83 最も傲慢で可哀想な王様
「おらっ!!」
「ぐっ…。」
紅汰の拳が王の頬を捉える。素早い攻撃に対応できなかった王は数歩足を引いてよろめいた。
紅汰はその隙を逃さず、さらに追撃しようと距離を詰めて王にタックルをした。王は受け身を取れず床に倒れる。
こんなモノでは終わらない。
「テメェが!泣いて謝るまで!俺は、殴るのを!止めないッ!!!!」
紅汰は王に股がりその美貌を力の限り殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴って殴って殴って殴りまくる。
紅汰は拳一発一発に想いを込める。
ガウェイン、ランスロット、ルーシャ、皆が受けた痛みはこんなモノでは無い。
「このような…クズにッ!この我がァッ!!!」
この王は人でありながら人の気持ちが分かっていない。
殴られると痛い、斬られると痛い。
人が死ぬと悲しい、人が傷付くと悲しい。
そんな当たり前の事もこの人間は分かっていないのだ。
だからこそ、負ける訳にはいかない。此処に集った風魔、ランスロット、ガウェイン、修羅、シーゼの為にも紅汰は絶対負けない。
「頭に乗るな!王たる我に向かって!!!」
王は股がる紅汰をなんとか突き飛ばし、態勢を立て直す。だがその美貌を構成する鼻や唇からは血が流れてボロボロになっていた。しかし紅汰は王の顔を見て、驚きの声を上げた。
「な、涙……!?」
そう、王はその両目から透明な液体を流していたのだ。王は少し嗚咽が混じった声で叫ぶ。
「この穢わしいクズがーっ!」
王は泣き叫ぶと黄金の衣類の懐から拳銃を取りだし、銃口を紅汰に向ける。
「えっ…!?ちょっ!テメェ、男なら拳で語れ馬鹿野郎ッ!!」
「黙れッ!クズの分際で我に説教など百億光年早いわっ!!」
「光年は距離だぞ。」
風魔が突っ込みを入れた。流石……と関心している場合では無かった。銃口は紅汰に向けられているからだ。能力を使おうと思ったが只今鉄拳制裁中の為、使う気にはならなかった。
結論「逆に考えるんだ、撃たれちゃっても良いさと。」死ななければ問題無い。撃たれても渾身の一撃で王をノックアウトさせれば良い話だ。
「撃ってみろよ!バーカバーカ!!」
相手への侮辱と共に走り出す。王の顔はもう真っ赤だった。頭に血が上り冷静では無くなっている。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」
王が引き金を引いた。視線から弾道を予測し、紅汰は少し体の軸をずらした。瞬時、左の脇腹に穴が空く。激痛が走り口から血が漏れる。意識が吹っ飛びそうになる、倒れそうになる。
だが、皆の想いが紅汰を立たせる。踏ん張り、王に睨みつける。王は特に驚く様子も無く、紅汰を嘲笑し再び引き金を引く。紅汰はまた弾道を予測し体を少しずらす。
今度は左肩に穴が空く。だが脇腹の傷よりは痛くない。
少なくとも、ルーシャが受けた心の痛みよりは凄く軽いだろう。いや、軽すぎる。
「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!!」
両足に力を込めて一歩一歩ゆっくりと歩く。王は再び引き金を引く。風魔は老人を相手に苦戦している。修羅もシーゼの死角に現れる大量相手に手間取っていた。
三発目の弾は紅汰の右胸を貫く。
普通の人間ならもう激痛のあまり失神し、大量出血で死んでいるだろう。
だが紅汰は人間では無い。
最強して72代目魔王の血を継ぎ、その人を遥かに超越した力で今まで危機を乗り越えてきたのだ。簡単には倒れない。
「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
一歩一歩踏み出し、王の目の前まで辿り着いた。銃を握り、銃口を下げさせる。引き金が引かれ、二人の間の床に穴が空く。
紅汰は残った全ての力を拳に込める。王は驚愕のあまり攻撃することすら忘れている。
「歯ァ食いしばれ……ルーシャの痛みはこんなモンじゃねぇが、受け止めろよぉぉぉッ!!!!!!」
拳が振るわれる。バンッッ!!!と鈍い音と共に王の華奢な体が地面を転がり、停止した。
同時刻の風魔
風魔は『チャクラム』と呼ばれる武器相手に苦戦していた。精密なブーメランのように刃の輪が空中を舞うように攻撃してくる為、上手く攻撃ができないのだ。
「もうめんどいな!じいさん悪いけど腰痛を理由に負けてくれ!紅汰が撃たれてるし!」
「そうはいかんのぉ…可愛い孫の為、儂はお前さんに負ける訳にはいかんのぉ。……そぉれぃっ!!」
刃の輪四つが弧を描き風魔に襲い掛かる。
親友が撃たれている。血を流している。流石の主人公でも普通に大量出血で死んでしまうだろう。
此処は多少の傷は仕方がない。老人に攻撃するのは良心が痛むが親友の為。
「複雑骨折しても、恨むなよじいさん!!」
覚悟を決め、両手で頭を守りつつ老人に突進した。四つの輪が風魔の左足、両脇腹、右手の肉を裂く。刃が回転し、骨まで到達する。が、痛みは感じない。
疾風の如き速度で老人に接近、その顔面を思いっきり殴った。老人の小型な体が吹っ飛んだ。
老人は起き上がらなかった。
「いってぇな……大丈夫か、紅汰?」
「あぁ…風魔、結構血ぃ出てるぞ。」
「お前の方が酷いぞ。」
軽口を交わしつつ、二人は無事を確認した。そして未だに倒れぬ王と戦闘に参加していない男性を睨みつけた。
「まだやんのか?そうなると此方もこの城吹っ飛ばしかねないが?」
「フン、我はこの程度で………………………っ!?」
突然の危険を察知した王と風魔が後ろに飛び退く。風魔は紅汰の襟をつかみ、無理矢理退かせる。
瞬時、轟音。
「な、なんだ!?」
何かが城の壁を破壊し、侵入してきた。砂煙でよく見えないが巨大だ。
「っ!L!貴様もっと優雅に行けんのか!?我の城が傷付いたぞ!」
「っせぇーな!神風を知らんお前の無能を恨め呆け!!」
「二人とも、落ち着け。戦場だぞ。」
砂煙の中から現れたのは三人の男性だった。
ピリリリリリリリリリリリリ…………………ピッ。
僕は携帯に届いたメールを開いて中身を確認する。件名は『お知らせ』
『オケアノス海で一時間に十回の二十メートルを越える大波発生。オケアノス島にて満月の夜、空に古龍の魔法陣展開。西大陸にて強度の地震、大怨帝復活の前触れ。東方にて島国を包み込む巨大嵐。』
僕はそれら内容を見て、少し心細い気分になった。ついに始まるのだと。
この世界の存亡を掛けた大戦争が。
僕は静かに携帯を閉じた。