59 果てしない牢獄への道
魔界深底部 入口
「………………。」
「………………。」
「どうした?間抜けな面がいつか以上に間抜けになっているぞ?」
「ま、この距離を見たら誰だってそうなるわな。」
紅汰と風魔は牢獄『タルタロス』へ向かう道の入口に立っていた。
門を開けると無限の通路が続いていた。絶句。
七つ大罪のルシファーとアスモデウスは涼しい顔で二人の先を歩く。
「おーい、置いてくぞー。この辺、キメラ出るから大変だぞー。」
「来ないなら来ないで、さっさと決めてくれ。君の判断で任務成功が遅れる。」
ルシファーの嫌味で二人は覚醒する。互いに顔見合せ、頷いた。
紅汰の足下には灰色の小さな狼。
魔界神が言った魔狼という奴だろう。
魔狼は紅汰の靴を噛んで、引っ張る。
勿論、紅汰はその程度では動かない。「さ、行こうか。」
風魔の呼びに答え、紅汰はタルタロスへと一歩一歩、歩き出したのだった。
それから一時間……、
「…あのさ、何キロあんの?」
紅汰は先頭を歩くルシファーに聞いてみる。ルシファーは歩きながら紅汰の方をチラリと見て、
「君の貧相な想像を遥かに超える距離だよ。まぁざっと三千万キロかな。」
「三千万!?何ヵ月掛かるんだよ!」
「君の零に等しい体力だと五千年は掛かる思うよ。」
ルシファーは嫌味混じりに言うと再び顔を正面に向けた。
ルシファーは七つ大罪の中でも一番紅汰と仲が悪い。
他の七つ大罪は慕ってくれるんだが、ルシファーだけはどうにもならない。
しかも上司である魔界神には敬意は払わないし敬語も使わない。
何故だろうか。
そこでアスモデウスが口を開く。
「ルシファー、何で紅汰には嫌味言ってそこに美人さんには言わないの?」
「……どうでもいいだろう……。」
適当に受け流したルシファーにアスモデウスが一言、
「君、彼女に惚れた?」
「!!」
アスモデウスの言葉にルシファーは肩をビクッとさせ、急停止した。
「あれぇ~図星だった?」
さらに一言。ルシファーは鬼の形相でアスモデウスを睨みつけた。
「…それ以上言ったらぶっ殺すぞ?性欲悪魔。」
そんな最中、風魔が
「あ、すんません。俺、男です。」
グギャッ!!ルシファーの心臓辺りからヒビが入る音がした。
ルシファーは地面に膝つき、口から大量の血を吐き出した。
「なん…だと…?そんな…馬鹿な…………。」
ルシファーは見上げるように風魔の体を頭から爪先まで見る。
確かに風魔の人離れした妖艶な容姿と豊満な胸こそが、女だと証明しているが風魔は結晶の力で一時的に女体化しているだけであって普段は男なのである。
その事をルシファーに伝えるとバリンッ!!と何かが崩れる音が通路に響いた。
ルシファーがさらに血を吐き出し、地面に倒れた。
「ルシファー!!」
アスモデウスが揺する。
「俺を……置いていけ。」
ルシファーはそれだけ言って微笑すると、気を失った。
「ルシファァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
アスモデウスの仲間への叫びが通路に響いた。
「ルシファー、お前の事は忘れない。お前が惚れた女、この性欲を司る七つ大罪アスモデウスが落としてみせよう!!」
そういうアスモデウスも、口から微量の血が流れている。
「大丈夫?」
「大丈夫だ。紅汰、俺はルシファーを運ぶ。ていうか帰る。だから後よろ。」
アスモデウスはそれだけ言うとルシファーを背負い、走り去ってしまった。
「……………結局、役に立ってねぇな。」
風魔が紅汰の隣で呟いた。
「……そうだな。」
さらに五時間経過……………。
紅汰の足はもう限界だった。あと二、三歩歩いたら吊りそうだ。紅汰は休憩するためその場に座り込んだ。風魔が紅汰の顔を覗きこむ。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「無理。ていうか、風魔はなんで疲れないの?」
紅汰が息切れしながら聞いてみると風魔は豊満な胸を張って自らの体力を自慢する。胸が軽く揺れる。
「伊達に山中走り回ってないんだよ……なぁ、なんとか歩けねぇか?」
紅汰は数秒、真面目に脳内で討論し六秒で結論が出ると風魔の顔を見上げ真剣な表情で言った。
「胸揉ませてくれんな、」
そこから先を言う前に風魔にぶん殴られて吹っ飛んだ。お陰で目的地に数十メートル近づいた。
紅汰に999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999ダメージ!!!!
「お前なぁ…胸揉ませてくれなんざルーシャに頼めよ。きっと揉ませてくれるぞ。」
吹っ飛ばされた地点から数百メートル先に休憩し、二人は言葉を交わす。
「ルーシャに頼んだら冗談抜き斬られるぞ?」
「しつこく言ってみろよ。少なくとも俺は揉まれるのは嫌だぞ。」
風魔は手に持った林檎をかじる。
「えー、そこをなんとかなんねぇの?いいじゃん、減るもんじゃねぇし。」
「……最近、変態になってきたな、紅汰。」
「元々だけど?」
紅汰のきっぱりとした断言に風魔は呆れてため息を吐いた。
「なぁ、頼むよ。」
両手を合わせて悲願する親友。風魔は心底呆れた表情を見せて、
「じゃあ、ジャンケンだ。先に三回勝った方の勝ち。紅汰が勝ったら揉ませてやる。だが俺が勝ったら、俺の言う通りにルーシャに『結婚してださい!!』って言えよ。」
なんか紅汰の方がデメリットが大きい気がする。
だが、紅汰は負ける訳にはいかない。
重々しく頷き、右手を出す。
風魔も右手を出す。
「「ジャンケンポイ!!」」
一斉に出した。
紅汰チョキ 風魔グー
まず風魔の一勝。
続いて二回目。
「「ジャンケンポイ!」」
紅汰パー 風魔チョキ
風魔、続いて二勝。
「「ジャンケンポイ!!」」
紅汰チョキ 風魔グー
風魔三勝。
「うっそ…………。」
「フフ、俺の勝ち♪」
風魔は勝利の右手を高らかに揚げた。
「じゃあ約束通り帰ったらルーシャに言ってもらうぞ。」
「うぅ……分かったよ。」
がっくりと落ち込む紅汰。
突然、二人が所持していたペンダントが赤い光を発する。
「ますたー、私もやりたいです!」
「お兄様、私も!!」
「「なん………だ……と…?」」
紅汰、風魔の二人は現界したレーヴァテインとグングニルにジャンケンであっさり負けた。
「ますたー!やくそくどおりもませてくださいね!」
「お兄様!今度一緒にお風呂入ろうね!!」
「「……………………………。」」
ペンドラゴン王国
「▼●●▲◆■◆●▼▼●◆■◆●▲!!!!!」
『狂戦士』化した亞季奈が透明に輝く巨大鎌を振るう。
「あの鎌、ダイヤモンドか。」
忌羅は大剣『孤独なる武神レギ』を振るい、鎌を弾く。
「えぇ。おそらく『アダマスの鎌』でしょう。」
ハサンが隙を突いてナイフを投げる。
その瞬間だった。
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」
亞季奈ははっきりとした叫びを上げ、鎌を振り回す。
「骸骨、あいつの動きを一秒止められるか?」
忌羅はレギで鎌を弾きつつ、ハサンに聞いてみる。
「可能ですが…如何されるおつもりで?」
「あの鎌を食べる。」
「なるほど。では、行きますよ!」
ハサンは鎌の連撃を華麗に回避し、亞季奈に二本のナイフを投げつける。
二本とも亞季奈の右肩に命中。
瞬間、亞季奈の動きが止まった。
忌羅はレギで亞季奈の両手首を切断。剣の腹で亞季奈を吹っ飛ばす。その内に鎌を掴み、透明な刃に喰らう。
「フフフ、旨いな。」
忌羅が感想を洩らしたその時だった。
「ダ…………ダ、セ……。ダ、セ。」
亞季奈が立ち上がり際に言う。
「コ、コカラ…ダ、セ…ダセェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!」
亞季奈の邪悪なる叫びにハサンは思わず、動きが止まってしまった。
瞬間、ハサンが吹っ飛ぶ。
「ぐはぁァッ!?」
ハサンは巨大な衝撃を受けて数百メートル吹っ飛んだ。
亞季奈が一瞬の内にハサンに強烈な拳を喰らわせていた。
「ダ、ダダセ…ダセ、ココカラ、ダセ。」
「フフフ、愚かな神だ。幽閉された挙げ句人間の小娘などに力を与えるとは。」
忌羅がレギを構えた瞬間、
忌羅の両肩が消えた。