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比較的に友好的



「お父さん待って! この人は違うの!」


「えぇ、そうよ。メイちゃんのコレよ、コレ」


「なんだとッ!?」


「ちょ、お母さん黙ってて!」


 それなりの魔力を放出しながら凄む父親。

 そんないきり立つ彼と俺の間を遮るように立つメイ。

 その良心に心が洗われるような何とも言えない幸福感を感じたが、そこへ母親が油を投入。


 振りかぶってオーバースローで投げ込まれたよ。

 見てみろよ、よほど娘が可愛いのかさっきより怒っているよ。怒髪天だよ。

 髪の毛が逆立っているように見えるからスーパーヤバイ人に見えるよ。


「この人は私が渦潮で尾ひれが傷ついて帰れなくなっているところを助けてくれた人なの!」


「……そうなのか?」


「えぇ、もうキスも済ませているようなの」


「本当かッ!?」


「もう黙れお母さん!」


 もしかしてお母様は楽しんでいないか?


「……それで?」


「えーっと、枕木智也です。赤の国の港町でメイ……さんが傷ついているのを見て……」


「手を出したのか?」


「違う意味に聞こえますけど間違ってはいません」


 とりあえず落ち着いて、今はメイ一家とテーブルを挟んでいる状態である。

 尋問されているかのような空気の中、俺は親父さんの質問に答える。勘違いさせそうな問答だが、間違っていないのだから困る。


 相変わらず母親は微笑んでおり、メイは少し不安そうな表情で俺を見ている。

 今の段階ではおそらく俺は追い出されるような状態ではない。だから、そんな顔しないでくれ。


「……まずは娘を助けてくれたことに感謝する。ありがとう」


「い、いえ……」


「謙遜することはない。人魚を助けたのだ。人間が人魚を襲うことはあれど、救うことは無かった。貴様はそれを誇ると良い」


 そう言って頭を下げる親父さん。

 やっぱり感謝されるのはくすぐったいな。ダメだ、俺は憎まれる方が気持ち良い。


「だが、人間と人魚のつがいが上手くいった試しはない。それは知っているか?」


「いや、そもそも娘さんとはそう言う関係では……」


「メイとは遊びだった言うのか貴様!」


「えぇ!?」


 なんか家族公認でカップルにされそうなので一応断りを入れようとしたところ、何故か激昂する親父さん。

 メイと付き合うことに反対じゃねぇのかよこの親父さんは。

 メイも悲しそうな顔しないでくれよ。なまじ人間に近いだけあってあまり邪険に扱えないじゃないか。


「いや、遊びではないんですけど! そもそも最初からそう言うつもりでは!」


「ダメ、なんですか……? 私では……やっぱり、人魚じゃ……」


「娘を泣かせたな貴様ッ!」


「誰か攻略本持ってきて! 三百円あげるから!」


 どうにかして誤解を解こうと必死になるが、言葉が行き過ぎたのかメイがさめざめと泣き出してしまった。

 そのことに更に激昂する親父さん。もう色々と話が通じないので逃げようかと考える今日この頃。

 でも逃げてもどうせ人魚の国から出るには海中を抜けるしかないから無理ゲーなんですよねー。


 というか人魚の国イベントってこんなイベントだったっけ!?

 人魚の国の王様と謁見してお礼を言われた後、好きな国へと送ってくれるんじゃなかったっけ!?

 それで終わりじゃなかったっけ!?


「いい加減に娘離れしなさい。メイちゃんも、今は無理かもしれないけど、既成事実を作ればこっちの物なんだから諦めないの。それで貴女が出来たのだから」


「えぇっ!?」


「母さん、その話は……」


「いいじゃないの。今時逆レイプなんて珍しくないんだから」


 頭を抱えて悩んでいると、ぴしゃりと二人に言い放つお母様。

 家族の闇を平然と聞いてしまった俺は一瞬固まってしまったが、なんだか不穏なフレーズが聞こえた気がする。

 メイがその手があったかみたいな表情で頷いているけれど、本格的に逃げた方が良いのかしらん。


「それよりも、貴方は長くここにいることは出来ないわ。見つかれば、なにをされるか……」


「えぇ、それは分かっています」


「貴方はあまりここでは歓迎されないの。ごめんなさいね。でも、貴方が悪いわけではないの。それは覚えておいて」


「お、おうふ……」


 そのままの流れでお母様が俺に語り掛けて来た。

 やっぱり俺は歓迎されていないようで、ここに滞在することは良くないらしい。

 もしかしたら俺に危害が及ぶかもしれないとのこと。


 それは薄々わかっていたが、それよりも俺は目の前で揺れる二つのメロンが気になる。

 俺に語り掛ける際にテーブルに寄りかかるようにして強調されているため、いやでも目立ってしまう。

 いや、見るのは嫌ではないんだけどね。


 その視線に気付いているのか、親父さんとメイがムッとした表情になる。

 刺さる様な視線を感じつつも目を離すことは出来ない、男のサガだ。ましてや裸同然なのだから嬉しいことこの上ない。

 そんな俺にお母様が一言。


「大丈夫よ。人魚は成熟すると胸が大きくなるの」


「俺、楽しみです」


「ちょっと二人とも! 何を言っているの!?」


 未来が確定しているとか楽しみでしかない。

 それはそれで置いておいて、そろそろ本当に行かなければならない。

 俺は元々白の国へ行くことが目的なのだから、いつまでもここにいるわけにはいかない。


 そのため、俺は軽く咳払いをして話を切り出す。


「メイ、頼みがあるのだが、俺を白の国へ送ってくれないか?」


「元居たところじゃなくて?」


「実はというと、俺は白の国へ行くところだったんだ。もののついでだけど……」


「いいよ。マクラギのためなら……どこへだって……えへへ」


 健気だな。

 ギャルゲーだったら主人公の幼馴染ポジションだけど、決して主人公と結ばれることの無い立ち位置の報われないキャラクターのような健気さだな。

 ホント、なんで攻略できねぇんだよスタッフども。誰かが幸せでも誰かが不幸ならそれはバッドエンドなんだよ!

 ちなみに俺はバッドエンド大好物です。


「小僧、ろくなおもてなしも出来ず済まないな」


「いえいえ、貴重な体験でしたよ」


「まぁ、その……なんだ。娘はああ見えて気丈に振る舞うことが多い。支えてやってくれ」


「あぁ、えっと……やってみますよ」


 父親公認もらっちゃったよ。


「マクラギ君。分かっている思うけど……」


「分かってますよ。俺、口は固いんで」


「なら、お願いね。最後に揉んでいく?」


「俺は地雷原で踊る趣味は無いんで」


「あら残念」


 お母様からは他言しないようにと釘を刺される。

 意外と一番しっかりしているのがお母様だったっていうね。

 最後の提案は凄く魅力的だったが、俺は自殺願望なんてないので当然お断り。

 いやホント、ホントだって。頬に伝う血の涙は気のせいだって。


「なら、裏口から出ようよ。来る時も、そこから入ったから」


「ちなみに、死なないよな?」


「…………」


「おいこら」


 どうやらもう一回死ぬようです。




◆ ◆ ◆




「ここだよ」


「ここって……」


「ここから白の国の海域に出れるんだ」


 お母様と親父さんに別れを告げて見つからないように人魚の国を後にする。

 人魚の国は大きな海中カルデラの底にあるようで、中心を王宮。そこから広がって行くように住宅街が建っているようだ。

 そんな人魚の国も相応に見納め。ついでに美男美女の人魚たちも見納め。

 見ていて気付いたのだが、俺が見た人魚たちの髪の毛は全員金髪だった。ついでに言うと碧眼だった。

 メイは先祖返りでもしたのだろうか。


 そんでもって案内されたのは人魚の国の端にある洞窟。

 メイ曰くここは海の中らしいのだが、そこはゲームなのか俺は平気だ。

 どうせなら海の全域が呼吸可能だったらいいのに。


 そんな洞窟の中には空間と空間を繋ぐポータルのようなものがあった。

 聞けば、このポータルが白の国の海域に繋がっているとのこと。

 それにしては往来の様子が見受けられない。まるで何年も放置されていたかのような印象だ。


「さ、行こ?」


「あぁ」


 二人でポータルの中へ入ると、景色が目まぐるしく変わっていく。

 出たところが海中だったらまずいので息を多く吸って備える。ちなみにまだ俺はパンツ一丁だ。

 乗り物酔いにも似た感覚に襲われること数秒。次に目にした景色は砂場だった。


「あれ?」


「驚いた? ここってね、大昔に人間と交流があった頃に使われていたとこなの」


 現れる場所は海中だと思っていたが、なんとここは地上だった。

 洞窟の中なのだろうが、天井は吹き抜けで大きな満月が顔をのぞかせている。

 聞けば、ここは人間用の人魚の国へ行く手段だと言う。


 拍子抜けした俺は大きく息を吐き出し、その場に座り込む。

 死を覚悟していたが、そんなことは杞憂だったようだ。


「ねぇ、お願いがあるんだけど」


「なんだ?」


「そこの海辺まで連れて行ってくれないかな? 私、地上では動けないから」


「あ、そうか」


 俺は普通にしていたが、人魚は水が無いと移動することが出来ないんだよな。

 このまま放って置いて無理やり移動して尾ひれが傷ついては本末転倒だ。俺はメイを御姫様抱っこで抱き上げる。


「よいしょっと」


「わ、わわっ」


 意外にも人魚は軽く、運ぶにはそこまで困らなかった。

 お姫様抱っこされたメイはどこか嬉恥ずかしそうな表情で頬を染めていた。

 そんな彼女は、どこか色っぽかった。


「あの」


「ん? うむっ!?」


「ぷはっ」


 洞窟から出る道中。

 会話もなく進んでいたが、唐突にメイが声を上げた。

 会話するために顔を下へ向けると、メイがいきなり頬に両手を伸ばして俺にキスをした。


 呆気に取られていると、メイは先ほどまでの少女のような笑顔ではなく、少し大人の色気が混じった微笑みを浮かべてこう言った。


「……これは、ノーカンですか?」


「…………いいや」


「えへへ。やった」


 コレは気まずい。

 なんて声を掛ければいいんだ。

 メイはメイで幸せそうな顔をしているし、俺も俺で顔が熱いし……なんなんだよ。


 しばらく歩いて、やがて海が見えて来た。

 洞窟の入り口は海からでしか入れないらしく、そこからは陸は無かった。

 どうやらここからは彼女の出番らしい。


「じゃあ、頼んだ」


「はいっ。ささ、どうぞ!」


 彼女に抱えられて泳ぐためか、彼女は両手を広げて俺を待つ。

 全裸で姿勢は誘っているようにしか見えないが、雑念を押し殺して彼女に近づいて背中を向ける。


 が、


「向かい合っても、良いんですよ?」


 と言われて無理やり向かい合わせにさせられる。

 更にか変えられる状態なので、目の前に彼女の胸元がある。


「…………」


 俺はその時、初めて賢者モードを無条件で発動させることが出来た。

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