93 天魔神拳と混沌世界
紅汰と風魔はウィルに船のデッキに呼びださていた。南に近付いているのか、日が激しい。
「そろそろ、君達に色々と話すべきかと思ってね。」
ウィルは日傘の影に涼み柔らかな表情で二人に語り出した。
「まず、君達は以前の世界で死んだ事にした。あ、事故ったのは僕のせいじゃない。元々君達はこの世界の住人だからね。僕は君達の生い立ちを知って……この創界の鍵を託した。ミカエルの孫と月詠の子供なら心配ないって。期待通り、いや…君達二人は僕の予想以上の力がある。」
一旦句切って、ウィルは海の彼方を見通す。
「『混沌世界』と『風魔詠う終焉の刻』、この二つの力がいつかこの世界を救うのかもしれないね。」
「なんですか、最後の電波は。」
「ん?天魔神拳だよ。天魔神拳は実際のところ能力でね。風魔詠う終焉の刻が正式な能力名だよ。僕でも詳細は知らない。」
「えっ、まさか…俺の母さんはそんな電波系能力で戦ってたんですか?」
「まぁね、でも…格好いいから良いんじゃないかな。」
「天魔神拳の方が格好いい気が………。」
「どっちでも良いじゃないか。君はいずれそれを使うんだから。」
「えっ………。」
「でも、それなりの覚悟が必要かもね。」
「え?」
「なんでもないよ。あ、そうそう…君達には僕のちゃんとした自己紹介をしていなかったね。僕の名前はウィル。天界の住人で、とある目的のため…無限に等しい時間を迷う天人だよ。」
海に響く汽笛が半日早めの到着を知らせていた。
彼方にはもう島が見えていた。
同時刻 忌羅
「ダンテ、頼んだ例の結界の出来具合はどうだ?」
「大分難しいと言うか…不可能に近いよ……龍神神話の言語を解読して英語で唱えるなんて…僕でも頭が痛いよ……。」
「お前にしか頼めんのだ。来るべきときに備えて…。」
「分かってる。忌羅の想いを無駄には出来ない。詠唱スペルが完成したら伝えるよ。」
「あぁ…ではな………………………………無駄の剣戦か……。」
同時刻 L
「チッ、もう少し精度と演算制御を調整するか………たかが女一人の為にここまでするなんてな…………だが、絶対に諦めない。ウル、お前ともう一度会うまでは………。」