96 救命
オケアノス島 海岸
「ふぅ…久々に走ったな………。」
風魔は見事海面を走ると言う人間離れな方法で紅汰との競走に勝利した。
「風魔~、泳げよぉ…。」
「はっはっは、勝てばよかろうなのだ。」
紅汰の抗議に清々しい高笑いで答える。風魔は泳いで砂浜に戻ると顔を左右に振った。銀髪と共に滴が輝く。思わず見とれる。
「あ、やっべ。日焼け止め塗ってねぇ。」
その言葉に男性陣の肩が一瞬ビクッと上がった。
「誰かに頼むか……」
「俺が。」
「いや俺が。」
「いやいや僕が。」
「紳士として僕が。」
「貴様ら煩悩男に任せられん。私が。」
「此処は私がやるべきだ。」
「わたしが!ますたーのおせなかを!」
紅汰、L、ウィル、魔界神、忌羅、刹那、グングニルが挙手する。風魔は目を細めて言った。
「信用できねぇ……じゃあ刹那さんとグングニル、お願いします。」
「おいおい!幼馴染、ぐふっ。」
「俺は親戚心、危なっ!?」
抗議をしようとした紅汰の腹部にルーシャのボディブロー。Lの頬を修羅の鎖が掠めていった。他の抗議しようとした男性陣もそれを見て、止める。
風魔と刹那、グングニルは人目を避けて、更衣室の方へと歩いていった。
途中で風魔の声らしき悲鳴が聞こえた。
風魔が顔を真っ赤にさせて更衣室から出てきた。それ後ろには清々しい笑顔の刹那とグングニル。
「百合か……見たかった。」
呟いたLの顎に風魔のアッパーが炸裂したのは言うまでもない。
それから、紅汰達は楽しそうに笑っていた。海で泳いで遊んで。
風魔は日傘の下からそれを眺めていた。隣には修羅。
「姉上の事だが……君には感謝しきれないぐらいの借りが出来てしまったな…。」
「良いですよ。借りなんて。修羅さんには助けていただきましたし。」
「あの程度、借りにはならない。礼に何か差し上げたいが、生憎収集家ではないものでな。君が興味を持つような物はないのだ。」
「だから大丈夫ですよ。刹那さんは俺の家族ですし、家族が困っていたら助けますよ。」
風魔は横を向いて、笑顔で修羅に言った。
「もちろん、修羅さんや忌羅さんが困っていたらもちろん助けますよ?」
風魔の笑みに修羅は僅かに口元に笑みを作った。
「そういうところは月詠にそっくりだよ、十六夜。」
修羅は風魔を見ずに真紅の瞳で海を見つめる。風魔も軽く笑って、海を見つめた。
「………此処から11時の方向、約2km先に小舟。誰かが乗っているように見える。」
「えっ?」
突然修羅が呟いた。
「さらに同じく11時の方向、約2.2km先に異様な波紋。誰かが溺れたと見える。さらにその地点から血らしき赤みが見える。そしてそこから約10kmに巨大な波紋。おそらく鮫等の肉食生物。あと1分程度で溺れた地点に到着。10秒で溺れた者を捕食すると今度は13秒で小舟を生物だと思い込み下から喰らう。大量の出血、そして血が広がりその臭いを嗅ぎ付けた別の肉食生物がやってくる可能性大。この砂浜が肉食海洋生物の群れで5日は泳げなくなると計算してみた。」
言い終わる前に風魔は砂を蹴って走り出していた。砂浜の砂で砂塵が発生する。
「風魔の速さだとギリギリ間に合うが誰かを抱えて海面は走れない。つまり泳ぐしかない。しかし抱えて泳ぐと必ず速さに影響が出て、抱えても二秒で追い付かれ足を喰い千切られるだろう。」
修羅は至って冷静に状況を判断する。
「計算してる場合かっ!援護しろ!」
Lが右手に剣を構えて走っていく。風魔と若干速さが劣るが速い。風魔は海面を走って、まず溺れた方に走る。そして海面を蹴って飛び込んだ。
「忌羅、私の合図で11時、12時の方向8km先に向かって剣を放て。」
「力で私に劣る貴様も計算だけは得意だな。」
忌羅の背後には目を覆う程の大量の剣が出現する。
紅汰やルーシャ達は何が起こっているのか全く分からない様子だ。
「撃て。」
修羅の合図で剣が一斉に射出された。空気と水を裂いて剣が海に潜む海洋生物を切り裂く。
風魔は必死に泳ぎ、溺れた方をなんとか左脇に抱える。確認している暇はないが、金髪の美女だった。
次に『限界突破』で脚力の限界を越えて海面に飛び出す。そして小舟に着地。小舟で眠っていた傷だらけの少女を右脇に抱える。
だが、二人を抱えて海面は走れないし翼で飛んでも不安定になる。
だからと言ってジッとしていると下から食べられるだけだ。
「……しゃぁないっ!」
覚悟を決めた風魔は大きく息を吸って海に飛び込んだ。脚だけで泳ぎ、砂浜へと向かう。
突然、背後から凄まじい威圧がのしかかった。おそらく背後にいるのだろう。修羅の計算だと約二秒しかない。
「(一か八か!)」
進化の限界を越えて背中に真紅の翼を出現させる。そして、翼の力で浮上し海面から飛び出した。
水飛沫と共に銀髪の美少女と、巨大な鮫らしき生物が飛び出してきた。
が、その鮫を無数の剣が貫く。さらに黄金の鎖が風魔の腹部に絡まり、風魔は修羅に引っ張られた。しかし不思議なことに痛みがまったく無かった。
「おっと。」
修羅に受け止められ、無事に生還した。少女も美女も無事っぽい。
「よくやったぞ月子!あとは俺に任せなッ!!!」
Lの剣が輝くと同時に見渡す限りの海が爆発した。大量の血肉が宙を舞い、落ちた。
「これぞ、自然系第八位錬成『海乱波死突暴君』!一定範囲の海の水にナトリウムと雷撃を混ぜ混んで無理矢理水素爆発を起こさせるッ!俺解説乙ッ!」
爆発のせいで大量の塩水が雨のように降る。しかし気にしない。
「おや、息をしていませんね。」
シーゼは少女と美女の容態を確認し、伝える。しかも美女の方を見ると眉が歪む。
「……………誰か、人工呼吸をお願いします。」
「僕がやろう。」
魔界神が美女の前に立つ。風魔も少女に心臓マッサージと戸惑いながらも人工呼吸を行う。
「こぉぉぉぉぉ…………。」
魔界神は深く息を吸うと拳を構えた。
そして………
「ぶるわぁぁっ!!!」
紫の炎を纏った拳が美女の胸に降り下ろされた。『メメタァ』という効果音と共に美女の胸が押される。
「ごほっ!!?」
美女が口から大量の水を吐き出し、目覚めた。
「ちょっと、ごほっごほっ!な、何!?」
唖然とする美女に魔界神とシーゼは冷たく言い放った。
「起きたか、性欲女神。」