105 第二次人妖大戦
妖怪の山
風魔達はウィルの瞬間移動でオケアノス島から一気に妖怪の山まで来た。見る限りまだ戦争は始まっていない。
「修羅、結界を貼れ。」
「言われなくとも。」
忌羅の指示がある前に修羅は一枚の札を取り出す。
「修羅天よ、地を覆え。」
言葉と共に札を地面に貼り付けると、札は燃えた。
「さてと、後は君達に任せる。死なないでくれ。」
ウィルはそれだけ言うと、指を鳴らし風魔たちの前から消えた。
「修羅と忌羅とLは此処にいろ。私と風魔は天魔の所へ。」
刹那の指示で風魔は天魔の所へと向かった。
「そうですか………嫌な予感はしましたが……。」
「指揮はお前に任せる。乱季共には突撃禁止と言っておけ。忌羅と修羅が前線にいるからな。私も出るが。」
「はい、お気を付けて。」
天魔は一礼すると声を張り上げ部下達に指示を出した。部下達が頷き、緊迫した表情で散って行った。
「風魔、お前は此処にいろ。」
「……何故、とは言いませんが……そんなに俺が心配ですか?」
風魔だって刹那が自分を止める理由はわかる。単純に、風魔を失いたくないのだ。風魔の母親のように。
だからと言ってそれは風魔も同じだ。刹那や忌羅、修羅を失いたくない。家族を守る、それは風魔も刹那も同じ思いだ。
「…………心配だよ。私は。お前が月詠のように死んでしまうのかと…。」
その声には微かな嗚咽が含まれていた。最初に会った時は恐ろしく見えた刹那も今ではただの少女だった。
大切な人を失いたくないと祈るとても貧弱で脆い少女に。
「…分かりました。」
風魔は頷き、自分の願いを聞き入れた……と思った刹那の腹部に激痛が走った。あまりの威力に意識が飛びかける。
「…ごめんなさい、刹那さん。でも、これで良い。」
風魔は倒れる刹那を抱き止めた。その隣には鬼の当主、乱季。
「乱季さん、刹那さんをお願いします。」
「…止めろ、とは言わないよ。アンタは死ぬかもしれない。それでも…行くのかい?風魔。」
「はい。俺は行きます。皆を守りたいので。」
乱季の瞳に写るのは鬼ですら僅かの恐怖を抱くほどの意思を持った青年だった。
「…アンタのその思い。私には狂気に見えるよ。」
「でしょうね。狂おうが俺は行きます。」
風魔は乱季に一礼すると、近くの窓を開けそこから外へと飛び出した。
刹那は届くはずもない手を青年に伸ばし、意識が途切れた。
その頃の修羅達。
「……結界が破られた。人間は入ってきてないが……………人間では無いものが侵入した…数は…………約500。」
修羅は目を閉じ、戦況を確認した。
「L、行くぞ。修羅、場所は。」
「…此処から東へ7キロ。いや、待て………結界が修復された…?………!!!!」
修羅は突然目を見開き、東側を見る。シーゼ、忌羅、Lが釣られて見る。
「…まさかな、来るとは思わなかった……………。」
修羅の表情には期待と恐怖があった。美貌の額に汗が浮かぶ。
忌羅も何か感じとったようで、いつも以上に殺気溢れる深紅の瞳で東を見た。
「忌羅、頼んだ。」
「あぁ。ではな。」
忌羅は頷き、踏み出す。Lはなんのことだか分からずに忌羅の後に続く。
「死ぬなよ。」
ふと、突然修羅が忌羅に掛けた言葉。
忌羅が一瞬だけ振り向くと、真剣な目の修羅が写った。
「ふっ、私を誰だと思っている。武神
だ。だが、」
忌羅も口元を邪悪に歪め、修羅に顔を見せずに言った。
「貴様の言葉、しかと受け取った。」
忌羅はそれだけ言うと、金色の風となって走っていった。Lは、一旦止まった後二人に笑みを見せた。
「頼むぞ。」
Lも疾走した。その場に残ったシーゼと修羅。
「で、この忌羅さんでさえ可愛く見える程の禍々しい殺気は誰ですか?」
白衣の医者は、修羅に問いかけた。九尾の狐は短く答えた。
「阿修羅だ。」
同時刻の魔界
「じいちゃん!なんで、行かせてくれないんだ!」
紅汰は魔界の会議室の黒板を拳で叩いた。七つ大罪の何人かが肩を震わせた。
「これは人間と妖怪の問題であって僕ら悪魔が入って良い問題じゃないんだ。」
魔界神は物静かに、冷静な声で答えた。
「だからっ「だからって風魔君は君の友達なのは百も承知。でもね、君が一人で行ったとしても死ぬだけだ。僕は援軍を出せない。」
「なんで「なんでか?犠牲が出るのが嫌だからだよ。僕ら悪魔が入ったとしても両軍必ずしも相当な被害を食らう。だから僕は行かない。君も行かせない。」
「くっ…………。」
「珍しく弱気だなミカエル。貴様の力があれば人間共など容易いではないのか?」
七つ大罪のルシファーが割って入る。
「嫌だよ。僕が行ったら魔界は誰が守るんだい。」
「私だろ「却下。」
ルシファーは魔界神の遮りに怒りはせず、口を閉じた。
「残念ながら君でも紅汰でも心配だ。いつ、天界に攻められるかわからないからね。」
魔界神が真剣な眼差しで紅汰を見つめた。その眼差しに込められた意思にたじろぐ紅汰。
「………分かりました。」
紅汰はそれだけ言って部屋から出ていった。