76 突撃
風がなびき草木が揺れる平原を駆けるひとつの影。影は風を纏うかのような速さで駆けていた。
影はその速さの衝撃に周囲に突風が発生、草木がさらに激しく揺れる。
「紅汰!悪いが飛ぶぞ!」
影、風魔十六夜は背負う青年天霧紅汰に話しかける。その黒い髪が段々紅く染まっていく。
「大丈夫なのか!?」
「大丈夫だ!前よりは制御できる!」
風魔の髪が紅く染まり、伸びる。腰に垂れるまで伸びると今度は背中から紅い翼が生える。
「いくぞ!」
風魔が地面を蹴り、跳躍する。紅翼が羽ばたき、安定した態勢で風魔は飛んだ。
「凄ぇ……ていうか、何の限界超えてんの?」
紅汰は肩に掴まりながら風魔に話し掛けた。
「『進化の限界』。」
「え?」
「俺の人間としての体を進化させてる。超えすぎると人間じゃなくなるけどな。」
風魔は一瞬だけ何処か寂しそうな目をするとさらにスピードを上げた。
数十分後 ペンドラゴン王国付近
「風魔!?ぶつかる!止まれ!」
「無理!スピード上げ過ぎた!紅汰後よろしく!」
風魔はスピードを上げ過ぎた結果、ペンドラゴン城に激突する前に体を回し、紅汰を落とし城に激突した。穴が空き城の瓦礫が周囲に散る。
「風魔ァッ!!」
紅汰はなんとか能力で炎をブースターに使い激突を防いだ。急いで穴が空いたペンドラゴン城に入る。埃で良く見えない。
「風魔?おい風魔!大丈夫か!?」
埃を払い、風魔を探す。すると足下からビチャビチャと水が跳ねる音が聞こえた。そして温度。風呂に入っているかのような暖かさだ。
「…先生?」
埃の奥から聞いた事があるような声が響く。女性っぽい声だ。そこで悪寒がした。
風呂のような温度、水、女性……………………察しがついた紅汰はその場から逃げようと入ってきた穴を探す。
発見。飛び降りる。ブースターで城前に着地する。
一方風魔は………………激突したにも関わらず無傷だった。
「ん?この声は赦奈か?ここ何処?」
風魔は察しが悪く、教え子を探す。
「フフッ、先生こっちです。」
赦奈の声が聞こえた方向に進む。埃が凄まじい為か前がまったく見えない。
「そうそう、もうちょっと前です。」
赦奈の声が響き、風魔は二歩踏み出す。それでも赦奈の姿は見えない。
瞬時、前から誰かに抱きつかれた。胸に柔らかい感触。首下を見ると刹那っぽい顔が見えた。
しかも全裸。
「……………失礼。」
刹那を引き剥がし、出ていこうとするが、突然視界が歪む。気分が歪む悪い。吐き気がする。
「なん…だ…?」
「先生、ご存知ですか?私達九尾の狐というのは年をとると妖力が増し力が強大になります。先月、修羅お兄様のご友人のお医者様に私の体の時間を進めていただきました。結果、私は刹那お姉様に負けない体型になりました♪」
突然、症状が治まり埃が晴れる。抱きつかれた本人の顔が見える。
風魔に抱きついた女性は刹那そっくりだ。だが、白い。髪も目も尻尾も。何もかもが白い。
「………………誰?」
「赦奈で…あれ?」
女性が言う前に既に風魔の姿は消えていた。
ペンドラゴン城 会議室
「街の63%の民家は破壊されています。怪我人は住民を含め十二名です。その内二名が重傷です。」
鎧を来た若い騎士は集まった者達に被害報告すると殺伐とした空気に耐えられなくなったのか、一礼し会議室から出ていった。
「さて、どうする?」
副議長のガウェインが空気を破り、集まった者達に告げる。頭や腕には包帯が巻かれているが血が滲んでいる。
『………………………。』
皆、何も言わない。皆、無言で黙っている。
「……姫を助けに行くと言う者は?」
ガウェインの問いにランスロットが手を挙げた。その体や頭にも包帯が巻かれている。
「……他にいるか?」
誰も挙げない。他の騎士達は重々しい表情でうつむいている。ガウェインは全てを悟る。ランスロットと自分以外の騎士達はこう言っているのだ。
『もし姫を助けられたが騎士達の誰かが死んだら姫は自分を責めるだろう。我々は姫を悲しませたくない。』
円卓の騎士は皆ルーシャに忠誠を誓っている。それに騎士達考えは正しい。円卓の騎士でも一、二の実力を誇るガウェインとランスロットが重傷だったのだ。そんな相手に挑んだ所で皆死んで姫が悲しむだけだという事だ。
それでも、それでもガウェインは行かなくてはならない。この命と引き換えにルーシャが毎日笑って好きな男性と結ばれ、幸せになるのならこの命など『惜しくない』。ランスロットも同じ考えだろう。ランスロットはルーシャに絶対の忠誠を誓い、深い恩義がある。
だが、ガウェインは分かっていた。
絶対に負けると。死ぬと。
それでも挑まなければいけない。
ランスロットと頷きあい、席を立つ。
会議室のドアノブに触れる。尻目に騎士達に告げる。
「私とランスロット以外全員待機。」
それだけ告げ、ドアノブを回そうとした瞬間、
「ルーシャ!!!!」
バンッ!ドアを蹴り開け、紅汰が焦った表情で会議室に入ってきた。ガウェインの鼻にドアが激突した。
「紅汰殿!?」
ランスロットが驚愕の声を上げる。
「皆!話は聞いた!俺と来る奴はいるか!?」
「来る?紅汰殿…まさか!」
鼻血を流すガウェインは鼻を抑え、紅汰を見つめた。
「もちろん、ルーシャを助けに行くぞ!ロリガメッシュをぶん殴ってやんよ!!」
紅汰のその言葉でランスロットとガウェインの顔に希望が現れる。
「来てくれるのですか!?我々と!?」
「あぁ!行くぞ!」
三人は頷いて会議室を出ていった。
残された円卓の騎士達は奥歯を噛みしめた。
三人は会議室を出るとすぐに風魔と合流した。風魔は誰かと電話していた。
「えぇ……なんとかなりますか?………そうですか、ありがとうございます。」
風魔は電話を切るとまた電話を掛けようとしたが、三人を見ると頷く。風魔も参戦してくれると実に頼もしい。
四人は会話しながら通路を歩く。風魔はまた誰かに電話している。
「で、バビロニア王国の場所は分かるか?」
「はい、しかし…徒歩で丸一日掛かります。」
「馬は?」
「先程の襲撃で殺されてしまい、私とランスロットの馬しか残っていません。」
「てことは頼りは風魔か。引っ張ってもらうか。」
その肝心な風魔を見ると、
「えぇ………お願いできませんかね?…………そこをなんとか…………はぁっ!?ちょっ、嫌ですよ!なんで殺されなきゃ……え?そういう意味じゃない?じゃあ、どういう………嫌です!大体忌羅さんは同性愛とか嫌いなんでしょ!?…………嫌です!…えぇ!?…もうちょっと条件軽くなりません?…………うぅ…結局揉むんですか…………ぐぐぐ…………分かりましたよ!!!一回だけですよ!………嫌です!………ちょっ、分かりました!五回でいいです!……六回!…………もういいです!頼みません!この変態狐!」
風魔は携帯のスピーカーに向かって叫ぶと乱暴に電話を切った。
三人の唖然とした視線に気がついたのか、
「まったく、忌羅さんめ!女体化の揉ませろ!?ざけんな!」
と吐き捨てると壁に拳を叩きつけた。
「ん?移動方法?俺の部屋にバイクあるけど?」
HFI とある部屋
コンコン、部屋のドアがノックされた。
「誰だ?」
部屋の中で金髪の男性は呼んでいた本を閉じ、ドアに視線を向ける。
「ハサンです。」
「翁か、入れ。」
男性の声と共に目の前から骸骨の仮面を着けた男性が現れた。
「で、翁。何だ?くだらん用件で我の読書TIMEを邪魔したのならばその行為は死に値するぞ?」
「いえ、王よ。実は……………。」
骸骨仮面の男性が告げると王と呼ばれた男性の表情に驚愕が現れる。
「何!?それは信か!?」
「はい…先程、見てまいりましたので。」
骸骨仮面男性が告げると王は本を投げ捨て、傍に立て掛けてあった奇妙な剣を握った。
「翁、Lに連絡を取れ。部屋にいるはずだ。我から伝言だ、伝えろ。『即刻港に来い、遅れたら天変地異で殺す』とな!行け!」
「ぎょ、御意!!」
王の怒号で骸骨仮面男性は即座に消える。王は投げ捨てた本を踏み、憤怒の声を上げる。
「雑種風情が…我が…の婚姻を勝手に決められると思うか…お兄ちゃんは絶対認めんぞ……絶対認めんぞぉぉッ!!!!!!!!」