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アルヴァンティア7

20××年.05月05日.土曜日.11時00分.異界の暗い森



11時ちょうど、僕は行動を開始した。

膝をついて腰を落としている待機状態のアルヴァンティアを立ち上がらせる。

全長10mの巨人はやけに背の高い森の中をゆっくりとすすむ。

僕のやる事はこの暗い森の中にたくさんいる黒いオオカミのロボットを全滅させる事。

無理かもしれないけれど、桐矢 礼奈さんやチヒロさんのような犠牲者は出したくない。

適合出来ないでゾンビになってしまうのは仕方ない。

僕が止めたくても止められないのだから。

でもオオカミに襲われて死んじゃう人は減らせる。

アルヴァンティアがあれば。


僕は乱立する巨大な木々を機体を滑らせるように走らせながら回避していく。

レーダーに映るオオカミは全方位を含めても10体程。


僕は前方に反応のあった5つのオオカミに狙いを定めてアルヴァンティアの兵装を選択する。

取り出したのはなんの変哲もないナイフ。

アルヴァンティアの兵装の内に数えられないナイフだけれど、こういう森の中とか障害物の多い場所だと取り回しが効いてとてま使いやすいと思う。

ナイフの本数はまだ数十本ある。

僕は狙いを定めて疾走した。


突然の接近に慌てて散開するオオカミたちの中心に突っ込んで一体目の脇腹に深く突き刺す。


「はぁぁっ!」


『グガガ』


でも、脇腹を突いた位では機能停止とまではいかなかった。


(レーザー兵器と同じ感覚で攻撃すると手痛いしっぺ返しがくるんだろうな…)


レーザー兵器では数体を同時に相手取れたけれど、肉弾戦ではこの前の一体一しか経験がなかった。

ナイフでの近接戦闘なんてのは始めてだから、感覚が掴めない。


だけど、外部装甲を貫き、内部装甲にも少なくないダメージを与えられたのかオオカミの動きは遅くて、僕の突き刺したナイフから抜け出せないでいた。


僕は空いた左手でオオカミを殴りつける。

それによって内部に致命的なダメージを負ったのか、オオカミは機能を停止した。


「時間がかかって先に僕が動けなくなりそうだよ…レーザー兵器使ってもいいかな」


『大気中の湿度が上昇しています。数時間後には雨が降ると思われるので問題ないないかと』


「なら、【蒼華銃】!」


目の前の空間が揺らぎ、白い砲身とグリップの部分が露わになる。

僕はそれを握りしめ、反転して突進してきた四体のオオカミに狙いを定めた。


連射性能に優れているビーム兵器の蒼華銃の

弾数は[300/300]。

森の中にどれくらいのオオカミがいるか分からないけれど、できる限り無駄な弾を撃つのはやめたい。

操縦桿を握りしめる力が自然と強まる。

十字のホログラフィックサイトが左右に揺れながら迫るオオカミに追いすがろうとしている。


…ピピッ


十字とオオカミが重なった瞬間、僕は引き金を引く。


カチッ。


キュィン…ーーーーーーーッ!!!!!


コンマ以下のエネルギー収縮を経て放たれた一線の光は寸分たがわずオオカミをぶち抜き、大した抵抗もなく背後へと突き抜けた。


「やった!」


『まだです。残る三体が迫っています。気を抜かないように』


「わ、分かった!」


僕は再び表示されるホログラフィックサイトに神経を集中させる。


一撃で落とされた仲間に動揺したのか、連携するように僕の狙いを逸らそうとしていたオオカミの動きがぶれる。

そして、重なる射線。

僕は操縦桿の引き金を引く。

それはアルヴァンティアの手とリンクし、砲身からは一瞬の収縮の後、一条の光が迸った。


ズガァァン!!


一体のオオカミは動力を融解させられて強制的に停止する。

残弾は[298/300]で、残る敵は二体。

二体であれば手こずる事もなく、僕は手っ取り早くレーザーを撃ち込む。


『傷率[000%]、残弾[296/300]、自動回復(オートヒール)に入ります。お疲れ様でした』


僕はゆっくりと感覚同化装置アシミレーション・システムを解除する。

あまり長時間つけておくと身体がなまっちゃいそうな気がするのだ。

あくまでそんな気がするだけで、メイは問題ないと言っていたけれど。


その後は今の事の繰り返しだった。

レーダーに映ったオオカミを蒼華銃で撃ち抜く。

損傷率はゼロとはいかなかったけれど二桁に のダメージを負うような事もなく、概ね上出来と言えた。

暗い森の中を歩き回り、レーダーに赤い点が映らなくなる頃には、時刻は18時を過ぎていて、辺りは薄っすらと暗くなりそう時間の経たない内に真っ暗になる事は簡単に想像できた。


「今日は何体倒したっけ?」


『125体です。森の大きさからすると撃ち漏らしもあるでしょうが、大方殲滅できたと思われます』


「だよね…流石にこれ以上いたら僕も逃げたくなるよ…」


五体ずつなど、少数のグループで行動している場合が多かったオオカミだけれど、時に十体以上の群れで行動している場合もあった。

そう言う時は僕が一方的に追いかけ回すのと違って戦闘になったりもしていた。

損傷率の主な原因はそういった大きな群れと交戦したからだと思う。


撃ち漏らしを倒したい所だけれど、

僕の体内のマナは既に三分の一を割り切っていて、これ以上オオカミの捜索を続けると、いざと言う時にマナ切れになってしまう可能性が高いとメイは言っていた。

なので仕方なく今日は休む事とする。


僕はこの森をでた後のことをメイと話していた。


「メイ、この世界に人はいるの?」


『それはこの世界に、という質問ですか?』


「あ、うん。そうだよ」


メイは僕の世界の人がいるのかどうか、という質問とこの世界に人間がいるのかっていう質問の二つ、どっちなの?って聞いてきたんだろう。


『はい。詳しい事はデータベースにはありませんが、少なくとも二足歩行の人型の生命体がいる事は確かなようです』


「そっか…」


この世界にも人がいる。

その中の誰かが僕たちを呼んだのだとしても、この世界で一人ぼっちじゃないのは無意識のうちに精神を痛めつけていた寂しさを大きく和らげた。


「もしこの世界の人達に会うとしたら、アルヴァンティアはどうするの?」


『この世界の人類の文明レベルはデータベースにあるハル様の世界で言う、中世に近いと思われます。ですが魔法が発達しており、それに加えて機械的な技術も取り入れ始めています。いわば魔法機械文明の初期段階と言えるでしょう』


「ま…魔法機械文明…」


『例えば、機械では動かなせない岩を魔法のみで動かすのではなく、機械に魔法陣を組み込み、力を増させて動かす。それによって機械と魔法を融合させ、更なる高みを目指す。それが魔法機械文明の興りです』


「すごい…」


凄いなんてものじゃない。

だったら例えばの話だけど、魔法で空を飛べるのだったらその魔法陣を翼をつけた乗り物に組み込めば物に乗って空を飛ぶという事も専門的な知識なんてなくてもできるってことだよね…

そうしたら魔法機械文明の初期段階っていっても僕たちの時代とそう変わりはないんじゃ…


『アルヴァンティアよりも劣りますが、駆操者の魔力を燃料とする人型戦闘兵器は存在します。つまりアルヴァンティアに搭乗したままでこの世界の人間に接触するのは得策ではありません』


やっぱり…というよりか、人が乗って戦えるロボットが存在する時点で僕たちの世界よりもそういった所は百年進んでいる気がする。


「…なら、どうすれば…」


『【形態変化(フォルムチェンジ)】を使用する事でアルヴァンティアを小型化させ、アクセサリーとして携帯する事が可能です』


携帯?形態変化(フォルムチェンジ)?アクセサリー?

どういう事かな…

小型化って言うのもよく分からないし…

なんなのだろうか…


『アルヴァンティアからアクセサリーへの形態変化(フォルムチェンジ)時のキーは【RebootOut(リブート・アウト)】。

アルヴァンティアに展開する場合は【BootOn(ブート・オン)】です。

小型化の場合は【外装適応(アダプテーション)】になります』


「…どれがどうなのかわからないよ…」


そういうと、『物は試しです』といわれた。

どうやらこのままコックピットの中で試すらしい。


『ではまず、RebootOut(リブート・アウト)からです。アルヴァンティアがハル様の身につけるアクセサリーとなるイメージを持ちながら発声してください』


「わ、わかった。RebootOut(リブート・アウト)!!」


声と同時にコックピットの中が光り出す。


「うわわわわっ!!」


それと同時に足場がなくなり、風が頬を撫でる。

どうやらコックピットから出たみたいだけど、僕は落下しているらしい。

目をつむったけれど、いつまで経っても衝撃は来なかった。

目を開けると僕の身体はゆっくりと落下していて、僕の着ているリアクタースーツの胸の辺りに、

首にかかったチェーンから伸びる青い結晶が繋がっていた。


「これは…ネックレス?」


『はい。これがアルヴァンティアの形態変化(フォルムチェンジ)です』


「わわわっ!!宝石が喋った!」


明らかにメイの声だったけれど、宝石から声が聞こえるという違和感にむず痒くなり思ったよりも声が出てしまった。

でもメイは気にした様子もなく、次の行動を促してきた。


『次は外装適応(アダプテーション)です。ハル様の体格に合った外装が展開される筈です』


僕に合った外装…強化外骨格(パワードスーツ)みたいなものかな?

だとしたらかっこいいのがいいなぁ。


外装適応(アダプテーション)!!」


もう慣れたのか、特に抵抗はなくキーを声に出す。

すると胸に下げていた青い宝石から光が弾けるようにして僕を包む。

そして揺らぎから僕の身体に合った白地に青いラインの入った外装が現れ、僕を包み込無用にして展開した。


キュィィィィイン…


瞳に緑色の光が灯り、ヘルメットに覆われたような感覚の僕の目の前にはたくさんの数値や文字が浮かび上がっていた。


「これが、外装適応(アダプテーション)?」


『はい。これが外装のデザインと機能です』


そういった後すぐに目の前に表示されたのは強化外骨格(パワードスーツ)の外装のデザインの立体画像と、その強化外骨格(パワードスーツ)に付属している装備の一覧や操作方法だった。

操作方法は基本的に僕の身体の動きとイメージ。つまり感覚同化装置アシミレーション・システムがないアルヴァンティアと思っても良さそうだ。

外装のデザインはアルヴァンティアとはまた違った人に近い姿形で、頭部は小型で鋭角なヘルメットのようだった。

手首から肘にかけては内部にアンカーが収納されているらしくすこし膨らんでいる。

手足は少し長くなっていて、全体的に大柄になっている。

全長は小型化したとはいえ、2.2mくらいはありそうだった。


「【エルヴィス】……?」


『名称はエルヴィス。遠中近距離に及ぶ攻撃手段をもつ万能タイプの強化外骨格(パワードスーツ)です』


「お、おぉ…」


この説明になんの疑問も浮かばないあたり、ハルは随分とこの状況に流されているのだろう。

そう感じずにはいられない会話であった。



僕はアルヴァンティアよりも格段に燃費が良いらしいエルヴィスを全身に纏い、

この世界の人を探す事に決めた。


「この辺りに村とかってある?」


『オオカミとの戦闘中にも探知はできませんでしたし、少なくともこの森の中には存在しないと思われます』


「だよねぇ、あんなオオカミがいるんだし人が住めないのも当たり前か…」


だったらどこから探せばいいのか。

僕が暗い森に入る前にいた荒野やサバンナ、草原にも人は見当たらなかった。

そうなると今度は他の場所に行ってみるのも良いかもしれない。


「取り敢えず入ってきた方向から真っ直ぐ、森を突っ切ってみようかな」


そうして僕は暗い森を抜ける事に決めたのだった。

まだ見ぬこの世界の人を見る為に。


「……この世界の人って人間だよね?」


『その質問は二度目ですが、この世界に二足歩行の人型の生命体がいる事は確かなようです』


足が三本あったり手が四本あったりしたら怖いからね。



気がつけば時刻は22時を過ぎていた。

僕は知らぬ世界に来てから二日目の夜を、

エルヴィスを纏った状態のまま木の上で過ごすことにした。

既に辺りは真っ暗で、エルヴィスの暗視機能をオンにしないとつま先も見えない。

木の上からの景色は真上に黄色い月と、青い月が見えた。


幻想的な双子の月は自ら発光しているのか、青色と黄色、異なった色を放っていた。

でもそれが幻想的な風景の主役となっていて、夜空一面の星さても脇役に見えた。


なぜ僕が木の上でここまでくつろげているのか、

それはオオカミとの数日の戦闘で、オオカミが木の上には登れない事が分かったからだ。


ぼけーっとしながらポケットからチュッパチャプスを取り出そうとするが、エルヴィスを纏っている僕の手は硬い腿のパーツにぶつかって金属的な音を響かせた。


(…あ、僕は今エルヴィスを装着してるんだった)


だいいち制服のポケットにいれていたチュッパチャプスは今頃アルヴァンティアの右脚部側面のハッチの中の揺らぎを旅している頃だろう。

今食べたいと思っていた欲求はむなしく空振りする。


(チュッパチャプスの為だけにアルヴァンティア出すのもバカみたいだし…)


今日はチュッパチャプスを舐めずに寝る事にする。

前みたいに寝る前に歯磨きができる訳ではないしね。


太い木の枝に腰を降ろし、うねる木の幹に背中をもたげる。

エルヴィスの中の温度は調整されていて、僕はすぐに夢の中に落ちていった。


20××年.05月06日.日曜日.07時01分.異界の暗い森



目を覚ますと、太陽が地平線から離れた場所に上がってきているのが見えた。

久しぶりの太陽…

そうだ、僕は今まで森の中にいて、昨日は月の見える木の上で寝たんだった。


太い枝の上で起き上がり、バランスを崩さないように立ち上がると視線がけっこう高い事に気がつく。

そこで僕がエルヴィスを纏っていた事を思い出した。


自分の手を見るとメタリックな青の光沢がスクリーン越しに見える。

情報の開示をすると僕の腕の情報が頭の中に入ってくる。

エルヴィスやアルヴァンティアはデータベースに蓄積された情報をこうやって開示したり、逆に読み取って情報を蓄積する事も可能らしい。


木の上から僕が行く方向を覗く。

何も見えないけれど、この先に何かあるのだろうか。


『ハル様』


「ん。いこうか」


メイは僕の耳元に適度な音量で声をかけてくれる。


『飛行しますか?』


「あぁ、そうだね……ん?……飛行?」


『エルヴィスはアルヴァンティア同様、背部の【メインスラスター】、及び姿勢制御や軌道の微修正に使用する各部位の【サイドスラスター】などで飛行が可能です』


「…え?…そうなの?…知らなかった」


『…障害物の多い森の中では不必要と判断したので…』


案外メイっていう人工知能は抜けているところがあるのかもしれないな。

でも、空が飛べるってのは凄い魅力的だな。

あと、アルヴァンティアは自重の関係で長時間の飛行は出来ないらしい。

というより、飛行に使うのは空気中のマナらしいのだ。

スラスターの横に取り付けられた【変換器】が空気中のマナを吸収してスラスターを点火する魔力に変える。

だから同じ場所には長時間留まれないし、あまり遅い速度ても飛べない。

そうなるとその空間のリソースがたりなくなってラスターが機能しなくなるらしい。

つまり大食い。

無理やり空気中のマナを燃料にしなければ駆操者は数秒と持たないらしく、この世界の人間はその技術をまだ持たないらしい。


だから、飛行すると目立つ。

兎に角目立つらしい。

だから僕が飛ぶのは森を抜けるまで。

後はエルヴィスを装着した状態で歩いていくのが1番良いのかもしれない。

メイもそれについては賛同したので、森を抜けるまでは飛んでいき、森を抜けたらエルヴィスを装着したまま歩く事にした。


『メインスラスター正常起動を確認。随時サイドスラスターの微調整を開始』


飛んでから誤作動発見。ハイ墜落ではダメなのだ。

だから最初に飛ぶ時と時間に余裕のある時はこうやって機能が正常に作動しているかの確認を取るらしい。


『システムに異常なし。全スラスターは正常に作動します。操作方法は画面に転送します』


空中での姿勢を常に重力に沿って保つ【自動姿勢制御】はサイドスラスターによる微調整によって常に体勢を整えてくれる。

アルヴァンティアよりも小柄な体躯のエルヴィスは飛行時の操作がしやすいらしいので先にこっちで飛行する事に慣れておくのもいいかもしれない。


『エルヴィス、飛行準備完了』


「メインスラスター。点火!!!」


同時に背部から異常なほど昂ぶった獅子の咆哮が轟く。

メインスラスターに火が灯ったのだ。


轟轟轟轟轟轟轟轟!!!!!!


重力の枷を振りほどくように、身体が僅かに浮かび上がる。


小刻みな噴射音が辺りの森に響く。

それは自動姿勢制御によるサイドスラスターの補助だ。


『自動姿勢制御、異常なし』


ゆらゆらと不確定な動きで浮遊していた機体はやがて断続的な噴射音によってその空間に固定される。


『エルヴィス、飛翔』

「エルヴィス、翔べ!!!」


機会音声と本物の声帯を震わす声が重なった。

同時にその場にいた機体は一瞬で前に飛び出す。

その身をも焦がすような爆発的な推進力を持って。


(………ぐ……ぁ……ぁぁっ!!…身体がっ…)


エルヴィスが処理しきれないGが身体にかかる。

生身の身体でこのGを受けたら多分身体は持たなかっただろう。


「っぁっ!!」


大空に躍り出たエルヴィスは加速を終え、安定した軌道にはいる。

胸部の(コア)の駆動音が心臓に伝わる感覚を味わいながら、僕はついに重力の枷から抜け出した事を理解した。


眼下には真っ黒な木々が地面を隠すように広がっている。

ずっと先まで…

でもその先、森の終わりから更に先に目を向ければ、そこには明らかに人の暮らしているであろう城のようなものが見えた。


「あれは…お城?」


『…大陸に存在する人類の国家の一つと思われます』


「…国…お城があるって事は…国王とか?」


『君主制、つまり王の支配する国家でしょう』


「めんどくさそうだね…どうする?乗り込む?」


『穏便にいくとしたらエルヴィスは待機状態にして生身で行くのが得策でしょう』


「だよねーまぁ、とりあえずいってみようか」


そういう事で、僕はお城のある国に向かって飛ぶ事にした。

背部のメインスラスターが機嫌良さげに唸りをあげ、各部位のサイドスラスターが断続的に噴射音を轟かせながら上昇、下降、縦に旋回、様々な軌道で操縦していく。

それをやるたびにおえっ。となるけれど、そこは気合でなんとか堪えつつ慣らしていく。

次第にそれに慣れてくると、他に目線がいくようになる。

時折空に浮かぶようにして飛んでいる鳥達は悠々と飛翔しながら何処かに飛び去っていった。

僕はその光景を頭部のホロモニター越しに眺める。


そして数分後、森の終わりに到達した。


『どうでしたか?』


「凄いね、慣れてからは楽しかったけどそれまでは大変だったよ」


『それと並行して戦闘をする場合もあるので操作に慣れるのは必須ですね』


まぁ、慣れればなんとかなりそうだし、実際空を飛べる人型戦闘兵器はまだこの世界ではいないみたいなのですぐに使う事は無いだろう。

そうして僕はエルヴィスに搭乗したまま徒歩で目的地に向かう事にした。

生身で歩くのは大変そうだからね。


背部のメインスラスターを噴かしながらゆっくりと地面に向かって接近する。

各部位のサイドスラスターを噴射させ、地面に着地すると同時に各関節が力の抜けたように弛緩した。


シュー…


全体が弛緩しきる音に僕の緊張も糸がきれたようにたわむ。

そして白地に青いラインの入った綺麗な外装の機体はだらしなくその場に大の字であおむけに倒れた。


『何をしているのですか…』


メイの機械的だけれどどこか呆れたようにも聞こえる声を聞きながら、僕は心地よい風を浴びたくなって頭部の装甲だけを外した。


「ん〜休憩かな…」


『確かに慣れない機動で多少の疲労があるようなので数分の休憩は得策でしょう』


そこで僕は気がついた。

よく考えるとアルヴァンティアとエルヴィスは同じだから、エルヴィスの状態でもチュッパチャプスってだせるんじゃないかな…


「ねぇ、メイ。アルヴァンティアにしまったチュッパチャプスって取り出せるの?」


『可能ですが、食事でしたらもう少し栄養価の高「お菓子だからご飯じゃないよー」…了解しました』


そういった後すぐに、僕の目の前の空間が揺らいで制服のズボンが出てきた。

僕は寝転がったままそれを掴み、ゴソゴソと中を漁って一本のチュッパチャプスを取り出した。

これを舐め終わったら何処かでご飯を探そう。

因みにランダムで取り出したチュッパチャプスは焼肉味だった。

無償にお肉が食べたくなったけれど、取り敢えずは舐め終わるまでは空を眺めてぼーっとする事に決めた。

しばらくして、チュッパチャプスを舐め終わった僕はゆっくりとエルヴィスの上体を起こした。

それに伴い胸部の(コア)がゆっくりと唸りをあげる。

音が次第に大きくなるにつれて、僕は頭部の装甲をおろした。

装甲が顔を覆うのと同時に目の前の視界がクリアになり、目の前に飛び出してくる様々な報告や起動時の不具合などを処理して、僕は立ち上がった。


「行きますか!」


『昼食はどうしますか?』


「探しながら歩こう!」


『了解しました』


地面に生えている足首程度の高さの草を踏みしめながら道無き道を進んでいく。

次第に体内のマナは増えているのか、今の所は全くもって元気だった。


しばらく歩いていると、乾いた土色の地面が一直線に続いている場所を見つけた。


「…もしかしてこれって…道?」


『そのようですね』


どうやら本当に道だったみたいだ。

しっかりと踏み固められた土の道は多少でこぼこしてたけど、エルヴィスの前では特に意味をなさなかった。


道を真っ直ぐと歩きながら周囲を見渡す。

左右には何処までも続いていると錯覚させる草原が広がっている。

その所々には黒い点があった。

多分、突き刺さった岩のようなのだ……が…


「って!…亀じゃん!!」


『亀ですね』


「食べれるかな…」


『殺ってみなければ分かりませんね』


「うん!……ん?………なんか物騒な…」


『早くしないと逃げてしまいますよ?』


逃げても別に追いつくと思んだけどなぁ…

メイって本当に人工知能なのかな?

でも人工知能がみんな感情がないって訳じゃないだろうし…

でも最初は全くもって感情なんて感じられなかったし…

メイも成長するのかな?

ってこんな考えてる暇があったら身体を動かさなきゃ。


(コア)の駆動音が静かに唸りをあげ、

僕はゆっくりと駆け出す。

そして装備の一覧から最も適した装備を取り出す。

あの硬い甲羅を破れるだけの一点集中の攻撃手段。

光学兵器【輻射誘導放出光増幅砲(レーザー)】の一つ。


【ブルーシュトラール】

特徴は二つの細長い長方形の板を重ねた様な形状をしている。

全体は白いカラーリングで、両サイドに一本ずつ蒼いラインが引かれている。

弾数は[36/36]で、高威力で遠距離用の兵器であるが弾数は少なめ。


だいたいこんな感じだろう。

僕はそれを表示されるマニュアルに従って操作していく。

操縦桿にこもる力は自然と強まるが、まだ引き金は引かない。

足を止めて片膝をついて腰を落とす。

腰の辺りに抱え込む様にしてブルーシュトラールを構える。外側のサイドに取り付けられたブルーシュトラールのグリップの握りを確かめながら、僕は表示される十字のホロサイトを巨大亀の甲羅のゴツゴツとした山の付け根に狙いを定める。

停止した敵をロックオンしたホロサイトのブレが収まると同時に、僕は操縦桿から飛び出す引き金を引いた。


一瞬、小さくエネルギーの収縮音がする。

その直後、コンマ以下の速度で砲身から放たれた光の筋は跡を引きながら巨大亀の甲羅をいともたやすくつらぬい…


た。

と、そううまくはいかなかったのだ。


ほんの少しだけそれたレーザーは甲羅の凸に当たり、戦車の装甲の様に弾を逸らす役目を果たした。

でも、それでどれだけ巨大亀の甲羅が分厚いのかが分かった。


「な!?凄いかたいのかな!」


『ブルーシュトラールを弾くとは相当の硬度ですね。重要なデータです』


「いや、こっちくるんだけど!、どうしたらいいの!!」


流石に危機を感じたのか、巨大亀が大きく太い脚や首を覗かせ、僕を見つけた途端にあの不快な声で叫んだ。


「ゔぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!」


相変わらずの不快な声だけれど、二回目ともなると多少の耐性もつく。

さほど気にせずに突進してきた巨大亀にホロサイトをあわせる。

次は頭だ。

あれだけでかくても脳みそをやられたら多分死んじゃうだろうし、甲羅みたいに硬くなさそうだからな。


脚が短いからか、巨大亀の身体は殆ど揺れない。

狙いをつけやすいその巨大亀の頭を確実に打ち抜けるようにタイミングを見計らう。


200m、150m、100m、ノロそうな外見からは想像もできない速さで突進してくる巨大亀の目を見つめながら、ギリギリの距離まで粘る。

万が一頭部があの距離じゃ貫けない甲羅と同じような硬度だったら外したら大変だからね。


50m。


今だ。

僕は即座に引き金を引き、それは一秒の遅れも許さずにエルヴィスに伝わった。

一瞬の収縮、光が収束し一条の光が空気を焼き切る。

それは完全に怒り狂った巨大亀の頭部を確実に貫き、巨大亀は糸のきれた人形の様に地面に腹を打ち付けた。


ズガガガガガガガガガッ!!!!


地面が巨大亀のお腹を削る音がする。

自分の勢いを止められなくなった巨大亀の通った所は摩擦で焼ききれたお腹から流れた血だらけで大変な事になっていたけれど、僕は甲羅をどうするか悩んでいたので柔らかいのがお腹の部分だと分かっただけで良しとする。

エルヴィスの出力に無理を言わせてなんとか巨大亀をひっくり返して、取り敢えず短剣でズバズバと捌いていく。


そうして今日のご飯は巨大亀づくしとなった。


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