82 金色の王
「フン、雑種が。我に刃向かうなど、死に価する!」
王は右手に握る黄金の杖を高らかに掲げる。
「紅汰、王様は任せた。俺はお隣の女の子を相手する。」
「私はお前達の援護をする。」
「我々はあの老人を。」
五人は散開し、定めた相手に武器を構え突進する。
王は杖を紅汰に向け不敵余裕の笑みを浮かべる。
「エルキドゥ、あの多少頭の良い東洋人は任せたぞ。」
「分かった。」
「若者は元気で良いのぉ。」
エルキドゥと呼ばれた少女は何処からかウォーハンマーを取りだし、老人は銀色の鉄の輪を構える。
戦闘が始まる。たった一人の少女を巡る殺し合いが。
「この野郎っ!!」
紅い輝きを放つ破壊の剣を王に振り下ろす。王は黄金の杖で軽々とレーヴァテインを弾く。
「くっ!」
「フン、軽いな。我を斬りたいのならばこの十倍は強くなることだ!!」
黄金の杖が赤い光を発すると、杖に魔法陣が表れ火球が紅汰に向かって飛んできた。
「効かねぇよっ!!」
『魔天七炎』を使って黒炎が火球を吸収する。お返しにと紅汰は黒い火球を王に飛ばす。
「ッ!」
王は黒炎を危険と感知したのか横に跳んで回避する。黒い火球が王の背後の壁を溶かす。どうやら能力は効くらしい。紅汰は能力で黒炎の竜三体を作り出し、杖で再び魔法陣を発生させる王に素早く駆け寄る。
「くたばりやがれっ!!」
「頭に乗るな!雑種!」
魔法陣が青い輝きを放つと今度は紅汰の頬を一本の鉛筆ぐらいの細さの線に圧縮された水が掠めた。圧縮された水のレーザーは黒炎の竜の一体の首を貫通した。が、穴が空いた竜の首はすぐに修復される。
紅汰は怖じけず、王にレーヴァテインを振るう。だが気付いた時には遅かった。
第二射が来る事を。
「おわっ!?」
瞬時、何かが紅汰の腰を引っ張る。先程まで紅汰の首があった場所の空気を水レーザーが貫く。
「慎重に行け!君の力なら人間は勝てる!」
背後から修羅の声。修羅は鎖を使って紅汰を水レーザーの弾道線から回避させたのだ。
「はいっ!ありがとうございます!」
修羅に礼を言いつつ、再び王を睨みつける。
「ふぅん、避けたか。ならばこれはどうだ?」
今度は杖が黒い光を放つと、紅汰の体に重い何かがのしかかった。あまりの重さに床に両手両膝を付いてしまう。
「なん、だ…!?」
「ククッ、これが我の隠し技だ。魔法で相手に超重力を掛ける。これを使うのは貴様が初めてだ。誉めて遣わすぞ、東洋人。褒美として…死を受け取れ!」
杖が再び青い光を放つ。また圧縮水レーザーが来る。超重力を掛けられている今、動けない。炎の壁も皆無。
どうするー!
水レーザーが杖の魔法陣から放たれた瞬間、
水レーザーが杖ごと凍り付いた。
「何ィッ!?」
王が動揺していると杖が砕けた。氷の結晶となって杖だったものが散っていく。
「おのれ…もはや貴様は我の拳で殴り殺してくれよぅっ!」
「来いよ、拳なら負けねぇ。」
レーヴァテインをしまう。両者拳を構える。
「行くぞっ!」
「雑種がぁっ!!」
「さてさて、俺達も始めるか?エルキドゥさんよ。」
「ятшушёзфлийбгэхсъьЯО?(私の言葉が分かるか?)。」
「эншуштго(もちろん分かるぜ)。」
「……………興味深いな、古代メソポタミアの言葉を理解するか。」
「あんた日本語分かるのか?」
「東方の国には些か興味があってな。多少理解はできる。」
「そうか、俺は女の子を殴るってのは嫌なんだよね。」
「突然何を言い出すんだ?。」
「俺はあんたを殴りに来た訳じゃねぇ、ルーシャを返してもらいに来ただけだ。だから無益な争いは避けるべきだろ?」
「なるほど、お前の言いたい事は良く分かる。私もこのような争いは好まぬ。だが、私にも譲れぬモノはある。祖国は繁栄と王の幸せの為にあのアーサー王には泣いてもらう。」
「そうかい、でもよ。忘れんな。俺にだって譲れねぇモンはある。親友の幸せ、皆の笑顔の為にあんたらをぶん殴るぜ。」
「結構。私も戦意の無い者を砕くのは後味が悪い。お互い譲れぬモノがあるのならば、どちらが強いか。それだけで済む話だろう。」
「じゃあ本気で全身複雑骨折しても保険は降りねぇぞ。と言うわけで、」
「「掛かってこい。」」
エルキドゥがウォーハンマーを振るう。風魔は能力で腕力の限界を超えてハンマーを軽々と砕く。
「えっ……。」
「残念。俺はこういう時は女性に手加減しないんだ。」
驚愕の表情を浮かべるエルキドゥの顔面に風魔の渾身の拳がめり込んだ。
エルキドゥの華奢な体は十メートル以上吹っ飛び、壁に激突した。その体はもう動かない。
「紅汰は大丈夫だな、ガウェインさん達は…っ!?」
突然死角から何か円形のモノが飛んできた。体を捻り回避するが、右腕を掠め、血が滲む。
「円卓の騎士達は儂が倒した、少年。」
「げっ、今度はじいさんですか。参ったな、殴り難い。」
その老人は両手に鉄の輪を二個ずつ持ち、風魔へと歩み寄る。老人の背後には血だらけのガウェインとランスロット。
「安心せい、死んではおらん。少年よ、君はあの姫を助ける為に指を全て失っても良い覚悟があるか?」
「あるね。安いじゃねぇか。俺の指十本で皆笑えんなら。」
老人の問いになんの惑いも無く答える風魔。老人は軽く口元を緩ませる。
「良いのぉ、君のような若者を失うのは惜しいがの。」
「失う?残念ながら俺は死なないぜ?少なくとも紅汰とルーシャの結婚式で祝辞読むまではな。じいさん、ぎっくり腰になっても俺を恨むなよ?」
「ほっほっほ。よろしい、掛かってこい。少年よ。」
第二幕が始まった。
あと二話ぐらいでバビロニア編は終了予定です、次回は遂に………………………さて、遅くなりましたが今回もご視聴ありがとうございました。ただ最近感想が無くてつまんなくなってきました。感想等をお待ちしております。