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未知との遭遇



「……ロボット?」


 受付のカウンターに座る少女は、銀髪を空調による風で靡かせながら微動だにせず座っていた。

 近づいてみればその理由が分かる。少女の右腕と両脚が無いからだ。いや、外れていたと言った方が良いだろう。

 少女の四肢があった場所からは植物の蔓の様なコードが伸びており、その先に外れた四肢が転がっている。コードは途中で千切れていた。


 動かないのではない。もう、動けないのだ。

 遠い昔に人が途絶え、それでもなおここで仕事を勤め、その身錆びるまでここを……いや、今もここに勤めているのだ。

 もう、誰も来ないというのに。


「……」


「こんにちは。中央化学研究所へようこそお越しくださいました。アポイントメントは御座いますか?」


「って動くのかい!」


 少し憂いをその胸に感じ、何も言わずに奥へと進もうとしたところ、その少女の眼が開いて覚醒した。

 少しの愛想笑いも無く、無表情で淡々と物を言う様は正にロボット。しかし、その一連の動作に造り物の様なぎこちなさは無く、まるで人間と会話しているような錯覚に陥る。


 なんだか無性にムカついてきた。

 同情した俺が何だかバカみたいじゃないか。


「いや、ここってもう誰もいないんだよ。だからさ」


「アポイントは御座いますか?」


「いや、だから」


「アポはありますか?」


「んなもんねぇよっ!」


 人の話を聞きやがらねぇ。

 ここにいた連中はどんなプログラムを組んでいたんだよこの野郎。受付できてねぇじゃねぇか!

 それ以前にロボットに受け付けやらせていたのかよ。人間にやらせろ、人間に。


 俺がアポイントメントを取ってないと分かると、ロボットの表情が少し険しくなる。

 いや、険しくなるととは言っても眉が動いただけだけどさ。てか、あの眉ってホントに生えているのか?

 書いてるんじゃないのか?


「ではお引き取りを。ここは許可ない者を通すわけにはいかない場所なので」


「知らねぇよ、んなもん。ここはとっくに幽霊屋敷だってのによ」


 拒むロボットを余所に俺は先に進むことにする。

 受付の横に通路が二つ。さて、どっちに進んだものか。

 どうせ両方行くんだからクラピカさんに従っておこう。


「通しません」


「おおぉう!?」


 通路を進もうと受付のカウンターから離れた時だ。

 目の前を黄色く光る不可視の極太光線が遮り、放たれた先の壁が轟音を上げて崩れる。

 もくもくと塵芥が立ち込める中、俺は小便を漏らして立っていた。


 実はと言うと、その不可視の極太光線に掠った。

 鼻頭を掠った。それだけなのに俺のHP(ヒットポイント)がガリガリ削れて瀕死状態になっている。

 目の前が真っ赤だよ。テキストのフォント色が真っ赤に染まっているよ。赤い世界だよ。


 ガクガクと震える脚。

 皮肉にも首がロボットのような動きで光線の発射元に向く。

 そこには先ほどと同じように眉だけが険しい表情のロボットがこちらを向いていた。


 そして、目があった瞬間、


「ちっ」


「舌打ちぃ!?」


 何なのこの娘!

 今、絶対舌打ちした!

 外したことを悔しがっているよ!


「次は当てます。お引き取り下さい」


「い、いや、あ、話し合いましょう。きっと、分かり合えるはずです……」


 思わず敬語になる俺。

 それもそのはず、全身から意味の分からない液体が滲みだしてきて、挙句の果てに涙まで出てきた男に尊厳は皆無。

 しかし、ここで退かないのは俺の厚かましさ故か。生まれたての小鹿どころか、老いぼれ老鹿の様な脚で立っているのが奇跡に等しい。


 しかし、相手はプログラムされたこと以外はしないロボット。

 最初から話し合えるわけも無かった。


「私はお引き取り下さいと言ったのです。仕方ありませんね、こうなったら実力行使です」


「ひぃっ!?」


 実力行使。

 おぉ マクラギよ しんで しまうとは なさけない▽

 というテキストが脳裏に浮かぶ。このままこんなところで俺の旅は終わってしまうのか。

 好奇心が猫を殺しやがりやがった結果だ。


 ようやくここで逃げるという選択肢が出てきた俺。

 しかし、世の中にはどんなものにでも制限時間があることを忘れてはいけない。

 食べ物然り、人生然り、恋愛然り。


 チャンスも例外ではない。

 遅すぎた。既にあのロボットはこちらを向いている。

 どうやって光線を放ったかは知らないが、あの速さなら避けれるものではない。スタンドがあれば可能だったかも知れないが……って、何を考えているのだろうか。


「おかしいです」


「へ?」


 そう言えば、このゲームって死んだら最後に宿にしたところから再開だったなぁ、なんて考えていると、ロボットは疑問符をつけた言葉を並べた。

 更につられて俺も疑問符をつける始末。いったい、ロボットに何があったのだろうか。


「何故だか体が動きません」


「いや、動くどころか壊れてんじゃん」


「そんなはずは……じーざす」


 ロボットは視線を己の体に向けると、表情を変えずにキリストの名を口にした。

 いや、あの場合はなんてこったとかそんな意味なんだろうが、この反応を見ると自分の体の異変に気付いていなかったようだ。

 というか、自分の体が壊れていることに気付かないって鈍感ってレベルじゃねぇぞ。

 むしろロボットなら真っ先に気付いてもよくないか?


「そんな馬鹿なっ」


 事態の深刻さを理解したのか、凄まじく驚いたような表情で目の前の端末を残った左腕で操作し始める。

 そして、何かを連絡したのかホッとしたような表情になる。

 もしかしたら応援を呼んだのか?


「ふぅ……これで私を修理に来てくれるはずです。この施設にいる技術班が」


「それって、人間?」


「もちろんです」


 おい、それって来ないんじゃないのか?

 凄くドヤ顔をしているところ悪いが、この施設は生きているとしても人間の技術班が残っているはずもない。ここは見捨てられたのだから。


 待てど待てどもその技術班はやって来ない。

 当然といえば当然なのだが、このロボットが自信満々にドヤ顔をしているため言うに言えない。


 いや、待て。

 チラチラと端末を見ているぞ。いや、端末じゃない。

 カウンターに置いてある時計を見ている。さっきからこっちにドヤ顔しながらチラチラと時計を見ている。

 内心遅いなと思っているに違いない。心なしか額に汗のようなものが見えるぞ。


「待ってても来ないぞ」


「……変なことを言いますね。ここは二十四時間営業ですよ」


「コンビニかよ!」


 だが、来ないものは来ない。

 そのことを理解し始めたのかロボットは端末を弄り始めた。

 おそらく、何かログ的なものを見ているか、他のところに連絡しているに違いない。


 その無駄に高性能っぽい頭はどうした。

 情報処理とか早いんじゃないのか、その内蔵された処理能力は。


 というか二十四時間営業なら何で眠っていたんだよ。

 起きているのが普通なんじゃないのか?


「……どこからも返信が来ない」


「当たり前だ。ここにはもう人間はいないんだから」


「何を世迷言を……おかしいですね、一日で数百年経つものなんですか」


「どうしたよ」


「表示されている日時が昨日より数百年経っているんです」


「それ、あっていると思うぜ。だって、ここはもう滅んでいるんだから」


 疑問が残るな。

 おそらく、ここが稼働していた頃は絶えず人が出入りしていたはず。

 なのに、コイツは俺が来た時は目を閉じてスリープモードになっていた。人が絶えず出入りするのにそれはおかしな話だ。

 それに、こんな研究所みたいに、如何にも大事なものがありますよと言っているところならなおさら。


 誰かがコイツをスリープモードにしていた?

 そして誰かが来た時に目を覚ます様にしていた?

 誰がそんなことを。


 それとも、ホントは人の出入りとかそんなになくて、人が来なければ眠るようにしていた、とか?

 受付って言うのはそこまで仕事が無いものなのだろうか。それならロボットに仕事を任せなくてもいいのではなかろうか。


 ダメだ、わかんね。


「誰か、誰か返事をっ……」


「おい、無駄だって」


「おかしい、誰か、誰か、誰か、誰か――」


「聞いてねぇ」


 事の重大さに気付いたのか、ロボットは歯車が狂ったように端末を弄り始めた。

 こちらが話しかけても気付かないくらいに。


 もしかしたら今のうちに入れるのではなかろうか。

 こっちの事なんて気にしている余裕なんて無い今がチャンスなのでは?

 制限時間が延長されたぞ。やったねマクラギ、時間が増えるよ!


「おじゃましまーす」


 抜き足差し足とカウンターを通り過ぎ、通路へ進む俺。

 睨んだ通りロボットはこちらに気付くことなく、俺は無事に進むことが出来た。

 哀れだな、なんか。笑ってやりたいほどに。あれが社畜というものなのか


 進んだ先に、誰かの白衣と砂の様なものがちらほらあった。

 ネームプレートもある。そのネームプレートには古代文字で機関長と書かれている。

 一応、持っていくか。


 さてはて、この先に一体どんなお宝があるのやら。

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