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アルヴァンティア10

当のアルヴァンティアの駆り手は、王城の下の少し閑散とした広場の所々に置かれていた屋台をひやかしてまわっていた。


(やっぱりこの王都だっけ?ここの雰囲気がよくないからあんまり賑やかに出来ないんだね…)


ハルとしてはそんなの関係なしに騒いでいて欲しかったのだが、異世界に旅行に来た感覚の男に合わせる程都合よく出来た世界では無い。


前は広場に所狭しと並んでいたであろう屋台は九割方畳まれていて、喧騒からは程遠かった。

だが、露店の焼肉もどきを食べた事により、その事をすべて忘れてホクホク顔になっていた。


「姫様を探すって言ってもさ、城にどうやって入るんだーってなるよね」


非常時なのでエルヴィスかアルヴァンティアで乗り込んでリリア姫と話せば良いのだが、如何せん危機感に疎い現代日本人気質を色濃く受けついたハルとにとっては殺人を犯したとしても大幅な意識改革とはならなかった。


「…それにしてもどうやって探そうかなー。城に入れたとしても姫様見つかるのかな?姫様見つける前に僕が捕まっちゃいそうだよね」


『エルヴィスに搭乗すれば侵入から捜索まで完璧にこなせると思います。探知を使えば近寄る人間を回避する事もできますので』


「あ、その手があったか」


エルヴィスを使って侵入してもその後どうするか、そんな悩みを抱えていた為に侵入に踏み切れなかったハルの悩みは十分も経たずに解決した。



20××年.05月07日.月曜日.10時12分.異界の王城



十時を過ぎたところで、僕は行動に移した。

レンガ造りの家と家の間を通ってひと気のない裏通りに出る。

そこでリアクタースーツを揺らぎから取り出し、いそいそと着替えて制服を揺らぎにしまいこむ。


「エルヴィス、【外装適応(アダプテーション)】!!」


そしてエルヴィスの外装を思い浮かべて声に出す。

青いネックレスと青と白のカラーリングのイヤホンが淡く光り、姿を変えていく。

光が収まった時、僕の全身は白をベースとして青いラインが走る強化外骨格(パワードスーツ)エルヴィスを纏っていた。


『出力上昇、現最大出力[050%]』


「最大出力って50%なの?」


『現在の最大出力は[050%]です』


なんで五十なのか、それともそれが最大なのかは分からないけれど、今は聞いてもわからなそうだったので頭の隅においやった。


全身は白く、機械的であると同時に何処か機械離れしたようなフォルム。

全身には雲から覗く青空のように青いラインが走っている。

目の前に次々と浮かび上がる文字や立体画像を処理し、僕はゆっくりと地面にうずくまるようにしゃがんだ。


『エルヴィス、正常に起動しました』


「よしっ…いくよ!!エルヴィス!!」


頭部装甲内に反響した声と共鳴するように胸部の(コア)が駆動音を増していく。


僕の発した信号が脊椎を伝わり、縮められたふくらはぎや太もも、足首の筋肉を瞬間的に爆発的なエネルギーをもって解放する。

それを感じ取った僕の足の延長線上にあるエルヴィスの脚部が反応し、同じ動きをした。


地面が僅かに陥没し、僕は上空に躍り出す。

二階建てが多いこの街の屋根の上には簡単に上がる事ができ、僕は上昇につかったエネルギーを一瞬だけサイドスラスターとメインスラスターを噴かすことで前に移動する為の力に変えた。


『各スラスター正常稼働』


僅かにかかるGにすこし気分を悪くしながらも、すぐに目の前に広がる景色に言葉を失う。


「凄い大きいね…王様が住んでるの?」


『ここは王都と思われますので、王と呼べる人物は住んでいるのでしょう』


取り留めのない会話をしながらも足元はおろそかにしない。

屋根を踏み抜かないように慎重に脚を降ろし、次に前傾姿勢になり最小限の力で斜め上に跳躍する。


街には人があまり出歩いていないので見つかる気配はないし、探知に引っかかる人の反応やリンドヴルムというこの世界の機体も避けて駆けている。

侵入は夜にすればよかったと今更ながらに思うけれど、本当に今更なので考えるのはもうやめた。


『城壁の高さは10m、厚さは3m、防御結界の反応あり、光学兵器での破壊は発見される恐れがあります』


「いや、侵入だからね。見つかったら意味がないからね?」


『了解しました』


なんで僕が突っ込まなきゃ行けないんだろう…

よく分からない。

目の前の城壁をメイが解析し終え、光学兵器の使用の具申を断った後、僕は胸にゆっくりと響く(コア)の駆動音に心地よさを感じながらスラスターを点火させた。

空気の中のマナを吸い込み、点火したスラスターの推進力に油を注ぐように青の炎が滾る。

一気に推進力を得たエルヴィスの巨躯はレンガ造りの一般的な家屋の屋根から足を離した。


「じゃあ、行きますか」


サイドスラスターに姿勢の制御は任せて、僕はメインスラスターを噴かせて飛び立つ。

飛行しはじめると驚くほどに噴射音の抑えられたエルヴィスは、直ぐに空に浮かぶ白い雲と見分けがつかなくなった。


「ちょっとこのお城かっこよすぎるね…写真とってもいいかな?」


『数十秒なら同じ場所に留まる事も可能なので、早めに済ませてください』


「りょーかーい」


揺らぎから現れた白いカラーリングのアイプォンをエルヴィスの手で掴み、それだとタッチパネルが使えないので頭部装甲を開いて頬をタッチパネルに当ててなんとかカメラを起動させた。


『その様な方法があるのですか』


「手が使えない時とか便利だよーはい、チーズ」


カシャッ…


そうして僕のアイプォンには異世界のお城の写真が追加された。


ゆっくりと城壁内部に軟着陸し、全身の関節の駆動部が弛緩する音が静寂した空間に響き渡る。

城壁の中はかなり広い。

敵が入って来てもすぐわかるようにしているのか、城壁から城まで続く地面は背の低い緑の草原になっている。


「おぉ。近くで見ると余計に大きいね…」


真っ白な外観の城はやはりというべきか、近くでみるといかに大きいかがよく分かった。


『急ぎましょう。マナを使用した事で勘付かれる恐れがあります』


「そなの?」


『この世界の住人はマナを魔力に変換して技を行使する為、使用された魔力にも敏感になる筈です』


僕は城に向かって走りながらその説明に耳を傾ける。

この世界の人は魔法のような物を使う。らしい。

空気中にマナがあったり、アルヴァンティアやエルヴィスを動かすのに魔力が必要な事からもそれは納得できる。

しかもその人たちは僕のエルヴィスが飛んだ時に使った魔力を感じ取っているかもしれないとメイは言うのだ。

だったら動いただけでばれてしまうのではないだろうか?


「アルヴァンティアもエルヴィスも動いたら場所が分かっちゃうの?」


だけれど、どうやらアルヴァンティアもエルヴィスもそこまで致命的な欠陥を抱えているわけではなかったみたいだ。


『この王都の住民を観察していると、生物が行使する魔力に反応しているか、明確な意志をもって行使される魔力に反応している。の二つが挙げられます』


と言う事は、ただ単に僕の体内のマナを魔力に変換して食べてる機械のエルヴィスは勘付かれないのかな?


『どちらちせよ、視認されていないのにエルヴィスが発見されれば謎は解けますが』


「よしっ…それじゃあ行きますか!」


『了解しました。建物内をマッピングしていきます』


メイはそういって王都の地図を少しづつ埋めていた。

どうやら今度は城の中をマッピングするらしい。

姫様を捜すのは手探りになるけれど、幸い僕にはメイが着いていた。


『15m先、左の通路から生体反応が2つ』


僕はそう言われると同時に、赤い絨毯がどこまでも伸びるお城の廊下を歩んでいた足を止める。

そしてそそくさと廊下の両サイドに飾られている騎士の甲冑の横に並び、なんとなくボクサーのやるようなファイティングポーズをとって固まった。


「ねぇ、聞いた?また国境でいざこざがあったんだってー」


「え〜また帝国が仕掛けてきたの〜?」


「そろそろ本格的な戦争が始まりそうね…どこの国もアレクォーズで手いっぱいなのに…」


「帝国のどこにそんな余裕があるんだろうねぇ〜」


「帝国もアレクォーズの侵攻に随分やられてる筈なんだけどね」


両サイドに飾られている銀色の甲冑の中に一つだけ真っ白な装甲に青いラインを走らせた機会的な甲冑とも言えなくないモノがあるのだが、角から現れた二人のメイド服の女性は会話に夢中で気がついた様子もなく通り過ぎていった。


「聞いた?」


その甲冑、強化外骨格(パワードスーツ)の中で僕はメイに話しかける。


『聞いていました。どうやら帝国と呼ばれる国がこの国を攻めてくる可能性が高いと。そしてどの国もアレクォーズと呼ばれる何者かに攻められていると』


「そのどっちかの理由で焦って僕たちを召喚?したのかもね」


『その可能性が高いと思われます』


「ロボット同士の戦いかぁ…気になる。凄く見にいきたい!」


『再び15m先、右の通路から左の生体反応が1つ』


「りょ、りょーかい…」


僕はまた甲冑の隣に並び、またポーズをとる。


『なんで荒ぶる鷹のポーズなのですか?』


「いや、なんとなくかな?」


角から姿を表したのは、前の世界では見た事も無いような金色の髪を、って僕は前の世界で地毛が金髪の人を見た事はないけれど、とにかく透き通っているようで綺麗な髪を丁寧に纏めた人だった。

僕の拙い語彙だとその女性の半分も表せなかったけれど、とにかく綺麗で、美しかった。

歳は僕と同じようにも見えるし、年上にも見える。

意志の強そうな瞳は真っ青で、僕のアルヴァンティアの色によく似ていた。


足音が通り過ぎるのを、自分の心臓の音を聞きながら祈る。

頭部の装甲を動かして見たらバレるので目線だけだ。


通り過ぎるのを待ちながら、僕は緊張に耐えきれずに目を瞑る。


コツ…コツ…コツ…………


でも、足音が消えて通り過ぎたのか分からなくなった。


「あの人はどこにいるの?」


『目の前です』


「…え?…」


もしかしてばれたのかもしれない。

僕が薄っすらと目を開けると、やはりというべきか、目の前には腰に手を当てた金髪碧眼の女性が僕の事をジロジロと見ていた。


「oh……どしよ…」


『ここはハル様が沈黙するか相手を沈黙(気絶)させるかの二択でしょう』


「いやいや、なんか沈黙の意味が違う気がするし。それに気絶なんかさせたらばれちゃうじゃん」


『ですか…』


言い淀むメイを不思議に思い、問い詰めようと口を開いた時、外から辺りによく響く綺麗な声が聞こえた。


「なんと珍妙な格好をされた甲冑なのでしょうか……新しく置かれたのでしょうか…」


僕が中にいる事は気がついて居ないみたいだけれど、どうやら結構怪しまれているみたいだ。


『主に荒ぶる鷹のポーズのせいですけどね』


僕の思考を読んだのかどうかは知らないけれどやけに的確なツッコミを流しつつ、僕はリアクタースーツの体温調整のおかげでかかないはずの汗が背を伝う感覚を味わった。


「…分かりません。後でマリアンヌにでも聞いてみるとしましょう」


「姫様ー姫様ー!!!」


「あっ…大変!マリアンヌに見つかってしまうわ!」


遠くで女性らしき人の声が聞こえ、それに目の前の金髪碧眼の女性は反応した…


と言う事は…


『これは………』


「早くも発見かな?」


『どうやらそのようですね…』


感情の揺れがないはずのメイが呆れたようにため息をついたように感じた。


「なら追いかけなきゃだね!【形態変化(フォルムチェンジ)】!!」


取り敢えず僕はエルヴィスを形態変化(フォルムチェンジ)でアクセサリー化させる。

耳にはまるイヤホン型と、青い宝石をあしらったおしゃれなネックレス型だ。

着ている服は制服なので、開いた胸元から覗く青い宝石をあしらったネックレスはちょっとワルっぽい。


「うへへ…このネックレスかっこいい…」


『ありがとうございます。それよりも、姫様と呼ばれる先程の女性に接触するのではないのですか?』


「あ、忘れてた!行こう!」


『了解しました』


僕は足が埋まりそうな程にふかふかの絨毯の上を四苦八苦しながらも走り抜ける。

そして姫様が消えた方向へ走って行く。


「姫様いるのかなぁ…」


僕が何となしに辺りを見回していると、メイから多少の沈黙の後に声をかけられた。


『…次の角を左に曲がりますと、生体反応が1つ確認できます』


曲がった先には高そうな陶器に精巧な彫刻の施された鉢に植えられた小さな木があり、それと壁の間に挟まるようにしゃがみこんでいた。


身を包むのは身体の線を強調するように象られた白いドレス。

だが、王族として恥じない様に、市民の目に触れても気品を失わぬようにと最低限の装飾も腰回りや肩に施されていて、下品さを感じさせないような造りになっていた。


改めてみれば、そのしゃがみ込む後ろ姿でどれだけこの人が綺麗な人なのかが分かった。


僕はエルヴィスという異界で最高位の強靭なる鎧を脱ぎ去った生身の肉体で、話しかけた。


「あ、あの…」


「ひっ、……え、貴方は?」


うずくまるようにして壁と鉢の間に挟まっていた姫様は、僕の方を見て訝しげな顔をした。


(うっ…流石に王城に知らない人が居たら怪しまれ)


でも、僕の体格や年齢、最初に攻撃を仕掛けてこなかった時点で多少の警戒を解いたのかもしれない。

姫様の訝しげな表情は少し和らいだ気がした。


姫様は僕に話しかけようと口を開く、

でも、その前にそう遠くない場所から先程聞いた声が聞こえた。


「姫様ー!何処に行かれたのですかー!姫様ー!」


「…近いですね…仕方ありません!そこの貴方!此方へ!」


そして、僕は何故か姫様に手を掴まれ、王城の廊下を引っ張られたまま疾走することとなった。

半歩後ろから見る姫様の整った横顔は凛々しかった。

まるで気高き孤高の狼を連想させた。


だけど、その表情は何処か悲しそうで、理解力のない僕にもその時だけは何故か分かった気がした。

だからかもしれない。

この人が意味もなくアルヴァンティアの駆り手を召喚しているんじゃないんだと感じた。



『ハル様、これは好都合です。王族の寝室に2人きり。チャンスです』


「な、なにが…僕は緊張してるの…」


『ハル様が緊張なんて、珍しい事もある物ですね』


「しーっ!ちょっと、静かにしてて」


姫様の寝室。

王城という名前から連想する調度品や装飾品などで彩られた華美な想像とは裏腹に、その部屋は休息を目的として作られたことが牧畜にも分かる親切設計となっていた。


姫様は隣の部屋で何かお茶を入れてくれているらしく、多少の常識のあった僕がお茶を入れようとしたけれど強引に椅子に座らされてしまった。

そんなこんなで、僕は成り行きで目的であった姫様とお茶の機会を得ていた。


『ハル様は運が良いのですね』


「どなたか他にいらっしゃるのですか?」


「え、いやっ、僕は1人ですよ?」


「そ、そうなのですが、何処からか女性の様な声が聞こえたもので」


隣の部屋から出て来た姫様は、両手でプレートを持っていて、その上にはこれまた高そうな白い陶器で作られたティーセットを乗せていた。


数分後。


「あ、このチュッパチャプスいります?」


「この面妖な形の物は…?」


「ん?チュッパチャプスですよ?これは僕のお気に入りの苺練乳味です」


姫様は多少怪しんでるみたいだけど、僕が同じ物を取り出して口に加えるとおそるおそるチュッパチャプス苺練乳味を口にした。


『王族が見ず知らずの人間に渡された飴を舐める行為はどうなのでしょうか…』


そんな声が耳元で聞こえた気がしたけれど、僕は気にしない。

チュッパチャプスは偉大なのだ。


姫様は訝しげにその棒のついた飴玉を眺めていたけれど、次第にその飴玉が放つ匂いに興味を惹かれたのか、はむっと咥えた。


「ほっ!?こ、こへはぅ!しゃしょうふぁしでしゅかっ!?」


「違うよ。チュッパチャプスだよー」


片方のほっぺをチュッパチャプス苺練乳味で膨らませた姫様は余りの美味しさに驚愕している様だった。



これは、遠い南の国で取れるとされる砂糖なるものを使ったとしても出せない味。

砂糖単体でこの味を出すためには、相当の金が必要となる筈。

この方は一体、何者なのか。

年齢的には私よりと同じか少し低い程度だと思うけれど、能天気に見えるところや纏っている不思議な雰囲気が実年齢をぼかしているように感じた。



20××年.05月07日.月曜日.13時20分.第一王女の寝室



「…でね、そうそう。この暖炉の裏にね…」


チュッパチャプスが気に入ったのか、僕が揺らぎからだした抹茶味を美味しそうに頬張りながら王家しか知らない隠し通路を教えていた。


「でね、このロウソクが実は飾りでね。コレを倒すと…」


そうしてリリア様は僕の手を取ってロウソクに導く。

完全に本来の目的を忘れた僕は隠し通路に夢中になり、ロウソクに手を掛ける瞬間、メイによる忠告でやっと正気に戻った。


『寝室から15m離れた所から急速に近づいてくる生命反応があります。波長からして、先程姫様を捜索していた者と思われます。この場所に一直線に向かってきますが、どうしますか』


僕はどうしようか、急に話しかけられたことでとても驚いてしまいリリア様の手を振りほどこうとして倒れてしまった。


「う、うわぁっ!?」


「き、きゃっ!」


その声が大きかったのかもしれない。

寝室の外から聞こえてきた足音が一度止まり、大きな声が寝室を鳴らした。


『姫様!そこにいるのですか!?今の声は…はっ!?姫様!?ご無事ですか!?』


「…ま、まずい…」


『そのようですね』


「そうと決まれば…」


『ここは一時撤退でしょうね。姫様を連れて行くのも可能ですが、かなりの数の追っ手がかかることとなりますし、その場合姫様に反抗されるとだいぶ時間を取られます』


そこまで聞いたところで、僕は今更ながら、押し倒したように真下であられもない姿になっている金髪碧眼のリリア様を見据えた。


『見つかった場合現行犯で斬られそうな場面ですね』


そしてその言葉を聞いた時に、僕は無意識に身体を反転させて窓に向かって走る。


「あっ!せめて名前を!」


「僕はハル…うぁぁぁぁーーー!!!」


何も考えずに開いていた窓から飛び出した僕は、テラスを滑走路のように突っ走り、大空に躍り出た。


『最上階。地上から凡そ300m。落下した場合即死です。すぐにエルヴィスの展開を』


「うぁっ!【外装適応(アダプテーション)】!!」


耳につけられたピアスと首にかけられた形骸化したネックレスか青く輝き、その光が線を引き全身を包み込む。


重力に惹かれるままに落下する僕は、次第に目の前を通り過ぎる幾何学的な模様を見ていた。

そこで僕の視界を埋め尽くすようにして展開する画面が現れた時、僕はエルヴィスを着装した事を実感した。


『オートでメインスラスター及びサイドスラスター強制点火。エルヴィス、強制発進』


「いっけぇぇぇぇ!!!」


そして、僕の鼓動を上塗りするように荒々しく叫ぶ(コア)の駆動音に胸の高鳴りを感じながらスラスターがマナと空気を喰らい尽くす音を背中から聞いた。


轟轟轟轟轟轟轟轟!!!!!!


落下するエルヴィスの巨躯の背に備えられたメインスラスターに命が灯るように炎が生まれる。


サイドスラスターは一歩遅れて、一気に重力をぶち破ったメインスラスターをサポートするように断続的に青い炎を吹き荒らした。


白いボディが青い空に生える。

青いラインが宙空に線を引き、空に溶け込んて行く。


一瞬で音速に到達したエルヴィスは、僕の意思など関係なく、ただ前に突き進んだ。


エルヴィスが御しきれない重力に僕は歯を食いしばりながらも前を見る。


『メインスラスター正常起動を確認。随時サイドスラスターの微調整を開始。各スラスターの傷率[0025%]長時間の飛行は不可です』


「くっ!わ、分かった!すぐにこの国を抜けて、草原まで飛ぼう!」


サイドスラスターに姿勢の制御は任せて、僕はメインスラスターを噴かせて飛び立つ。

飛行しはじめると驚くほどに噴射音の抑えられたエルヴィスは、直ぐに空に浮かぶ白い雲に溶け込んだ。


凄まじい轟音に目を見張り、部屋に兵を連れてなだれ込んできたマリアンヌと共にテラスへと躍り出たリリア・ウェラム・バリアテレストは、金糸の様に綺麗な金髪を何かが起こした風にほどかれながら、整った容姿を呆然とさせ、どのまでも広がる空を見ていた。


「ハル…様…貴方は一体…」


下を見ても彼の死体など見当たらない。

だが、空を見ても見当たらない。

飛行魔法など開発段階の初期であり、一個人が習得するなど不可能。

リリア・ウェラム・バリアテレストは、何処かに落とした抹茶味のチュッパチャプスの事も忘れて無意識に声を漏らしていた。


「…姫様….」


空を呆然と見つめ、言葉を漏らした姫様を見つめるマリアンヌは、それを聞いて追求をやめた。

姫様の顔に敵意を感じなかったのも、追求をやめた理由の一つでもあった。


バリアテレストに響き渡った轟音は後に降神の前触れと呼ばれ、後世に語られる。


そしてリリア・ウェラム・バリアテレストは自身の死期を明確に悟り、召喚地に残るマナを使い切る事で最後の召喚を行うことをマリアンヌに漏らした。



その日の夜、王女の寝室の窓から飛び出したテラスで、リリア・ウェラム・バリアテレストは意識すれば心にさりげなく入り込んできた不思議な雰囲気を持った少年に向けて、一人呟いていた。


「とても楽しい時間でした。ハル様…不思議な人。出来ることならばまたお逢いしたかった。…お逢いすることは叶わなくとも、貴方の生きる道に幸ある事を切に願います。ハル様がバリアテレストの民であるならば、私は微力ながら私自身の持つ力を使って尽くしましょう」






「我らは、王国に生まれ、王国に死す」




その言葉を、隣室の簡易な調理室に忍び込んでいたマリアンヌは聞いていた。

そしてその二つの瞳からは、ただの使用人という理由で説明のつかない大粒の滴が、とめどなく溢れていた。


「姫様、我らは貴方と共にある…全ては貴方に始まり、貴方に終わる。この命に感謝。生きて、心優しき貴方に出会えた事、神に感謝。全ては明日、伝承に残る異界の戦士アルヴァンティア、そしてその駆り手よ…出来るならば、姫様を助けて下さい」


いつもの凛々しく大人びた第一王女付きの侍女マリアンヌの姿はなかった。

そこには、ただ自らの無力を嘆き静かに泣く1人の女性のしかいなかった。




リリア・ウェラム・バリアテレスト第一王女の公開処刑が公式に決まるのは後日早朝。

処刑の実行日は、地球の日付で5/9の事となる。


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