101話 肝試しの夜は満月の夜
やっと投稿できました…遅れてすいません。
今回は肝試しです。いつもどおり短いですので期待しないでくださいねー。
オケアノス島 廃墟した寺前
「じゃあ、夏恒例肝試しを始めるよ。ルールは簡単だ。地図に示された場所にある御札を取ってくる。二人一組のペア。じゃあ皆、くじを引いてくれ。て言うかさ、なんでこんなに人少ないの?六人って何、合コンですか。いえいえ肝試しですよそれなのに何故こんなに人いないのなんであの狐さん達は酒飲んでるのなんでLはこんな時に限って夜釣りに行ってるのなんで女子陣は怖いを理由にこないの。」
紅汰達は今、ウィルの企画によって古く老朽化した寺の前に集まっている。
いるのは紅汰、藍、風魔、ネロ、ウィル、凛の八人だ。
皆が一斉にくじを引いてペアが出来る。
『紅汰&藍』『風魔&ネロ』『ウィル&凛』のペアだ。
「じゃあ、行くか。」
「「は、はい……。」
特に怖がる様子もない紅汰と明らかに怖がっている藍の二人は、暗い森の中へと入っていった。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!?」
「落ち着けよ、ただの風だろ。」
歩き始めて数分程度しか経っていないのに藍の額には大量の汗。
一方、紅汰は平気そうな顔で藍の数歩先を歩く。
しかし、藍。ビビりまくりである。「女の子だから肝試しとかは怖いかな~」と思ったがこれほどにまで怖がっていると見ている方が面白い。
「だ、だってぇ…叫んでるように聞こえたんですよぉ。」
「大丈夫だっての。魔王の炎によってくる馬鹿なんざいねぇよ。」
紅汰が空中を指すと、紅汰と藍を囲むように七つの黒い炎の火がふわふわと浮き始めた。
炎は黒いものを二人の周囲を照らしている。
「きゃぁーっ!!人魂―っ!!!」
「炎だって!大体幽霊なんかいねぇよっ!お前どんだけビビッてんだよ!?」
「だってだって!ほ、炎が浮いてるんですよっ!?怖いですよっ!!」
「俺の能力だーっ!!」
紅汰が怒鳴ると炎も合わせて強く輝く。
「怖いものは怖いんですっ!!貴方は怖いものあるんですかっ!?」
「怒ったルーシャと風魔ぐらいだんなもん!怒ったあの二人より怖ェもんなんざあるかっ!!もういいっ!!」
紅汰は藍に痺れを効かすと強引に藍を自分の元に引きつけた。そして無理矢理手を繋ぐ。
「ふぇっ!?」
流石の藍も驚いたようで抵抗できなかった。
「怖いなら、俺から離れるなっ!」
紅汰は藍に怒鳴ると、今自分がした行為を恥じたのか藍から顔を逸らした。藍も最初は唖然としていたがやがて、頬を赤く染め嬉しそうに笑った。
「意外と攻めなんですね。紅汰さん。」
「うっせ。あと呼び捨てで良い。」
藍の微笑に紅汰も釣られて笑った。そして二人は、手を繋ぎながら暗黒の森を歩いた。
そして数分が経った。藍は何かあっても小さな声で驚くだけで叫んだりはしなかった。紅汰としては途中で藍が腕に抱きついてきて、彼女の柔らかいものが触れていたので驚くことはなかった。
こうして二人は見事に地図に示された場所にあるお札をとって生還(?)した。
「お疲れ。じゃあ次風魔とネロ。」
「そなたは亡霊が出ると思うか?」
ネロは、風魔と歩いている時に話し掛けた。
「ウィルさんの事だ。何か仕組んでいるのは確かだな。」
「そなたは怖くないのか?」
「別に。ただ殴れないとなるとネロを抱えて走るようだな。」
風魔の平然とした答えにネロは興味を失ったらしい。
「まぁ、女の子の前で逃げるのはかっこ悪いしな。もしもの時は戦うよ。」
「勇敢なものよ。余の王国にもそなたぐらいの若者が一人欲しかったの。」
「一人?」
「余がまだ皇帝であったならそなたを一番の部下にしてやったぞ?」
「そいつは嬉しいね。ローマ皇帝一番の部下か。でも、俺達の間じゃ身分は関係ないぜ?」
「そうなのか?まぁ、仮にの話だ。余は国を追われた身。何時までもこだわっていては駄目だな。」
「……どうして、国を追われたんだ?」
風魔は試し聞いてみた。風魔の知識上ではネロ・クラウディウスは政権争いに敗北し、何処かで一人孤独にナイフを首に刺して死んだらしい。だが、目の前にいる少女は『この世界』での『ネロ・クラウディウス』であって今も生きている。それならば何か違うのではないかと思ったのだ。
「……簡単だ、誰も余を認めようとしなかっただけだ。」
「ん?」
「余の芸術も、才能も、政治も、姿すらも、誰も認めなかった。余は皆が余を頼り幸せに暮らせることを願っていた。しかし、民も臣下も友も皆最後には余に現実を見せた。皆が余に反逆し余を国から追い出した。余は死ぬことが怖かったから逃げただけだ。」
自らの悲しい、いや思い出したくもない過去を淡々と風魔に語るネロ。風魔は何も言えず口を閉じていた。それを見たネロは苦笑い。
「おっと、すまぬな。そなたに余の暗い過去など話しても無意味だな。」
「暗い?自分の人生暗いって言ってどうすんだよ。誇って良いんじゃないか?誰も人様の人生にケチつけねぇよ。」
風魔は一旦止まってネロの目を真剣な眼差しで見つめた。ネロは風魔の気迫に押されたのか、目を逸らしただけだった。
「そ、そうか…………だ、だがな…余は皆から暴君と「あぁもういいだろ。」
ネロの反論を遮って風魔は続ける。
「皆、ネロは辛い思いで逃げてきた。でも今は此処にいる。ならもう辛くなる必要はねぇ。自分の過去を暗いって認めんなら良いよ。でも、これから明るくして行こうと思わない?ネロは可愛いしさ、頭も良さそうだし、その気になれば薔薇色人生かもよ?夢があるなら叶えとけ。少なくとも今はチャンスがある。」
風魔はネロの頭を軽く撫でて、微笑んだ。ネロは恥ずかしいのか、頬を赤く染めた。
「皆良い人だからさ。心配すんな。」
「…………………ありがとう。」
風魔はネロがボソッと呟いた言葉を聞き取れなかった。
「え、何?もう一回言ってくれ。」
「ふふっ、なんでもないっ!さ、行こうか!」
途端に明るくなったネロに風魔は手を引っ張られ、目的地へと微笑しながら二人は走っていった。
「お疲れ。じゃあ次は僕と凛。」
「ははは、楽しいねぇ。」
「ふふっ、まさか貴方の口から楽しいと聞けるとは思いませんでしたよ。」
二人は蟋蟀の鳴き声と風が奏でる、暗黒の夜の森を歩く。
「なんだい、昔の僕はそんな陰気な少年だったかい?」
「えぇ、少なくとも楽しいという言葉が似合う人ではありませんでした。」
ウィルは、そうかいと肩を竦めて自虐的に笑った。凛はその笑いが自虐と思わなかったのか釣られて笑う。
「確かにね。僕は本しか読まなかったし、趣味という趣味もなかったね。今思い出すと君といて楽しいなんて一度も言ったことなかったね。」
ウィルの「君と」と言うその言葉に凛は一瞬だけ哀しそうな表情をした。
「そう言えば、特に貴方との思い出もありませんでしたね。」
「そういえばそうだね……天界は海も山も娯楽施設もない世界だったしね。いえまぁ、僕としては君といる毎日が………毎日が………。」
「どうしました?」
「いや、なんでもない。忘れてくれ。」
ウィルにとって両親が死んで凛と毎日一緒に暮らしていたのは、地獄に近い『罪滅ぼし』だった。凛の両親を肉片に、いや殺害し、自分はのうのうと生きているのだから。幼い頃のウィルにとって凛と顔を会わせるたびに凛が心の中で怨み言を言っているように思えてしまったからだ。絶対に、あの時の彼女の前では楽しい、などと言えなかったのだ。
「さ、あと少しで目的地だ。君の豆腐のように脆い精神は限界だろう。行こうか。」
「だ、誰が豆腐精神ですかっ!こう見えて精神面には結構自身があります!」
そうかい、とウィルは微笑で返し凛の手を取り目的地へと歩いていった。
寺前
「さて、皆終わったね。帰ろうか。」
ウィルたちが帰ってくると、全員は頷き帰り道を歩いて言った。
「あの、ウィルさん?」
疲れたのか背中でぐっすりと眠っている藍を背負った紅汰がウィルにたずねた。
「なんだい?」
「ウィルさんの事だから幽霊とか化物出てくるの期待したんですけど…何も出なかったですよね?」
「あぁ、これはちょっとしたテストだよ。君たちがどれだけ怖がるかをね。流石に君や風魔は怖くなかったようだね。皇帝さんも。」
「幽霊が出てきても俺の炎で燃やせる自身があったので。」
「幽霊が出てきても逃げ切れる自身があったので。」
「フフ、やはり君たちは結構な勇者様でね。一回勇者やってみない?もちろん、異世界で。」
「「遠慮します。」」
二人は同時に断った。
その頃の真田旅館
「彼は常に孤高、骸の丘で邪悪に笑うか……ククッ、あやつもよう考えたモノだ。」
忌羅は旅館の屋根に独り、月見酒を飲んでいた。口から昼間に連絡があった『詩人』から伝えられたものを吐き出して、自虐の笑いを浮かべていた。
「しかし、こうなってはもう後戻りはできまい。いや、私に後などないな。ただ常に見据え、今を生き、そして散る。」
孤高なる武神の口元には更なる自虐の笑み。そして彼が今もその想っている女性の名前を思い出した。
「……月詠、そなたには、せめてもう一度だけ会ってみたかったな。」
杯に映った白銀の惑星を眺め、忌羅は思う。
あの時、自分には何が出来たか。
あの時、自分には何が出来なかったか。
あの時、自分に何が足りなかったのか。
しかし、今更過去のことを思い出しても自分の想い人は戻らないと自分に言い聞かせる。
そうだ、もうあの時の自分は、神己忌羅は無力だったのだ。ただそれだけの事だ。
「…それだけの事なのだな、月詠。」
そして忌羅はゆっくりと目を閉じた。夏の風と白銀の月が金色の美貌を際立たせる。
「……………。」
「昔の事でも思い出しているのか、忌羅。」
彼の後ろにそっくりの男性。修羅だ。
「何用だ、忌羅。」
「お前に客人らしい。なんでもディルとか名乗る戦神らしいが。」
忌羅の言葉から出たディルと言う名前を聞いて閉じていた目が開かれる。
「ディル、か……過去の因縁でも着けにきたか。」
ディル・エデン、昔ロンドの街を騒がせた人斬り佐々木白音の義兄だ。戦神とも呼ばれるらしく、忌羅も一度戦ったがそれほどの強さではなかった。
それがきたと言うことは、おそらく忌羅との再戦を望んでいるのだろう。下から闘志を感じた忌羅は杯を置き、立ち上がる。
「修羅よ、お前は、月詠が死んだあの夜、何が出来て何が出来なかった?お前はあの夜、何を感じたのだ?」
忌羅は血のような真紅の瞳で自分そっくりの弟の深淵のように暗く、そして赤い瞳を見つめた。
突然の忌羅の問いに一瞬だけ、戸惑った修羅。
「…つまらぬ問いだったな。忘れろ。」
修羅に背を向け、屋根から下りようとした。
「あの夜、私には知ることが出来て力を振るうことが出来なかった。そして私は感じた、父上、ましてや私達は神などではない。ただの無力な人間と同様だと。」
忌羅の背中に修羅の言葉が突き刺さった。忌羅の怒りに煮え滾った目が修羅の目を再び写す。
「知ること?力?人間と同様?…ハッ…………。」
気付くと孤高なる武神レギの刃が修羅の首に迫っていた。あと1mm動かせば出血する。
「そうだ、あの夜。姉上やお前はともかく、私すら何もできなかった。これでは人間と同じだと。戦で目の前の惨状を直視出来ぬ無力な人間だと。」
「ふざけるなッ!!!私は貴様のような臆病者ではないッ!!」
「では、何故貴様は背を向け走って行く月詠を止めなかった?貴様なら出来たであろう?」
「ッ………。」
「フン、格言う貴様も私同様臆病者だったではないか。」
「ならば、何故貴様は月詠を止めなかった!!貴様なら分かっていたであろう!」
忌羅の怒号についに修羅も怒りを露にした。レギの刃を拳で弾き、忌羅の胸倉を掴みあげる。
「私は月詠と約束したのだッ!!貴様を、姉上を、十六夜を、皆を頼むとッ!!私は月詠の純粋な願いを!私は月詠を信じ、月詠は私を信じてくれたからッ!!鮮血を流し、涙し、禁忌の結界を貼ったのだッ!確かに月詠は姉上に告白する前に私の前に現れこれから死ぬといわれた。当然止めた、だが月詠は泣いて私にこう言ったのだッ!「これは私にしか出来ないこと。私はもう十分満足したから、今度は貴方達が幸せになって」と!私には彼女の願いを踏みにじる事などできぬ!それは姉上や貴様とて同じことであろうッ!!」
「我らと同じ姿をしただけの化物の貴様に、情などあるものかッ!!!」
その時だった。忌羅が一瞬にして吹き飛んだ。受身を取れず屋根の上を転がる。
「戦うだけが、全ての貴様に、私の……何が分かると言うのだァァァァァァァァァァ!!!!!!」
修羅の叫びが衝撃波となって瓦を吹き飛ばす。修羅の目には憎悪。今まで忌羅が見たことがない、修羅の『怒り』だった。
「チッ、厄介なことになったな。」
修羅は兄弟の中で阿修羅の次に冷静な男だが、一度怒ると阿修羅でさえ手がつけられなくなるほどの力を発揮する。尾が108本になる前に修羅を止めなければ。さもなければこの島は跡形もなく消える。
「修羅さんっ!!」
その時だった。背後から修羅に声が掛けられた。忌羅は目の前の修羅から目が離せず、誰だか確認できない。が、修羅に向かって一直線に走る姿は間違えることのない風魔だった。
「待てッ!愚か者ッ!」
忌羅が手を伸ばして風魔を掴もうとするが遅かった。風魔は修羅へと走っていく。
「十六夜、君には関係ない。これは私と忌羅の問題だ。」
「関係ないってなんですか!母さんのことで言い争いでしょ!?止めてくださいっ!母さんが、母さんが悲しみます!!」
風魔の言葉で、修羅の目から憎悪が消える。忌羅もレギを下ろす。
「……すなない、十六夜。」
「………悪かった。」
忌羅はそれだけ言って屋根から下りた。風魔も安心したのか、安堵のため息を吐いた。
「まったく……死ぬかと思いましたよ……。」
「すまない。つい……。」
修羅は申し訳なさそうに目を伏せると、金色の尻尾を靡かせてその場から去っていった。
次は忌羅がメインですかね。まぁ、彼も一応物語の主人公ですし。
この物語は大体の人が主人公というか皆そうだと私は思っています。
では、感想をお待ちしております。
ご視聴?ありがとうございました。