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往来



「ぬぅーん……」


 店内に展示された武具たちを見て唸る。

 開店一週間目。恐れていた来客が無いという懸念も無く、結構順調に武具が売れていた矢先のこと。

 圧倒的に仕入れが間に合わないという問題が浮上した。


 俺がこれまでの冒険で集めて来た武具は結構豊富にあるのだが、如何せん売ることが出来ない物が多かった。

 つまり、売ろうとしたらテキストで“それを売るなんてとんでもない”という売却不可の武具があるのだ。

 俺としてはかさばるだけなので早々に売っ払いたいのだが、それは出来ない相談。


 俺は魔法使い用の防具なんて装備しない。


「仕方ないか」


 ということで自分で造ってみることに。

 俺は鍛冶屋なので、武具を造ることも可能だ。設備も簡単なものを造るなら申し分ない。

 ちなみに、あれから設備投資したのは店内を少し小奇麗にしただけ。鍛冶をするための設備には金を掛けていない。


 仕方ないじゃないか。かなりお金が掛かるんだもの。

 設備よりも、まず店内に物を置けるようにすることが先決だ。


 俺は自分のポーチを開く。

 このポーチはゲームでよくあるほぼ無限に入る魔法のポーチだ。質量保存の法則なんてこのポーチには関係ない。

 そんな四次元ポーチからどうやって物を取り出すかと言うと、頭の中でポーチの中に入っている物の一覧が浮かび、その一覧の中の物を強く思うことで取り出すことが出来ると言うよく分からないシステム。


 俺は頭の中の一覧の中から鉄鉱石を選び、取り出す。

 鉄鉱石の数は三十個。鉄鉱石二個を鋳造窯に入れると鉄のインゴットになるので、実質鉄のインゴットが十五個だ。

 武具は鉱石のままだと鍛造できないので、一旦インゴットに鋳造する必要があるのだ。面倒なことだ。


「……そう言えば、俺この世界に来てから一度も武具を作ったことが無いぞ?」


 重大なことを忘れていた。

 俺は鍛冶屋なのに、一度も武具を造ったことが無い。

 ゲームでは金床と炉に向かって素材を選択すると自動的にできていたのだが、もしかしてこの世界では一から自分で造るのではなかろうか。


 そうなっては大変だ。

 俺は元の世界でももちろん武具なんて鍛造したことが無い。

 この三十個、もとい十五個の鉄のインゴットを全て使っても一個も出来る気がしない。

 いや、そもそもインゴットすら造れる気がしない。


 恐る恐る鉄鉱石を二個持って鋳造窯に入れる。

 鋳造窯はいつの間にか火が入っており、いつでも使える状態だったのだが、そこはゲームよりなのだろう。

 間もなく、鋳造窯からゴロリと鈍く輝く物体が出てきた。拾い上げてみると、それはなんと鉄のインゴットだった。

 ということは、俺自身が何か特別なことをしなくともインゴットは造れることが判明した。


 問題は武具だ。

 鍛冶で武具を造るには鍛冶屋の職業レベルを上げる必要がある。職業レベルの上げ方は様々だが、鍛冶屋の職業レベルを上げるためにはひたすらに鍛冶をするしかない。

 しかし、俺はこれまで鍛冶で武具を造ったことが無いので職業レベルは一のままだ。この職業レベルで造れる武具はかなり限られる。


 更に、武具にはレシピがあるのだが、ぶっちゃけ俺には意味がない。

 レシピ通りに武具の素材を選べば問題も無く造れるが、別にレシピが無くとも暗記していれば問題ない。

 つまり、終盤で手に入るレシピも、その素材を知っていれば金床と炉で選択することで造れてしまうってわけだ。

 今現在の俺が持っているレシピは職業レベルが低くても造れてしまう物ばかりだ。しかし、このシフトワールドを鍛冶屋でクリアしている俺にとって、レシピなど不要。職業レベルさえ達していればどんな武具だって作れる自信がある。


 しかし、それはゲームでの話。

 この現実味を帯びたこの世界ではどうか分からない。


 俺は緊張感一杯で金床と炉に向かい合う。

 金床と炉は全く手入れしていないのにも関わらず錆び一つ無い。おそらく、これから改装を行って手に入れた設備も劣化することは無いのだろう。


 今回造ってみるのは鉄の短剣。

 鉄のインゴット一つだけで出来る非常に低コストな武器だ。

 俺はこの一週間、武具を売って気付いたことがある。この街の人たちは特別な武具が欲しいというわけではないことに。

 例えば、ボスを倒して手に入れた魔法剣があるとする。しかし、お客はその魔法剣よりも鉄の剣を求める。

 そのことが理解できなかった俺は一回だけお客に訊ねたことがある。なぜ、その魔法剣を買わないのか、と。


 そしたら、こう答えた。「俺が欲しいのは使い慣れた剣であって、そんな高価な物じゃない」と。


 そこで俺は初めて需要と供給に気付いた。

 俺は当初、珍しい武器ばっかり造っていれば大儲けだと考えていた。しかし、その考えは間違いで、お客が望んでいる物を置かなくては売れないことが正解だったのだ。


 まぁ、そんなことは置いておいて、さっそく鉄の短剣を造ってみよう。


 炉の中に入れて、様子を見る。

 炉の中は轟々と燃え盛っており、近くにいるだけで汗が噴き出してくる。

 少しの間を置いて、炉の中から真っ赤で熱された鉄のインゴットが出てくる。俺はそれを近くにあった鉄製のペンチみたいので掴み、金床において金槌で叩いてみる。

 すると、不思議なことに一瞬にして鉄の短剣へと変わった。本当に一瞬だった。一瞬の間に、あの熱された高温の鉄のインゴットが冷たい鉄の短剣に変化したのだ。


 あまりのことに少しの間目を白黒させる俺。

 ここまで簡単に出来てはなんだか拍子抜けだ。ともかく、これで不安要素だった武具の生成は問題ない。

 この調子でどんどん造ってみよう。


「あっつ……扇風機とかこの世界に無いのか?」


 それから鉄の短剣やら鉄の剣、鉄のグリーヴなどを造り終えたところで、素材が無くなる。

 そんなに来客が多いわけでもない俺の鍛冶屋ならば、これだけで一週間は暮らせるだろう。


 汗をいっぱい掻いてしまった。

 本職の方々だとこういうわけにもいかないのだろうが、俺も一応この世界では本職だからモーマンタイ。

 風呂に入って、今日は寝よう。


 後の問題は……素材だな。

 面倒だが、少しクエストを進めてみることにしよう。そのためには、一回ギルドに入る必要がある。

 ギルドに入るためには……あのクエストをクリアする必要があるな。まぁ、それは明日からにしよう。


 明日出来ることは明日やる。

 それが俺のモットーだ。


 造った武具を倉庫に入れて、日にちを確認する。

 明日は木曜日。燃えるゴミの日だから、少し早めに起きないと。さすがに店内にゴミ袋を置いておくわけにもいかないし。


 俺は店先に提げてあるプレートを閉店にして店を閉める。

 時間にして四時。店を閉めるには早すぎる気がするが、明日も早いことだし休むことにする。


 明日から、やる気だそう。

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