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プロローグ 駄目男の魔法使い

タバコの臭いが微かに鼻につき、若い男は目を覚ました。

「うぅ~ん...」

だるそうに体を起こすと、彼はあたりを見渡しながら、

ピアス穴の開いた、耳たぶを触った。

寝起きの彼のくせであった。


今気付いたが、冬でもないのに体が冷える。

理由は単純明快であった。

男が全裸であったのと、

部屋にあるクーラーがついていたからだ。

「...さみ」


男はなるべく布団から離れない様、

近くに捨ててあった自身のコートを羽織った。


右方向に首を向けると、自分の横の人一人分のスペースに、

もぞもぞとうごめくふくらみがあった。

布団を少しめくってやると、きれいな顔をした、

見たことのない女の顔があった。


­―えっと、これは...

男はこの女の顔を見て、何か思い出しそうになる。

しかし頭が痛くてあまりものを考えられない。

まるで本能が思い出すことを拒否してるようだ。


しかし嫌な記憶というものは、嫌でも忘れられない。

―思い出した

彼の隣で寝ているのは、昨日出会った大学生だ。

確かファミレスのバイトをしているとか言っていた。

夢は美容師になる事だそうだ。


何故その様な女と出会ったのは、男もそんなに覚えていない。

ただ、彼女と居酒屋で飲んでいて、酔ったこの女を、

彼女の部屋まで送り届け、その後は...。

「その後は...」

その後は思い出したくなかった。



「相変わらずおめーさんは女遊びが好きだこと」

急にそんな声がしたもんで、男はびくりと体を震わせる。

何もないと思っていた部屋の背景に少しノイズが発生し、

窓際に、かすかにしていたタバコの臭いの正体が現れた。


「なぁにが楽しいかね。千二百歳の老いぼれが、そんな十九の女と触れ合って」

精一杯の軽蔑の表情を込めてそう語るのは、

男の知り合いの女で、名を『キャシー』といって、

本名かは分からないが、その名の通り、

金髪に蒼い瞳と、外国人のような容姿をしている。


彼女は男の事を「千二百歳の老いぼれ」と言ったが、

しかし彼女もまた、そこまではいかずとも、

千歳はすでに超えているはずであった。


「キャシー、いいかい。老いないためには、恋を忘れない事さ。

恋する心をいつまでも知ることが出来れば、長生きできる」

「まずおめーは恥を知れ、恥を」

吐き捨てるようにそう言って、キャシーは、

部屋の出口に向かって歩き始めた。

途中でくわえていたタバコを灰皿に押し付け、

未だベットから出ようとしない男に向き直る。


「そうだ、おめーに伝言がある」

「伝言?それよか俺にもタバコくれない?」

「残念だが今ので最後だ」

それを聞いて男は、残念そうに表情をゆがめる。


「『今日の正午。桜高校前(さくらこうこうまえ)桜西公園(さくらにしこうえん)で待つ』。だとさ」

「誰から...つっても、そんな伝言をする奴、一人しかいねーよなぁ」

今度はめんどくさそうな顔をして、後頭部を掻く男。

キャシーは、相変わらず感情が顔に出る奴だ、

と思わず男の顔をまじまじ見てしまう。


「ん?何?俺の顔になんかついてる?」

「あ、いや、なんでもない。取りあえず、行けよ」

「へいへい。気が向いたらね」

去りゆくキャシーに向けてひらひらと手を振りながら、

頭の隅で「絶対行かねえ」と固く誓っていた。


キャシーが部屋を出た後、男はもう一度自分の隣で寝ている、

少女の顔を見ようと布団をめくる。

少し笑ってるような安らかな顔で、寝息を立てる姿は、

まるで天使そのものだったが、これ以上はまずいと思い、

ベッドから出て、そそくさと帰る準備を進めた。



ここまでの場面からして、誰がこの男の事を、

かつて【伝説の魔法使い】と呼ばれた男と考えただろう。

そして、この一見すると最近の若者の駄目な例のような男には、

若気の至りで起こした、隠したい過去の過ちがあった。



それが、魔王を作り出してしまった事だった。

しかも十体。

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