手柄
「ぬふふ……」
自然に漏れる笑い声が辺りに響く。
そんな俺をかなり怪しい眼で見ている人たちがいるが、別に気にしない。
場所はギルドのためにかなりの往来だ。
俺の目線は自分の手元。
持っているものは採掘許可証と書かれた紙。
あの後、無事ドラゴンを倒すことが出来た俺は、採掘場のお偉いさんに採掘許可証をもらったのだ。
これがあればいつでもあの採掘場のみで採掘することが出来るようになった。これで職業レベルが低いうちは素材に困ることは無い。
更に、得たのはそれだけではない。
シフトワールドではドラゴンは最強の一角を担う魔物であり、そう簡単に倒せるものではない。
ドラゴンは終盤辺りでようやく倒せる魔物なので、それだけ得られる経験値も多い。
更に、更にだ。
ドラゴンを倒すことが出来れば、ドラゴンを倒した際に使っていた武器に“屠竜”という属性が付与されるのだ。
この屠竜という属性は文字通り竜系統に効果的なダメージを与えることが出来るという、終盤では欠かすことの出来ない属性である。これがあるだけでだいぶ違う。
ましてや守備力無視の武器に付与されたってのが一番の儲けものだな。
後は、特別な効果があるというわけでもないが称号ドラゴンスレイヤーを得ることが出来る。
まぁ、恰好良いのでかなり気に入っている称号だ。
「なぁ、アンタだよな? マクラギってのは」
「ん? あぁ、そうだけど」
自分の世界に引きこもっていると、俺に話しかける声が。
顔をそちらに向けてみると、一組の男女が俺の目の前にいた。全く気が付かなかった。
男の方は金髪で短髪のツンツンヘアーで、白い全身鎧を着こんでいる。
女の方は茶髪のボブカットで、動きやすい様にベージュ色の布の服を着ている。
例によって二人のことを俺は知っている。
「聞いたぜ、ドラゴンを討伐したってな。ギルドは今まさにその話が持ち上がっているんだ」
「そうだよ、だってドラゴンを討伐できる人ってランカーさんレベルじゃないといないし、君がどんな人なんだろうって気になってたんだよ」
そういえばそうなのか。
一応、ゲームではドラゴンを倒せた人ってかなり高レベルの人たちだけって話があったし、災厄ポジションの魔物だったなぁ。
採掘許可証のことで頭がいっぱいだった。ドラゴンなんてゲームでは幾らでも倒していたから気にしたことなかったしな。
この世界ではどうもそう言うことではいかないらしい。
「でもね、ここの人たちってそう言うのを僻む人が多いの。多分、陰でボロクソ言われてるよ」
「おい、お前は言葉を選べって」
「どうでも良いけど、お宅ら誰?」
俺がそう言うと、男の方は失念していたといわんばかりに苦い顔になる。
俺はコイツらのことは知っているが、一応初対面だから自己紹介というものが必要だ。
ぶっちゃけ、本人以上に知っているつもり。
「そうだった、済まない。俺はアゾットだ。コイツはヨフィ・エル」
「よろしくねー」
この二人はいつも二人一組で行動し、どちらかをパーティーに加えたいのなら二人ともパーティーに加えなければならない。
会話や行動から見るに二人は恋人同士で、いつもお互いのことを想っている。
この二人はキャラクターの中でも愛されている部類に入る。卑屈でネット弁慶たちが蔓延る掲示板でも珍しいほど好かれている異質なキャラクターたちだ。
それには理由があるのだが、ここで語るべきではないので口を紡ぐ。
アゾットの方は職業が錬金術師で前衛も後衛も担当できる万能タイプ。ヨフィの方は職業が探検家で主に前衛を務めることが多い。
更に、アゾットは自身の武器“アゾット剣”という剣を主に使っており、このアゾット剣は味方を癒したり使い魔を遣わすことが出来る特殊な技能が備わっている。これは結構重宝するので回復役がいない場合は彼一人で事足りる。
何故なら、MPを消費しないで回復することが出来るから。
ヨフィの方はアゾットよりもかなり使えるキャラだ。
何故なら、ヨフィは回復薬を過度に飲み過ぎたせいで常にHPが回復し続けるという、とんでもない特殊技能を持っているから。
つまり、余程痛いダメージを受けない限りは無限に使える肉盾だ。更に彼女は頼んでもいないのに前衛へホイホイと行ってしまうので自分からダメージを受けに行ってしまうという、ありがたいキャラだ。
ちなみに、アゾットはヨフィを優先的に回復させるので、戦闘で死ぬことはほぼ無い。
まぁ、例外もあるが。
そんな二人が俺に興味を示している。
これは近づけるチャンスじゃないか?
「話は戻すが、そのドラゴンをどうやって討伐したんだ? レベルも見たところ、とてもドラゴンに敵うレベルじゃないしさ」
「それなら私が話すよ。きっと、本人よりも見ていた方が詳しく話せると思うから」
アゾットさんは俺に馴れ馴れしくドラゴンをどうやって倒したのか聞いてくる。
きっと、このレベルではドラゴンには到底敵わないから、何か特別なことをして倒したと思っているのだろう。
その考えは当たりだ。なんせ、俺は一つしか装備できないはずの装飾品を幾つも装備して耐性を得ているのだから。
そのことをどうやってはぐらかそうとしていると、横から話しかけてくる声が。
振り返ってみると、そこには玄翁さんがいた。相変わらず色気のない服装だ。
「そう言えば、レナのクエストにマクラギが着いて行ったんだよな。そこでドラゴンと出くわしたのか?」
「クエストに同行したのは確かだけど、ドラゴンがいるなんて知らなかったよ。でも、マクラギは何かを感じたのか一番奥に行っちゃったんだ」
「それで?」
「私は先に戻ったんだけど、一番奥でドラゴンを見たって人がいたから慌ててマクラギのところに行ったんだ。そしたらマクラギが炎のブレスを掻い潜りながら真正面で戦っていたんだよ」
「へぇ! そいつは凄い!」
玄翁さんの言うことは何も間違ってはいないけど、そう言われてみると罪悪感というものを感じてしまう。
俺がやったのはいわばズルみたいなものだし、副王の剣だってなんかよく分からない年増魔女っ娘からもらったものだし、騙しているようで気分が悪い。
まぁ、バレなきゃ大丈夫だろうけど。
「それならさ、大丈夫じゃない? 手伝ってもらおうよ!」
「あぁ、そうだな。聞いている限りではかなりの手練れだ」
何の話だ?
「実はさ、俺たちは今とあるクエストを受けているんだ。でも、そのクエストの難易度が結構高くて後一人誰かを連れて行こうとしていたんだ」
「報酬も山分けだから、お願い!」
「手に入れた素材とかはアンタに譲るからさ」
「うん、まぁ……今は特にやることが無いから別に良いぞ」
「ホントか!?」
こいつらのクエストで難易度の高いものって言ったら一つしかない。
確かそのクエストは別段変わったクエストというわけではないが、手に入る素材が結構良いのと、経験値も美味しいはず。
それに、これからも交流があるのだろうから、ここらで仲良くなっておいても損は無い。特にヨフィ・エルの方は。
「よし、じゃあ準備が出来たら話しかけてくれ」
俺頷いた。