経歴
ところで何故この男が伝説の魔法使いなのか。
どうして千二百年も生きているのか。
そもそも、本当に魔法使いなのか。
その辺りは詳しく話すと長くなるので、
要約して話すとしよう。
彼には昔、ちゃんとした名前があった。
因みに、今は忘れてしまって、日本という地に適した
宇井 罪斗という名前で暮らしている。
話を戻すと、彼に名前があったころ、
彼は今と変わらず、飄々と生きていた。
しかし生まれた境遇が普通ではなく、
なんと有名な魔法使いの名家だったのだ。
そのおかげで彼は魔法使いとなったのだが、
しかし彼はルールに背いたことばかりをしていた。
そのおかげで修行の地へ追放され、
そこでキャシーとも出会ったのだった。
その修行の地での彼もまた荒れに荒れていて、
それでも魔法の使い方だけは誰よりもうまかった。
そんな彼が得意としたのは、『保存魔法』と呼ばれるもので、
物質でも形のない物でも、保存してしまうという物だった。
それを自分にかけたので彼は老いることなく、二十歳周辺の姿のまま、
今も生きているのだ。
もう一つ、彼が『伝説』の名を謳われる理由。
それは、彼がちょっとした興味で生み出した、
とんでもないものに秘められていた。
それが魔王。
さらに、それが十体。
一人で生み出したのだ。
おまけにそれが暴れ始めたので、
自ら責任を取り(あたりまえだが)封印したのも、
彼自身であった。
ともかく、彼のすごさはそんなところにあるのだ。
あまり理解されないのかもしれないが、
リンカーンに並ぶほどの人物と考えてもらっていい。
そんな彼がこうして日本で駄目人間として生きてるのも、
勿論理由はあるのだが、その経緯は今の話の倍はあるので省かせてもらう。
彼も道に迷い、ここへたどり着いたのだ。
「あれ?これナビ間違ってんじゃね?」
そして、今も道に迷っていた。
携帯画面を覗き込みながら、罪斗は不満げに呟く。
「嘘だろ~」
家に帰る道を探していたのだが、
しかし今街の地図を見てみると、全く逆方向に来ていたらしい。
「...あーあ、戻らなきゃ」
早朝の街はかなりすいていて、
人通りがかなり少ない。
罪斗はこの辺の街については知り尽くしているつもりだったが、
こんな一面もあったとは、と微妙に感心する。
さっきまで困っていたのを忘れ、
呑気に鼻歌を歌いながら道を引き返す罪斗。
早く家に戻らなければ、
妹から御叱りを受けるというのに。
しばらく道を行って、罪斗はふと足を止めた。
何処からか、怒鳴り声が聞こえてきたからだ。
「...」
少し考えるそぶりをし、罪斗は地面に目を落とした。
「行くかな」
顔を上にすっと上げ、罪斗は右手を顔の高さまで上げた。
「よっ」
彼が一つ、指を鳴らして見せると、
彼の姿がそこからパッと消えた。
それに驚いて近くのカラス達が、
黒い羽根を落として行きながら散るのだった。