アルヴァンティア11
20××年.05月07日.月曜日.15時47分
時は僅かに遡り、ハルが王城を脱出した後の事。
漫画同好会の部室では4日間の捜索を経て混沌さが増していた。
その部室は明らかに開き扉なのに実はそれはフェイクでスライドしなければ空かない扉、という悪戯の産物や幾何学的な模様や謎の資料が貼られたボード、やけに豪華な椅子など、正直言うと訳のわからないものがひしめいているが、その協調性の無さも今日はなりを潜めていた。
「ふふふ、4日間の捜索及び、エージェント達による情報収集によってかなりの光明が見えてきた」
やけに豪華な椅子に腰掛けている身長170cmに及ぶ高身長の黒髪の大和撫子。
真枝 希咲
彼女こそがこの漫画同好会の顔であり、常人からした3歩も4歩もイかれたキャラを地で行く都立秋春高校の美人なのに中2病で残念な人代表である。
キュ、キュキュキュ、キュー…
ホワイトボードに無言で達筆な文字を書き記すのは既に書記と化したゾンビ大好き少女。
美波 莉緒
彼女は真っ白な肌と肩口で切りそろえられた黒い髪が不思議な雰囲気を醸し出している。
それを無口というキャラが際立てる為、学友も少ないが、クラスではキャラが濃いこともあり、マスコット的なキャラにいる。
「ふっ、相変わらずの達筆。ご苦労。今回の議題は先日に引き続き【ハルの捜索】だ。異論のあるものは?」
異論のあるものなどいない事は誰もが知っているが、希咲は形式を大切にしたいのだろう。
それに僅かに眉を寄せたのはハルの親友として周知されている、外見ヤンキー少年。
井之 友平
制服を着崩して髪を明るい茶色に染めていたり、ズボンを腰パンにしていたり、一見ちゃらちゃらしているように見えるが人の悩み事や相談事に親身に接してくれるといった一面も見せる彼は、目元に特大のクマを作り、充血した目で悠々と豪華な椅子に腰掛ける希咲を睨んでいた。
「おい、そんな前置きは良いんだ。頼むからハルの事についてエージェントが得た情報を教えてほしい」
先日の棘はなりを潜めているが、どうしても苛立ちを隠せないのか貧乏ゆすりが止められないようだ。
「まぁまあ、落ち着きなよトモヘラくん」
「俺はトモヒラだ!」
「はいはい、トモヘラくんは落ち着いて。ところで希咲先輩。私も独自のルートで少し話を仕入れてきたんだけど、情報を纏めルートで作業は早く始めた方がいいと思いますよ?」
僅かに幼さを残す顔立ちや、軽い口調。
学校にいるにも拘らず私服でいるといった特徴のある少女。
エージェント3 木原 麗華
今回は真っ黒なパーカーを身に纏い、
太もも上までしかないGパンから覗く健康的な脚を椅子の下で組んでいた。
今日は赤いニット帽をかぶっている。
そんな麗華は、言葉に合わせて希咲にウインクをした。
「そうだな…ならば、各個人が持ち寄った情報も合わせて、真実を突き止めるべく、議論を始めよう」
「…現時点でハルを追いかける作戦…立てられる?」
美波は希咲に縋り付く様に語尾を僅かに上げた。
「うっ、まだ議論は始まっていない。個々の情報を寄せ集めた時点で始めて結論が出る。それまでは待つが良い…まず、エージェント1からの情報だ。2日前に突如として自宅に帰宅したとされる赤根 千尋だが、桐矢 礼奈のように完全に記憶が抜け落ちている訳ではないようだ」
ガタン!
「本当か!なら!その子から話を聞けば!」
その言葉に友平は過敏に反応し、椅子を後ろに倒す勢いでテーブルに乗り出したが、それを麗華が止めようとする前に、希咲が制した。
「しかし、赤根 千尋に5月1日の部活以降から帰宅までの記憶は無いようだ。エージェント2も接触を敢行したようだが、嘘を付いてるようには見えなかったらしい」
「くっ、そんな…」
その、友平の反応に希咲の口角が僅かに釣り上がる。
「だが、一つだけ、得た情報がある。それは」
「…それは…」
続く言葉には美波も流し読みをしていたであろう、逆さの本を下ろして耳を傾けた。
「ハルの写真を見せた瞬間、僅かに目が泳ぎ、何かを考え込むような仕草をとったらしい」
「それが導く答え…」
瞳を閉じた美波の頭が凄まじい速度で回転しているのか、漫画同好会兼オカルト研究会の部室は一瞬の静寂に包まれた。
瞳を開いた美波の仮説は、この部室にいる面々でなければ、真っ先にあざ笑うものだった。
だがオカルト研究会やハルという、日頃から不思議な存在と関わってきた親友にとって、それはすんなりと受け入れられた。
「赤根 千尋は無くした記憶の中で…ハルと接触した可能性がある…」
「そんなこと…あるの?」
唯一、麗華だけが僅かに飲み込み切れていないようだったが、周りのメンバーの真剣な表情を見て、僅かにため息をついた後表情を変えた。
「私もその可能性に辿り着いた。そして、続いて上がった情報が、それを決定付けた」
バンッ!
そう言った後、希咲は僅かに赤みがさした頬を隠すことなく、さまざまな感情の入り混じった高ぶりを一枚の写真とともにテーブルに叩きつけた。
それは、ある公園から、1キロと離れていないなんの変哲もないありふれた道路の写真だった。
「…これは…」
いちはやく何かに気がついた美波が目を見開き、次にエージェント3として日頃から情報を仕入れている麗華が組んでいた脚をほどいた。
そして、遅れて写真を見た友平は徹夜で思考能力の落ちた脳を必死に稼働させて、写真を凝視した。
「ゾンビ…?」
「これはトモヘラにも先日説明した、ゾンビに関する資料だ。分かるか?このゾンビの顔を、よく見てみろ」
そして希咲は、
「そして、もう一枚。とある病室でエージェント2が盗撮した写真を」
何かを見つけた子供の様に、言った。
「どうだ?」
一瞬の静寂の後、
「そんなっ!?」
一番に理解した麗華が驚愕に椅子を立ち上がりアイプォンを操作して情報の裏どりを始めているようだった。
「エージェント達に連絡を取っても、これは事実だ麗華」
「そ、そんなことが、あり得るのか?」
「…ゾンビが…ゾンビが…」
友平も、ゾンビに対する深い知識を持つ美波ですら驚愕していた。
「そう。我々はこう結論付た。何らかの理由によって記憶を無くす事で、ゾンビは、程度は違えど、大まかには行方不明から発見までの記憶を失うと。例外があるが、現在最も有力な仮説はこれだ」
「そして、赤根 千尋は記憶を無くしている空白の期間で、ハルに接触していた可能性が高い。そうなると、ハルは何らかの理由でゾンビであった赤根 千尋に行方不明期間中の記憶を渡され、それに巻き込まれたこととなる」
「じゃあ…」
いちはやく何かに気がついた美波が、その答えを言おうとして。
「まさか、追いかけるの?」
唯一僅かな常識を残す麗華が遮った。
それに間髪入れずに答えたのは、やはり親友友平だった。
「俺たち以外に、だれがハルを助けられるんだ?」
「そう、この結論に辿り着いた時点で答えは一つだけ。我々は鷹梅 春哉を探しに行く。その先でどのような困難が待ち受けていようとも」
「…貴方は無理してこないでもいい…」
答えに辿り着いてしまったのなら動かないのは逃げる事と同じ。
希咲はそう言った。
それは言い過ぎだと思ったが、麗華の中で美波に言われた台詞がひっかかった。
「待ってよ。美波先輩。私は無理なんかしてない!希咲先輩が行くなら私も行く!エージェントとしてこの同好会に誘ってくれた希咲先輩がいなかったら、私どうしたらいいの…」
今までのおちゃらけた雰囲気などない。
そこにはついこの間まで中学生だった少女がいた。
「…ごめん…言い過ぎた」
「うん…」
美波も無表情ではあったが、少し済まなさそうな顔をしているように見えたと友平は後に語る。
「ならば決まりだ。我々はゾンビと接触する。政府よりも早くゾンビが現れたことを察知できる範囲は限られている。エージェント1.2の監視するこの街と隣町程度が限界だが、調査の結果、この地域でのゾンビの目撃率が他のどの場所よりも高いことが判明した。つまりこれは」
「…賭け」
ごくり…
4人の内の誰かが、唾を飲み込む音すらも全員に聞こえるほどに、静寂が空間を支配する。
時刻は既に18時を回っていた。
窓の外に見える空が僅かに夕暮れに染まり出す。
そんな中で4人のおかしな集まりは、ハルの消えた非日常を追いかけようとしていた。
20××年.05月07日.月曜日.15時10分.異界の草原
そして、希咲達がハルについて集め情報を整理する少し前。
当の本人はそんなことなどお構いもせず、
またハルらしいバカなことを思いついていた。
「ねぇねぇ、メイ」
『なんでしょうか。ハル様』
耳元に響く僅かに機械じみた音声が、僕の言葉に返事をくれる。
それだけで僕はこの世界に一人きりじゃないと思える。
「基地欲しい…」
『必要ないと思われます』
「うっ」
コンマ以下で否定されたけれど、今日の僕はそれくらいで諦めるような軟弱な奴じゃない。
僕は目の前に広がる真っ青な海のような空を流れる雲を目で追いながら、もう一度メイに話しかけた。
「ねぇねぇ、メイ」
『基地は必要ないと思われます』
「拠点とか、欲しくない?」
『…確かに…生活拠点と呼べるものは、自作する事もいいかもしれません』
「うし!なら、あの森の横に家を作ろうよ!もうアレク…アレ…」
『黒き敵対者ですね』
「そうそう、それももう殆ど森の中にはいないみたいだし!」
『一番警戒するべきは人間でしょうか…ですが、その場合人里から離れ過ぎている為、定期的に王国に情報収集などをしに行かなければならないと思われます。それに姫様の処刑は刻一刻と迫っている筈です。拠点はその件が片付いてからでも遅くないと思われます』
「うぐ…言われてみればその通りだった…」
僕としてはリリア様を助けたいと思う。
あれだけいい人を放っておいて、処刑なんてされてしまったら大変だ。
それに、僕の中ではもう友達で、
人生に花を添える仲間なんだ。
見捨てることなんでできない。
「スラスターをさっきみたいな速度で飛ばしたら、どのくらいかかるかな?」
僕はエルヴィスを纏ったままで、僅かに首を王城の見える方向に向けた。
遠い先に僅かに見える薄い塔のような物が王城だと思う。
『リミッターを外せば1分もかかりませんが、衝撃波で町並みの大半は破壊され、機体も無事では済まされないので後の飛行までに時間を要します。リミッターを外さなければ五分程度でつきます』
リミッターを外すのは本当にもしもの時だけにしようと心に誓った。
でも、外さなくても五分で着くのならば僕はそれまでに力をつけておいて方が良いのかもしれない。
「なら、それまでは僕は戦うことを磨いていた方がいいかもしれないよ」
『そうですね。すぐに処刑される様な雰囲気では無かったですし、王国に再び侵入し姫様を救出するとなると、王国に居たあの機体とも戦うことになる可能性が高いですからね』
城門や城下町で見たあの巨大なロボット。
巨大な剣と盾を持つあの人型戦闘兵器と、僕は戦うことになるかもしれない。
そして、その結果相手の兵隊さんを殺さなければならないかもしれない。
でも、何処か懐かしくも思えた。
前の世界で、好きなロボットのフィギアを触っていた時に感じた違和感。
僕の感覚に不思議とフィットした生物的なフォルムの金色のロボットフィギア。
なんだろう。
僕の頭なのに、僕が理解できてない場所があるような、記憶にわずかな靄が…
『どうかしましたか?』
僕の思考はそこで中断されて、慌てた僕は咄嗟に首を振った。
そしてふと森を見てひらめいたのだ。
「だ、だったら、森の中に敵を全部倒そう!」
そうすればもうこの森に呼ばれる人も死なないし僕も戦う力を手に入れることができる。
そうすればあのロボットともいい戦いが出来る筈だ。
対人型兵器戦は経験したことがないけど、僕の何処かの、箱に閉ざされた領域が鍵のように張り巡らされた鎖を鳴らす音がした。
『ハル様はお優しいのですね』
どの部分に対して言われたのかは分からなかったけど、その言葉には機械の音声じゃない、確かな感情を感じた。
アルヴァイアのAIはかなりの凄い奴らしいと僕は合点した。
「じゃ、メイ。 いこう?」
『はい。何処までも着いてゆきますハル様』
「【BootOn】!!!」
■□■□■
『かなりの数です!残りの敵が総攻撃を仕掛けてきているようです』
「ぐっ、どうすれば…」
『損傷率[056%]。左腕に重度のダメージ。関節の駆動が停止。戦闘中の自動回復では修復不可能』
迫り来るアレクォーズの数は30を超えている。
連携を取って木々の合間から迫り来る敵に対してなすがままになっていた。
メイの報告によって、アルヴァンティアのダメージが50%を超えてしまったことを記す。
スクリーンの端っこに常に映し出されていた損傷率にさえ気がつかないほどに僕の視野は狭くなっていたらしい。
思えば、僕のアルヴァイアには防御機能が無い。
今思ったことなのでメイ聞く余裕は無いけれど、それは昔誰かに聞いた攻撃こそが最大の防御ということわざの通りなのかもしれない。
そう思い、僕は残った右腕でさっきのダメージで取り落とした蒼華銃を握った。
『ハル様…?』
「メイ、戦ってる間に右腕を治すことはできる?」
前に無理だと言われた事だけど、何と無くできるような気がした。
『8割の部位の起動を停止させれば、理論上戦闘中でも空間のマナのリソースが尽きずに自動回復が可能です。しかし、8割の部位を動かさないと言う事は核と蒼華銃を握る腕しか動かせません。実際には不可能でしょう』
「でも、それを教えてくれたってことは、やってみれば結果は変わるかもしれないの?」
僕は、メイの答えを聞く前に右腕と核以外を停止させた。
腕と胸以外がシルバーのメタリックな装甲に色落ちしていく。
ただの金属の塊に成り果てたアルヴァイアを見て油断したのか、数体のアレクォーズの動きが止まった。
僕はコックピットの中で操縦席にゆったりと座り込み360°を移す僕の周りを見渡した。
そして全ての敵を視認してロックオンする。
アルヴァイアの探知範囲は狭めれば狭めるほどに精度を増す。
僕は今、その探知範囲を10kmから10mにまで狭めた。
千倍もの探知精度は、もはや全方位を上空から見降ろす神の視点のようにアレクォーズを俯瞰した。
それに驚愕したのは、メイだった。
だがAIであるが故に表情などというものはなく、声を出さなければそれはハルには気がつかれなかった。
(ハル様は…やはり…)
僕は視界の端を駆け巡る幾つもの十字線を凝視する。
そして、ただひたすらに自分の腕と同化したアルヴァンティアの腕を動かし、その十字線がホログラフィックサイトをと重なった瞬間、握りしめた操縦桿の引き金を引き絞る。
….カチッ
コンマ以下の光芒の収束を経て砲身からほとばしる青い閃光が線を引く。
ーーーーーーッ!!!!
それは動きを止めたアルヴァンティアを見て油断していたアレクォーズの一体を粉々に引き裂いた。
『残弾は[130/300]です』
どうやら、最初に無茶苦茶に辺りに乱射したのが今になって響いてきているみたいだ。
残りは130発。
単発の銃だけれどこの苦境を凌ぐには足りない。
『左腕の損傷率は[085%]まで自動回復完了。[050%]を下回れば最低限の稼働が可能となります』
僕はそれに頷いた。
後、35%粘れば良いのだ。
攻撃は最大の防御。
その言葉と同時に何と無く僕の中に浮かんだのは、刀だった。
片手で使うのはまだ未熟。
メイにも僕の操作技術だと、片腕で刀を使っても周囲の木を切り倒すだけでかなり魔力を奪われると言っていた。
なら、もう片方の腕が治るまで僕は銃に頼る。
全ての感覚を銃に託す。
アレクォーズをロックオンしている十字の印はもう目で終えるくらいに集中してきた。
そして、ホログラフィックサイトにアレクォーズが映り込んだ瞬間。
カチッ
ーーーーーーッ!!!!
僕はまた引き金を引く。
それは真後ろから迫る敵も例外ではない。
迫ると同時に感じる無機質な寒気。
殺気を向けられていると知るのはまだ先の事だけどそれに気がつくようになってからは、僕は背中を傷つけることが無くなった。
カチッ…カチッ…
ーーーーーーッ!!!!
ーーーーーーッ!!!!
一度外してもすぐに追撃の2発目を間髪入れずに撃つ。
額を融解させ赤い金属の液体を流すアレクォーズが膨れ上がり爆散すると同時に、
脇腹をつらぬかれたアレクォーズと腹部に穴を開けたアレクォーズが重力を思い出したように地面に引き摺り下ろされる。
そして、そのアレクォーズの死骸にもう一度弾丸を打ち込むことで、飛び越えて襲ってこようとした個体を巻き込んで爆発した。
『残弾は[122/300]です。残存敵数は25』
「はぁ、はぁ、はぁ…」
僕は、想像以上に精神がすり減るのを感じた気がした。
体内のマナにはまだ余裕がある気がするのに身体が疲れたように動かないのだ。
『過剰な集中は体力さえも蝕みます。気をつけてください』
「あ、ありがとうメイ」
僕はひたすらに引き金を引く。
そして7体目のアレクォーズを鉄くずに変えた時にメイからかけられた言葉に反射的に全てのスイッチを切り替えた。
『左腕の損傷率は[049%]まで自動回復完了。アルヴァンティアの各部位に致命的な異常無し…』
「『アルヴァンティア!起動!』」
ヴィィィィィィィン…
起動の言葉と共に、スクリーン上で赤く染まっていた各部位が青く切り替わる。
同時に、360°から見渡せるコックピットから見える左腕の部分が、次第に青地のボディに黒い色彩が添えられていくのが見えた。
『アルヴァンティア。正常に稼動しました。各部位に損傷がある為、安全面から出力は[035%]に固定』
「分かった。ありがとメイ」
『AIとして当然の行為です』
顔があったら絶対ドヤ顔してるんだろーな。
なんて思ったけれど、そんなやり取りも好きで、僕は肩にこもっていた力を抜いた。
「メイ。裂蒼壱型を頂戴」
『了解しました。兵器選択から【裂蒼壱型】を選択』
選択完了の声と同時、腰の辺りに揺らぎが生じた。
ハルの新しい戦いへの望み方を祝うように、
ハルの心に共鳴した裂蒼壱型は鞘に見立てた腰に位置する場所に歪みを作り出したのかもしれない。
キィィィィィン
抜刀のポーズも見よう見まね。居合の構えも見よう見まね。
でも、腰から抜き放たれた裂蒼壱型は驚く程に澄んだ音を暗い異界の森に響かせた。
柄を握り締めた右腕に添えるように左腕を持っていく。
そして僕の目の前を通り過ぎようとするアレクォーズの一体を袈裟懸けに斬り裂いた。
「グガッ……グガガゴ……」
上半身と下半身を真っ二つに斬り裂かれたアレクォーズの身体が一瞬で膨れ上がり、暴風とともに爆発を巻き起こす。
僕は半歩後ろに下がり、爆風でアルヴァンティアが傷つくのを防ぐ。
そして巻き上げた土煙が地面に落ちる前に、僕は一気に前に進んだ。
煙をアルヴァンティアが切るように進む。
『ハル様は、どうして戦うのですか?』
AIのメイにしては、タイミングを考えないでこんな事を言うと思わなかったので少し驚いた。
でも、僕は背後から鋭い鉤爪を振り下ろしてきたアレクォーズを掬い上げるように斬り上げ爆散させる。
「戦うのに、理由なんてないよ」
最初は楽しそうだなって思ってたけれど、
人を殺すことを知った。
ただ楽しくロボットを動かすだけが戦いじゃないと分かったのだから。
「僕は気まぐれなんだ。リリア様を無事に助ける為にも戦わなくちゃいけないからここで戦うんだ」
それは、辻褄合わせの口実に過ぎない。
本音は…
「それに僕は、最初にアルヴァンティアを見た時のドキドキが忘れられないんだ」
迫り来るアレクォーズは、既にアルヴァンティアの剣閃の元に伏せている。
残るアレクォーズ達は気がつけば5体を割り切っていた。
だけど僕が追撃をしようとすると残っていたアレクォーズ達は沈むようにして森の闇に溶け込んでいった。
『今までには無い行動パターンを確認。ハル様、アレクォーズは撤退するしかないほどに戦力を激減させていると見られます。ならば、この広い森を虱潰しに捜すのでは非効率と思われます』
「なら、一先ずは休憩かな…」
『駆操者ハル様の体調管理を優先します』
評価感想お待ちしております。