87 船旅一日目
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船旅一日目 昼
風魔の部屋
「おぇぇ…………気持ち悪……。」
風魔は昔から乗り物に弱かった。船も例外ではない。
この前のバイクは酔い薬を飲んでいたから大丈夫だったが今はその薬が無い。だから現在トイレで胃の中のモノを全て吐き出していた。
「くそぉ…………これじゃ飯も食えねぇ……。」
「良い方法がありますよ?」
気が付くとシーゼが背後で微笑していた。
「え?」
「この薬を飲めば、二日は酔いませんよ。」
シーゼは懐からカプセル型の薬を取りだし風魔に投げ渡す。
「すいません……。」
風魔はなんの疑いもなく、薬を飲んだ。シーゼの微笑が暗黒の笑みへと変わった。瞬間、風魔の体が光を発した。
そして…
「えっ…………何?…え、俺女…?でも、体が……服が………?」
風魔の体はいつもの女性の体になっていたのだが、服が裂けない。驚きで唖然とする風魔をよそにシーゼは説明していく。
「その薬は僕が月詠結晶を少し改良した成分と合成した薬です。服が裂けないでしょう?」
「た、確かに………でもなんで服が裂けるって知ってるんですか?」
「だって服が裂けるようにしたのは僕です。」
「は?」
「貴方が使う結晶はウィルさんの力を少々お借りして僕が作りました。」
「……………あの、失礼ですがお聞きしてもよろしいですか?」
「どうぞ。」
「シーゼさんって変態ですか?」
「違いますよ。結晶はウィルさんに頼まれて作ったのですよ。僕は紳士ですのでそういう事には興味がありません。では、失礼。」
唖然とする風魔を見て再び微笑したシーゼは一礼して風魔の部屋から出ていった。
気持ち悪さは消えていた。
その夜、船内巨大銭湯で男性陣は湯船で安らいでいた。壁の向こうからは女性陣の騒ぎ声も聞こえる。
「この銭湯、魔王城の銭湯ぐらい大きいね。」
紅汰の隣で魔界神が呟く。彼も途中からルシェと共に乗船してきたのだ。
「うん、此処は最高級の客船だからね。これぐらいの設備は普通なんだろうね。」
さらに魔界神の隣でウィルが返す。この銭湯は彼らの言う通り最高級だ。床は大理石で出来ていた。
「チッ、この壁ドリルが通らねぇ…」
と片手にドリルを持って壁に穴を開けようとするL。
「甘いなL。そこに貴様の小心さが現れているぞ。ぶっ壊せばよいだろう。」
湯船に尻尾を浸し、バシャバシャと水飛沫を立てる忌羅。
「覗くな、姉上に殺されるぞ。」
サウナで目を閉じ、音で様子を探っている修羅。
「と言いますか、殺しますよ。一応人様の恋人と奥さんがいること忘れないでください。」
シーゼが湯を凍らせて楽しんでいるが、その瞳は絶対零度の冷たさが宿っている。
「そうだ、私とて主の保護が大切だ。やめていただきたい。」
アヒルを湯船に浮かべるエクスカリバー。その隣でアヒルをグラムが摘まむ。
「そういえば風魔は?」
紅汰が周りを見回すが風魔の姿が見当たらない。すると銭湯の戸が開き、銀髪の美少女が入ってきた。
『!!!!!!!!!』
男性陣が驚愕で湯が揺れる。風魔だ。
女体風魔は恥ずかしそうに顔を赤らめ、体をタオルで隠している。
風魔は男性陣の視線から逃れるように、近くにあった湯船に急いで浸かる。
「体は女性でも中身が男性ですからねぇ、その辺には抵抗があるのでしょう。」
シーゼが忌羅に劣らぬ邪悪な笑みを浮かべた。犯人はこいつだと全員が確定した。
しかし、風魔が来たことによって場の空気が一気に死んだ。誰も何も言えない。あの忌羅や魔界神でさえ喋らない。
その時だった。風魔が湯船から立ち上がり、シャワーの方へと向かった。向かう途中は早足。湿った銀髪が水滴を大理石の床に落とす。
「あ。」
突然風魔が何か声をあげた。チャンスだと思い紅汰が声を掛ける。
「どうした?」
「髪が洗えねぇ。」
「えっ。」
「いつもは一人だけど今皆いるから洗いづらい。チッ、誰かに洗ってもらうか………。」
「じゃあ俺が。」
「僕が。」
「私が。」
「俺が。」
「僕が。」
「僕が。」
今、声を出したのは紅汰、忌羅、L、魔界神、シーゼだ。
「いや、お前ら信用できない。」
風魔が断言する。呆れたため息と共に銭湯を見回し、修羅に視線を向ける。そそくさとサウナに入り、修羅に声を掛ける。
「修羅さん、修羅さん…?」
「ん……?あぁ、風魔か。寝ていた……何だ?」
「悪いんですけど髪洗ってくれませんか?」
「私が?」
「信用できるの修羅さんだけなので。」
「……まぁ…………よかろう。」
修羅はサウナの扉を開け、近くにあった冷水を体に流す。風魔も暑かったのか、顔に少しだけ冷水を掛けた。
「えーと、お願いします……。」
風魔は銭湯用の椅子に腰掛けた。その背後に修羅が立つ。選ばれなかった男性陣が身を乗り出してその様子を伺う。
「あ、あぁ……では、失礼するぞ。」
修羅はシャンプーの液体を両手につけて、擦る。そして銀髪を根本から洗っていく。
「大丈夫か?何かあったら言ってくれ。」
「は、はい……。」
手際良く修羅の両手が風魔の長髪を洗う。途中で修羅の口元に笑みが浮かぶ。
「あっテメッ修羅!今『計画通り』って顔したな!?」
Lが立ち上がり、修羅にたっぷり水分を含んだタオルを投げつけた。しかしタオルは修羅の1メートルぐらい前で見えない何かに当たり、床に落ちた。
「こうしていると昔を思い出す…。」「昔?」
「おいッ!?無視しないで!?」
Lの叫びも虚しく二人は会話を続ける。
「月詠が幼き頃、姉上が私に月詠を預けてな、私は月詠の世話をしたのだ。その時髪を洗ってやった……子でも、この感触は同じだ…。」
「今だッ!!胸に触れッ!我が弟!!」
「母さんが小さい頃か………この髪は、修羅さんにとって思い出ですね。」
「修羅!!男のロマンを掴め!!!掴むんだ!!」
「あぁ……私にとって、嬉しく哀しい思い出だ。」
「何をしているッ!?弟よッ!!我が悲願の達成をォッ!!!」
二人が会話する中、必死で忌羅とLが叫ぶ。しかし修羅は見事にスルーする。
「流すぞ。」
「はい。」
修羅が桶を傾け優しく風魔に湯を掛ける。泡が湯に流されていく。
「ありがとうございました。」
風魔は軽く修羅に頭を下げる。銀髪がいつもより輝いている気がする。
「何。気にするな、ところで…悪いが、その、少し、私の顔を見ていてくれるか?」
「は、はい……。」
頷くと、ジーッと修羅の顔を見つめる風魔。修羅も見つめる。
「いけ!!!!修羅!相手は無防備だ!」
Lの言葉はもう誰も気にしない。
「悪い、もう良いぞ。」
「は、はい…。」
風魔が頷いた瞬間、風魔の体を隠していたタオルが落ちた。
「あっ。」
修羅の視線は風魔の顔から下へと向かう。が、修羅本人はまったく動揺しない。風魔は今更気付いたのか、顔を真っ赤にしてしゃがんだ。湯船に浸かる男性陣からは風魔の体はちょうど修羅が隠している角度だ。風魔は急いでタオルを巻き直す。修羅はそんな事気にしないかのように、
「ん?見られて都合が悪かったか?」
「み、みみみ見ました!?!??!??」
「見た。だが、別に動揺する事か?」
「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
風魔は顔を林檎のように真っ赤にさせ、銭湯から飛び出していった。
「修羅……我が弟ながら恐ろしい………………。」
「乙女心ってモンが分かってねぇな。」
「まったくだね。同じ男として恥ずかしいよ。」
「まぁ、阿修羅そっくりで良いじゃないか。」
「殴られなかっただけマシですね。」
「少しは動揺した方が面白かったですね。」
「見ろ!アヒルが沈んだぞ!」
「おぉ……これが人間の知恵の結晶………。」
一堂の言葉が修羅を混乱させたのだった。
次回、私がLです。