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小便をした後はなるべく水分を摂った方が良い。小便も体内にあるうちは体は水分という認識をするので、軽い脱水症状を引き起こす場合がある



 決闘場内でにらみを聞かせながら数分ほど待つ。

 この間に空気はピリピリと最悪な雰囲気となっており、今にも乱闘騒ぎになりそうだった。

 それでも、今すぐにでも暴れないのはある程度の節度と、その結果失格にならないためなのは分かり切っていること。

 だからこそ、次で暴れるのだ。


「皆さん、お待たせしました。立ったままで構いませんので、お聴きください」


 透き通るようなキレイな声だ。

 俺はこの声に気覚えがある。とても憎らしいほど、とてもお世話になった声だ。


 声のした方を向いたのは何も俺だけではない。

 ここにいる全員だ。それもそうか。


「私、赤の国ギルドの副支配人のクックと申します。今回も協賛という形でこの大会のサポートをしていきたいと思います」


 見慣れた姿。

 液晶を通してでも、水晶体を通してでも見慣れた姿。

 赤の国のギルド。そのギルドの副支配人。権力で言えばそこらの商会が媚び諂うほどの人物。

 糞ビッチのクックさんだ。俺を見捨てた糞やろう。虚言を吐きやがって、だから俺は信じるのが嫌いなんだ。

 心の中では仕方ないとでも思っているのだろう。それを免罪符にするつもりはないと口では言えど、心の奥底ではもう関わりたくないと思っている婆だ。


 まぁ、実際はなんて思っているのか知りえないけどな。


「今大会に出場するにあたって、毎年十二人が選出されます。今、この場に居るのは九十八名。去年より三人多いですが、選出方法は去年と変わりません」


 毎年で参加者が違うのか。そりゃそうか。

 俺は一回も篩い落としで落ちたことは無いから、今回も差異は無いだろう。


「選出方法は至って簡単です。十二人になるまで戦い続けてもらいます。結界を張っているので、死ぬことはまずないと思ってください。少々野蛮ですが、赤の国の戦士なら喜んで受ける選出方法と古来より伝わっています」


 選出方法はバトルロワイヤル。

 十二人選ぶ必要があるのなら、十二人になるまで戦い続ければいいじゃないという脳筋方法。

 少々どころでなくかなり野蛮だ。だが、さすがは赤の国に集う戦士たち。

 生きることが喜びなら、戦うことも喜びだと平気でのたうち回る輩ばかり。それでなくとも、シンプルで分かりやすい方法だと思える。

 だが、蓋を開けてみれば損なことは無い。


 要するに、最後の十二人になるまで生き残ればいいのだ。

 決闘場内を逃げ回るもよし、負けて倒れているふりもよし。弱っている輩ばかり狙うもよし。

 制約は十二人に残ること。だったら、如何様にも方法はある。


 まぁ、そんな外道染みた方法はしない。

 俺は外道ではないからな。性格が悪いだけだ。


「では、ブロック分けを行います。各四ブロックに分け、それぞれのブロックで生き残った者を本大会に出場する権利を与えましょう」


 ともかく俺は本選出場決定だ。

 これがゲーム寄りの世界で良かったぜ。もし、まんま現実世界だったなら、面倒なことになっていただろうから。

 そう考えるとなんだか暇だな。ここは副支配人をいじくってみよう。


 俺はわざとクックさんから見えやすい位置に立ち、ジッと見つめる。

 クックさんはブロック分けするために出場者たちの間を歩いており、俺に気付くのも時間の問題だ。

 それでもジッと我慢して見つめる。このアガペーを受け取ってほしい。唾吐いたアガペーをな。


「ここからここまではCブロック。ここからは……あっ」


 そしてついに俺と目が合うクックさん。

 後ろめたい気持ちがあるのか、見て分かるくらいに動揺し始め、こっちを見つめている。

 俺はそれに対してにっこりと微笑み、人影に身を隠した。


 今、クックさんの表情は見えないが、さぞや酷い顔だろう。

 それを想像するだけで笑えてくるから面白い。


「くふふっ」


 いかんいかん。

 笑い声が漏れている。

 いやでも、これは笑ってしまうって。

 あそこで俺の笑顔を見たクックさんはどんな気持ちなんだろうか。

 罪悪感で一杯だったならつまらない。もっとこう……寝首をかかれてしまうのではないかとか思ってもらえると大変面白いんだがなぁ。


 あぁ、腹が痛い。


「ぶ、ブロック分けが終わりました。では……これより篩い落としを始めます。合図として頭上に火球を打ち上げますので、それを合図に始めてください。それでは!」


 思ったよりも早く立ち直ったのか、淡々と説明を終えると離れて行ってしまった。

 それか一秒でも早くこの場から立ち去りたかったのか。どちらにせよ、つまらない結果に終わった。


 ちなみに俺はCブロック。

 やはり見たことがある顔触ればかり。もちろん、いつも本選に出場する顔もある。

 俺には関係ないが、何回もやっていると嫌でも顔を覚えてしまうから困りものだ。


 そんなことを思っていると、頭上に杖スキルだと思われる火球が打ちあがり、上空で爆ぜた。

 これが合図。皆も分かっているので、一斉に得物をその手に持って近くにいる者へと襲い掛かる。

 その光景だけ見れば野蛮だと言っていたのも頷ける。みんな目が血走ってらぁ。


 さてはて、俺もこうしていては狙われてしまう。

 そこでやるのは簡単にこの篩い落としをクリアできる裏技だ。

 それを知るまで俺は律儀に戦っていたのだが、これを知ってから戦うのが馬鹿らしくなるほどだ。


「うおぉおおおおおお!」


 早速俺と目が合い、俺目掛け突進してくる輩が。

 ちょうどいいので、良く引き付けてみる。


「くらえ! 《スラッシュ》!」


「バカが」


 俺に襲い掛かったのが運の尽き。

 残念ながらお前は本選に出場できない。何故なら、俺を相手にするから。

 俺が知る限り、お前は本選に出場したことが無いから。


 俺はまずその場にしゃがみ込む。

 そして、膝を抱え、その膝の間へ顔を埋める。

 要は三角座りだ。これでお終い。


 たったこれだけでこの篩い落としを生き残れる。




◆ 鍛冶娘視点 ◆




「ほら、もう始まってるよ!」


「中々高いのですね。御主人様は……あそこです」


「あ、ホントだ」


 時間まで喫茶店で過ごし、そろそろいいだろうと思って戻ってきたらもう篩い落としは始まっていた。

 この篩い落としは完全な乱戦で、まるで争っているかのように白兵戦が行われる。

 私は毎年これを見るたびに、野蛮な印象を受ける。戦いなんてそもそもこんなものなんだろうけど、大会の予選でやることではない。


 戦っている人たちの表情を見ても、どこか浮世離れした目をしている。

 皆まるで、ホントに命を懸けた戦いをしているみたい。


 私もこの大会に出ようと思ったことはあるけど、いざ篩い落としが始まったら何も出来なかった。

 人を武器で攻撃することに抵抗があったから。結局、始まった直後に棄権したことを覚えている。


「あ、マクラギ危ない!」


 この大人数の中、マクラギを見つけるなんて難しいと思っていたけれど、こうして上から見てみるとマクラギの格好って結構浮いているから直ぐ分る。

 だって、白黒の服を着ている人なんてどこを探してみマクラギだけだもの。陰陽を象徴する色合いの服だなんて、捜してもいないよ。


 そんなマクラギに向かって走り寄る人物が一人。

 皮の胸当などの軽装で身を包んで、市販されているバスタードソードに、皮の盾を装備している。

 見た目からしてあまり強くなさそうだけど、当のマクラギは武器すら構えていない。余裕着々と言った表情だ。


 まさか、何か秘策が?


「…………」


「……レナさん。私の見間違いでなければ、御主人様が座り込んでいるように見えるのですが」


「奇遇だね、私もだよ。それに、相手が何事も無くマクラギの横を素通りして行った気がするんだけど」


「奇遇ですね。私もです」


 何を思ったのかマクラギはその場に座り込み、いわゆる三角座りになった。

 すると、今にも斬りかかろうとしていた人物は、最初からマクラギなんかいなかったかのようにその場を通り過ぎて行った。

 他の人たちも同様に、座り込んでいるマクラギに目もくれずに戦っている。すぐ横を通ったり、蹴飛ばしたりしても動こうともしないし、誰も見もしない。


 結局、最後の十二人になるまで、マクラギはそのままだった。

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