100 過去の追憶、穢れた少年
皆様お待たせいたしました!ついに100話を投稿します!
結構長かったですね……一万字毎回書いている人尊敬しますね…。
今回はあの人の過去編です!
次回も今回のように長くはありませんが更新遅れます、すいません…
昔の事だけど、僕はしっかりと覚えている。
僕、ウィルは幼いころに起きた惨劇のせいで人生が狂った。
僕は別に狂っても良かった。でも、彼女の人生までも狂わせてしまったのは僕が一生背負うべき十字架だろう。優秀で優しくて元気な彼女の明るい未来を閉ざしてしまった僕の罪だろう。
だから僕は何千、いや、何兆の世界と時間に干渉し真実を探してきた。
でもその真実はまだ見つかっていない。案外近いところにあるのかもしれない。
それでも僕は気付かなかったんだ、彼に告げられるその時まで。その真実は凄く近くにあった。何故気付かなかったんだろうと馬鹿な自分を嘲笑った。本当にそれはすぐ近くにあったんだ。
これから君達に僕がこれほどまでに真実を追い求める訳を話そう。
一生忘れる事のない遥か昔の僕の穢れた過去を。
話をしよう。あれは今から…いや、ずっと昔のことだから僕も何時だったか忘れてしまったよ。ただ覚えているのは僕が中学生だったときの夏休み前の出来事だね。
僕は龍神神話に登場する穢れ無き世界、天界に天界議員の息子として生まれた。
龍神神話と言うのはこの世界が誕生した時の頃が記された神話だね。始まりに龍神は異世界を創った。地球みたいな惑星もね。
そこから海を創った大海帝オケアノス神、
大地を創った阿修羅神、
大地を砕き、山を創った大怨帝ウクロス神、
空を創ったフィキナ神、
天界は『神』と呼ばれる概念が創った天使、天の人間の世界。天界議会は天界の政治機関だ。
家は豪邸で両親も優しくとても幸せな生活を送っていた。そんな日々を過ごしていたある日、僕の家の隣に父の友人の家族が引っ越してきた。引っ越してきた友人と父は幼馴染らしくよく家に父と話しをしていた。
僕が通う中学校にもその友人の一人娘が転校してきた、彼女は紀姫凛という美少女で明るい性格で一躍有名になった。しかも成績優秀で、学年テストでは二位という実力者だった。ちなみに僕は一位。だが、凛は生まれつきから運動神経は悪く身体も弱かった
そんな彼女に声を掛ける男子も少なからずいて彼女は何度か告白されたらしい。僕には一切関係ないが。
そして期末テストを終え人間で言う夏休みに入った。
僕は二日で課題をおわし、父から借りた古い古書を家の屋上で読みふけっていた。
僕は部活には所属せず、ただずっと本を読んでいた。丁度良い温度の日差しが当たって気持ちが良い。
その時だった。
「ねぇ、何してるのー!」
隣の家の方向から誰かが叫んでいた。無視。
「ねぇってば!何してるのー!」
誰だ?僕は気になって顔を上げた。
隣の屋上から紀姫凛が僕に向かって叫んでいた。実は僕の家と凛の家の壁は二メートルしか間がなく柵を越えればすぐ隣の家に行けた。凛は自分の家の屋上から隣の家の屋上にいる僕に話しかけていたらしい。
なんとなく返事をする。
「見ればわかるだろう、読書だよ。」
僕がそう返事をすると彼女は柵から身を乗り出して僕に更なる質問をした。
「何を読んでいるのー!」
「古書だよ。」
「面白い?」
「面白いよ。」
「読んでみたいな、私!」
「来れば?」
まぁ彼女が此処までくるには彼女の家から僕の家の屋上まで来なければならない。
つまり、貧弱な彼女の体では無理に近い事なのだ。僕の小さな意地悪だ。
しかし彼女は僕の考えを一瞬で破った。
「よいしょっと。」
彼女は柵に右足を乗せ、僕の家の柵向けて飛んだ。だが運動能力ほぼ零の彼女では落下するだけだ。僕の体が勝手に動いた、古書を投げ捨て落下しかけた彼女の右手を掴んだ。
「馬鹿!何してるんだ!君の運動能力じゃ無理だ!!」
彼女は黙ったままで俯いている。僕はため息を吐いて右手に力をこめ、彼女を引き上げた。
彼女の華奢な身体を抱え、床に下ろす。
「まったく…とんだお隣さんだ。」
もう一度ため息を吐いて投げ捨てた古書を拾う。凛は俯いたままで黙っている。
「無茶な真似は止めてくれ。僕でも次は助けられないかもしれない。」
「……………ごめんなさい。」
「…まぁいいや。」
彼女の隣に腰を下ろし。古書を開く。さっきまで読んでいたページを探し、開く。
凛はただ俯いているだけだった。僕は彼女に話しかけず、日が暮れるまでずっと古書を読んでいた。
日が沈むとまだ俯いている凛が流石に心配になる。
「凛、ねぇ凛?」
凛は返事をしない。そっと彼女の顔に自分の顔を近づけると、彼女は小さな寝息を立てていた。寝ているらしい。
「本当に世話の焼けるお隣だ。」
古書を閉じ、彼女を抱きかかえる。幸い凛の体は華奢なため軽かった。母さんに一言告げ、僕はお隣の家まで凛を抱きかかえ、インターホンに出た彼女の母親に凛を渡した。
僕は本日三度目のため息を吐いて家へと帰った。
それをきっかけにしたのか彼女は学校でも頻繁に僕に話し掛けてきた。
僕が無視すると彼女は耳元で叫んできたので読書に集中出来なかった。しょうがないから話し相手になっていると周りの男子生徒が睨んできたり女子が僕と凛を見てコソコソ喋っていた。大体予想はついたけどくだらないね。誰にだって異性と喋ることはあるだろうに。僕はただその相手が凛だっただけだ。まったく困ったものだよ。
更に凛は昼休みであろうと休み時間であろうと放課後であろうと僕に話し掛けてきた。
相手にしないと後が怖いから僕も彼女の言葉を返していた。
それが毎日毎日続いていくと、ついに複数の男子生徒が僕に喧嘩を吹っ掛けてきた。しかし残念なことに僕は毎週一回父親の友人の軍人に近接格闘術と戦闘に関する知識を教えてもらっていた。その知識と経験が役に立ったのか。気付くとその場には倒れた男子生徒がいた。議員の息子の僕がそんなことして良かったのかと言うと良いのだ。天界の法律では攻撃をされたとき自己防衛として相手を無力化することが許されている。だから僕は最小限の力で武器を振り下ろす男子生徒達を殴った。
それが毎日続いた。あのときは本当に参ったよ……学校が終わるたびに路地裏に呼び出されてバットを振り下ろされたのだから。流石の僕も嫌気が差して相手を思いっきり殴った。結果、その相手の顔はグシャグシャになった。でも法律が僕を守った。両親も僕を心配してくれた。
その日から学校に行くと皆が僕を避けた。どうやら僕は知らない内に『不良』というレッテルを貼られてしまったらしい。まぁ気にしないけどね。周りが僕を避けるのにも関わらず凛は僕に話し掛けてきた。
彼女も友達がいない僕を励まそうとしたのだろう。人の優しさを知らない僕にとって理解するのに時間が掛かったが、分かった時の凛の優しさは嬉しかった。
そして秋の季節になった。相変わらず凛は僕に話しかけてくる。だけど僕は嬉しかったと同時に羨ましかった。
彼女の強さが。彼女の心が。
でも僕には彼女のような優しさもなければ強い心もない。あるのは知識だけ。
そんな事を考えて授業中ずっと窓の外を見ている内に今日の授業が終わってしまった。教科書を鞄にしまい、教室を出る。階段を下りて、校門に出るといつもどおり凛が経っていた。凛は僕を見つけると駆け足で寄ってきた。
「ウィル、かえろっ。」
いつも通りの明るく眩しい笑顔。僕も笑顔で答える。
「あぁ、行こうか。」
元気良く凛が頷き、僕らはまだ太陽が昇る昼の天界の街を歩いていった。
帰り道、突然凛が腕を絡めてきた。特に気にせず歩く。凛は横目で僕の表情を伺ったが、何一つ変化の無い僕を見て頬を膨らませた。僕は気にせず歩く。
そんな僕の態度が気に入らなかったのか、凛はさらに腕の力を強めた。
それでも僕は気にしない。周囲の人々の視線が僕と凛に突き刺さる。
僕は特に気にしないが、凛は何故か頬を赤らめた。
「ねぇ……ウィル?」
「なんだい?」
数秒の戸惑い。しかし凛はこれ以上ないぐらいに頬を赤らめた。
「これってさ、恋人みたいだね。」
「………恋人ねぇ…凛はそう思われたいのかい?」
なんとなく適当な返事をすると彼女を怒らせると僕は判断したので、数秒考えて返す。これなら多分凛も怒りはしないだろう。
「えっ…………ウィルは思わないの?」
これもちゃんとした回答をしないと怒るので、僕はまた数秒考えて返答する。
「質問を質問で返すのは反則だけど、君がそう思うなら僕も多分そうなのだろうと思うよ。」
「…?」
よく分かっていない凛に分かりやすく説明する。これも数秒考えを巡らして言葉を一つ一つ慎重に選ぶ。
「凛がこの状況で僕と腕を組んでいることが恋人のように見えるなら僕から見ても多分僕等は恋人同士に見えるんじゃないかな?」
「………良かった。」
凛は僕に聞こえないほどの小言で呟いた。
「何か言ったかい?」
「うぅん、なんでもないよ。」
凛は僕に向かって微笑んだ。僕も一応、笑んでおく。
「ねぇ、今日ウィルの家にお邪魔しても良いー?」
突然凛が言った。
「別に構わないけど…。」
「やった♪じゃあ宿題教えて!私古文苦手なの、ウィル得意分野だよね!」
「古文か、余裕だね。」
僕は自慢じゃないが古文が得意だ、父さんの本を、押さない頃から漁っては深夜まで読み耽っていた。それほど、好きだからね。
「じゃあ、このままお邪魔するねっ。」
「あぁ、母さんも喜ぶね。」
僕らは昼の太陽が昇る真昼の中、腕を組んで恋人同士みたいに歩いていた。
これから起こる惨劇も知らずに。
数十分後、僕と凛は僕の家に着いた。
「お邪魔しまーす。」
「お邪魔されます。」
靴を脱いで、僕は玄関からすぐ手前にある階段に上る。僕の部屋は五階だから結構な段を上ることになる。
「僕の部屋は五階だ、行くよ。」
凛は軽く頷き、僕の後に続いた。
そして三階辺りで凛がばてた。数十分の徒歩とこの階段は身体の弱い彼女にはきつかったか。凛の息が荒い。ぼくも少し遅めに歩けばよかったと反省する。
「大丈夫か?」
僕は凛に手を差し伸べた。凛は僕の手をじっと見つめて自分の手と繋いだ。力いっぱいに引っ張って僕の元に彼女の華奢な身体を寄せる。
「すまないね、僕がもう少し遅めに行けば良かったね。」
「うぅん、良いよ。ありがとう、ウィル。」
凛は嬉しそうに僕に抱きついてきた。彼女の精一杯の力が僕の身体にこめられるが、かなり貧弱だ。全然痛くないし、きつくも無い。
「きつかったら言ってくれ。」
「うん♪」
凛は僕の胸の中で微笑んだ。彼女も彼女で一応、可愛いところはあるのだなと僕はこの時思った。
そして僕たちは僕の部屋へと向かった。
「えーとね、此処の古文は龍神神話の英雄、ロキが凶皇アルデヴァと戦った時に言った古代龍神語で『凶皇よ、お前の国は王であるお前どころか兵士までもが狂っている。だからこそ、狂った兵士は恐怖を知らない。勇気を知らない。勇気や恐怖を知らないと言うことは、お前達は猿以下の存在だ。だからお前は勇気を知る俺に敗れる。』という意味だ。この後ロキは未知の兵器を使って凶皇軍を懺滅させ、凶皇を降伏させた。」
「へぇ、このロキって言う人は凄いこと言うね。」
「このロキは神の知恵とも呼ばれる頭の良い神でね。様々な戦いに知恵を使って勝利しているんだ。」
この世界の古文というのは龍神神話の言語のほんの一部を解読するという科目で三度目だが僕の得意分野だ。
「あと、此処の壁画に描かれている三人の人たちの名前と主な戦歴を書くところだけど………。」
凛のペンが配布された課題のプリントにカラー印刷された壁画の絵を、指す。壁画の右端には弓矢を持った男性、真ん中には真紅の九尾の狐尾の男性、左端には白銀の巨大な大剣を持つ銀髪の男性。
僕はまず壁画の右端にいる黒髪の男性をペンで指した。
ちなみにこのプリントの字は全て龍神神話の言語である。つまり言語が出来ない人はこのプリントを負わすことに時間が掛かるということだ。
「あぁ、まずこの木製の弓矢を持つ黒髪の男性はさっきのロキ、この弓は聖弓イチイバル。主な戦歴は神々の黄昏と呼ばれる龍神神話最終戦争で最強の魔狼フェンリルを封印、邪神アイディールの封印。凶皇の降伏させた凶皇決戦かな。」
僕の説明リンがノートに僕が行ったことを要約し、書く。覗き込むと要点がよくかけている。凛が書き終わったのを見計らって僕は真ん中の男性を指す。
「この男性は神己骸。龍神神話の破壊神だね。戦歴は神々の黄昏以外戦歴は不明。神々の黄昏では大怨帝ウクロス神築き上げた巨大防御壁を拳一撃で木っ端微塵に破壊、ウクロス神を封印。そして邪神ケイオスを封印。」
「ふむふむ。」
凛が骸の特徴や戦歴をロキ同様上手くまとめていく。
「最後は孤高なる武神レギ。その美貌から女性とも良く間違われたらしく一部の地域では戦の女神としてあがめられている。戦歴は、武神だから多すぎるね。有名なのはエリュシュオン聖戦での一人で十万の兵士を虐殺。骸との殺し合いで大陸を吹っ飛ばした北大陸決戦。神々の黄昏での、大蛇ヨムルンガントの討伐、大蛇討伐。東方の国で玉藻と呼ばれる同じ九尾の狐との殺し合い、玉藻婚戦。」
「凄いっ!あっという間に終わっちゃった!流石ウィル!!」
凛が僕を賞賛しながら、ノートに要点を書く。
「まぁ、得意分野だからね。あ、レギは戦いの名前さえ覚えていれば良いよ。詳細は難しいからテストには出ない。」
「分かった!ありがとうウィル!」
「別に。僕も丁度良い復習になったよ。」
ノートやペンを片付ける凛。ふと、凛の視線が時計に向けられた。もう午後六時だった。
「あ、もうこんな時間!お母さんに心配かけちゃう!」
「そうだね、じゃあ行こうか。」
慌てる凛に言って僕は立ち上がる。方や首を回す。
「送っていくよ。さ、行こうか。」
「うん!!」
凛は微笑んで頷いた。
その後、僕は凛を隣の家まで送り届けた。
その夜、僕は帰ってきた父さんから凛のことを聞かれた。
「今日、お隣の凛ちゃんが来てたらしいな。これか?」
ニヤニヤしながら父さんは僕に向かって小指を立てた。
呆れながらも答える。
「あのね父さん、僕は父さんの息子だよ?彼女なんか出来る訳がない。」
「なんだぁ?まるで父さんがもてないって言ってるのか?」
「違う。彼女なんか出来ないって言ってるんだ。」
「ははは、お前も言うようになったなぁ。でも。中学生なんだから友達の五、六人は作っ
ておくべきだぞ?」
痛いとこ衝かれた。僕は友達がいない。作るのが面倒だからだ。
「いっそ凛ちゃんと仲良くなったらどうだ?近所で中学生はお前と凛ちゃんしかいないんだからさ。」
「冗談じゃない、あんな世話の焼けるやつと仲良くなんか、」
僕は何故か凛とそれなりの仲だと言うことを否定してしまった。
「ん?てことはもう世話を焼いたのか?お前も隅に置けないなぁ。」
僕の父親ながら口が強い。僕はしつこくからかってくる父さんを無視して自室に戻った。
部屋を出た時、何故か泣きじゃくる母さんの嗚咽が聞こえた。
「本当に、困った奴だ。」
ベッドに横たわり、天井を眺めていた。
そして静かに眠りについた。
僕の運命も、この夜から始まってしまった。
決して抜け出す事が出来ない螺旋の運命が。
その夜は静かだった。まるで宇宙空間にいるように。だがそれは嵐の前の静けさだったのだ。僕もそんなこれから起こるであろう惨劇をまったく予期していなかった。
僕は静かに眠っていた。しかし、妙な違和感を感じ、僕は目覚めた。父さんは毎晩九時ごろから朝起きるまで音楽「情熱大陸」とかいう曲を流しているはずだが、今日の夜は聞こえない。おかしい、仮に父さんが出掛けたとしても九時には自動的に流れるはず。何かあったのだろうか?ベッドから静かに降りて、物音を立てずにゆっくりとドアを開け周囲を見回す。
やっぱり何かおかしいと僕は思い、まず玄関に向かった。
玄関
僕は階段の隅から影に隠れて、二人の会話を聞いていた。それはとても信じられない会話だった。
「ウィルを連れて逃げろ。俺は凛ちゃんを殺す。」
何…なんだって!?僕は驚愕にろくに身体が動かなかった。何故なら、会話しているのは『父さん』と『母さん』だったからだ!二人とも闇の中、片手に光る刃物を持っていた。何故二人が凛を殺すんだ!?
僕の頭はごちゃごちゃになっていた。
「いいの…あの子は生き残れるわ…私達の子ですもの。仮に生き残れなかったら、『殺さなきゃ』。」
何が、どうなってる?母さんと父さんが凛を殺して僕を殺す?何故だ…何故凛まで……!凛が危ない!!気付いた僕は全力で屋上へと駆けた!今玄関で二人と対峙しても殺されるか、気絶させられる。だから屋上から凛の家の屋上へと飛び移って凛を助ける!!
僕は短い人生の中でこれほど全力で走った事はなかった。自分でも分からなかった。何故、ほんの少しだけしか話していない少女を助けるために、自分が死んでも良いと思ったのか。だが、考えている時間は無い。速く!速く!もっと速く!!心の中で必死に叫ぶ。その時、不思議なことに疲労が消え、足がフッと軽くなった。後から思えばそれが僕の力だったんだ。屋上のドアを蹴り飛ばし、凛の家の屋上へと柵を乗り越えて、僕は高く飛んだ。これなら陸上大会でも優勝を取れそうなほど飛んだ。着地に失敗し、凛の家の屋上を転がる。すぐさま立ち上がり、凛の家に入った。
僕の家ぐらいある部屋のドアを片っ端から開けて、閉めずに次の部屋のドアを開ける。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
突然下の階から凛の悲鳴。舌打ちしつつ、部屋を飛び出し五つの部屋の前を走り階段から飛び降り一気に下の階に行く。凛の悲鳴は僕がさっき五階の右から『五番目』の部屋の真下から聞こえた。つまり僕は今左側にいるから四階の五番目の部屋に行けば良い!
僕が行っても、逆に殺されてしまうだろう。だが、凛を放ってはおけない。僕は左側から五番目の部屋のドアを蹴り開けた!
「凛っ!!」
僕はそこで恐るべき光景を見た。大人四人が凛を囲って刃物を向けていたのだ。しかもその内二人が僕の両親で別の二人が凛の両親だった!!凛は恐怖のあまり大量の涙を流し、目を閉じている。
「父さん…母さんも…おじさんも…おばさんも…皆…何してるんだ……?」
僕がゆっくりと口を開き、四人に問う。父さんが、口を重々しく口を開く。
「ウィル、出て行きなさ「何してるんだって聞いてんだよ!!答えろよ!!」
僕は無意識に父さんに叫んでいた。四人が驚いた顔をするが、瞬時僕の頬におじさんの拳が食い込んだ。口が切れ、口の中を鉄の味覚が染める。
「ごめんな、ウィル君。あの世でも凛と仲良くしてくれ。」
おじさんが僕に鋭利な刃物の切っ先を振り下ろす。当たれば僕の額はざっくりと斬り裂かれる。僕は痛みに耐え、頭を動かそうとした瞬間ぐちゃっと肉が裂かれる音と共に部屋の壁に大量の血が付いた。僕は目を見開く。僕の額は裂かれていなかった。鋭利なナイフは母さんの胸に突き刺さっていた!!
「母さん!?」
崩れ落ちる母さんを抱える。その顔は涙で濡れている。母さんの細く白い指が僕の頬を優しく撫でる。母さんの身体は急激に冷たくなっていた。母さんは僕を庇ったんだ!!
「ごめんなさい…ウィル…こうするしかなかったの、でも、貴方は…い、きて。」
母さんは微笑むとその瞳の光が消えた。その光はもう宿らなかった。
母さん、厳しかったけど優しくて料理が壊滅的に下手でいつも料理は父さんが作ってたけど、いつも塩と砂糖を間違えた甘いすぎる真っ黒な野菜炒めの味は忘れていない。そして何よりも父さんを愛していた。
母さんの血が床を染める前に今度は別の血が壁に付いた。おじさんの血だった。おじさんの首に刃物が突き刺さり貫通していた。突き刺したのは父さん!
「妻の仇だ!!」
父さんは刃物を引き抜くと、今度はおじさんの後頭部に突き刺した。そして再び別箇所に突き刺そうとした瞬間、今度は父さんの胸を刃物が貫いた!!父さんとおじさんは口から大量の血を吐いて床に倒れた。二人とも既に絶命していた。父さん、母さん同様厳しかったけど、面白くて僕が勝てないぐらい口が強かった。音楽が大好きで人間が作った音楽をよく聴いては僕に意味不明な単語を説明していた。そして母さんを愛していた。
「とう…さん?」
母さんの目を閉じ、床に横たわらせ父さんの身体を揺する。分かっていた。父さんがもうこの世にいないぐらい。それでも信じたくなかった。父さんが死んだなんて。その瞳に光は母さん同様宿っていない。
「ウィル!逃げて!!」
凛の叫びで父さんの死体から離れる。父さんを殺したのはおばさん。おばさんは僕を無視して凛に鋭利な包丁を振り下ろした。
狂っている。皆。父さんも母さんもおじさんもおばさんも皆。
「消えてしまえ。皆。」
僕は無意識に言葉を吐いていた。狂っている大人なんか、消えてしまえ。子供を殺そうとする親なんか消えてしまえ。殺し合う親なんか
「死んでしまえ。」
一瞬、僕の中で何かが切れた。そして切れた何かが紡がれた。僕の何かが。身体?骨?思考?それとも『心』?
気がつくとおばさんは床に倒れていた。いや、おばさんらしい肉塊が床に散らばっていた。もう人としての『カタチ』を残していなかった。
それどころか父さんや母さんおじさんの死体すら肉塊となっていた。
意識が朦朧とし、僕は倒れたのだと冷たい床の感触で気付いた。
数日後、夕陽が沈みかけた子供誰一人いない商店街の道を、病院で診察を受け僕と凛は何事もなかったかのように歩いていた。
あの後、凛の家に警察がやってきて僕達を保護した。凛は無傷。僕は口が切れた程度の怪我だった。その後病院に運ばれ治療が終わると警察から事情を聞かれ、僕は心に深い傷を負った凛の代わりに全てを話した。親が僕達を殺そうとした事や、僕が消えてしまえ、と思ったらおばさんが肉塊となっていたことを。多分、僕が殺した事も。
しかし警察はおばさんが自殺、親が発狂したと結論付け、早々と僕達の前から消えた。警察から聞いた所、天界でも同じような事件が何百件と発生したらしい。何百人の子供と親が死んだ。でも今となっては僕には関係ない。僕は償わなくてはならない。凛の母さんを殺した事を一生。でも多分寿命が長い天人の僕でも一生掛かっても償えないだろう。彼女の心に深い癒えない傷を負わせたことは。絶対。
帰り道、凛が僕に話しかけた。
「ウィル、ありがとう。」
「…………ハッ。」
その言葉に僕は大笑いした。多分自虐的な笑いだったと思う。
「はははははははっ!!何を言うかと思えば感謝の言葉かい!?もっと別に言う事があるんじゃないか?」
「どんな?」
凛は心底不思議そうな顔でぼくに問いかけた。
「僕は…僕は君のお母さんを無残な姿にして殺したんだよ?普通は罵詈雑言でも浴びせるものじゃないか?」
「違うよ。」
凛のその言葉が僕の笑いを止めた。凛は涙目で言葉を口にする。
「ウィルは殺してなんかいないよ、お母さんは自分で死んじゃったんだよ。ウィルは悪くない。」
「違う!!僕が、僕が消えてしまえ死んでしまえと思ったから君のお母さんはあんな姿になって死んでしまったんだ!!僕が悪いんだ!!君はぼくを、責めるべきなんだ!」
僕は必死で凛に叫んだ。誰もいない淋しい街中で。でも凛は断とした表情で首を横に振った。そして震えた唇から言葉が出る。
「違うよ。ウィルは私を助けてくれた。ウィルは私のヒーローだよ。」
「ヒーロー!?違う!僕はただの人殺しだ!君にも誰も赦される事のない罪を背負った罪人だ!!」
そうだ、僕は罪人だ。けっして許されない。罪の鎖に縛られた愚か者だ。ヒーローなんかじゃない。
「私は赦すよ。貴方を。」
時間が止まった。日が暮れ、夜の闇が訪れる時間の狭間、二人の少年少女が会話する。少女は目から透明な液体を流し、少年に向かって微笑んだ。
「私は、貴方の罪を赦します。だから、泣かないで?ウィル。」
「…泣く?僕がいつ泣いて……………?」
僕の頬を冷たい何かが伝わる。指でなぞるとそれは涙だった。僕は泣いていた。生まれて初めて。
「私は大丈夫だよ。ウィルがいるから。」
「え………?」
「お隣さんでしょ?一緒に頑張ろうね?」
その時女神よりも美しく微笑んだ彼女の笑みを僕は一生忘れない。
七年後
「行って来ます!」
「あぁ、行ってらっしゃい。頑張ってね。」
凛は清楚な黒の制服を出て、家を飛び出していった。
あの事件から七年の月日が経ち、凛も僕も成人になった。凛は今日から裁判長としての仕事が始まる。彼女は事件から僕以上に強い心を持ち、最年少で裁判長になった。まだ少女としての面影が残っているが。
僕は天界議会の議長に名目上の養子になりとある訓練に参加していた。
『能力開花計画』。議長はそう言っていたが、正直胡散臭い。けれども参加しなければ僕はまた誰かを殺してしまいそうだったからだ。だから五年間訓練に参加しついに『全知全能』を開花させた。自分の意志のままに全てを実現できる反則級の能力だった。これがあれば指パッチンで大体の事が出来る。僕はこの能力を使い知らなくてはならない。
『真実』を。
七年前、何故の僕や凛の両親、天界中の大人が自分の子供を殺したのか。
何故、犯人に関する情報や手がかりが一切無いのか。
全ては、誰が仕組んだのか。
この真実を知り、そしてこの天界と言うチェスの盤で両親を動かしていた犯人に罪を償わせるまで、僕は何が何でも生きる。凛以外の何を犠牲にしようと生きる。
そして全てが終わった時、僕は凛に対しての償いが出来る。
苦い珈琲が入れられたカップをテーブルに置いて、僕は椅子から立ち上がる。
その時、僕の携帯が着信音を発した。液晶に表示された名前を見ると、『神』。
いたずらか、そう思いながらも一応内容を確認すると、僕は驚愕した。
メールの件名は「君が知りたい真実について。」だった!僕は指を動かして本分を見る。
「全知全能の罪深き者よ、地上界に降りてオケアノス島に向かえ。そこに赤い隕石が落ちる。その隕石を追い、自らをLと名乗る男と会え。彼は君の真実を知るための大いなる力となってくれるだろう。そして、全てを繋げ。救え。真実を知り、その者に罪を償わせよ!!」
とメールには書かれていた。Lとか言う男は置いておいて、その者とはおそらく犯人。僕は急いでその神に返信した。
「貴方は何か知っているのか?」
するとすぐ返事がきた。
「知っている。しかし、私が教えてしまえば君の罪は消えない。君自身の手で全てを知り、償わせよ。なお、これ以降は君に連絡できない。もし私と君が会うときがくればそれは君がその者に罪を償わせた時だ。幸運を。」
僕はすぐに携帯を閉じて指を鳴らす。瞬間移動で極南にある島オケアノスにつく。
オケアノス島はまだ夜の闇に包まれている。そんな暗黒の夜空を照らす星達の中に一つだけ赤く光り、移動する星があった。
計算すると丁度このあたりに落ちる!!
赤い流星は段々と速度を増しておちてくる。僕は落下の衝撃波を食らわないように防御結界を張る。
そして流星が落ちた!落下によって発生した衝撃波と光が僕を覆った。結界を張っていなければ即死だった。視力が戻り、僕は指を鳴らし落下地点まで瞬間移動した。
落下地点には巨大な穴が出来ていた。覗き込むと、僕の目は見開かれた。落下してきたのは隕石ではなく男性だったのだ!!しかも落下の摩擦による熱や衝撃にも関わらず、男性は無傷だった!!僕は驚愕して、軽いジャンプで男性に近づく。
「ねぇ、君……大丈夫かい?」
僕は男性におそるおそる話しかけた。瞬間、額に冷たい物が押し付けられた。
僕が瞬きした瞬間、男性は一瞬で僕に銃口を向けたのだ。
「…動くな。動いた瞬間撃つ。」
男性の息が荒い。無傷でも内面的なダメージがあるのだろうか。とりあえず、言われたとおり動かない。
「追っ手か?」
「追っ手?何の。」
僕の答えに違和感があったのか、男性は僕の瞳をまじまじと見つめた。
「何者だ。神界の奴じゃないな。」
「僕はウィル。神と名乗る人からの連絡で此処に来たんだ。此処でLという人に会えといわれたのさ。」
僕の名前を聞いた瞬間、男性が銃口の引き金を引いた。能力で弾丸を消し飛ばす。
「ウィル……まさか、全知全能の………エクティスが言ってたのはこいつか。」
男性は安心したのか銃を下ろす。そして安堵のため息。
「悪かったな、俺がLだ。ちょっと事情で追われていな。お前のことは聞いている。お前が探すものが俺の大切なモノを見つけるらしいな。」
「僕のこと?誰からだい?」
「悪い、言うなと言われた。だが、安心してくれ。俺はお前の味方だ。」
Lは服についた埃を落とし、身体の節々を触る。
「まぁ、お前が俺に協力する限り俺はお前の味方だ。よろしく頼むぜ、ウィル。」
Lは右手を差し出す。確かにこの男性にはヒトには見られない何かがあった。直感だけど、彼は人間ではない。おそらく人間を遥かに、いや、僕の想像を遥かに超越した存在なのだろう。
この男性なら、信用出来る。多分、裏切られても僕のこの能力があれば生き延びることは出来るだろう。そんな僕の心を察したのかLは苦笑いする。
「安心してくれ。俺は大切な人を探している。俺の全てを奉げてでもそいつに会いたい。俺を信用しなくても良い。だが、俺のこの願いだけは信じてくれ。」
彼の目は真剣だった。少なくとも僕と同じぐらいには。
僕はゆっくりと手を伸ばし、Lの手を握る。
「いいや。君を信じるよ、よろしく頼むよ。L.」
「あぁ、なら俺もお前を信じる。よろしくなウィル。」
これが僕とLの出会いだった。今思えばあれから何千年と時を過ごしただろうか、Lも僕も一切老いることはなかった。Lは僕の能力で別の世界を旅し、僕も真実を探した。
しかし、一向に真実が見つからなかった。
それもそうだ、Lは僕が探しているものをしらなかったのだから。
つい最近まで。
そして、ついに僕とLは探していたものをみつけた。
しかし、それはとても遠く、そして近くもあったのだ。
そして気付いたときにはもう始まっていた。
再び始まる。
世界を揺るがす大戦争が。
「さて、これが僕の『過去』かな。我ながら良く話せたものだよ。凛は僕を許したのかもしれない。でもはいそうですかありがとうございます、で終わらすほど僕は勝手な人格じゃない。だから、僕は探すんだ。真実を。そしてこれから始まるのは世界の存亡を賭けた戦いかな。よくあるよね。こういう展開。世界が滅びるから救えーって、でも救うのは主人公だけじゃないんだ。僕やL、忌羅や刹那そして、彼も、世界を救うこの物語の主人公なのさ。…おっと長く話してしまったね、すまない。じゃあね。」
いかがだったでしょうか。一万字の文。良かったら感想ください。
よろしくお願いします、と共に今後とともにこの作品をよろしくお願いします!!