表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

ハートの国の住人達による噂話





「聞いたかい?」

「聞いた聞いた」

「また陛下が」

「眠りを妨げたからと駒鳥が」

「間違って白薔薇を植えた庭師が」

「トランプ兵もだって」


ひそひそひそひそ。


彼らは陰で囁き交わす。

その声は決して大きくなることはない。


「ジャバウォックの森へ使いに出された女官が行方不明というのは事実か?」

「事実さ! 次の日には逃亡の罪で女官の家族が処刑された」

「いや違う、一族郎党ジャバウォックの森に放り込まれたらしい」

「可哀想に。ジャバウォックの森に入って、無事に帰れる方が奇跡だというのに」


"ジャバウォックの森"


隣国との境に鬱蒼と存在するそこには、正体不明の魔物が出ると言われている。そこに装備も心得もない人間が一人で行くということがどういう意味か。

知っていて命じた彼女は、確かに残酷な血の女王(ブラッディー・クイーン)


「公爵夫人のところの赤ん坊、その首を刎ねたのも女王だという話」

「嘆き悲しむ公爵夫人に、白々しくも弔いの言葉をかけたそうな」

「首はまだ見つかっていないのだろう?」

「女王が隠し込んでいるのではあるまいな」

「ああ、恐ろしい」


所詮は風から風の噂話。

何が真実で何が捏造かなど、彼らには関係ない。恐怖と好奇心を織り交ぜた声で、好き勝手に話を広げる。


「侍女を全て絞首刑にしたというのは本当?」

「ああ、酷い有様だったらしい」

「おお、怖い」


口では怖い怖い恐ろしいと言ってはいても、彼らにとって死など身近なものだった。


「処刑人も大変だが、葬儀屋はもっと忙しかろう。何せ毎日のように死人が出るのだから」


女王の気紛れで日を空けず刑が処される。明日は我が身、何が女王の気に障るのかは分からない。

だが、それをおとぎの国の住民達は唯々諾々と受け入れていた。逆らうことなど言語道断。思いつくことさえない。


何故なら、当たり前のことだからだ。


女王の言うことは絶対。どれほど悪足掻きするにしても、実際に女王に命じられてしまえば逆らえない。

何故かなんて、疑うことすらしないのだ。それがおとぎの国の秩序なのだから。


それに…。


死んだ者の代わりなど、どこからともなく忽然と現れる。

毎日のように処刑が行われようとも、おとぎの国の住民はいなくなったりなどしない。その役割は知らない内に誰かに引き継がれるのだ。

昨日の隣人と今日の隣人が違っていても、彼らはまるで気にしない。どうしてなんて、聞くまでもないだろう。


そういうもの(・・・・・・)だから。


いちいち気にするような者など、この国で生きていくことは出来ない。女王の所行など、今日の天気程度の世間話でしかないのだ。


それに、女王よりも恐ろしい存在を彼らは知っている。


「最近、城が慌ただしいが」

「女王の命によってですよ」

「ジャックがまだ捕まらないと、大変ご立腹であるそうな」

「ジャックも怖い者知らずだ。女王陛下が作ったものを盗むなんて」

「その報いは当然受けたようだがな」


ハートのジャックが盗んだ、女王のタルト。

その行方を誰もが知らず、また誰もが知っていた。


女王の作ったものを誰かが食すなど、スペードのキングが許すわけがない。須く王の腹に収まっただろう。

女王が血眼になって捜そうとも、ハートのジャックは捕まらない。何故なら、彼は王直々に死を賜ったのだから。





スペードのキングは隣国の王だ。


その国に生きた民はいない。存在するのは、死した兵のみ。この世界の全ての死を知り、また操れる者。それが(スペード)の国の王だ。

自分の死が隣国への移住程度で済むのか、それとも地獄より更に深い場所に落とされるのか。死後の運命はスペードのキングの采配によって決まる。


死の王(スペードのキング)に従うことは、この世界の不文律。擦り込まれた本能。当然の帰結。


彼は何でも知っている。

彼には優秀な手駒が複数おり、その全てが王に忠誠を誓っているのだから。


チェシャ猫は公爵夫人の飼い猫ではない。(キング)の意向によっておとぎの国の全ての情報を集める監視者だ。

王が女王に執心であればあるほど、猫の仕事は多くなる。最近では、笑ってばかりもいられなくなったようだ。死後の世界でも白兎と一緒にいるために、これからも頑張るのだろうが。

気の毒な猫。王が遊びを止めれば、猫も面倒な役目から解放されるのに。


今、王が女王に出すちょっかいは、遊び半分といったところ。

彼が本気を出した瞬間に、女王は彼の物になる。そうしないのは、彼にその気がないからだった。


王は女王が憤る様を笑い、怒るところを面白がり、刃向かう姿を楽しむ。

そして、その笑顔を愛でるのだ。


女王の感情を乱すことが出来るのはただ一人、スペードのキングだけ。



それは、彼らが間違いなく知っていること。



この世界の頂点に君臨する、絶対的支配者。

そんな男に愛された女王は、無意識の内に王へ死を捧げる。


傍若無人な女王陛下。それでも誰も逆らわない、逆らえない。

何故なら彼女は、死を司る冥王(スペードのキング)の想い人なのだから。





美しくも我が儘で残酷な、死の至宝。

彼女だけが知らない。全ては彼の掌の上なのだということを。



そして、おとぎの国は踊るのだ。

死を統べる王の名の下に。








ハート(愛)、スペード(死)、クラブ(知識)、ダイヤ(金・財)


おとぎの国→ハート

死者の国→スペード

賢者の国→クラブ

商人の国→ダイヤ


トランプのマーク(スート)で見る力の強さは、スペード→ハート→ダイヤ→クラブの順


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ