No.11 オジサンと少女
私は道路沿いの岸壁に座り海を眺めていた。
コートのポケットから缶コーヒーを取り出すと軽く振って一口│啜る。甘さ控えめの現代に対抗する糖分たっぷりの甘い香りのコーヒーは、数日前に別れを告げた少年を思い出させる。
少年は彼女と上手くやっているだろうか……
そんな事を思いながら岸壁から波間を眺める。岸壁の下を見れば大きな岩と僅かに広がる砂浜が岸壁に沿って続いている。あの砂浜と此処の砂浜は広さが異なり雰囲気が全く違うが、この広い海原はあの浜辺に繋がっている。
あの少年もきっと私と同じ様に海を眺めている事だろう。
ふと此方に近付く足音に気付き振り返ると、岸壁に座る私の背後の道路では一人の少女が、はぁはぁと息を切らせて立ち止まっていた。
余程急いで走って来たのか両手を膝につき、額から流れる汗がポタポタとアスファルトの路面を濡らしている。身体を反らし大きく息を吸い込み、乱れる呼吸を無理やり抑えつけると、少女はまた走り始める。
しかし、五メートルも進むと足をもつれさせて盛大に転ぶ。なんとか起き上がろうとしていたが、脚が吊ったのか呻き声を上げて脚を抑えながらゴロゴロと泥田打ち回っている。
私は岸壁から道路へ降りると少女の下へ歩いていく。
「こんな路上で何をやっているのだ。少女? パンツが見えるぞ?」
声を掛けると涙目の少女が私を睨むが、足を抑えて転がる姿では怖くも何ともない。
「覗くな! 変態オヤジ!」
そんな事を言われても痛む脚を庇い、涙目で此方を見上げる姿では怒るよりも心配してしまう。
「急いでいた様子だが、何処へ向かっていたのだ?」
私の問いに、少女は何かに気付き、諦めたように顔を曇らせ、涙を零し始める。
「……先輩が行ってしまう……転校するんだ! 二時の電車で町を離れるから……せめて今までの想いを……伝えようとしたけど………スンッ……ズズッ……もう間に合わない……ウウッ……うわあぁ──ぁん」
とうとう諦めたのか、少女は鼻を啜り大粒の涙を流し、泣き声を空へ響かせる。
この少女は誰かの下へ行き、伝いたい想いがあったのだ。
あの少年のように好きな相手の処へ行きたかったのだ──
「お前の目的地は何処だ?」
少女は泣きながら海岸の先にある半島に小さく見える駅を指差す。
それ程近い訳でもない。海の向こう程遠い訳でもない。
それでもこの少女には遠いのだ。
遙か離れた星のように。
恋する者には手の触れ合う距離も近くて遠い。
場所が離れていれば尚更だ。
──ならば、私に出来る事は相手の下へ送り届けてやる事だけだ。
「立て。先輩とやらに会わせてやろう」
私の言葉に驚く少女の腕を掴み立ち上がらせると、岸壁を上り砂浜へ降り立ち、少女から数歩離れて向かい合う。
柏手を大きく打ち鳴らし、砂浜が震えると、少女の背後に砂のロケットが現れる。
何が起きたか分からない少女は首をキョロキョロ動かし、自分の身体が砂のロケットに固定されている事に気付くと、その先を予想し青ざめた顔を此方へ向ける。
「……ちょっ、まさか、それ……やっやめ……」
私の手に握られているスイッチを凝視する少女にニヤリと笑い、エールを送る
「さて、少女よ。先輩に想いを伝えに飛んで行け」
「イッ、イヤァァァ────!」
──砂のロケットは今日も空へ打ち上がる。
恋する距離を縮める為に──
─── end ───
御読み頂き誠に有り難う御座いました。
月草イナエ 2013/11/17




