99 夏の恒例行事
ついに99話まで………去年の夏から始めて、長かった………。
次回は100話記念で長い話を書くつもりです。1万は書くつもりなので投稿するの結構掛かってしまうかもしれないので、気長に御待ちください。
真田旅館 庭
「いやぁ、流石武神でござる!完敗でございます!」
「まぁ、貴様もその辺の者共よりはやるな。誉めて遣わすぞ。真田。」
「ははっ!ありがとうございます!」
忌羅との勝負に見事ぼろ負けした如真は清々しい笑顔を浮かべ忌羅に頭を下げる。忌羅はレギをしまい、首を左右に鳴らす。そして誰かを思い出したのか、遠い目で夜空に輝く月を見つめた。
「お前も…ボロボロになるまで、私に挑んできたな……月詠。」
彼が愛した女性も如真のように夜遅くまで忌羅に挑んで、その度に負けていた。過去がフラッシュバックした。
『くっ……流石にキツいわね…。』
『いい加減諦めろ。人間の身でしかも足が不自由ではお前に勝機は皆無だ。』
『そんなのやってみなきゃわからないでしょ?』
服を泥だらけに汚した月詠は顔についた泥を袖で拭い、立ち上がる。
『大体、何故私なのだ?姉上でも修羅でもよかろう。』
『駄目よ。あの二人は過保護過ぎて加減するのよ。でも忌羅は問答無用で相手してくれるじゃない。』
『お前も自分の立場に理解しろ。』
忌羅は右手に握っていた日本刀をしまって、ため息を吐いた。
『最恐の妖怪と同族からも恐れられている姉上の特別愛でている人間だぞ?手を出した者は肉片に変えられるのだ。』
『だからお母さんに迷惑掛けないように頑張っているんじゃない。』
『…………お前はまず、自らの戦いのメリットとデメリットを知るべきだ。』
『え?』
『まずお前のメリットは体が軽く頭が少々回ると言うことだ。そしてデメリットは足の不自由、腕力の無さ、そして人間としての脆さ。』
『ほぅほぅ…なるほど。』
『お前の場合、なるべく戦闘は避けろ。人間以外の化け物に勝てる見込みはない。つまり、地形を最大限に利用し相手を翻弄しろ。だがお前は足が不自由のため動き回るのは相当の疲労だ。だから、足で高く跳躍し、手で移動する。この妖怪の山なら森林が深い。つまり、手を使って木の幹を掴むなりして逃げろ。天狗達が私達を呼ぶ。』
『な、なるほど……って結局貴方達に頼るんじゃない!』
『当たり前だ、お前の力で妖怪と戦える程の戦力はない。』
『むぅ………。』
ふて腐れたように頬を膨らませる月詠に忌羅は背を向けた。
『明日も来い。』
『え?』
『明日も来いと言った。お前が自分の無力さを自覚するまで相手してやろう』
『……良いの?』
『私は暇だからな。貴様と戯れるのはちょうど良い暇潰しだ。』
『そう……忌羅は優しいのね。』
『…貴様はついに足だけではなく目まで悪くなったか。一度天魔に見てもらえ。』
『あれぇ、もしかして照れてる?』
『くだらん、貴様に照れるなど武神も落ちたモノだろうに。』
『素直になればぁ?』
『失せろ。』
『ふふっ、可愛い。』
「…………月詠。」
一方その頃、紅汰達は部屋から離れ別の部屋に集まっていた。
部屋には紅汰、ルーシャ、藍、グラム、レーヴァ、風魔、グングニルの七人人が集まって紅汰の話に耳を傾ける。風魔だけはカップに湯を注いで紅茶を飲んでいる。
灯りを消した真っ暗な部屋で蝋燭の僅かな火がそれぞれの顔を照らす
「俺が小さい頃、一人で夜遅くまで遊んでいたんだけど……気付くともう八時だやっべぇと思って帰ろうとしたんだ……すると背後から異様な視線を感じてさ。振り向いたら妙に頭が低い女の人が立っててさ、顔はよく見えなかったんだけど……俺はつい、こんばんはって声掛けたんだすると……女の人はゆっくりと口を開いて……わ「砂糖がねぇぇんだけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!???????」」」」」
物語のクライマックスと言うところで風魔は突然叫んだ。グラム以外の五人の絶叫が響く。
「ふ、風魔!?お前大事なオチを砂糖でパァにしやがったな!!?」
「知るか、折角のティータイムなのに肝心の砂糖がねぇんだ。これじゃ台無しだ。」
「テメェのせいで怪談が台無しだよ!」
「こ、紅汰………藍が、気絶しました………。」
「おいおいおいおいおいおいおい!!たかが砂糖で気絶すんなよ!」
「馬鹿野郎!三大調味料の砂糖を馬鹿にすんじゃねぇ!塩、マヨネーズに並ぶ調味料だぞ!」
「ぜってぇ違うから!て言うかお前いつか糖尿病になるぞ!」
「いいもんね!人間の限界越えて治すもんね!」
「二人とも!一旦落ち着きましょう!座って!」
ルーシャの冷静な仲裁で二人は落ち着き、腰を下ろす。
「し、しかし……砂糖で気絶するとは……本当に鍵の保持者か…?」
「残念ながら、我が主だ。」
グラムが気絶した主の肩を揺する。それでも起きないので耳をつねる。
「ひゃっ!?………ハッ!」
耳をつねられた藍は飛び起き、周囲を見回す。
「へっ?…な、何?」
「なんでもないです。」
言わないのが彼女の為だろう。
その時だった。襖が開いてウィルがやってきた
「夏恒例肝試し、始めるよ!」