53 金色と碧光
キィィン!!
ロンドの深い夜の闇に黄金と碧光がぶつかり、輝く。
レーヴァテインを弾き飛ばされた紅汰の前に金色の武神、神己忌羅が現れた。一方、忌羅に殺されかけた白音の前に現れた黒髪の男性。
高身長だが漆黒の腰下まで伸びた髪は月明かりの薄い今でも輝く。顔立ちは清廉とした美貌、女と間違えそうだ。
そしてその右手には碧光を放つ一刀の刀。
忌羅が黄金の刀の切っ先を男性に向ける。
「我が姿を前に臆さぬか人間。名乗れ。」
「………………ディル・エデン。」
ディル、と名乗った男性は刀を鞘に収め、腰を低くくし、右手を鞘の柄に添える。
抜刀術の構えだ。
忌羅も邪悪な笑みを浮かべ、抜刀術の態勢をとる。
忌羅が動いた。
一歩、踏み出すと刀の攻撃距離にまでディルに接近し、抜刀ていた。
だがディルの顔には動揺どころか感情のひとつも現れていない。
「抜刀術…影絶。」
碧光が一閃した。
黄金の刀が弾かれ、忌羅に隙が出来る。
ディルは抜刀した勢いで回転し、忌羅の体を真っ二つにしようとする。
だが、忌羅の姿はなかった。
ディルは一早く危険を察知し、後ろに跳躍した。
ディルがさっきまでいたコンクリートを忌羅の刀が砕いた。
今度はディルが忌羅に接近し、凄まじい剣撃を浴びせる。
忌羅は余裕の澄まし顔で剣撃を弾く。
だが、忌羅の黄金の刀が剣撃によってバラバラに砕かれた。
忌羅はさらなる剣撃が来る前に一瞬で右手に別の刀を出現させ、剣撃を受け流していく。
だが、その刀も砕かれるが忌羅は動揺せず再び刀を出現させる。
「……貴様、何者だ。ただの九尾ではあるまい。」
「そういう貴様もただ者ではないだろう?」
二人は言葉を交わしつつ、斬り合う。
紅汰にはとても付いていけない速さでお互いの命を奪おうとする。
その間に忌羅の刀は幾度と砕かれた。
しかし何度でも忌羅の手には新たな刀が現れる。
「チッ。やはりその辺の刀では無理か。見た目だけは気に入ってたが。」
「………俺の斬撃を澄まし顔で受ける者など、零に等しいのだがやはり貴様はただ者ではない。…何者だ?」
ディルは問いに忌羅は得意気に邪悪に笑う。
「東方の国にはこんな詩がある。
九つの尾を持つ金色の武神 その者 百戦錬磨 敗北あるもただ一度も敗走はなく 幾度の修羅場を越え 積み上げた骸 富士よりも高く 千の剱に貫かれようと 美貌は輝き 神の宿る刃を振るい また 骸を積み上げる ただ 一人 戦場に立ち尽くし 己の積み上げた骸を見上げる 人にあらずの身
そしてただ一人 骸の山で 勝利に酔い 邪悪に 笑う
現れる 億を超える剣 彼と同じ 百戦錬磨の 兵達の 哀しい 生きた証
きっと その体は 剣で出来ている その者 金色の武神 その名は 問うにあらず
とな。体は剣で出来ている まさにその通りだ。私の名前は神己忌羅、東方の人間は私の事を『神羅万剣』と呼ぶ。」
神羅万剣、その言葉を聞いてディルの表情が微かに曇る。
「…あらゆる剣を操り喰らう金色の武神……まさか九尾の狐とはな。」
「ディルとやら貴様は私の相手に相応しい。だが、殺す前に問おう。貴様は何故、その小娘を助けた?」
「家族だからだ、血の繋がっていない。」
「フ、あくまで身内の為か。やはり人間という生き物は面白い…叶うはずもはい愚かな理想を抱いた身内を助ける為に自らを犠牲にするとはな。貴様もそう思うであろう?」
「…確かに。潰れかけていた白音の一族と俺の一族は婚姻関係になった。白音は俺に憧れその綺麗な手を汚れた血で汚してしまった。俺は、白音には普通の女として生きてほしかった。花よ蝶よと言われる事もなく、恋に焦がれる事もない。ただ…剣の道など歩まず、一人の女として生きてほしかった。」
ディルの言葉に白音の肩が震える。
その目には透明な液体が溜まっている。
「小娘が人生を捧げてまで憧れた貴様の道とは何だ?」
忌羅の問いにディルは再び、抜刀術の態勢を取った。
「……俺が戦う目的は今も昔もただひとつ、俺自身の正義の為だ。すなわち、悪・即・斬だ。」
「フ、よかろう。他人に侮辱されようとどれだけ手を汚そうとそれだけは貴様が貫く道か。ならば私も答えよう。」
忌羅の右手に邪悪なオーラを放つ二メートル超えの大剣が現れる。
「来るがよい。正義を貫く者よ!」
「いくぞ、金色の武神よ!」