69 過去の追憶 魔界神
僕が魔王になって早1ヶ月。
僕は毎日書類整理。
天界の頃はつまらなかったんだけど今は違う。ルシュがいる。
彼女は定期的に僕に飲物を運んできてくれたり、息抜きに話し相手になってくれた。
僕はそれがたまらなく楽しかった。
そんな日々が続けばいいと思った。
ずっと……………………何も変わらず。誰も傷付かない、泣かない、悲しまない、この世界を僕はずっと…続くようにと願った。
しかしそれは起きた。
僕とルシュが楽しく話している時だった。
突然、僕の部屋のドアが吹き飛んだ。
何事かと思い、ドアが吹き飛んだ理由を探ろうとした瞬間、
魔力を形にした球体型のエネルギー弾が僕めがけて飛んできた。
右手の甲でエネルギー弾を粉砕する。
「…何の真似かな、ルシファー?」
僕の部屋に荒々しく入ってきたのは七つ大罪の高慢を司る悪魔でもありそして僕の兄であるルシファーだった。
「ミカエル、貴様は…何をしている?」
「何って…ルシュと話し…!」
またエネルギー弾が飛んできた。
右手で弾く。
僕の兄の顔は怒りに満ちていた。
「貴様、ふざけるな。お前は何もしない臆病な魔王だ、私はお前が気に入らん。」
「何も…しない?」
「そうだ、貴様は怒りを抱かないのか?自分を裏切った天界の者共に。」
「怒り?そんなモノ抱いた所で争いが起きるだけだよ。」
「……………やはり貴様とは決着を着ける必要がありそうだ。」
ルシファーの右手に禍々しい両刃剣が出現する。
あれは……最強の魔剣テュルフィング、所持者を呪い殺し斬った相手の血を吸収する魔剣。ルシファーの最強武器だ。
ルシファーが戦闘体勢をとる、しかし僕は構えない。
その僕の態度を見たルシファーは額に青筋を浮かばせ、テュルフィングの切っ先を僕の後ろで怯えているルシュに向けた。
瞬間、ルシュが倒れる。
「ルシュ!?」
咄嗟に体が動いた僕はルシュの華奢な体を抱き抱える。僕の背後でルシファーが嘲笑する。
「その女にテュルフィングの呪いをかけた。あと一分で死ぬ。呪いを解くには俺を殺すしかない。」
「ルシファー……何故だ!何故、君がこんな事を!」
「私は全てが気に入らん!!!!」
ルシファーの怒号が部屋の窓に亀裂を入れる。
「私を堕とした天界、神、魔王、七つ大罪、人間、天使……全てが気に入らん!!!」
ルシファーのテュルフィングの刃が僕に突進。瞬きの一瞬に僕の腹部に突き刺さった。だが痛みは感じない。
僕は腕の中で苦しんでいるルシュの顔を見つめた。ルシュの細い指が僕の頬に触れかけた。テュルフィングの刃がルシュの右手首を切断する。返り血が僕の顔に飛び散る。
「魔王…様…。」
ルシュは弱々しく僕を見つめた、その血よりも紅い瞳の光は消えかけていた。
「ルシュ!ルシュ!」
僕は殺意を向ける兄を無視してルシュに必死に呼び掛ける。
「貴方は…優し…過ぎました…貴方に、ルシファー様は…………………………。」
「喋るな!今医者を連れてくる!頑張れ!」
僕が必死に呼び掛けるがルシュは笑いながら首を横に振った。
「私は…もうじき、死ぬでしょう……最後に、メイド風情の……質問、よろしいです、か……?」
斬りかかるルシファーに紫炎の竜で防ぐ。
「あぁ!なんでも答えるよ、だから死なないでくれ!お願いだ!」
「……では、一つ、貴方は………………………私の事を…好きでした、か?」
ルシュの瞳の光がもう段々暗くなっていく。僕は何度も頷く。
「あぁ!好きだったよ!愛してたよ!魔界に来て君の笑顔だけが僕の励ましになってた!君の明るい笑顔と甘すぎる紅茶が大好きだよ!」
「そう……です、か…嬉しい。」
ルシュの両目から透明な液体が流れる。液体は頬を伝って音を立てず床に弾けた。
そしてルシュの光が消えた。
「ルシュ…?ルシュ?ルシュ!ねぇルシュってば!!」
腕の中で笑いながら止まっているルシュを何度も揺する。しかしルシュは動かない。
「フン、たかが下僕の分際で魔王に触れてよ、!?」
紫炎の竜を斬り崩したルシファーのいた足下から紫炎の火柱が発生、ルシファーは辛うじて避ける。
「下僕…ダと?フザけるナァッ!!!オ前の、オ前のせいで…ルシュガァッ!!!」
憤怒と両目の激通と共に僕の両目から紅い液体が流れる。邪眼、魔王の血統を持つ者が使える禁断の儀式。あらゆる黒魔術は邪眼があれば一言で発動する。
「展開。」
僕の一言で右手に紫炎の十字架、左手に紫炎の剣が出現。体には禍々しい騎士の鎧が装着、背中には悪魔の邪悪な翼が展開される。
「灰。」
一言で黒魔術が発動、ルシファーの左右真上下から紫炎が発生。ルシファーの右肩が蒸発音と共に灰となる。
「殺セ。」
僕の背後に五頭の紫炎竜と十体の紫炎騎士。それらが一斉にルシファーに襲いかかる。
「無駄ァッ!」
ルシファーがテュルフィングを振るうと十体の紫炎騎士が斬り崩させ塵となる。竜も首を切断させ塵となる。
「これが、魔王の力か!だが優しい過ぎる貴様にその力は不要!俺がもらう!」
だがルシファーの言葉はもう僕には届いていなかった。
僕の心と頭の中は哀しみと憎しみ憤怒がグチャグチャになっていた。
そして僕は十字架と剣を構えた。
無意識に言葉が発せられた。
「死。」
十字架と剣が巨大化する。動かないルシュを守るようにあらゆる場所から紫炎が発生、回避できなかったルシファーの左肩が蒸発、塵となる。
「ルシファァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
バランスを崩したルシファーの体に全ての力を注ぎ十字架と剣を叩きつけた。
爆音が部屋の全てを灰とさせた。
全ての紫炎が消えると僕の部屋があった場所には目から鮮血を流す魔王とその魔王が唯一愛した女性の冷たい体だけが残っていた。
僕は邪眼発動後のデメリットの激痛に耐えられず目を閉じた。
目を開けた。
「あ、魔王様、お目覚めですか?」
僕は何故か自分の机で寝ていた。
ルシュが僕の顔を覗きこむ。
「ルシュ………。」
おかしい、ルシュはテュルフィングの呪いで、僕の、腕の中で、死んだ、はずじゃ…………。
僕が呆然としているとふと右手に一通の手紙が握られていた。
僕が握ったせいかグシャグシャになっていたがなんとか字が読める。
差し出し人はウィル。
『今回はちょっとだけいじらせてもらったよ。でも何時何が起こるかわからない、後悔しない内に言っといた方が良いよ?お幸せに。』
……なんとも意味不明な文だ。しかしよく見ると紫色の宝石が付いた指輪が僕の左手に包まれていた。
でも現実だ。
ルシュは生きている。手紙には後悔しない内に言え、と書いてある。
「手紙?誰からですか?」
ルシュが手紙を横から覗く。密着し過ぎたので僕の頬と彼女の頬が触れあう。瞬時にルシュが頬を離す。
「あ……ごめんなさい。」
ルシュは顔を真っ赤にしてうつむく。
この笑顔を見れるのも後何回だろうか。こんな日常が続くのはあと何年、いや何ヵ月?それとも…一秒?
ルシュが死んで僕がルシファーを殺したあれは何だったのかわからない。
でも後悔しない内に言っておこう。
思い立ったが吉日ってね。
「ルシュ、君は…僕の事が好きかい?」
突然の言葉にルシュの真っ赤な顔がさらに真っ赤になった。
「え!?……あ、うぅ…その………………………………………………………………………………………………はい。」
小さな声で頷く。その姿、可愛い。
僕の心は既に決まっていた。
「じゃあ、ルシュ……僕と、結婚してくれるかい?」
更なる告白にルシュはもう気絶寸前だった。
「い、いいいいいいいいいいいいいいいいいいきなり何を!!???!???わた、私は…ただのメイドですよ!?」
「そんなの関係ない、僕は一人の男として君が欲しい。ルシュ、好きだ。愛してる。だから、僕と…結婚してくれ。」
椅子から降りてルシュの前に膝を着いて左手に包まれていた指輪をルシュに差し出す。昔レヴィアダンに結婚したい女性には指輪を送れと言われた知識が役に立った。
「うぅ………………………でも…………あぁ…………………………。」
ルシュは悩んでいる。それでも僕は彼女に指輪と自分自身を捧げた。
「約束しよう、君を一生守る。絶対幸せにしてみせる。だから、」
膝を着いたままルシュに頭を下げた。
「本当に……私でよろしいのですか?」
ルシュの問いに頭を上げ愛する人の顔を見つめる。
「あぁ。君しかいない。」
「…………………………………………………………………………………………………………ふつつかものですがよろしくお願いします……。」
顔をこれ以上ないと言うほど真っ赤させルシュは僕に頭を下げ、指輪を受け取った。
「ありがとう。」
僕はそれだけ呟いて、彼女と唇を何度も重ねた。
誓うよ。僕は絶対、君を守る。
この命が尽きようと絶対。
「じゃあ早速胸揉ましまかろんっ!?」
真っ赤なルシュの真っ赤なアッパーカットが僕の顎を貫いた。
……まだまだ、道は遠そうだ。
ご視聴ありがとうございました。
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