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めんつゆと食器用洗剤を混ぜれば優秀な小蝿取りになる



◆ 鍛冶師視点 ◆




「おぉ、結構人が来てるんだな。ゲームじゃあ少し人の配置が換わっている程度だったけれど」


 ということでやって来た闘技場へ。

 決闘場はイベントなどでしか解放されず、普段は立ち入り禁止となっている。

 設定では、つい百年ほど前まで剣闘士たちが思い思いの得物を手に持ち、その命をそれぞれの想いのために散らしていったという。

 それが、先代の王様から変わったらしく、ただ己の力を見せるだけの場となったらしい。

 そのままついぞ、決闘場の地面に命が吸われることは無かったという。


 今では命の奪い合いはせずに、試合をするだけとは……まぁ、ゲームだし何かうるさい人たちもいたんだろうな。

 そんなもの野蛮すぎるーだなんて言ってさ。今更だよな、このゲームを作った会社の過去作見てみろよ。かなりえぐいぞ。

 それ以前に、このゲームにはかなりえぐいイベントが沢山あるというのにさ。


 それとも何か。

 スポーツマンシップに則りーってか。糞喰らえ。

 嫌だね、今の日本の考えって。


「受付受付……うわ、並んでんな」


 決闘場の中へ入ると、受付らしき場所に長蛇の列。

 俺は昔から並ぶのが嫌だった。祭りでたこ焼きを買うために二・三人が並んでいる列に並ぶの嫌だったからな。

 一分でも待ちたくない。


 それでも、そんな我儘が通用するはずがないので大人しく並ぶ。

 暇つぶしに並んでいる人を見てみると、ゲームの中でも見知った顔がちらほらと。


 あの赤くてごつい鎧を着こみ、両手斧を背中に携えた強面の男はアイルだったっけ。強そうだけど絶対に予選落ちする奴なんだよな。

 あっちの水色の法衣を着ていて、頭に銀のティアラをつけている女性はグランシアだったはず。篩い落としにかけられた時、一人の戦士を魔法でボコボコにした後、その戦士と仲間に輪姦されて殺されるんだよね。

 そっちの眼鏡を掛けて小物臭がする男性は確かグルーだ。お金で対戦相手を買収しようとして牢獄にぶち込まれる奴だ。


 そんな奴らがこの後どうなるかだなんて知らずにここにいるってかなり笑えてくるな。

 目の前に行って笑ってやりたいよ。お前らがどう足掻いたって優勝できねぇんだよバーカってな。

 それでもアイツら、心の中では優勝する気なんだよな。ホント、考えただけでも笑っちまうわ。


「次の方、どうぞー」


 そんなことをしているうちに、俺の番がやってくる。

 受付のお姉さんに呼ばれたのでホイホイ向かう。受付のお姉さん、黒髪が綺麗な美人さんだな。


「出場予定の方ですね。こちらに名前とご住所、それと身分を証明できるものをお願いします」


「あ、はい」


 名前欄にはもちろん“枕木智也”と書き、住所は……“不定”なんだよなぁ。家無くなったし。

 身分証明書はギルドカードでいいか。一応、まだギルドメンバーなんだし。

 もうギルドには行くことは無いだろうけども。


「では……ん? お名前は……」


「え? 枕木智也ですけど」


「では、マクラギ様……でよろしいですか? 住所は不定とのことですが、どうしてでしょうか?」


「ちょっと実家が無くなってしまいまして、それを機に色々なところを旅しているのですよ」


「冒険家でしたか。ギルドメンバーともいうことで……はい、よろしいですよ。後ほど説明会を開きますのでそれまでお待ちください」


「それはどれくらい後ですか?」


「そうですね……例年通りだと三時辺りには開始しますね。もちろん、それ以前に開くことかも知れませんが」


「分かりました。ありがとうございます」


 説明会は三時からか。

 今は十二時か……暇だな。昼食でも食べに行くか。

 どこへ食べに行こうか。時間に余裕を持って二時には戻ってきたいな。

 ともすれば、近くの定食屋に出もいこう。日本食が食べたいなぁ。




 ◆ 鍛冶娘視点 ◆




「ほらほら、決闘場に入れるのは年に二回しかないんだよ。見学でも良いから行こう?」


「元よりそのつもりで来たのでは?」


「そうなんだけどさ」


 ロボ娘ちゃんのおめかしを終え、外に引っ張り出して決闘場前。

 ロボ娘ちゃんの服装は、赤の国で人気のファッションで、時間が経った今でも人気のファッションで固めてきた。

 一見、羽織にも見える肩だしタイプのピンク色の上着に黒のチューブトップで胸を強調しつつ、作業着の頑丈さをモチーフにした青いズボンというラインナップ。

 可愛い。凄く可愛い。お人形さんみたい。


「この人たち全員が出場する人たちなのかな? 強そうな人たち……」


 決闘場に入るとまず目が行くのは往きかう人々。

 外観の赤レンガを基調とした造りなのにも拘らず、内観は白で統一されているせいかやけに広く感じる。

 そんな中にすし詰め状態手前の人々。見ているだけで息苦しくなってくる。


 そんな人たちを見つめるロボ娘ちゃんは、無表情から一変、嘲笑に変わった。

 人を嘲るような表情をロボ娘ちゃんから見るのは初めてなので、少し驚いた。


 そんな人を見下すこと……はあったね。

 でも表情に出すなんて珍しい。


「見た目だけですね。レベルを見てみれば御主人様よりも低いものばかり。熟練度も劣っています。中には中々の者もいますが、御主人様ほどではありませんね」


「レベルが見えるの!?」


「そうですね。他にも能力値や熟練度。属性耐性なども見えますよ」


「凄い!」


 嘲笑の理由は出場者のレベルと熟練度を見たからだったらしい。

 それよりも、何もせずにレベルとその他諸々が見えるのに驚く私。

 そもそもレベルや属性耐性を見るには、専用のアイテムか魔法が必要なの。アイテムは“父の眼”というもので、魔法は“真実の眼”という。

 驚くことに、ロボ娘ちゃんはそれらを使わずに見れる。ということは、作成過程でそういう機能が設けられたんだと思う。


 羨ましいなぁ。

 私は魔法が苦手だからアイテムに頼る一方で、相手の隙を伺ってアイテムを使うのがとても苦労するんだよね。

 私のレベルは三十五だからまだまだ中堅レベル。だから負けることもあるけれど、いつかは百レベルになりたいなぁ。


「あれは……」


「どうしたの? いきなり私の後ろに隠れて」


 それまで辺りにいた人たちを見渡していたロボ娘ちゃんだったけど、とある一点を見た瞬間に私の後ろに隠れてしまった。

 それも、縮こまるようにだから相当見られたくない相手でもいたのかな。


 私も先ほどまでロボ娘ちゃんが見ていた方を見てみるも、そこには変わった顔触れは無い。

 ただ、雑踏があるだけ。


「誰かいたの?」


「御主人様が……」


「マクラギが? どこ? いないよ?」


「……外に出て行かれました」


 ロボ娘ちゃん曰く、マクラギがいたらしい。

 あれ以来、マクラギは根無し草となって浮浪者の仲間入りをしたらしい。

 私のところへおいでとは言ったものの、マクラギは断固拒否した。曰く、自分がみじめになりたくないけど、他人の家に厄介になるなら乞食(こつじき)になる方がマシらしい。

 乞食(こじき)なら知っているけれど、乞食(こつじき)ってなんなんだろう。

 それでも、お父さんが断固拒否したから結局ダメだったけど。


 それから、伝手を頼ることなく家があった敷地の目の前で暮らしているらしい。

 私は、そんなマクラギを見たくないし、見られたくもないだろうからあれ以来会っていない。

 もしかしたらマクラギはこの大会に出るのかな。マクラギって腕は相当立つし、ロボ娘ちゃんの言う通りなら優勝もあり得るのかも。


「なら、会いに行けばよかったのに。大好きなんでしょ?」


「それは……なりません。御主人様の中では私はもういない者なんです。それに私は御主人様の最後の約束を破りました。会う顔がありません」


「約束?」


「私の中から、御主人様が“御主人様”という概念を消すという約束です。私の中では今でも……あの方が御主人様なのです。ですから……会うわけにはいきません。出会ったら、御主人様はきっとお怒りになるでしょうから」


「あー……マクラギのことだからね」


 そんな理由か。

 なんだか聞いててムカムカするなぁ、その話。

 マクラギもマクラギで堅物だから約束を守らないと怒るだろうし、この娘もこの娘で堅物だからなぁ。

 堅物同士でお似合いなんだろうけど……ねぇ?


 マクラギはきっと……多分こっちに気付いていると思う。

 知ってて知らないふりをしていて、私たちから遠ざかったんだと思う。

 だって、マクラギだから。何よりも自分のプライドを大事にするだろうし。


「御主人様……」


「なんだか、恋しているみたいね」


「恋とはまた違うと思います。けれど、恋もしたことが無いレナさんに恋が分かるのですか?」


「なにおう! 私にだって恋愛経験あるわよ。初恋は保育園のお兄さんだけど……」


「見た目に合わず乙女なんですねぇ」


「見た目ってなによ見た目って」


 出た。見た目に合わず結構ズバズバと物言うロボ娘ちゃん。

 一見、大人しそうな娘だけど、気の置けない人には遠慮せずに話すらしい。

 しかもムカつくことにドヤ顔しているから腹が立つ。人間らしいって言ったら人間らしいんだけど、本当に人間と何ら変わらないね。

 しかも結構表情豊かなんだよね。可愛いものを見れば目が(物理的に)輝くし、怖い写し絵を見れば怯えるしね。


 なんというか……小動物?

 クールな小動物って聞いたことが無いよ。


「説明会が三時からか。ちょっと、それまでお茶しよう? それで、マクラギの戦う姿を見ていようよ」


「見れるのですか?」


「うん。大会の説明会が終わればその後に大会の予選に出場する資格があるか確かめる試験があるの。それは決闘場の中でやるんだけど、観覧席を開放するんだよ」


「そうなのですか。遠くから見るくらいならいいのかも知れません。分かりました、行きましょう」


 この大会の受付に出場定員は無い。

 その代わり、大規模な篩い落としが掛けられて、その中でも優秀な十六人を選出するのが今日の大体の流れ。

 この大会で優勝した人はもう出場できないけど、それ以外の人たちは出場できるから見知った顔もちらほらと見える。

 今年は誰が優勝するんだろう。マクラギかな?

 マクラギのことだから、優勝した後のエキシビションマッチには出場しないだろうね。


 マクラギって金にしか目がないから。

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