64 過去の追憶 紅汰
今回短いですね、すいません。
今回の話は紅汰と風魔が異世界に行く前の話。
「おらぁっ!」
「ぐわっ!?」
紅汰の拳が目の前の男の顔面に食い込む。
男は数メートル転がって鼻から血を流す。さらに別の男が紅汰に鉄パイプを降り下ろした。
だがそこに紅汰の姿はなかった。
「遅いな。」
紅汰は男の後ろに回り腰を蹴飛ばす。バランスを崩した男に飛び蹴り。男は顔面からコンクリートに激突する。
二人の男は怯えるように紅汰を睨みつける。
「失せろ、次はねぇぞ?」
そう言った瞬間だった、二人の男の顔が笑った。
気付いた時には少し遅かった。隠れていた男が紅汰の背後に近付きバットを降り下ろした。
が、その男の横顔に誰かの膝蹴りが命中した。男がアホみたいな声を上げて吹っ飛ぶ。男達はそれを見て、青ざめ逃げていった。
「まったく、昼間っから女を不良から守るなんて紅汰らしいなオイ。」
制服の埃を払い紅汰と付近の木に隠れて様子を伺う女子生徒をニヤニヤしながら交互に見る。
「あーはいはい。もう大丈夫だから、何かあったら言え。俺がぶん殴る。」
女子生徒は何度も頷き紅汰に礼をしてささっと去って行った。
「風魔、さんきゅ。」
「あぁ、気にすんな。」
風魔が片手を挙げて紅汰に寄る。
「で、俺を助ける為に来たのか?」
「いや、なんとなく飛び膝蹴りしてみたかった…じゃなくてこれ、見てみ。」
風魔は右手に握ってた新聞紙を紅汰に渡した。一面の記事を見て紅汰の表情が凍った。昨日は高校の文化祭があったため一面はそれを飾っているのかと思ったが、一面にはこう書かれていた。
『▼▲町の守護神天切紅汰!!迷惑不良にドロップキック!?』
記事には不良にドロップキックを命中させた紅汰の写真が大きく飾られていた。しかも、他に不良を殴っている写真や取り巻きの不良達にアッパーカットを喰らわす風魔の写真まであった。
「なんじゃこりゃぁ………。」
「しかもPTA会長さんがコメントしてるぜ。」
さらに下の枠を見ると確かに太陽の如き頭を輝かせるPTA会長の写真が貼ってあった。コメントには
『彼には感謝しきれません。地域を荒らす学生達を更正させ、強盗まで退治してしまう天切紅汰君には感謝の意を表します。彼こそこの町の守護神です。』
PTA何言ってんの……。
普通怒るだろ……自分の学校の生徒が不良とは言え、人殴ってるんだぞ。
確かに紅汰は普段学校に行ってない。だからといって自宅警備員になるわけでもなく、町をブラブラしているのである。この町は犯罪発生率がそれなりに高い、だからよく引ったくりや強盗が発生する。それを紅汰はよく捕まえている。
この前のバイクで引ったくりは犯人に拳大の石ころを命中させおまけに事故らせた。
この前の銀行強盗はナイフを取り上げATMに顔面を叩きつけてやった。
この前の引ったくり野郎は全力で追いかけ背中にドロップキックしてやった。(犯人がデブだったので速く追い付いた)犯人は顔面強打。
「良かったな、また有名になっちまうな。」
風魔は嬉しそうに首を左右に曲げる。グギッ、と骨の鳴る音が…こえぇ。
だが不思議だ、紅汰のやっている事はいくら犯罪者相手でも傷害になるだろう。学校にもろくに行かないで事件を起こす紅汰を何故、新聞や学校は批判しないのだろう。
「さて、もう昼か。何か食べに行こうぜ。」
「あぁ、分かった。」
二人はいつもの行きつけの牛丼屋で昼食を済ます。安いし旨いから結構人気の店だが、何故か紅汰専用の席がある。昔、紅汰がその牛丼屋に押し入った強盗を椅子で殴った事が原因だろうけど。
二人は牛丼屋に向かうため、横断歩道を渡った。
横から大型トラックが突っ込んできた。避ける間もなく二人は吹っ飛ばされた。
そこから先の記憶は二人にはなかった。