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霊を寄越せ



 黒の国の領域に入り、生息している魔物の種類が変わり始めたところ。

 若干大地の色が変わっているのも見受けられる。きっと、栄養価が違うのだろう。

 そんな中、やはり移動手段は徒歩のままの俺たち二人は街道を歩いている。


 しかし、俺の記憶が正しければそろそろなはず。

 季節によって発生する場所が変わるイベントがあるのだ。

 季節は冬。もう少しで年も明けようかという時期。それは黒の国の南側国境辺りで起きる。


「……ギルデロイ? 一応までに訊いておくけど、その防具と武器一式はメタルライトヒューマノイドスライムで出来ているんだよな?」


「えぇ、そうよ。歴代の【勇者】が装備していた由緒正しき御下がりって聞いているわ」


 彼女の装備している白色に輝く全身鎧と身の丈以上の太いランスはヒューマノイドスライム族で出来ている。

 それも伝説のメタルライトヒューマノイドスライムの体部組織で出来ている。そのしなやかで全ての衝撃を吸収して受け流す体は武具にするととてつもなく強くなるのだ。

 ってことを過去に触れたような気がするが、そんなことはなかったか?


 まぁとりあえず、その最高峰の武具の元があるわけなのだが、これから先で一回だけ手に入れるチャンスがある。

 チャンスがあるとは言っても限りなくゼロに近いわけなのだが。


「それがどうかした?」


「もしかしたら手にはいるかも知れない」


「え? うそ!」


 もう分かっているだろうが、これから起こるイベントはそのメタルライトヒューマノイドスライムを手に入れることが出来るイベントだ。

 そしてそして、そのメタルライトヒューマノイドスライムを持っているのが……なんと闘技場の決勝戦で戦う予定だった蒼衣の騎士が持っている。


 しかし、その蒼衣の騎士から奪うことが困難どころじゃなく、チートでも使わないと手に入らない状況下にあるのが現状。

 というのも、その蒼衣の騎士は今作最強のキャラクターでレベルは驚異のカンストの三百レベル。

 更に、彼の着ている“蒼の法衣”は全ての状態異常を無効化し、魔法ダメージを一割にまで抑えることが出来る代物。

 更に更に、彼の職業は鍛冶屋なのか全ての武具を扱うことが出来て、熟練度もカンストしている。

 更に更に更に、魔法の扱いにも長けており、不用意に間合いに入ろうものなら固定砲台と化して乱射してくる始末。


 ぶっちゃっけ言って、同じくレベルをカンストさせても勝てる者ではない。

 どういうわけか物理ダメージは一切通さない。魔法で攻撃するしかダメージを与える方法が無く、頼みの魔法も装備品“蒼の法衣”のせいで一割にまで抑えられてしまう。

 そうして削っている間に固定砲台と化した蒼衣の騎士にブッ飛ばされ、いつの間にか間合いを詰められて熟練度がカンストしている武器の最強スキルを受けてガメオヴェラ。


 勝てる結果が想像できないのも凄いと思うんだ。


「それは、いったいどうやって手に入れるのだ?」


「譲ってもらいます。話し合いで」


 けれども、今まで述べたのはゲームの中でのこと。

 今回はこの現実寄りの世界で話し合いと言う素晴らしいことが出来るようになっている。

 それをしない手は無い。なんせ、真正面から挑んでも勝てないから。レベル二百の【勇者】がいたって負けたんだ。素直に諦める他無いだろうよ。


「ここで様子を見る」


「わかった」


 通りがかるポイントの近くの大岩に身を隠して様子を窺う。

 時間は関係無かったはずなので、イベントが発生する場所にいればあちらからやってくることだろう。

 ちなみに蒼衣の騎士に挑んで勝ったという報告は無い。チートを使って辛うじてリザルト画面を表示できるのみである。

 そのリザルト画面に、戦利品としてメタルライトヒューマノイドスライムの名前があったのだ。是非ともその素材で武具を打ってみたいね。


 でも、なんで蒼衣の騎士がメタルライトヒューマノイドスライムを所持しているのかは分からない。

 公式設定集にも書いていなかったために、真相は開発者の中だ。

 もしかしたらこれから分かるかもしれない。


「ここを通り過ぎる戦士が持っていると言う有力な情報を得ることが出来たんだ」


「一体いつどこでそんな情報を?」


「それは……イグニード会長からだよ」


「そう言えばあの世界一の商会のお抱え鍛冶屋だったんだっけ。わぁ、今更だけど凄い人物なんだよね」


「何だか馬鹿にされているような気分だ」


 ともかくここを通ることは確定している。

 後は通るのを待つだけなのだが……最悪死ぬことを考えておいた方が良い。

 戦う覚悟ではなく、死ぬ覚悟だ。蒼衣の騎士は一応話は出来るが、きっと双方の意見が違えば問答無用に襲い掛かってくるかもしれないから。


「あ、誰か来た」


「……蒼衣の騎士だ」


 彼女の囁くような声に顔を上げると、視線の先に蒼衣の騎士と布のローブを纏った人物が歩いてくるのが見えた。

 ローブを纏った人物については蒼衣の騎士と同じく謎が多いが、この二人がメタルライトヒューマノイドスライムを所持しているのは確かなんだ。

 ちなみにローブを纏った人物は戦いに参加しない。あくまでも蒼衣の騎士だけが戦いに参加する形となっている。


 蒼い法衣を身に纏い、その胸に十時かのネックレスを下げ、同じく十字架をあしらった仮面を付けている。

 指先を隠す様に白い手袋をしており、肌が見えている部分は全くと言って無い。うなじの部分すらも布で覆われている。

 一説によれば、その法衣は魔力を蓄えているらしく、その魔力が逃げないように肌を全て覆っているのだそうだ。


 それが今作最強のキャラクターの容姿だ。

 その身には得物の姿は無く、手ぶらの状態だ。布のローブを纏っている人物も同じく得物を持っていない。

 しかし、油断は出来ない。この蒼衣の騎士は全ての武器を完ぺきに扱うことが出来るふざけた存在。

 絶対に戦ってはいけない存在なんだ。口八丁でもいいからとにかく交渉せねば。


「よし、行くぞ」


「えぇ」


 少し離れたところまで近づいてきた二人の前に飛び出す俺たち。

 当然のように二人は俺たちを警戒している。特に蒼衣の騎士は背後にいるローブを纏った人物を庇うように立っている。

 どうやらローブを纏った人物を守っているらしく、俺たちの動きに敏感になっている。

 既に臨戦体勢だ。このままでは戦闘に突入してしまうだろう。


 だが、それは一番してはいけない。今はただ話すことだけを考えろ。

 なんせ相手は実機最強のキャラクターなのだから。


「待ってくれ。こっちに戦う意思は無い」


「…………」


 まずは両手を上にあげて敵意がないことを示す。

 【勇者】もそれに倣って上に両手を上げる。俺の方を見ていた蒼衣の騎士は依然として警戒を解いていない状態だったが、【勇者】の方を見た蒼衣の騎士は若干だが同様をしたようにも見えた。

 きっと、彼女が【勇者】だと気付いたのだろう。それが少しでも警戒を解いてくれる要因になってくれれば幸いだ。


「俺は枕木智也。こっちは【勇者】のセントレア・ギルデロイ。少し話がしたい。警戒を解いてほしいとは言わないが、話だけはどうか聞いていただけないか」


「……【勇者】か」


 とりあえず自己紹介をする俺。

 俺はともかく【勇者】に対して少し興味が湧いたのか知らないが、初めて反応を示した蒼衣の騎士。

 蒼衣の騎士の背後に隠れていたローブを纏った人物は蒼衣の騎士の肩越しからこちらを窺う様に見ている。

 とりあえず話が出来るテーブルに着くことは出来たようだ。


「率直に言う。貴方の持っているメタルライトヒューマノイドスライムの粘液が欲しい。何故知っているかは聞かないで――」


「……やはり貴様らも黒の国からの回し者かぁっっ!!!」


「はいぃ!?」


 変なことを話して逆に警戒させてしまっては元も子もないと思い、率直にメタルライトヒューマノイドスライムの粘液が欲しいと切り出したところ、蒼衣の騎士はどこからか取り出した蒼いハルバードを取り出して切りつけて来た。

 咄嗟に魔法石の大楯〈伝説的〉を装備して身構えたが、一瞬でHP(ヒットポイント)が削られて目の前が真っ暗になった……が、直ぐに目の前に光が現れた。


「大丈夫!? ちょっとこれは分が悪いわね」


「セントレア!」


 気が付けば【勇者】に首根っこ掴まれていた。

 蒼衣の騎士とは少し距離を開けているところを見ると、俺がやられてから直ぐに俺の首根っこを掴んで距離を取ったのだろう。そこで俺を蘇生させたと。

 一瞬で蘇生したので死に戻りは無いに等しかったが、終盤まで使える魔法石でしかも限界まで強化した大楯の防御状態で余裕で削られるとは思っていなかった。


「【勇者】までもが狙うのか!? それが正義を掲げて大義名分を謳う者のすることかっ!?」


「来るよ、マクラギ!」


「来るたって、俺じゃもうどうしようもないってば!」


 まさか一瞬で話し合いが決裂するとは思っていなかったので少しどころではなく動揺している。

 心臓が全身に血液を送り出すためにフル稼働しているが、今の俺にどうすることも出来ない。出来ると言えば逃げることだけである。

 尤も、レベル三百のカンストから戦闘で逃げれればの話ではあるが。


「……やるよ!」


「正気か!?」


 今まさにどうやって逃げようかと考えていると、戦闘バカの【勇者】はあの蒼衣の騎士と戦うと言いだしたのだ。

 今ので相手の力量は分かったはずなのに、どうして立ち向かおうと言うのか。


「……あぁ」


 信じられないと言う顔で彼女の顔を見たが、その顔を見て俺は何故だか納得してしまった。彼女が戦うことを選んだ理由を。

 彼女は今まで見たことが無いようなとびっきりの笑顔を蒼衣の騎士に向けていたのだ。

 レベルに百五十二匹敵する敵はこの世を捜しても裏ボスか蒼衣の騎士くらいなものだろう。


 彼女は、目の前にいる強敵に感動している。たったそれだけなのだ。

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