67 過去の追憶 魔界神
遥か昔
天界
「ミカエルよ、お前に特別任務だ。
魔王を倒せ。」
僕が朝っぱらから天界神に呼び出された理由はこれだった。
魔界は魔王と呼ばれる特別な力を持った悪魔、名前は…忘れた、その悪魔が創ったとされる悪魔達の世界に君臨する悪魔の王だ、今の魔王は七十一代目らしい。その七十一代目の魔王がとてつもなく強いらしく先日悪魔殲滅のために送り込んだ大軍が一瞬にして全滅したらしい。
だから熾天使ミカエルである僕が魔王討伐に遣わされたのだろう。
はっきり言おう、何で僕?
『アークエンジェル(四大天使部隊)』でも送り込めばいいのに何故僕一人に行かせるのだろう?
様々な考えが僕の思考回廊をかき混ぜる、そこで背後から女性の声が掛かった。
「ミカエル。」
物静かで母親のような優しい声に振り向くと、
「ん?君か、ガブリエル。」
ガブリエル、アークエンジェルの名前に由来する四人の大天使の内一人、それがこのガブリエルだった。
母親のような優しさと女神に匹敵する程の美しさをほこる女性だ。
「僕に何か用かい?」
「お客様です、クロノス様とお名乗りになられましたが…お知り合いですか?」
クロノス……神界に住む農耕の神、前から僕にしつこく付きまとってくる神だった。
「あぁ…でも僕は急の任務で会えないと伝えておいてくれ。」
「分かりました、お気を付けて。」
ガブリエルは僕に一礼すると、何かを哀れむような表情を見せて去っていった。クロノスには悪いが、僕は行かなければならない。
僕は早速魔界へと向かった。
魔界 魔王城 最上区
「すいませ~ん、誰かいないの~?警備ガラ空きだよ~。」
真っ暗な通路に向かって叫んでみる。しかし声は虚空に消えていった。
魔界侵入から此処までまだ一人として悪魔と出会っていない………。
おそらく罠だ、でもそれにしては魔力がひとつ、強大な殺気しか感じられない。本当に誰もいないのだろうか。
………まぁ、警戒しても向こうは大勢で来るだろうし、警戒しても無駄かと思って僕は警戒を少し緩め圧倒的な魔力が感じられる方向へと向かった。
通路をまっすぐ進むと巨大な扉にぶちあたった、殺気はこの向こうから感じられる。
僕は特に緊張せず、扉をノックした。
「すいませ~ん。天界からの使者です~。入ってもよろしいですか~。」
「……入れ。」
向こうから魔王っぽい勇ましい声が聞こえると同時に扉が開かれる。
「失礼しま~す。」
「………お前、本当に使者か?」
入った瞬間、目の前に現れたのは水色の長髪をなびかせる一人の男性。
だがこの圧倒的な殺気は彼から発していた。
「こんにちは、天界神の命で貴方の討伐の命を授かった天使です。」
僕が簡単に自己紹介すると魔王は眉を歪めた、その表情はとても苦しそうだ。
「お前…熾天使ミカエルか?」
「そうだよ、良く知ってるね。」
「そうか………天使も堕ちたモノだな………フフフ、ハハハハハハごはぁ!?」
突然、魔王が心臓辺りを抑え床に膝着いた。僕はその光景と魔王のさっきの言葉で不思議そうな表情をする。
「どうしたんだい?」
「クク……私もここまでか、登場からまだ数十行しか書かれていないと言うのに………。」
魔王は苦しそうに右手の薬指にはめてある禍々しい指輪を外すと僕に差し出した。
「よいか…よく聞いてくれ、熾天使ミカエルよ。天使であるお前に私が頼むのもおかしい、もちろんお前が私の話を信じるも信じないもお前が決めろ。
」
僕は指輪を受け取る、この指輪見覚えがある。魔王は苦しそうな笑顔で僕の肩を掴んだ。
「天界神は…天界は、お前を捨てたのだ。」
「何で?」
「お前のその強大すぎる力の反逆に恐れを為した天界神がお前を捨て駒にしたのだ。我々悪魔に壊滅的ダメージを与え魔界すらも支配しようとする為にな。」
僕は魔王の言葉を一瞬で理解した、ガブリエルが見せた哀れむような表情、単独で魔王討伐に行かせた訳、全てはあの天界神が僕を恐れた為か……………………………。
「くだらない……なんだ、誰もが信じる天の平和の神と言っていたのは嘘か。結局力か…くだらないな。」
僕のその言葉を聞いた魔王は嬉しそうに笑った。
「私は天界の刺客から家族を庇ってこのザマだ、もう長くない。だから頼む…熾天使、魔王になってくれ。私の……『理想郷』を、守ってくれ…………この指輪は『ソロモンの指輪』、お前が昔、とある王に授けた指輪。これがあれば私の仲間は皆、お前に従うだろう。頼む…………。」
魔王は口から微量の血を流して僕に土下座した。
「何故、僕なんだい?兄のルシファーは?」
「これは熾天使であるお前にしか頼めない…頼む。」
……今、魔王を殺して帰ってきても僕が殺されるだけだね、前から興味があった悪魔になってもいいかも知れない。まぁどのみち戻れないし。
「いいよ……僕が守ろう、貴方の理想を。」
「…ありがとう…………………………熾天使ミカエルよ、お前に私全ての力を授ける、どうか家族を…仲間を…悪魔の未来を……頼む。」
「安心してください、僕は力に溺れて部下を手に掛ける神より仲間や家族を思いやる魔王を助けるさ。」
「…そう……か。」
魔王は口から流れている自らの血を人差し指で僕の両目と心臓を赤で染めた。体に力がみなぎってきた。
「月…詠……燈真……私も、お前達の所に行こう…。」
魔王は満足げに微笑み誰かの名前を最後に呟くと、ゆっくりと目を閉じた。
二度とその瞼が開くことはなかった。
僕がずっと魔王の顔を見つめていると、魔王の部屋に十人の天使達が入ってきた。その中には四大天使のガブリエル、ラファエル、ウリエルもいた。
「ミカエル!無事か!?」
巨大な肉体を誇るウリエルが僕に近付く。
ウリエルが一瞬にして灰となった。
「ウリエル!?」
「ミカエル!お前、なんて事を!」
ラファエルが怒り狂って僕に剣を振りかざした。
「貧弱。」
僕がゆっくりと手を凪ぎ払う。
紫色の炎がラファエル達を包み込んだ。
「貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱ゥァッ!!!!!!!!!!!!!弱い!仲間を信じられない!卑怯!天使とは愚か過ぎる!僕は天使をやめるぞォォォォ!!!!!」
紫の炎が完全に消えた後に残ったのは灰だけだった。
こうして僕は七十二代目魔王となった。