102話 剣と剣
今回は前回より短いです。2000字程度のです。
つまらないかもしれませんが…
真田旅館 庭
二人の武人は睨み合っていた。一人は金色の武神、もう一人は蒼き戦神。
神己忌羅、ディル・エデン。この二人は昔刃を交わし合った。
一人は破れ、一人は勝利した。
「久しい、と言うべきか。金色の武神。」
「久しいな。蒼き戦神。」
二人はそれだけ言葉を交わすと、刃を抜いた。
忌羅は孤高なる武神レギを、ディルは八本の日本刀を。
忌羅はディルを見ただけで何をしにきたか分かった。
決着を着けるのだ。忌羅との因縁に。
刃を一度だけ交わしただけの因縁だが、戦神にとって戦いは生きる全て負ければ終わり。
だからこそ、忌羅に負けたディルは借りを返さなければならないのだ。
ディルが深く息を吸う。忌羅は口元をいつも通り邪悪に歪ませた。
観衆が息を呑んで見守る。
「いざ…!!」
「来い。」
ディルが動いた。八本の日本刀を持っているにも関わらず速い。身を低くし、忌羅に突進する。忌羅もレギを構え、ディルに突進した。
ディルが右手の四本を横薙ぎに振るう。忌羅は跳躍し、ディルの背後に回りこむ。着地ぎわにレギを振り下ろす。ディルは前方に前転し回避。回避ざまに忌羅の方を向く。レギの凶暴な刃が地面を砕く。ディルが地面を蹴って接近。レギが地面に食い込んでいる隙を狙って八本の刀を忌羅に振るった。忌羅の片方の手から別の大剣が出現し、刀を弾く。
その隙にレギを持ち上げる。そして二つの大剣の連撃がディルに襲い掛かった。数で勝るディルも、速さと力で押す忌羅の連撃に必死に耐える。
ディルの足が後方に動く度に忌羅の赤い唇が歪んでいく。しかし、忌羅はそれでも連撃を止めずむしろ威力を増している。
「チッ!!」
ディルの口から舌打ちが漏れた。その美貌の額には僅かながらの汗。
だが、けっして彼の表情は勝利を諦めていない。
八本の刀を舞うように振るい、忌羅の剣を弾く。さらに後方へ跳躍。
着地時に刀を収め、そして抜刀の構え。地面を蹴る。抜刀。神速の速さで八本の刀が抜刀され、左右から忌羅に襲い掛かった。
「るぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁッ!!!!」
忌羅は怒号と共に大剣を振るった。レギの刃が八本の剣を受け止める。さらに片手の大剣がディルに振るわれる。
ディルは剣を弾き、四本の刀で受け止める。瞬間、四本の剣が切断された。
ディルはまたも軽い舌打ちをして、後方に引く。そして折れた刀を地面に突き刺す。別の四本を鞘に収める。
そして右腰にさげてあった太刀に左手を添える。目を閉じる。
お互いの動きが止まった。風と夜の星空が二人の戦いを彩る。
ディルはゆっくりと呼吸を整える。忌羅はいつの間にか出来た頬の傷にも構わず、真紅の瞳で蒼い戦神を映す。
ディルの目が見開かれ、蒼い瞳が真紅の瞳と相対した。
「秘剣、燕返し。」
ディルの唇から言葉が紡がれた。瞬間に同時に動いた。観衆の一部には二人が消えて見えただろう。実際は違う。目にも映らぬ速さで地面を蹴ったのだ。消えた二人は再び現れ、己が握る刃を振り下ろした。ディルの刀が何本もあるかのように振るわれ、忌羅は小細工無用。大剣をディルに、直線に振り下ろした。
銀光と蒼光がぶつかった。衝撃で周囲に風が発生する。
二人はお互いに背を向けて立っていた。
無言。それだけが続く。
そして両者の体から血が噴出した。ディルは首元から腰下まで。忌羅は両肩から両腰まで。
だが、二人は表情を苦痛に歪ませることなくただ笑っていた。口から大量の血が流れようといくら傷が痛もうとこの二人は笑っていた。忌羅の邪悪に歪んだ唇から、ゆっくりと言葉が紡がれた。
「ここまで、刀だけで私に傷を付けたのは貴様で二人目だ。名誉に思えよ?」
それは、賛辞だった。孤高なる武神と呼ばれた彼を刀だけで、あれだけ傷を負わせた蒼き武人に対しての最大限の。
「借りは、返した。しかし、俺もまた、貴方に借りが出来た。貴方は佐々木家最強の抜刀術『秘剣燕返し』を破ったのだからな。蒼き戦神として貴方に誉れを。」
ディルもまた、自らの最強技を破った金色の武人に対して最大限の称賛をしていた。
「だが、これで終わるのも面白くない。蒼き戦神、私の本気を見れることを感謝せよ?」
「今まで本気じゃなかったのか。」
ディルの苦笑い。忌羅は片方の大剣をしまいレギを地面に突き立てる。
忌羅の体が神々しい光に包まれた。皆が一瞬だけ視界がくらんだ時にその姿は現われた。
まず、金色の悪鬼の邪悪なる面が現されている面兜。狐のようにすらりと、いたるところに装飾が施された黄金の鎧。獅子の爪をイメージさせる毛並みのような金色の篭手。
腰は西洋の騎士のようなスカート上になっており、脛あては鬼のように轟々しく力強い金だった。
「おぉ、まさかの本気だぜ。あの装備。」
屋根から眺めていたLが杯に口を付けながら言った。
忌羅の黄金の鎧は月光を浴びて美しく輝く。その姿に見惚れる。
「これを見せるのは三人目だな。名誉に思え。」
忌羅が一歩踏み出す。それだけで地面が砕けるような轟々しさを感じた。
忌羅は突き立てたレギを引き抜く。
「私のこの姿を恐れぬか?戦神?」
「いや。むしろ光栄に思うべきだろう。貴方のその姿を見れたことが。」
ディルは臆せず、太刀を鞘に収め再び抜刀術の構えをする。
「良い。それでこそ、戦神。」
忌羅がレギを構える。切っ先は地面に向け、右足を前に出す。
「………秘剣、燕返し!!」
「るぅぅぅぅぁぁぁっ!!!!」
ディルの凛とした声と忌羅の雄々しい雄叫びが夏の夜の空に響いた。
瞬きも許さない速さで二人の魂がぶつかった。
観衆は息を呑んで見守った。
忌羅とディルは再びお互いに背を向け、立っていた。
そして空から蒼く光る太刀が落ちてきた。
「…また、俺の負けか。」
「ククッ、中々に楽しかったぞ?戦神、だが私を倒したければ今の二十倍は強くなることだ。再度刃を交える日を私は待とう。」
次回は力入れます!あんまり戦闘はないですけどね!
今回もご視聴?ありがとうございました!
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