61 激突
魔界深底部『タルタロス』
「死ぬ覚悟は出来てるか、クロノス?」
いつもより大量の凄まじい邪悪なオーラを放つ忌羅。その姿に特に怯えもせず、
「お前、阿修羅の弟か。」
「だからどうした?私は貴様が干渉した愚かな小娘のせいで両腕を失った。だから私は貴様を殺す。」
忌羅が大剣『孤独なる武神レギ』の切っ先を女性に向ける。が、女性の前に風魔が立ちはだかった。
「…退け。」
忌羅が殺気を込めて風魔を睨みつける
。だが風魔は退かない。
「…死にたいか?」
「…この人を赦してくれませんか?」
風魔の一言。それが忌羅の記憶の底に眠っていたモノを目覚めさせた。
『お願い、赦してあげて。』
忌羅の脳内に甦る女性の凛々しい声。
「…黙れ。」
ギリギリと奥歯を噛み締める。
『あの人達も悪気があった訳じゃないわ。ただ……』
「…黙れェ。」
バキバキと歯から嫌な音が聞こえる。
『家族を、守りたかったのよ。』
「黙れェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!」
孤独なる武神レギを風魔に向かって降り下ろす。風魔はあの時の…と同じ目で忌羅を瞳の奥を見透す。
女性が風魔を突き飛ばし、緑の壁を発生させ大剣をガードする。
「お前はいつも分かった気で私達に同情し分かった気で物事を言ったァ!!お前に、お前に何が分かると言うのだァァ!汚れた運命を勝手に背負わされ産まれこの上ない力があるというのにたかが尾の数で失敗作と言われ、ただ戦場が生きる場所の私と常に幸福を手に入れ己の人生を自由に選択してきた貴様に私の…私の…私の何が分かるのだァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
忌羅が怒り狂った鬼神の如く大剣を壁に叩きつける。
忌羅の連撃に壁にヒビが入る。
「十六夜、ミカエルの血の者よ、こいつは私がお目当てのようだ。お前達は被害を喰らう前に帰れ。」
「いや、俺も戦いますよ。」
風魔は胸のペンダント、グングニルを巨大化させ紅槍を構え戦う意思を見せる。
紅汰もペンダントのレーヴァテインを巨大化させ紅剣を構える。
女性は二人のその姿を見て、何か思い出したようだ。表情に懐かしむような笑みが浮かぶ。
「…止めても無駄だな。……行くぞ!」
女性が壁を崩壊させ、右手に透明に輝く巨大な鎌を出現させた。
「ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥアァァァァァァ!!!!!」
孤独なる武神レギの凄まじい威力の刃と十五本の槍化した黒い尾が女性に一気に襲いかかる。
「させるか!」
紅槍が弾丸ような勢いで投げられ、レギを弾く。紅槍は持ち主の手元に戻る。
「邪魔するナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
女性に狙いを定めていた十五本の尾は一気に風魔に襲いかかる。
「くっ!」
風魔は舞うような回避行動で尾を避ける。が、避けられた尾達は方向を返し再び風魔を貫こうとする。
「なんの!」
風魔は一本の尾を蹴って高く跳躍する。尾はしつこく追ってくる。
「貫け!グングニル!!」
風魔はグングニルを忌羅に向かって投げた。
グングニルは紅い一線を描き忌羅に向かっていく。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
尾が風魔に集中している隙に紅汰は忌羅に向かって走り出す。女性も勇ましく向かっていく紅汰を見て自らも走り出した。
「雑種風情が…粋がるなァァァ!!!」
十五本の尾が五本ずつになって三人に襲いかかる。だが、尾が突然動きを止めた。
「ガァッ!!?」血が散る。
忌羅がレギでグングニルを弾く前にが忌羅の腹部に突き刺さった。突き刺さった槍は忌羅の腹部でうごめくが持ち主の手元に戻らない。忌羅はうごめくグングニルに痛みを感じる様子はなく孤独なる武神レギを構えて、
「『神羅万剣』!!!!」
忌羅の邪悪なる叫びと共に忌羅の背後から何百の剣が出現した。
何百の剣は切っ先を女性と紅汰に向けると勝手に銃のようにその場から発射されるように飛び出した。狙いは女性
と紅汰。
「くっ!」
「やばい!」
女性は鎌で弾くが、紅汰は不可能を感じたのか『魔神七炎』の黒火球を剣に飛ばし応戦する。
だがいくら剣を止めても剣は増え続け二人に発射される。
「うぁ!?」
剣の一本が紅汰の右肩に突き刺さる。
あまりの威力に吹っ飛び、崖から落ちそうになる。なんとか飛び出した岩に掴まる。下を見てみると溶岩の川。落ちたら即蒸発だ。
なんとか戻ろうとするが右肩に力が入らない。
「くそ……。」
紅汰は『魔神七炎』を足元から発生させブースター代わりに真っ直ぐ飛んだ。その時だった。
「ぐぁっ!!?」
三本の剣が女性の華奢な体を貫く。痛みで女性の手が止まったと同時に何十本もの剣が貫く。一方風魔は、
「ぐぁ……………くそ……。」
風魔は首を忌羅に掴まれ必死にもがいている。風魔の黒い瞳と忌羅の邪悪に満ちた瞳が交わる。忌羅は腹部に突き刺さったグングニルを右手で引き抜いた。そして、
風魔の心臓に突き刺した。
「ばぁはぁっ!!」
風魔の口から大量の血が飛び出し忌羅の歓喜に満ちた美貌に付く。
「風魔ァァァ!!!!」
地面に着地した紅汰はレーヴァテインを構えて忌羅に突進する。動かなくなった風魔を忌羅は背後に投げ捨てた。
「見たかァ月詠!貴様はこれでも私に怒りを抱かぬか!?息子を殺された怒りを私にぶつけられるか!?」
忌羅が見えるはずのない天を仰ぎ、歓喜の表情で動かない風魔を見下ろす。
忌羅の十五本の尾が勝手に紅汰を貫こうと向かっていく。
紅汰は炎の壁を前方に作り尻尾を寄せ付けない。
「戦いと殺戮が生き甲斐の私は誰にも理解などされぬ!いや理解など不要!私は産まれた時から孤独なる武神だったのだ!貴様などに到底理解できるはずがない!!」
その時だった。
動かないはずの風魔の右手の指が僅かに動いた。
「止めて…ください……。」
這いつくばるように風魔は忌羅の足元を掴む。
「こんな事…貴方だってしたく…ない……でしょう?」
『止めて、お願い…。』
バキィィィン!!!忌羅が奥歯が割れる音がする。
「貴様はそれで満足なのか!?幾度となく私の邪魔をし挙げ句の果て死ぬあの時まで邪魔した!貴様は何がしたいのだ!?」
「止めて……………。」
言葉が忌羅の頭の中に響く。忌羅は狂ったように頭を抑えもがく。
「アァァァァァァァァァァ●▼■◆●◆■▼▲▲●▼◆■!!!??!????!!???!?!?!?!??!??!」
忌羅がレギを風魔に降り下ろした。
「そこまでだ、忌羅。」
背後から六本の黄金の鎖が忌羅の両腕、両足を縛り付けた。忌羅はレギを降り下ろそうとするが、鎖が動きを封じる。同時に剣の動きも十五本の尾の動きも止まった。
忌羅は血迷った目で背後の自分そっくりの九尾の男性を睨み付けた。
「修羅ァァ!!私を解放しろ!さもなくば貴様も殺、」
忌羅が突然糸切れた人形のように地面に倒れた。
心臓部には小さな穴が空いている。
終わった………。
紅汰は痛みと今までの疲労感でその場に倒れてしまった。
紅汰と風魔と女性の三人の病室でLと忌羅が言葉を交わす。
「お前はホント馬鹿だよな。」
「都市を爆破した貴様に言われたくない。」
「お前もマヌケだよな。怒りに全部任せるとかさ。」
「マヌケさで言えばLが鏡を見れば会える世界王者がいるから、心配するな。」
「知ってるか?俺は常日頃忌羅に抱いている感情が生理的嫌悪感。つまり生物としての感覚で嫌いだ。ていうか死ね。」
二人は三人が起きないので無意味な言葉を投げ交わす。
「忌羅の心の面識を出す方程式が分かった。底脳×高慢さ÷二=忌羅の心の狭さだ。」
Lの言葉に忌羅が不思議な表情を浮かべる。
「自分で言うのもなんだが、かなりの高慢さがあるからかなり心が広い事にならないか?」
「方程式で注目するべきは最初の数字だ。忌羅は底脳すぎて0に達しているからなにをかけても0になる。現代の数学理論では無を割れない。」続ける「さらには自分の高慢さを自覚している上そういう言葉を吐いているので証明完了。」
「ほぉ?Lの自殺願望の強さには地獄の閻魔も恐れるな。」
忌羅の愛用大剣の孤独なる武神レギと悲劇の歌姫レインが壁に立て掛けられている。
忌羅の手がレギに触れる。
瞬間、レギの刃がLの首に迫った。
なんとなく分かっていたLは加速して刃を回避する。
「L、糞してとっとと死ね。だが両方床でやるなよ?」
「発狂狐はさっさと檻に戻れよ。」
会話が続く。
Lは忌羅の大剣に目を向ける。
「どうでもいいが、病室までレギとレインを持ってきているように見える。これは俺に対する新手の光学兵器の効果か?」
忌羅の大理石色の指がレインの刀身を撫でる。
「愛する愛娘レインに害虫が付かないようにするための親心だ。」
忌羅が持っている大剣『悲劇の歌姫レイン』は忌羅が自分の娘という程大切にしている剣だ。どうでもいい事だが柄の部分は足で切っ先が頭部らしい。
その時ふと思った。
「あのさ、娘の足を持って振り回す親を見ると世間は虐待だと思わないか?」
「なん……だ……と…………!?」