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若さ故の



「ここに埋蔵金でも埋まってるの?」


「さぁ……? 私には分かりかねます」


「お前ら! 見てるだけだったら少しは手伝ってくれ! 礼くらいはするから!」


「ですって。奥さん、どうしますぅ?」


「汗だくになる御主人様が愉快なので静観を続けましょう」


「だよねー。ぶっちゃけ私たち関係ないし」


 天気が良いとはいえ真冬の雪原。

 しかし、そんな真冬の中だと言うのに汗だくになりながらスコップで地面を均している俺。

 つい数分前に玄翁さんを連れてやって来たロボ娘は、こちらを見ながら何やら怪しげな視線で見ているだけ。

 こんな時では無かったら再会に話を膨らませているところだが、生憎と俺は込み入っている。


「先生、土を持って参りましたが、どこへ積みましょうか?」


「そうだな、大体五メートル間隔で土を盛ってくれないか? 量は……二往復分くらいで」


「承りましたわ」


 なぜこんなことをしているかと言うと、何とかして一泡吹かせてやりたいと言うガキ臭い理由で地面に大きな亀裂を入れてしまったからだ。

 ベルリヒンゲン領主であるゴッドフリートさんに連絡し、どうしたらよいか訊ねたところ少し離れた場所に安土があるそうなので、それを使って埋めてくれとのこと。

 俺は怒られると思い謝ったのだが対するゴッドフリートさんは豪快に笑い、俺が稽古を着けるのだからいつかそうなると思っていたと言われた時は驚いた。

 ゴッドフリートさんの中で俺がどういう風な人物なのか今一度問いたい。


 手押し車は貸してくれると言うので、俺は整地作業でメリアは安土を手押し車に盛って運ぶと言う風に分かれている。

 俺がやったのだから俺がやると言っても、手伝ってくれると言うのでありがたく甘えることに。


「ふぅ。汗を掻きましたから、制服がへばり付いて気持ちが悪いですわ」


「ましてやこの寒い空気の中、汗が冷えて余計に寒く感じるでや」


「まったくですわ」


 安土から結構な量を持ってくるメリアは少し愚痴を吐くが、どこか楽しげである。

 それどころかこんな汚れ作業を嫌がることなくやっているところを見ると、相当肝が据わっていると見える。


 ちなみに、俺が地面を抉ったのを見たメリアは興奮した様子で俺を褒め称えた。

 やはり貴方は最高の指導者だとか、最強の戦士だとか口々に俺を褒めるものだから背中がむず痒くて仕方がなかった。

 俺としても大人げない行動でこうなってしまったのだから罰が悪いと言うもの。


「ほらー、手が止まってるよー?」


「うるせぇっ! 見てるなら黙ってみてろ!」


 さすがに中腰で重たい土を何度も持ち上げ、固めるためにスコップの裏で何度も地面を叩いているとさすがに疲れてくる。

 ましてやさっきまで半ば本気の戦いを何時間もしていたのだから、疲労の蓄積は凄まじいものだろう。


 そんな俺を後ろから野次を飛ばす玄翁さん。

 状況が状況で野次を飛ばされたりしたら怒鳴ってしまうのも赦されると思うんだ、うん。


「はぁーあ。マクラギを見てるだけってのも飽きたし、そろそろ手伝おうか」


「そうですね。どうやらスコップはあと一つしかないようなので、私が御主人様の方に着きます。レナさんは温かい飲み物を持ってきてくれませんか? 確か、事務所の方に常備しているはずなので」


「おっけー」


 本当に汗だくになる俺を見て楽しんでいた様子の二人は、どうやら飽きたらしいのでようやく手伝ってくれることに。

 手伝ってくれるなら最初から手伝えよと悪態を吐けてみるが、空しいだけなので止めた。


 ロボットであるロボ娘は疲労とは無縁なのでだいぶ楽になるだろうとは思う。

 玄翁さんは温かい飲み物を持ってきてくれるそうだ。凄い手のひら返しに俺、ムカついてきたぞ。


「お前、ホント俺には結構辛辣だよな」


「御主人様が言えた口ですか?」


「ようし、良いだろう。今後お前の機械油は古いのにしてやる」


「なんと!」


 そんな話をしながら、大分抉れた部分が埋まって来た。

 そろそろ休憩を入れても良いだろう。


「よし、休憩入れるか」


「では、御主人様たちでどうぞ。私に休息は必要ないので」


「そうか。なら頼ん…………いや、お前も来い」


「私も、ですか……?」


 火照っていた体も動かし続けていたとはいえ汗が冷えて余計に体が冷めてしまった。

 休憩を入れないと途中で行き倒れてしまう可能性があるので、休憩を入れることに。


 機械油があれば寒かろうと暑かろうと動き続けることの出来るロボ娘を残して、事務所へ行こうとしたのだが、そこで俺の脚が止まる。

 ふと、考えてみて、ロボ娘を連れて行かないのは少し不味い。ということでロボ娘も連れて行こうとしたのだが、当然ながら疑問符を浮かべるロボ娘。


 俺もロボ娘は作業させたままで問題ないと思ったのだが、実は問題があったのだ。


「お前も連れて行かないと玄翁さんがうるさい」


「……あー。なるほど。分かりました。私も行きましょう」


 絶対にロボ娘を連れずに休憩を入れようとすれば、なぜロボ娘ちゃんも休憩させないの、って怒る未来が容易に想像できる。

 それを説明するとロボ娘も納得した様子で持っていたスコップを地面に刺した。


 ちょうど向うからメリアがやってきているのが見えた。

 メリアも拾って行こう。


「おうい、休憩入れるぞー」


「はーい。……あれ? あともう一人、どなたかいらっしゃいませんでした?」


「あー。俺の友人だ。今日来る予定でな。ロボ娘が連れて来ちまったんだが……って、玄翁さんはどこだ?」


 寒く濡れてしまった服を煩わしそうに擦って事務所へと行く。

 同じく汗が冷えて寒そうにしているメリアも、休憩に賛同して隣を歩いた。

 そこで疑問符を浮かべるメリア。それは玄翁さんのこと。メリアからすればいきなり知らない人がやって来たのだからその質問も納得できる。


 だがしかし、肝心の玄翁さんが見当たらない。

 どこへ行ったのだろうと辺りを見渡してみるもその姿は無い。

 そこでロボ娘が何やら呆れたような声でこう言った。


「最初に温かい飲み物を持ってきてもらうはずだったのですが……事務所に向かって以来、こちらには顔を出していません」


「……そう言えばそうだ。温かい飲み物なんて一回も持ってきてもらってないぞ」


 聞く方も話す方も阿呆かと呆れてしまう。

 いないもなにも、事務所に行ったきり帰ってきてないのだからいないのも納得。いや、納得できないが。

 俺たちも俺たちで気づかないのがどうかしている。飲み物を持ってくると知っていながら、まるで玄翁さん自身がいないかのように作業していた。

 それほど集中していたと言えばそれまでだが、玄翁さんも飲み物を淹れてくるだけでこんなに時間がかかるものではないだろう。


 いったい、どうしたというのだろうか。


「もしかして、迷った?」


「……幾らなんでも、それは無いのではありませんの? ここから事務所までは他に建物は格技場くらいなものでしょうし」


「いや、玄翁さんのことだから……」


「あり得ないとは言い切れないのが悔しいところですね」


「どんな人物なのですの!?」


 そこへまさか迷ってどこかに行ってしまったのではないかと言う考えが浮かぶ。

 普通の人ならばあり得ないと言いきれるだろうが、問題はその人が玄翁さんだ。

 一概にあり得ないとは言えないのが辛いところだ。なんせ、知らない土地では三歩歩けば道に迷うとまで言われているのだから。


 ちなみに、この方向音痴は公式設定である。

 赤の国では何年もそこに住んでいて、何度も何度も迷った末にようやく覚えたと言うのだから、バカには出来ない。

 設定集で鍛冶屋の仕事として自分が受け持った武具を鍛造し、それを行ったことが無い地区へ届けに行くときには何度も何度も迷った挙句、依頼者が一向に届けに来ない玄翁さんを不審に思い自ら取りに行っていると補足しているまで。

 きっと、ロボ娘と会う時も何度も迷ったに違いない。


「ロボ娘。どうやって玄翁さんと合流したんだ?」


「ええと、借りている別荘近くで出会いました」


「迷ってたか?」


「えぇ、それはもうがっつりと」


「やっぱり……」


 幾ら設定とは言え、それは辛いものがあるだろう。

 なんせ、自分で直そうとしても設定……つまり、この世界の創造神によって方向音痴と言うことが定められているために直しようが無いから。

 自分ではどうしようも出来ない大きな力がそうさせているのだから、堪ったものではないだろう。


 ……そう言えば両隣にいるこの一人と一機も設定という設定が無いんだよな。

 本当はあるんだろうけど、没設定としてあるために俺はには知りようがない。大人の都合が無ければ、この一人と一機もゲームのキャラクターとしてプレイヤーと一緒に冒険していたのだろうか。

 そう考えてみると、どこか感慨深いものがある。


 そして、言い表せぬ独占感が。


「……どうかしたのですか?」


「いや、なんでもない。大丈夫だ。とりあえず、事務所へ行ってみよう。辿り着いているかも知れないし、いないことが分かるからな」


「わかりました」


「……先生のご友人ですか。俄然、興味が湧いてきましたわ」


 とりあえず、ここにいても何も始まらないので事務所へ行ってみることに。

 事務所は少し大きめのプレハブが建っているだけで、入り口の横に事務所という表札が見える。


 それでも、中の設備はそれほどのもので、暖房は完備してある。

 そうでもしないと、ただでさえ壁が薄いのに外と変わらないくらい寒くなってしまう。


「すいませーん」


 俺はガラガラと二枚扉を開け、中を覗く。

 確か事務所には常在事務員がいるはずだ。その人にとりあえず聞こうと思ったのだが、そこには呆れるほどの光景が広がっていた。


「それで息子がね?」


「うわー! 可愛いですねー!」


 事務員と楽しそうに話す玄翁さんの姿がな!

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