No.9 ユウジンミサイル
【中距離恋愛ミサイル!】
《全11話 毎日更新》
この作品は少年とオジサンが海を見ながら恋愛相談とか話したりするお話です。
……あっ、帰らないで!
作者の一周年記念(大分過ぎたけど)に実体験七割と妄想三割で構成されています。
まあ、騙されたと思って暇つぶしに御読み下さい。
僕は一目散に砂浜を目指して走った。
こんな事を相談出来るのはオジサンしか思い浮かばなかったからだ。
歩道を全力で走り続け、ガードレールを飛び越え、堤防を駆け上がり砂浜へ出ると、荒い呼吸でカラカラの喉を目一杯、海に向かって震わせる。
「オジサ─────ン!!!」
砂浜に響き渡る僕の声が、波の音に消され、荒い呼吸の音だけが、耳に残る。
ガクガクと震える膝を両手で抑え、俯き、泣き出しそうになる僕の背中に、何時ものあの声が聞こえた。
「……呼んだか? 少年」
慌てて振り向いた僕の、少し滲む視界に、何時ものヨレたコート姿のオジサンが、砂止めブロックに座っていた。
慌てて近寄ろうとした僕は、砂浜に脚を捕られるが、何とか走り寄り、オジサンに事情を話す。
「……そうか、彼女を助けたいか……」
オジサンは少し悲しそうな顔をすると、砂浜に歩き出す。
慌ててオジサンの後を追いかけると、オジサンは砂浜を指差し、僕に『砂浜に寝ろ』と言った。
一刻も彼女の処へ行きたい僕くは、そんな事を言うオジサンに喚き散らすが、無言で僕の腕を掴むと、強引に僕を投げ飛ばし、砂浜へ叩きつけ、起き上がろうとする僕の顔を踏みつける。
「……少年、今日でお別れだな……中々楽しかったぞ……」
僕の顔を踏みつけながらそう言うと、オジサンは僕の手に何かを握らせる。
「……今、渡したのは仙人丸、どんな怪我でも万病でもあっという間に治る仙薬だ。彼女に飲ませてやれ」
僕はオジサンが何を言っているか、分からなかった……仙人丸?……仙薬? 何だよそれ?
「……それでは少年、彼女の処へ飛んで行け……」
オジサンは僕の顔から脚を退けると、数歩離れて柏手を打つ。
「……我は流れし縁を結ぶ土地の神。白波宮豊穣稲枝の真名により彼の者の願、叶え賜え!」
僕の周りの砂浜が震えだし、砂が僕の手脚を絡め取ると、砂浜が盛り上がり、瞬く間に形を変えていく。
僕が驚いて言葉を失っている内に、砂の動きが止まり、僕の背後には、外国のニュース番組で見るような、砂の発射台に横たわるミサイルのサンドアートが出来ていた………
「……少年、彼女と仲良くな……」
オジサンはポケットから自転車のグリップみたいな物に赤いボタンの付いた、如何にもミサイルの発射装置みたいな物を取り出す。
「……ちょ、ちょっと、オジサン! なんだよコレ!」
「……友人ロケットだ!」
「ロケット?! どう見てもミサイルだよ! 僕をミサイルに縛り付けてどうすんだよ! そんな友人見た事無いよ! 僕を殺す気かよ!」
「……早く、彼女の処へ逝きたいのだろう?」
「まだ、死んで無いよ! あの世で仲良くなれって事? もしかして今日でお別れって、僕がお別れなの?!」
オジサンはニヤリと笑い、赤いボタンを親指で押し込む。
ゆっくりと発射台が、せり上がり、四十五度の角度で止まる。
「……達者で暮らせ。少年」
オジサンがもう一度ボタンを押すと、背後のミサイルが震え始め、砂を吹き出し、勢い良く大空へ飛び上がった。
「……ちょ……オジサ────────────────ン!!」
発射の加速に耐え、眼下に小さくなっていくオジサンを見詰め叫び声を上げた。
僕と砂のミサイルは
海辺の蒼空に一本の奇跡を描く。