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レベル差は絶対(テストに出るよ)



「《稲妻槍》!」


「っ!?」


 槍スキル《稲妻槍》を発動し、体が動くままにメリア目掛け投擲する。

 稲妻と銘打ってはいるが、ただ相手に向かって槍を一直線に投げるだけのスキルなので雷属性は付加されてはいない。

 更に追尾性能も無いので横に少しでも動かれたら外れてしまう低級スキル。動きの遅い魔物には有利だが、動きの速いメリアに対しては悪手だろう。


 しかし、隙を突いた今なら牽制ぐらいにはなると思われる。

 ちなみに投擲した槍はいつの間にか戻ってくる。その原理は知ってはならない。


「くっ!」


「そうら《スキップ》からの《石突き》!」


 突然投げられてきた鉄のグレイヴ〈伝説的〉に対して、間一髪のところで避けるメリア。

 やはり経験が足りないのか不意打ちに弱いようだ。そして、俺はその更なる隙を見逃さない。


 移動スキルである《スキップ》を使い、メリアに肉薄する。

 《スキップ》の副作用である移動酔いに嘔吐物感が押し上げてきたが、グッと我慢する。

 メリアは目の前まで一瞬でやってきた俺に驚き、行動が一瞬だけ遅れる。そこを見逃さず《石突き》を発動した。

 長柄の地面に突き立てる金具で攻撃するスキル《石突き》はノックバック効果が付加されており、重い敵以外は簡単に吹っ飛んでしまう。


 女性で身軽なメリアはいとも簡単に吹っ飛び、数回転がった後に止まった。

 予想以上にダメージがでかいのか、中々立ち上がらない。《石突き》はそこまで強いスキルじゃないのに。


 …………あ。


「す、すまん! やりすぎた!」


 重大なことを忘れていた。

 先ほどメリアが俺の鉄の短剣〈伝説的〉を弾き飛ばしたとしても、相手はこちらより何レベルも下なのだ。

 レベル差は絶対。例え弱いスキルでもレベルに見合ったダメージを相手に与えるのだから、この場ではやってはいけない。


 今のメリアのレベルは……すげぇ、二十九だ。

 って、感心している場合ではない。俺のレベルは鍛錬のおかげか一レベル上がって四十四。

 実に十五レベル差から繰り出されるスキルはさぞや響くだろう。


 慌てて駆け寄り、メリアを抱え起こす。

 腹に《石突き》を食らってしまったメリアは何度も強く咳込み、息を何とか確保しようと四苦八苦している。

 そんなメリアに対して、俺は出来るだけのことをしようと樫のワンド《伝説的》へと持ち替えた。


「《癒しの光・中》! 《リライフ》!」


 杖スキルである回復魔法と、徐々にHP(ヒットポイント)を回復させる魔法をメリアに掛ける。

 すると、咳込むことを止め、肩で大きく息はしているが苦悶の表情から穏やかな表情になった。


 危ない危ない。

 これでメリアを殺してみろ、俺が殺される。

 やっぱりダメだわ、どうしても貴族の姿を思い浮かべてしまう。


「済まない、つい……力が入ってしまった」


「いえ……私としては、願ったり叶ったりですわ……」


「なんだって?」


 メリアにも余裕が出来たところでもう一度謝罪を入れる。

 すると、苦しめた本人に向けて笑顔を向けたのだ。更に、コレを待っていたと言わんばかりの言葉。

 俺は理解できず、頭上にクエスチョンマークを浮かべるだけ。


 そんな俺に、メリアはもう一度微笑んだ。

 まだ苦しいはずなのに。


「先ほど、手を抜かずに手合いをすることをお断りになられましたが、今のは……様子見でも本気だったのですね?」


「……なるほど、似ているな、ロボ娘に」


「え?」


「いや、何でも無い。いつもの世迷言だ」


 そうか、メリアは俺が本気で戦ったことが嬉しかったのか。

 なんだろうか。この雰囲気がどことなくロボ娘に似ている、ような気がする。

 この、俺に何かをされても喜ぶ感じが、似ている。


「済まん。じゃあ、俺は本気で行く。けれど、寸止めするから」


「寸止め、でして?」


「あぁ、どうしても俺の本気が見たいなら、寸止めにする。それならメリアを傷つけることなく手合いをすることが出来るし解説できるだろ?」


「……よろしいので?」


 ロボ娘に似ているが、決定的に違っているところがある。

 無機物たるロボ娘は俺に対する向上心が無く、俺を害する物を全て赦さない。

 対するメリアは俺に対する向上心が底なしで、俺を越えて行こうとしている。


 そこまで俺と言う者を求められたのなら悪い気はしない。

 俺が必要とされていることが、嬉しくないわけがない。なにより、俺を師と仰ぐ物から尚更だ。


 ジャックと言う弟子を以前に持っていたことがあるせいか、俺はとことん鍛えてやりたいという思いが浮かび上がって来た。

 しかし、これで俺の本気を見せてしまって、負けてしまっては後が無くなってしまう。言い訳が出来なくなってしまう。


 だから、予防線を張ろうと俺の頭がフル回転する。


「でも、寸止めと言うことは、そこから繋がるコンボは止まってしまう。強力な合わせ技も見せてやることが出来ないから簡便な」


「……それは譲歩なのですね? 承りましたわ。このメリア、先生の好意を嬉しく思います」


「よし、だったら少し休んだらもう一度やろう。さすがに、完全に回復していないのはダメだ」


「うっ、わかりました」


 メリアは少しむくれたようなあざとい表情を俺に向けた後、少し悪戯に微笑んだ。




◆ ◆ ◆




「鍛冶屋、鍛冶屋……ありぃ? おかしいな……」


 白の国に放たれた定められし常命の者、玄翁レナ彼女は赤の国より綺麗に区分けされた首都で絶賛迷子中であった。

 港の朝市で出会った中年女性に書いてもらった地図を頼りに、寒い寒い外を彷徨っているのだが一向に辿り着けないでいる。

 目印となる建物や標識を見つけるまでは良い。しかし、そこから目的の鍛冶屋へ行くとなると難しい。


 既に履いているブーツは融けた雪により滲み込んでおり、外気にさらされた耳は真っ赤に染まっている。

 歯はカチカチと音を鳴らしているため満足に口を開けることすらままならない。少しでも暖かくしようと身を震わせ、口を開けて独り言を呟いているが時間の問題なのは明らかだ。


「うぅうぅうぅうぅう」


 凍えるような寒さと、一向に目的地に辿り着けない苛立ちに我慢の限界に達しようかというところ。

 しかし、ただ悪戯に時間だけが過ぎて行くだけ。手に入るのは滲み込んでくる雪解け水。戦果は忍耐力。


 けれども現実は非常。

 そんなところに助け船なんぞ出してくれる人なんていない。

 休日の午前中といえども、メインストリートから外れた場所には滅多に人は歩いていない。

 それもそうだ。休日で何の用事もないのに寒い寒い極寒の外に出て何かをしようと思う人は限りなく少ない。


 だが、彼女は聞いたのだ。

 だが、彼女は知ったのだ。


「……レナさん?」


「へ?」


 天使の存在を。


「う、うわぁああああん! ロボ娘ちゃーんっ!」


「きゃっ。来ていたのですね……って汚ねぇっ! 鼻水が着いてます! その他諸々の液体がががががががが」


 港の朝市で買えなかった鍋の材料を商店街の方で買ってきたロボ娘が偶々通りがかったのだ。

 彼女にとってその姿は雪山に遭難して哀れに思い降臨した天使そのもの。


 鼻から垂れさがる鼻水は寒さと嬉し泣きで増量し、それを余すことなく少女こと天使へ塗りたくる。

 それをされた少女は堪ったものではない。嫌悪感を隠そうとすることは無く、しがみ付いてくる彼女を必死にはがそうとするが驚異的な力により敵わない。

 こんなところで火事場の馬鹿力を発動することもないだろうにと、心の中で溜息を吐く少女だったが、やはり嫌なものは嫌なので突き放そうとする。


「私ね! 私ね! 何も知らない土地で自分なりにロボ娘ちゃんのところに行こうと人に道を訊ねていたんだけどぉ!」


「やめて、やめ、やめろ! マジでやめて下さい!」


「えがった! えがったよぉ!」


「聞いてやがりません……。仕方ないですね」


 日常生活に支障をきたすため、ロボットとしての驚異的パワーを開放して彼女を何とか剥がそうと試みるが、ギャグ補正か何の補正かは定かではないがびくともしない。

 珍しく力を使ったせいか顔に疲れの色が見え、肩で息をしている少女。その表情は嫌悪感満載である。


 そんな少女が最終兵器として使おうとしているものがある。

 それは“いざという時”にしか使ってはいけないと言う少女の主人から言われているものだった。

 それほどまで必死で、嫌だったのだろう。誰でも嫌だろうが。


「眼からビーム!」


「うぅえ!? あっつ! なにこれあっつ!?」


 追い詰められたジャッカルは凶暴だと良く言うが、少女はさながら火薬が敷き詰められた武器庫。

 かつて少女の主人を恐怖に陥れた最強の兵器に、さすがの彼女も耐え切れなかったのか咄嗟に背中へ回していた腕を離す。


 ちなみに放たれた熱線は彼女には当たらず、近くの地面へと吸い込まれたのだが……どう見ても融解してぼこぼこと泡立っている。

 目の前で一撃必殺の熱戦を見せられた彼女は堪ったものではないだろう。それほどに少女は必死だったのだ。


 それが果たして少女の主人が“いざという時”と認めるかは分からないが。

 それでも、この時は少女にとって“いざという時”だったのであろう。


 少女の表情がそれを物語っていた。

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