらいつの間にか書いていた小説。