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俺と神様の異世界冒険記  作者: サイトゥー
第一部 始まりに至る物語
84/113

90 絶望

刹那の部屋前


風魔はドアを軽くノックする。しかし返事がない。試しに『聴覚の限界』を超えて耳を澄ませるが、海の上なので波の音や風の音などの雑音が入って聞き取れない。だからと言ってなんの断りもせず部屋に入ると言うのは風魔の性格上の問題で駄目だった。

どうしたモノかと悩む。


「おう、月子じゃん。どした?」


通路の右側からLが歩いてきた。Lは片手を挙げ、風魔に挨拶する。風魔を頭を軽く下げた。此方の事情にLを巻き込む訳にもいかないので刹那と話がしたいが鍵が掛かっているとだけ説明した。


「あのな、こういう事は遠慮なんざするもんじゃねぇ。わざわざ月子が心配してんのに部屋にこもってんだからよ。こういう時は強引な手を使え。」


Lは軽く笑うと懐から針金を取り出した。それを鍵穴に捻り入れ、数回左右に動かすとカチッっとドアが開く音がした。


「行きな。何の事情かは知らねぇが俺が入って良い事じゃねぇ。ま、頑張りな。」


Lはそれだけ言うと欠伸をしながら通路の奥へと去って行った。風魔はその背中に深く頭を下げるのだった。



とにかくLの協力もあって鍵は開いた。ゆっくりとドアノブに手を伸ばし、触れる。そしてゆっくりと回した。


「刹那さん…失礼しま、!!」


部屋に入った瞬間、その場を飛び出す。もちろん部屋から出るのではない。

何故なら




刹那が首にナイフを突き刺そうとしているからだ。

風魔は手を伸ばし、止めようとする。だが間に合わない。己の無力さを嘆いた瞬間、



時が止まった。


「え…………?」


世界が制止した。ただ一人、風魔だけが動けていた。刹那も動きが止まっている。


「間に合いましたね。良かった良かった。」


突然誰かの声が聞こえた。この時間が止まった世界で風魔以外に動けるとすればそれは『止めた本人』だろう。風魔はその正体を確かめようと声が聞こえた所を振り向いた。

しかし誰もいない。


「此方ですよ。」


さらに別方向から同じ声。今度はそちらに振り向くがまた誰もいない。


「フフフ…後ろですよ。」


今度は後ろに振り向くとそこには銀髪の医者がいた。寝癖のようにはねた髪、凍てつく氷を思わせるような深海色の瞳、雪のように白い肌、形良く整えらえた鼻と美唇。そして白衣。間違いない、シーゼだった。


「危なかったですねぇ、刹那さんも僕がいるんだから絶対死なないのに。」

「シーゼさん…これは一体………?」


風魔の疑問は最もだ。この時間が止まった世界で風魔とシーゼだけは動ける。つまりどちらかが時間を止めた張本人だ。しかし風魔は時間を止める所か魔法も使えない。そうなるとシーゼしかいない。

そんな風魔の疑問に対してシーゼは、眩しい程の笑顔で答えた。


「簡単ですよ。僕が時間を止めました。」


唖然。『神の医者』と呼ばれる程の腕を持つ青年が時間を止めたとはっきり言った。そこで風魔に新たな疑問が浮かんだ。


「僕の能力『時間を支配する(タイム・エンペラー)』はありとあらゆる時間を止め、消し、速め、戻します。僕は今、僕と貴女の以外の時間を止めています。」

「時間を…支配?」

「そう。僕は創界の鍵のひとつ『氷結の邪眼』の保持者でもあり、始まりの邪神ディスペアー(絶望)でもあります。」


また更なる疑問である。その邪神とは何か風魔は首をかしげる。


「説明しましょう。この世界の始まりとは龍神と呼ばれる神がこの世界を創造しました。それから数多くの英雄や神、怪物が現れます。邪神ディスペアーとは龍神神話に登場し、時と絶望を司る神です。僕は『人々の絶望という概念』によって生み出され邪神ディスペアーの邪眼を継ぐ人形なんですよ。」

「まってください、何故そのすごい邪神様がここにいるんですか?」

「簡単な事です。貴方達を見ているととても楽しいのですよ。貴方達は『感情』と言うモノがありながら絶望をしない。僕にとっては不思議でなりません。人々の絶望を吸収し糧とする僕にとってはね。」


シーゼは優しく微笑むと刹那のナイフに触れた。すると一瞬でナイフが錆びて塵と化した。


「今僕は『ナイフの時間』を進めました。時間が進んだナイフは錆びて塵となる。人も同じ。僕が触れて能力を使えばただの骨になります。貴方達の治療も『傷の部分』の時間を戻せばすぐ戻るのですよ。」


シーゼは唖然とする風魔を他所に刹那の手に触れる。


「僕は時間操作能力とは別に『絶望と時間の境界(ザ・ディスペアー)』と言う絶望を見せ、吸収する能力があります。これがあれば刹那さんの千年の罪は消えるでしょう。いえ、忘れてしまう。」


言葉を区切るシーゼ。その時、彼の雰囲気が変わった。一緒にいるだけで気温が下がる。圧倒的な寒気と悪寒が風魔を襲う。瞬間、机に置いてある水が入れられたコップが凍り付いた。


「だが、それはいけない。自らの罪を忘れ、のうのうと生きるなど。赦される事ではない。例え神であろうとどれだけ罪に苦悩しようとな。もちろん逃げる事など言語道断。だから私はこの女性を止めた。罪を永遠に背負わせるために。」

 

シーゼがゆっくりと振り向く。深海色の瞳に美少女の姿が写る。

瞬間、風魔の脳内にあらゆる『絶望』が流れ込んできた。


叫び 恐怖 怒り 嫉妬 悲しみ 痛み 喜び 終焉


あらゆる絶望が風魔の頭の中で叫ぶ。風魔は耐えられず、床に膝を着き両手で頭を抱え絶望に耐える。


「これが私がこの世界の始まりから現在までに喰らった絶望だ。常人なら精神が崩壊する。」

「っ……なん………だ……?」

「だから言っただろう。君は今、世界の始まりから現在に至るまでの絶望を聞いている。私の邪眼は見た者に絶望を見せる。これが遥か昔神々に敗れ美の女神によって復活した邪神ディスペアーの力だ。」


今風魔の目の前にいるシーゼはシーゼではない。完全に別人だ。


「終焉者よ、この絶望を聞いて頭痛程度で済んでいる事が君が天魔神拳を受け継ぐに相応しいと証明した。君はその女性の十字架を下ろす者では無い。罪の十字架を彼女の生の終わりまで共に支えてやる事だ。十字架はけっして消えない。それだけは覚えておいて欲しい。さて……今回は初対面だが、次会う時はゆっくりと話でもしょうか。紅茶でも飲みながらね……あ、一つ言い忘れていたよ。私からの忠告だ、心して聴け。全てを救うのならば誰かを犠牲にしなければならない。それだけだ、さらばだ。月詠の子よ。」


言い終わると同時に風魔の頭の中の絶望が消え、同時に世界が動き出した。

頭をあげるとそこには刹那以外誰もいなかった。


「十六夜………?」


そして目に涙を浮かべる九尾の女性がいた。

シーゼの二つの能力判明させました。別に、彼は痛い病気の人ではありません。

次回はやっと刹那とふうまの会話だと思います。

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